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「ケイ様、大丈夫でしょうか」
「あれ? ユナちゃん?」
これから村の方に向かうべきか、それともジェミスと話をするために回復するのを待つべきか悩んでいたらユナちゃんがいつの間にかやってきていた。ついでに水希も一緒だ。いや、お前ら村の方はどうしたよ。
「強そうな奴はあらかた始末したし残りはあいつらだけでも大丈夫だろ……それに、ユナをあんまり村にいさせるのは得策じゃないし」
「あー、確かに。悪い」
僕とユナちゃんはあの村での印象は最悪だしあそこでユナちゃんを村へ向かわせたのは失敗だったかもしれない。それをフォローしてくれた水希に感謝しつつ、僕はこれからのことを伝える。
「それで、ユナちゃんに頼みがあるのだけど、この魔族を回復させてくれない?」
「え? 別にいいですけど……大丈夫ですか?」
『私との相性が最悪だから平気よ』
「お前の能力って本当にずるいよな」
「こればっかりはしょうがないでしょ」
イフと契約をしていることで、大体の炎系統の魔法が無効化できるというね。この世界において、火、水、風、土のどれかになることが多く、同様に確からしいと判断すれば、僕はこの世界の約25%に無条件で負けることがなくなるわけだし。というようなことを、ユナちゃんに説明する。
「すごいですね。精霊と契約するとそんな能力が」
「あんまり知られてないの?」
『私がそんなホイホイ人間と契約すると思う?』
「「思いません」」
『あなたたち〜』
思わず水希とハモってしまう。イフリートと契約をした時はかなり大変だった気がする。迷宮の奥地に封印されていて、それを僕が解いたからかなり渋々という感じで契約したから。そんなことを思い返していると、ユナちゃんに話を修正された。
「あの、それで治療ですよね?」
「ああ、ごめん。お願い」
「はい『鳳凰の灯火』」
『あら、珍しい』
僕が普段使う黒い焔とは大きく異なり、かなり暖かそうな炎がジェミスの体を覆っていく。イフが反応していたけどあれって、何か特別な炎だったり……いや、もうバッチリと鳳凰って言っているな。
「本当に鳳凰の炎なのか?」
『そうねぇ、かなり似ているわ。そりゃ死者を蘇らせるとかは無理だろうけどある程度の傷なら回復させることが可能よ』
イフリートのくだした判断を聞いて、僕も水希もただただ驚いた。そして互いに顔を見合わせる。考えていることは同じだ。ただ、さすがに断定するのは早いけれど。
「う、うん」
「あ、目が覚めたか」
「き、貴様らは」
「暴れられても困るから、一応捕縛はするけど、僕たちに君にこれ以上何かする意思はない、それは信じてほしい」
「……」
僕の言葉を聞いて、悩んでいるジェミス。まあ、彼女の言葉を聞いている感じだとかなり人間に対して怒りを抱いている感じがするし、普通に信じられないのだろう。
「私を回復して、何度もなんども痛ぶるのではないだろうな」
「え? 柏木ってそういう趣味が」
「あったらお前を真っ先に燃やしてやるよ」
「冗談だって……焔だすなよ」
「水希なら平気だろうが」
「……本当に私をどうこうする気はないのか」
僕と水希が言い合っているのを見て、ジェミスは少しだけ毒気を抜かれたようだった。
『それは私が保障しようかしら? 少しは信頼できると思うけど』
「精霊がそこまで言うのなら」
「お前って信頼高いんだな」
『失礼ね』
精霊は基本的には嘘をつかない存在。というか、この世界に生きる者にとっては格上の存在。だから精霊であるイフリートが保障するということは、本心で言っている可能性が高いことを意味する。僕がものすごい腹黒でイフリートさえも騙している可能性もあるわけだけどね。
「それで、私に何が聞きたい。殺さずに捕らえたということは聞きたいことがあるのだろう」
