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ブクマありがとうございます。
「落ち着いた?」
「はい、大丈夫です」
しばらくの間、ユナちゃんは泣き続けていたけど、それでも背中をさすり続けていたらゆっくりと落ち着いていった。そして落ち着いたのを見計らって、僕はユナちゃんに確認する。
「……あ! す、すみません」
「あ、うん」
そして落ち着いたらユナちゃんは今の自分の状況を冷静に客観的に判断したみたいだ。僕に抱きついている現状を見てユナちゃんは僕から飛び退く。まあ、異性に抱きつくって昔ならともかく成長した今なら恥ずかしいからね。
「そ、その」
「あー……早速で申し訳ないんだけどいくつか聞いていいかな?」
「はい、なんでも聞いてください」
「そうだね。とりあえず、座ろっか」
「い、いえ、私は」
「同じベッドに座れば問題ないでしょ」
なぜか遠慮しているユナちゃんを横に座らせる。まあ彼女もここの使用人みたいなものだから気持ち的に嫌なのだろうな。そして座ったのを確認すると、僕は彼女に幾つか質問をした。
「まず、助かったけどユナちゃんはどうしてここで働いていたの?」
「えっと、ケイ様たちがこの世界に来るとしたらまた召喚されるだろうと思いましたので志願してここの使用人となりました」
「あ、うん」
最初の質問だから答えやすいようなのを選んだけど、予想以上に健気な回答が返ってきて言葉に詰まってしまう。それだけ、彼女の心に影響を与えてしまっていたのだと改めて突きつけられた。
「次に、僕たちが消えてからこの世界はどうなったの?」
「はい、ケイ様たちが消えてからしばらくは平和が続きました。ですが、各国が利権争いを始めてしまい、結局魔の国を除く5つの国で争いが始まりました。また、魔の国のものたちへの差別が横行し、結果的に次の魔王を生み出してしまいました。しかし各国の首脳陣はこれをチャンスと捉え、それぞれの国で英雄召喚の儀を行いどの国が魔王の首を取るのかの争いを始めました」
「そして僕たちが召喚された、と」
最初の時は完全にランダムだったという話だけどまたしても僕が召喚されたのはきっと以前の縁のおかげだろう。そしてユナちゃんの言葉が正しいとすれば他の国でも召喚が行われていて……きっと、みんながいるに違いない。
「あいつらも……来ているかな」
「お兄ちゃんやお姉ちゃんたち?」
「ああ」
「きっと来てますよ」
「そうだね……そして、最後の質問だけど、イフリートはどこにいる?」
イフリート、僕と契約している炎の精霊。あいつが一体どうなったのか気になる。というか、あいつがいないと僕本来の力を出すことができないし。僕の言葉を聞いたユナちゃんはちょっとだけ辛そうな表情をした。
「すみません、実はケイ様たちがこの世界から消えてから精霊さまも忽然と姿を消してしまわれました……噂では『綱渡りの迷宮』の奥地にいると言われていますが」
「そっか、ありがとう」
まあ、おそらくだけどあいつは僕たちがこの世界に来ていることに当然気がついているはずだし、そこからイフリートに伝わっていたとしてもおかしくない。だからそのうち勝手に向こうから来るかもしれないけど。それにとりあえずの目標を見つけることができたからいいや。
「ケイ様?」
「まずは迷宮に行ってイフリートと再契約を行うよ。そして次にあいつらを探す」
「そうですか」
黙ってしまった僕を心配そうにユナちゃんが聞いてくる。そして僕の目標を聞いた時にユナちゃんは少しだけ悲しそうな表情をした。きっと、僕がここから出て行くといったからだろう。正直ここに残っても良かったけど、あいつらがいるのなら、会いたい。そして、ユナちゃんの顔を見ていたら、自然と言葉が口から出てきた。
「ついてくる?」
「え?」
「ユナちゃんさえよかったらさ、僕たちと……まあ当面は僕とだけど、一緒にいかない?」
「……」
僕の言葉がかなり予想外だったのだろう。ユナちゃんは僕の言葉を聞いて、黙ってしまった。沈黙がしばらくこの空間を支配した。しばらくここで働いているみたいだしいきなりやめるのも都合が悪いのだろう。
「あー、その、無理しないで」
「行きます」
「ん?」
「私、ケイ様と一緒に出ます!」
「ありがとう。でも、すぐに出るわけじゃない。迷宮の探索を行わないといけないし」
「はい、もちろんわかっています」
ふう、よかった。正直ちょっと感覚が麻痺していたけどかなり緊張した。冷静に考えたら女の子を誘ったわけだからね。僕はユナちゃんに気づかれないようにこっそりと息を吐いた。
「よかった。断られたらどうしようかと思ったよ」
「私がケイ様の誘いを断るなんてありえませんよ」
「そ、そうなんだ」
そんな風に自信満々に言われても困ってしまう。まあ、ちょっと冗談は置いておいて、これからのことを話し合ったほうがいいだろうな。
「ユナちゃん、他の国の情報って知ることはできる?」
「そうですね……どこの国も躍起になって手柄を求めていますから情報規制は行っていると思います」
「わかった。ありがとう」
となると、僕たちも少し動いたとしてもある程度は他の国に伝わるということはないということか。まあ仮にそうだとしてもクラスメイトの前では能力を出すことは避けたほうがいいかもしれない。幸いにしてみんな僕がそこまで強くないと思っているみたいだし……まあ、イフリートがいない僕なんて弱いんだけどね。
「そういえば、ユナちゃんの能力値って……いや、マナー違反だね」
「いえ、別に私の能力値をお伝えすることは構いません」
「うーん、それは迷宮でいいよ。もし能力を教えてもらっているときに誰か来たらまずいからね」
「そ、そういえばそうですね……そういえばケイ様とお呼びするのは控えたほうがよろしいでしょうか」
「そうしてくれると助かるかな」
一応ユナちゃんと話しているときも警戒はしていたけど……まあ、正直よくわからないよね。とりあえずユナちゃんにはこれから僕と話すときには気をつけるように伝えたし僕のほうも気をつけておけば大丈夫だよね。そしてユナちゃんは呼ばれたとかで、部屋の外に出て行った。
「ふぅ」
誰もいなくなった部屋で、僕はため息を一つ吐く。心配事は多いけれど、知り合いに会うこともできたし、ひとまずは二回目の異世界生活としては悪くない始まりだと思う。
「今度は、誰も死なないで終われたらいいな」
僕のつぶやきは、誰にも聞かれることなく、空気を震わせた。そして、僕の、僕たちの二度目の異世界生活が始まった。