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「今はあの魔族を助ける……二人とも、でいいんだよな?」
「ああ、二人ともジェミスと同じ騎士だってさ。レオリアとピスケル」
「了解……美希、俺をあいつらのところまで飛ばしてくれ」
「わかったわ。圭」
「こっちはいつでも」
「それじゃ、行くわよ! 『天の世界』」
その言葉とともに水希の体が浮き上がり、そのままレオリアたちのところに向かっていく。そして、大量の魔法が降り注いでいるなところに降り立つと、
「『狭間切り』」
水希は『叢雨』をそのまま円状に振り抜く。そして、目の前の空間を削り取ることで魔法を全て別空間に入れることで全て防ぎきった。
「圭」
「ああ、『焔』」
水希が空間を切り裂いたのを見たと同時に素早く周囲に焔を発生させて、そして爆発させる。これによって周囲に煙が立ち込める。
「『堕天使の誘い』」
「うわっ」
美希の言葉を聞いた瞬間。体に気持ち悪い浮遊感を感じた。その感覚が戻ったと同時に僕はこの間までこもっていた山の麓に移動していた。辺りには水希、美希、そして魔族の二人の他にアリスやユナちゃんがいる。
『ちょっとー、私たちを忘れないでくれる?』
『私もいるんだけど?』
「あ、うん」
いや、そこで精霊の名前を出すのってなんかおかしくない? まあ、イフリートとシルフリードもいるということで。
『舐められているようでムカつく』
「なぜ、俺たちまで」
「妾が頼んだ……お主たちはあの人間どもに殺されていいわけではない」
「貴様は」
「アリス様」
レオリアがすぐに僕たちに突っかかってきたが、すぐにアリスが自分の方に誘導してくれた。二人ともすぐに相手がアリスであることに気がついたみたいだ。でも、問答無用で攻撃してこない。
「なぜ、貴様がここに生きている」
「なに、圭たちに助けを求めただけのこと。シルフリードが教えてくれてな」
「この人間たちに……?」
「ああ、この者たちは父上を殺した者たちだ」
「魔王様を? いや、なら、どうしてまだ子供なんだ。貴様の父親……魔王様が殺されたのはもう随分前のはず」
「まあ、信じろとは言わぬ。妾はすでに魔王候補としての資格を失った。お主たちが妾の言葉に従う義理はない」
『アリスの言葉は信じれなくても精霊の言葉なら多少は信じられるでしょう?』
「……」
ねえ、アリスって魔王候補だったの? サラッととんでもないことを言っている気がするけど、一旦スルーした方がいいのだろうね。そして、アリスの言葉を細くするようにシルフリードが重ねていった。精霊はこの世界において、普遍なる存在。そんな存在に言われたレオリアたちは、思わずたじろぐ。
「そ、それはそうですが」
「レオ、さすがに精霊が嘘をついているとは思えないわ。帰って魔王様に報告しましょう」
「ちっ、わかったよ」
「皆様、アリス様のことをよろしくお願いします」
「ええ、任されたわ」
ピスケルの言葉に美希が代表して答える。そして、返事を聞いたピスケルたちは満足げに一回うなづくと、どこかに去っていった。さて、魔族たちはこれでいいとして、問題があるとすれば、
「美希、お前はどうするつもりなんだ?」
「ああ、それは俺も知りたいな。お前、俺たちを助けて良かったのか?」
「……」
美希に僕たちは確認する。そう、彼女は僕たちを手助けした形になっている。結果論とはいえ、レオリアが暴走することなく何事もなく終わることができていたら彼女に選択の自由が生まれた。だから僕たちも心置きなく誘うことができた。でも、今は違う。大濱くんたちはきっと美希のことを受け入れてくれるだろうが、村人たちは受け入れてくれるとは言い切れない。だから、彼女はここから出なければいけないわけで、
「私は、」
「私は美希様とも一緒に旅をしたいです」