「ああ、少しばかり質問がある。それに答えてくれたら解放するよ」
「……」
イフのおかげもあって彼女は僕たちのことをある程度は信用してくれたみたいだ。だからか僕たちの言葉を聞いてくれる。それだけでも交渉においてかなり前進した。
「だが、答えるのは一人につき、一つだ。それ以上は答えない」
「ああ、別にいいよ。僕からはそうだな……アリスはどうなった?」
「なぜその名前を知っている」
「昔にあったことがあるからだ」
ここで適当に嘘でも言っても良かったけど、つい、本当のことを言ってしまった。そう、僕たちはアリスに、魔の国のお姫様にあったことがある。
「昔に? そういえば、貴様ら、名をケイとミズキと言ったな……まさか先代の魔王を殺した勇者たち」
「ああ、そうだ」
「わ、私が違います。私はケイ様たちに救われた者でして」
「そ、そうかい。そんな食い気味に言わなくてもそこのケイって奴がお前のことをかなり気遣っているのがわかる。それは生死を共にした戦友に向ける態度ではないからな」
「僕がアリスの名前を知っていることは話した。なら、どうなっているのか教えてもらおうか」
「知らないね」
かなり恥ずかしいことを言われている気がしたのでそれを遮るように僕は質問の続きを聞いた。でも、帰ってきた答えはにべもない。いや、これはむしろいい事なのだろうか。
「てことはあいつは魔王になっていないわけか」
「生きているんだよね?」
「恐らくは。追っ手に追っ手に殺されていなければ生きているだろう」
「追っ手がいるのか」
「まあ魔王の娘が生きていると分かればクーデターの可能性も生まれるわけで、現魔王からにとっては」
「魔王様は追っ手を出してない! いや。出しているけど形だけの追っ手だ」
「ん?」
脅威だから殺しておきたいよね。そう言いかけた僕を強く遮るように、ジェミスは言葉を挟んできた。その言葉には驚きしかない。
「形だけ?」
「貴様の質問は答えた。他のものから聞こう」
「居場所は把握しているのか?」
「いいえ、知らないわね」
「俺からの質問はこれでいい……ユナは何かあるのか?」
「わ、私ですか?……では、どうして人間をそこまで恨んでいるのですか?」
ユナちゃんが質問した瞬間、ジェミスの顔から表情が失われた。そして、今度は憎しみといった負の感情が表面に出てきた。
「そこの勇者たちに魔王様が殺された後、私は人間に捕らえられ、奴隷として生きることになった。だから私は人間を憎んでいるし、恨んでいる」
「……」
『ふーん。ケイたちがほぼほぼ元凶なのによく我慢できてるわね』
「今すぐにでも殺してやりたい。しかし私が勝てないことは明らかだし、それに貴様らが生きていることを伝えなければならないからな」
「それは正しい判断だ。お前じゃ柏木に勝てないし、柏木に負けない奴を用意しなければならないしな」
何もいえなくなっている僕に変わって、イフリートや水希が代わりに話を進めてくれる。でも、僕は少しだけショックだった。魔王を倒したら平和になると信じていたのに……人間たちは魔族に対して奴隷という形をとったのだから。
「なぜ頭をさげる……今更謝罪など、いらぬ」
「柏木」
「これは僕のエゴだ。許して欲しいとは思っていない」
そう言いながら、ジェミスを拘束している焔を消す。もしここで襲ってきたら、きっと一撃は入るだろう。死ぬことはないだろうけど、一発は受ける覚悟でいた。
「……今の貴様の態度と、アリス様を気遣うその姿勢に免じて一撃入れることはやめておいてやろう」
「ああ、ありがとう」
「ふん、二度と会うことがないだろうが、さらばだ」
そして、ジェミスの周りに炎が発生し、それが消えた瞬間に、彼女の姿は消えていた。
「ふぅ」
『ま、ひとまずはお疲れ様』
「ああ、それじゃあ、帰ろっか」
僕はそうユナちゃんに声をかけると、静かに歩き出した。後ろで僕を呼ぶ声が聞こえた気がしたけど……きっと気のせいだろうな。




