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「なかなか見つからないな」
「もうすぐ魔の国に着きそうだ」
アリスを探しに魔の国へと向かってからしばらくして、僕たちはアリスどころか魔族に一切出会うことがなかった。
「世界は広いからね〜」
「GPSとかないのかな」
『それ犯罪』
「だよね」
アリスって実年齢は知らないけど見た目は間違いなく小さな女の子だからね。あれ? ユナちゃんと同じように成長して僕と同じくらいになっているのかな? ともかくそんな子の位置情報を常に把握しようとするだなんてさすがにまずい。絵面的にもアウト。
「ま、まあそのうち見つかりますよ」
「ユナちゃんが癒しなんだけど」
『私は癒しじゃないっていうの?』
「……」
『その無言はなんなのよ!』
いや……ねえ? イフが癒しと思うようになったらなんか終わりな気がしてならない。どっちかといえば元気になる的な方面な気がするから。
『ほー。なるほどなるほど』
「心を読むな!」
「お? お前何を考えてたんだ?」
「水希は黙ってろ」
こいつ普段はありえないから忘れがちだけど人間の心を読むことができるんだよな。僕以外で使ったのを見たことがないけど。
『だってつまらないもん……あ、なんか向こうで魔物に襲われてる人がいるわね』
「え?」
「あー、確かに追われてるね」
イフや水希が指をさす方向を見たら、一人の黒いドレスを着た少女がこちらに向かって走ってきていた。そしてその後ろには魔猪や魔狼、ゴブリン、オークなどかなりの数の魔物がいた。
「とりあえず助けに行くか、イフ!」
『ええ、行きましょう』
少女を助けるために僕たちは走り出す。そして走っていた少女は僕たちの存在に気がついたのだろう。走っている方向を僕たちのいるところへと変えた。
「え?」
『あら?』
「お主らは」
『あら、イフじゃない。久しぶりね』
「し、シルフリード!?」
少女が近づいてくるにつれて、彼女の肩の上に何かが載っているような気がした。遠くでは小さすぎてわからなかったけど、近くに来たらそれがどんな存在なのかしっかりと目視することができた。それは、イフリートと同じ、風の精霊、シルフリード。それがここにいるということはつまり、
「彼女がアリス?」
「え? 嘘だろ!?」
「なんだ、妾のことを忘れたのか? 人間の勇者とケイよ」
「僕も人間の勇者だったんだけどねー」
『ちょうどいいわ。ケイ、ミズキ、あの魔物たちをお願いね』
「自分たちでなんとかしろよ……わかったよ。柏木、こいつらを押さえとけ」
シルフリードからかなり理不尽なことを突きつけられる。それを受けて、水希が一人で魔物の方に向かっていった。刀を構えている感じだと、多分大丈夫だな。それよりも、
「えっと……本当にアリスなの? いや、シルフリードがいる時点で確定なんだけどさ」
「ん? 妾はアリス・フェリル。偉大なる魔族の娘である」
「あー、うん50年ぶりだからか」
僕が戸惑っていたのは僕が覚えているアリスの姿が幼い子供だったからだ。でも、それはユナちゃんと同じように月日によって成長したから違っていて当然かもしれない。姿が全く変わっていないユイナさんがおかしいんだよ。アリスは長い金髪の髪の毛をツインテールにして、そしてシルフリードと契約したことによる緑色の眼をしていた。そして、ユナちゃんと同じく……この表現だと失礼な気がするけど、かなり綺麗に成長していた。まあ、この感じからして間違いなくこの子はアリスだろうな。
「この女性が魔王の娘の……」
「ん? 妾のことを話しておったのか。いかにも、父上は前魔族の王であった」
「そ、それよりも、水希様一人で行かせては」
「何を戸惑っておる、エルフの小娘。あやつなら平気ぞ」
「え?」
「うん、平気だよ。見ていて」
ただ一人、水希の心配をしているユナちゃんに対して、僕もアリスも特に気にしないでも平気だと伝える。それを聞いて、ユナちゃんは不安そうにしているけど……まあ、見ていてよ。
「水希ー、一撃で終わらせろよ」
「いいぜ! 見せてやるよ!」
そのまま水希は持っている刀を横に構える。その構えている刀にゆっくりとオーラというか水が纏わり付いていく。そして、その状態のまま、思いっきり刀を横に振りぬいた。
「『力影』」
振りぬいたことで、その纏わり付いていた、水が横薙ぎに飛んでいく。そして、目の前にいた魔物たちに向かっていくと、そのまま近づいてきている魔物を全て一刀両断に切り裂いていく。刀を振ったことで発生した衝撃波に水を纏わせて攻撃する魔法、それが力影。水希の得意技。
「すごい」
「おー、さすが」
「さすがだな、水使いの勇者よ」
「お前相変わらず上からだな」
「うるさい」
水希はアリスに絡んでいく。そういえばこいつらって結構仲悪かったっけ。そして、水希は持っていた刀を放り投げる。
「あっ」
「いいんだよ……もう砕けてる」
「水希の力が強すぎるんだよ」
「俺の力に耐えられるだけの強度を保つようにしとけって」
「こんな馬鹿がいるとは思わなかったのだろう。作り手を責めるのはやめておけ」
「ああ? お前、助けてやった俺に対してなんだその口の利き方は」
『アリス、お礼は言っておきましょう。それが礼儀よ』
「わかっておる。助かった、水希よ」
「おう」
シルフリードに窘められてアリスは水希にお礼をいう。水希も本気で怒っているわけではないので、すぐにそのお礼を受け入れて、それ以上責めることはしなかった。そしてひと段落ついたと思ったのか、アリスが僕たちに質問してきた。
「さて、お主らはどうしてここにいるのだ?」
「ああ、アリスが追われてるって聞いたから助けに来たんだ」
「そうか! いやー、助かった」
「お前柏木には素直だよな」
「うるさいぞ、水希。それとも嫉妬か? モテない男の嫉妬ほど醜いものはないぞ」
「は? なんで俺がこいつに嫉妬しなきゃ……いやするか」
「なんでだよ」
「そりゃ、お前自分の状況を客観的に見ろよ!? 両手に花だろ」
「イフは違うぞ?」
『はぁ? こんな絶世の美女を前にしてなんてことを言うのよ』
客観的にみろって……あれだよな。ユナちゃんのことだよな。彼女が目を見張るほどの美人であることは疑いようのない事実だし、そんな人になんかものすごく慕われているからね。それに、アリスもアリスで綺麗に成長しているし、彼女が僕と絡んでいたら、そりゃ両手に花だな。
『なんでそこで私の名前が出ないのかなー』
「あーイフも綺麗だよ」
『心が籠ってない!』
『相変わらず仲いいわね、あなたたち』
喧嘩するほど仲がいいと言いますからね。それに、こうして思っていることをなんでも言えることができる存在ってそうとうありがたいからね。
「お前追われてたけど、大丈夫なのか?」
「……そうだな。現魔王が本気で妾を殺す気がないからなんとか逃げることができた。それでも力を大分使ってしまって逃げるしかできなかったが」
「殺す気がなかった?」
「なあ、アリス、その辺りのこと、説明してくれないか」
まただ。僕は思わず水希と顔を見合わせる。ジェミスも言っていたけど、どうして魔王はアリスのことを狙わないのだろうか。その辺りのことを知りたいので、僕らはアリスに説明を頼んだ。そして、アリスはゆっくりと説明を始めた。