「妾もお姉ちゃんと旅をしたい。卑怯だとは思うが、伝えさせてもらう」
「私は……」
ユナちゃんとアリスに言われて美希はかなり悩んでいる。僕たちと一緒に行くのかそれとも別々に行くのか。ここに残るという選択肢ももちろんある。この中で、美希はどれを選ぶのだろうか。
「私は、みんなのことを見捨てたくない。でも、圭たちと旅をしたい」
「美希……」
『美希、悪いけど悩んでいる時間はないわ……美希のクラスメイトたちがこっちに向かってきている』
あの場にいた人たちからすれば僕たちが急に消えたように思える。転移魔法にすぐ思い至るだろうからこのあたりの捜索を行うはずだ。術者本人だけならともかく、他の人までも移動させるのなら、さすがに遠くまで移動することは不可能だから。そして、今この状況を見つかるのはまずい。特に美希がここに残る決断をした場合。
「こういう時ってさ、一番一緒にいたいやつのことを思えばいいんじゃね?」
「みんながみんな水希みたいに単純じゃないんだよ」
「はあ? お前俺のことをなんだと思ってんだよ」
『けーも似たようなモノでしょうに』
そんなことを言われても、僕としてはなんとも言えない。まあ、僕たちもクラスメイトと僕たちとで、天秤にかけているし変わらないのかな。
「私が一番一緒にいたい人……」
水希の言葉を聞いて、美希はどこか遠くを見つめている。美希の中で誰と一緒にいたいのか考えを巡らしているのだろう。
「そういえば、水希のその言葉って」
「ん? 以前あいつに言われた言葉だよ……お前と大げんかした時にさ」
「いつだよ」
「ん? ほら、書の国で」
「ああ、あの時か」
水希とは喧嘩してばっかりだからいつのことか具体的に説明してもらわなければわからなかった。まあ、あいつの話題が出たから絞ることはできるのだけどさ。
「あいつとは……もしかして」
「確かに水希にしてはいいこと言ったなと思っておったが、やはりか」
「ねえ、アリスも俺に対しての評価おかしくない?」
「普段の行いじゃな」
「はあ?」
「まあまあ」
アリスに掴みかかろうとする水希を僕とそれからユナちゃんがなだめる。本気ではないのだろうけど、さすがに今の状況で暴れられても困る。
『水希、さすがに声ぐらいは抑えなさい』
「わかってるって」
「みんな、ありがとう」
「ん?」
そうこうしているうちに、美希の中で結論が出たみたいだ。僕らは固唾を飲んで美希の次の言葉を待つ。
「私、圭たちと一緒に行くよ」
「そうか」
「うん、私、誰と一緒にいたいか考えたら、咲夜といたい」
「「あー……」」
「ん? どうしたの?」
「な、なんでもないよ」
今、美希の顔は恋する乙女の顔そのものだった。さすがにこんな表情を大濱くんに見せるわけにはいかない。ちょっとしかあっていないけれど、彼が気のいい人間であることがわかったので僕らは思わずそんな反応してしまった。美希からの訝しげな視線から逃れるために、美希に言う。
「それじゃあ行くか……とりあえずの挨拶はしておくか?」
「……そうね。イフちゃん」
『もう、見えるわよ』
イフが指差す先、その方向から大濱くんたち美希のクラスメイトたちが向かってくるのが見えた。一発で正解の方角に進んでくるのは運がいいというべきか。ちらっと美希の方を見たらもう顔が元どおりに戻っていた。これなら大丈夫。
「私の顔を見て、どうしたの?」
「いや、それよりも」
「あ、うん」
「阿藤!」
「美希ちゃん!」
「ごめん、みんな」
大濱くんと、それから安佐さんが先陣を切って美希に声をかけようとした。その言葉を遮るように、美希が彼らに向かって言葉を放つ。
「私、この人たちと一緒に旅に出るわ! 詳しい理由はいえないけど」
「そんな!」
「どうして」
「ごめんなさい。他のみんなにもよろしくね『堕天使の誘い』」
そして、僕たちは美希の転移魔法によって、その場から姿を消した。




