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「それじゃあ、話しておくわね」
「咲夜を取り巻いている状況、だよな」
その日の夜、僕たちはユイナさんから話を聞いていた。明日の予定だったけれど、急遽夜に変わった。僕としては部屋の中にずっといると気まずいのでこうしてくれるとありがたい。
「はっきり言えば、最悪よ。あなたたちが幸運と言わざるを得ないほどに」
「まさか」
「ええ、咲夜ちゃんたちは今、この国で奴隷のような扱いを受けているわ」
「……」
ユイナさんから説明を受ける。以前この国に来た時にも感じたけれど、ここの国民は人間を下等生物としてみている節がある。まあ、魔法というものがあるとはいえ、この国の住民は人間よりも基本のステータスが高い。だから一対一で戦えば基本的に人間が負ける。だからこそ、そういった傲慢な思考が芽生えるのだろう。
「さて、今の咲夜ちゃんの状態を聞いて、あなたたちはどうするの?」
ユイナさんの言葉に僕たちは何も言えずに固まってしまう。それを見て、ユイナさんは僕たちに尋ねた。どうするのかと。でも、そんなことは決まっている。僕たちは顔を上げると、躊躇うことなく答える。
「潰す」
「滅ぼす」
「殺す」
「ちょ、ちょっと待ってください」
順に、僕、水希、美希。物騒な物言いになってしまったのを聞いて、ユナちゃんが慌てて止めるように言葉を重ねる。本気で焦っているのか、冷や汗がすごい。
「さ、さすがに物騒すぎません?」
「え? 別に普通でしょ?」
『アリスは驚いていないのね』
「まあ、父上を殺せたものたちだし」
何を当たり前のことを。そう言ったらユナちゃんが本気で驚いている。一方でイフが指摘したようにアリスはほとんど驚いていないみたいだった。
「で、ですが、圭様は誰も死なせないと。そう動いているのではないのですか」
「あー、ユナちゃん。圭ちゃんの信念は少し違うわ」
「え?」
ユナちゃんが言った言葉。それは僕の信念。誰も死なせない。そのために、僕は動く。でも、別に僕は殺すなんて言っていないけど……まあ、美希の発言を肯定しているから今更か。そんなユナちゃんにユイナさんが優しく諭すように話しかける。
「圭ちゃんはね、自分の知り合いを誰も死なせないっていう信念なのよ」
「そ、そんな」
「でも、基本的には全員生存を狙うわよ? ただ、知り合いがいたら、天秤が傾くだけ」
「ど、どうしてそんな」
「この子たちはね、以前、大切な人を失っているのよ。だから、少しだけ極端な思考になっているだけよ」
「ユイナさん」
「わかっているわ。これ以上は話さないわ」
ユイナさんの言葉を止める。それ以上は、もうできることなら蒸し返したくない過去だから。あいつの思い出はいつまでも語りたいことではあるけれど、死んだ時のことは話したくない。僕たちの、前回の召喚における一番大きな失敗だから。
「圭様」
「いつか、話すよ」
ユナちゃんにそう言うしかない。この話題に救いがあるとすれば僕たちは全員、乗り越えたということ。乗り越えて乗り越えてそして、僕たちは魔王を殺した。
「それよりも、咲夜のほうが大事。あいつは今、どうなっているんだ?」
「そうねぇ。必死に足掻いている、としか知らないわ。あの子、絶対に諦めないで人間のために戦い続けているわ」
「咲夜の生活はどんな感じなの?」
「まあ、さっきは奴隷と言ったけど傭兵のほうが近いわね」
詳しい話を聞いてみると、どうやら咲夜たちも他の国に喚ばれた地球人たちと同じく魔王を殺すための訓練を行っているらしい。それだけなら他の国と同じなのだが、訓練の内容がかなりキツイらしい。要は、一人でも魔王を殺すことができる存在が現れたらいいという感じで咲夜たちを厳しく訓練しているみたいだ。
「あいつ、大丈夫か?」
「攻撃力という面ではあいつが一番弱いからな……」
聞いただけで判断できないけど、単なる攻撃力だけをみるというのなら、咲夜はこの上なく不利だろう。人間を下に見ているということが明らかなわけだし、それなら他のクラスメイトと違って特に厳しくされていてもおかしくない。なぜだかわからないがクラスメイトたちのステータスって僕たちよりも大幅に強化されているみたいだし。
「なら、方針は決まったか? まずは咲夜を助ける。ついでにクラスメイトたちをだ」
「そうね。下手に国のことに踏み込むのはいいことではないし」
「あの、どうして咲夜様だけ」
話を聞いて、僕たちが出した結論はいたってシンプルなものだった。でも、シンプルであるがゆえに、ユナちゃんは受け入れがたい内容だったみたいだ。
「こういう時は優先順位をきちんとつけておかないといけないんだ。特に今回みたいに、敵対する相手が大きい時とかはな」
「水希の言う通りだ。これだけは譲れないということを決めておいて、いざという時の見捨てるものを決めておくことで何かあった時に決断をすることができる」
「ユナ。要は作戦が失敗した時の保険、ということだな。欲を出して自らが死んでしまっては意味がないぞ」
「そ、そうですか」
水希の言葉に追随するように言ったら、アリスからも補足が入った。それでも、まだ納得できていないようなので、もう少し細かく説明したほうがいいかな。
「ユナちゃん。もちろん、それは最悪の事態になった時だ。僕たちなら何も考えることなく全部解決することもあるって」
「そうね。失敗のことをあれこれ考えても仕方がないし、もっと具体的な内容について話そうかしら」
「で、ですよね。皆様なら」
きちんと話したら一転して納得してくれた。きちんと説明することって大切だよね。しかもこれって僕たちが説明する必要があるわけで僕たちの不手際だよね。
「それで、どうする? 具体的な手立てといっても」
「正面突破、しかないわよね」
美希の言葉にうなづくしかない。今は情報が圧倒的に不足しているし、他に何も手立てがない。そんな僕らにアリスが提案した。
「情報か? ならシルフリードにお願いするのはどうじゃ?」
「ん?」
『長い間は無理だけど少しならアリスの側から離れることができるわ。そして私は不可視状態になることもできるし。情報収集ならできるわよ』
「……」
シルフリードの言葉には驚くしかないけど、それよりも気になっていることがある。シルフリードのこの言葉が真実だとするならば、
「お前、なんでそんなこと教えてくれなかったんだよ」
『だって面倒だったんだもん』
「はぁ?」
イフにつめよる。こいつ、いままで黙ってやがった。それができたら魔王のところに向かう時にもっと楽ができたはずなのに。そんな目で見ていたらイフが少しだけ照れたように。
『わかったわよ。それじゃあ今回は私もいってあげるわよ……その代わり、大量に魔力を貰うわよ』
「わかってるって」
『それじゃあいつ行く?』
『うーん、明日? さすがに今日は夜遅いし』
精霊たちの会話はなんかどこかに遠足にでも行くような気軽さだ。情報収集ということをわかっているのだろうか。いや、そもそも精霊ってこんな感じだよね。
「じゃあイフたちに任せて情報が手に入ってから作戦を立てるか」
「そうね。でもできる限り早めにお願いね」
『美希に言われたら仕方がないわね』
「おい」
僕に言われた程度ならしないって暗に言っているんだけど。でも、僕が言いかけた言葉はユイナさんによって遮られる。
「はいはい、それじゃ、食事にしましょうね」
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