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「それでは、決勝戦を始めたいと思います。勝ち上がったのは、カシワギケイ、オオハマユキオ、アトウミキ、レオリアの四名、そして最強の騎士ギミスだぁ」
「おおおお」
紹介してくれたところ申し訳ないけど、4人中3人が異世界人ってそれいいのだろうか。そして、大濱くんの下の名前が幸雄であるということがわかった。そして残り二人。レオリアは白い髪が特徴的なイケメンでギミスは武器を持っている中年のおじさんだ。ああ、この人のために許可があれば武器の使用が許されていたのか。周りの盛り上がりを見る限り、かなり強いのだろうな。しっかりと気を引き締めておかないと。
「ルールは予選と同じ。ただし先ほどと異なるのはここには強者しかいないということ。お祭りさわぎで申し込みしてきた奴はいない! さあ、準備はいいか? 試合開始だ!」
「『焔』」
「『天の世界』」
試合開始と同時に僕と美希が魔法を発動させる。ステージ上が焔と風に覆われる。風によって焔の威力がかなり高くなっている。さて、これをどう防ぐのだろうか。
「『火壁』」
「『風』」
「ふん!」
「へえ」
「意外とやるわね」
大濱くんは火で壁を作りだして、レオリアは風を作りだして、そしてギミスという人は持っている武器、剣を振り抜いて防いできた。牽制用とはいえ、普通に防がれるものなんだな。
「お前だけは、倒してみせる。『火』」
「それはさすがに無理かな」
そして僕に向けて火を放ってくるのだけど、それは全部焔で吸収していく。そして空中に躍り出てから他の人たちの確認をする。いや、するのはいいのだけど、
「お前もか」
「ちょっと、なんで圭もいるのよ」
美希も飛び上がってきていた。さすがに空中戦では分が悪すぎる。だから無駄だけど地面に降りる。今の一瞬でも他の人たちの様子を確認することができたし。
「『焔』」
「うぐっ」
「同じ風使いとして、勝負させてもらう」
「へえ、いいわよ」
武器持ちを先に倒しておいたほうがいいだろうな。そしてレオリアは美希のほうに向かって突っ込んでいってくれた。大濱くんは焔で囲っているから少しは時間稼ぎができるだろう。邪魔が入らないうちにこの人を倒しておこう。
「私を倒すことができるかな?」
「? 倒すつもりで来てるんだけどね」
「ほお、やれるものならやってみろ!」
そのまま剣を振り下ろされる。それに合わせる形で焔を纏わせた拳を突き出す。剣とぶつかったけれど焔に回転を加えることで、そのまま砕く。
「バカな!」
「『叢雨』なら砕かれなかっただろうに残念だね」
「……剣を砕いたぐらいで調子にのるなよ『風矢』」
「そこは『風……剣?』じゃないのかよ」
風の矢が僕に向かって飛んでくる。せっかく剣士みたいな感じでいるのに使うのが矢ってそれコンセプトとしてどうなのだろうか。まあそんなことを他人の僕がとやかく言うのは間違っているけどさ。
「『焔』」
遠距離攻撃なら対処するのは容易い。飛んでくる矢をめがけて燃やす。僕に届くことなく矢を全て燃やすことに成功した。そして、そのまま右足を軸にして回し蹴りを叩き込む。
「うぐっ」
「『焔』」
「この程度で」
焔を玉状にして相手にぶつけていく。蹴ったことで少し距離が開いたので都合がいい。そして、僕が放つ焔の玉は全て命中する。
「玉が……曲がっただと」
「習得するのに苦労したからね」
焔の玉は、直線軌道を描くだけでなく、僕の意思一つで自由自在に動き回る。だから全て当てることができたわけだけど、ここまで自由自在に操ることができるのにかなりの時間を費やしたからね。そして命中したのをみて、僕は相手から距離を取る。
「まだだ!」
「意気込んでいるところ、申し訳ないけど、終わりだよ」
焔を男の周囲に発生させて、その円をゆっくりと抑えていく。相手が脱出しようともがいていたけど、僕の焔の勢いが強かった。そしてその円が閉じられた時、ギミスはその場に倒れていた。
「ギミスがやられたあああ!?」
「嘘だろ……あの少年、何者なんだ?」
「火魔法……? いや、その上の炎魔法か?」
ギミスが倒れたのを見て、観客たちがざわめいた。ああ、この人かなり強いんだったね。でも残念。相手が悪かった。こっちは50年前の英雄だから。って、これ自分で言うと恥ずかしいな。他の人の様子を見よう。
「『天の世界』」
「おっと」
僕の周囲に風が巻き起こって飛ばされる。素早く焔を出して、互いにぶつかりあわせて相殺する。
「判断が早いわね」
「よく飛ばされたからね」
近づいてきたのは美希。向こうには残り二人が戦っているのが見える。以前の旅でよく水希と一緒に飛ばされていたから対処の仕方は体に染み付いている。
「さて、悪いけど一番の強敵を先に倒しておかなくちゃ」
「それはこっちの言葉でもあるよ。正直美希が一番手強いから」
僕は焔、美希は風を体に巻きつけて互いに対峙する。属性間での相性は僕のほうが有利、かな? 火は風に煽られることでその勢いを増すから。ただ、
「風の勢いが強ければ火は消えちゃうわよね?」
「消えないだけの火を出せばいいだけだろ」
その言葉を合図にして、地面を強く蹴って美希に接近する。そのまま右手で思いっきり殴りつける。美希は僕の動きを読んでいたのか、空中に飛び出して避ける。そして風がや刃の形になって僕に向けて突っ込んでくる。
「ちっ」
「私の得意な形状はこれじゃないわよ」
「知ってるよ」
焔を地面から出して風を防いでいく。でも、美希が言うように美希の得意な形はそれじゃない。物質の形状にも個人差があって得意な形、もっと言えば動かせやすい形がある。美希の場合は刀じゃなくて、
「風の矢」
「いきなりそれ使っちゃう!?」
刃状ではなく、矢の形で棒に向かって飛ばされてくる。その数は先ほどと比べてもかなり多い。多くても問題ない。どんなに数が多くても、どんなに複雑な軌跡を描こうとも、彼女が飛ばす矢は決して外れることがない。それが、彼女の魔法、『天啓の矢』。
「ならっ『不知火』」
ちまちまと『焔』で当てるのはさすがに効率が悪いので目の前を全て焼き払う。なんとか風の矢を防ぐことができた。
「あらー、武器を使わないと威力がでないわね」
「これで弓を使われたらやばいっつーの」
「あんたもイフちゃんの力があるからお互い様でしょうに」
お互いに本気で戦っているのだけど、全力を出すことができていないって感じだな。でも、これから美希は矢での攻撃が増えるだろうから……、焔を手に集めて剣の形にする。そしてそれを両手に持つ。
「二刀流」
「手数が増えるからね」
僕自身の魔力で形成されている焔だから質量はほとんどないと言っても過言ではない。だから思いっきり振り回すことができるわけだけど。
「でも、僕は投げるほうが好きだな」
そのまま振り回すと思っていたのだろう。美希の隙をつくことができた。投げたことでそれが操られたら元も子もないので僕と美希の間に来たあたりで、その剣を爆発させる。
「うわっ、よくやるわね」
「目くらましも兼ねているからね」
爆発した煙に紛れて美希に近づいていき、そして焔の拳で殴る。……うん、手ごたえあり。何かに当たった感触があるから。
「残念」
「え?」
次の瞬間、煙が晴れて、視界がはっきりする。僕が殴ったのは美希ではなく、先ほどまで大濱くんと戦っていたレオリアという男性だった。




