12
「ケイ様、おはようございます。朝ですよ」
「あ、うん。ありがとう」
目が覚めたら、目の前にユナちゃんがいた。どうやらわざわざ起こしてくれたみたいだ。
「いつもありがとう」
「いえいえ、朝ご飯が準備できましたので下に降りましょう」
「あ、うん」
なんだろう。ただのダメ人間になってしまいそうな気がする。こうして朝ユナちゃんに起こされて起きたら朝ご飯が用意されていて(まあユイナさんが全部作ってくれているんだけど。いつ寝てるんだあの人)そして1日が始まるなんてね。
「はぁ」
『毎朝起こされるなんていいご身分ね』
「一人でも起きれるっつーの」
『知ってるわよ。だから今日はちょっと眠らせたわ。あーだから魔力をたくさん蓄えられたわ』
「おまっ」
イフリートの物言いに思わず脱力してしまう。僕自身が持っている魔力をイフは好き勝手に使用することができる。さすがに戦闘中などは遠慮してくれているけれど、寝ている時などは躊躇なく奪っているらしい。そして奪われすぎると寝てしまう。だから、イフにかなりの量を取られたことで僕はユナちゃんが起こしてくれるまでずっと眠っていたということだ。
「おはようございます」
「ケイちゃん、おはよう。おそかったわね。おまけに顔色も悪いわよ?」
「質のいいとは言えない睡眠を取っていたので実質寝不足なんですよ」
「柏木、大丈夫かー?」
「正直きつい」
「疲れが酷いのでしたら私に任せて休まれててください」
「さすがにそれはできないよ……」
ユナちゃんがかなり健気なことを言ってくれているけど、さすがにそんなに頼るわけにはいかない。気を引き締めるように首を振ると、そのまま用意された食事を食べる。
「あ、美味しい」
「本当ですか?」
「ん?」
「その食事もユナちゃんが作ったのよ? あーねえケイちゃんその子欲しいんだけど」
「あげないぞ」
反射的に答える。答えたのはいいのだけど、すぐに我に帰る。そうだ。こんなことユナちゃんに断りなく勝手に決めるのは良くないよね。
「ユナちゃん……?」
「お前天然か?」
「は?」
「あーはいはい、このやろう、食事が済んだら表でろ」
ユナちゃんの方を向いたら、顔を真っ赤にしてうつむいていた。もしかして……うん、あの言い方だと自分の所有物のように主張してしまっているよね。後で謝罪しておこう。それはそうとして、水希に変な感じで絡まれたんだけど。
「あら、ちょうどいいわね。片付けは私がしておくから……あら?」
「ん?」
「ユイナさん?」
ユイナさんも面白がって乗っかろうとしたけど、すぐに言葉を切った。どうしたのかと不思議に思うけど、イフも険し顔をしていることに気がついた。
「イフ?」
『はぁ、二人とも、魔族が来たわよ』
「わかった。水希、いくぞ」
「オッケー」
どうやら、魔族が接近していて、それに気がついたらしい。てか、ユイナさん精霊と同じ感知能力を持っているってどんだけなんだよ。そして、すぐに理解して準備始めた僕と水希に有木くんが話しかける。
「お? 戦闘か? じゃあ」
「お前たちは来るな。いや、村の人々を守ってくれ。ユイナさんこいつらに指示をお願いします」
「ユナちゃんも彼らとともに村の方をお願い」
「え?」
でも、僕たちはその助けを断り、代わりに村の人を助けるように伝えて、宿を出た。
「少しヤバイかもな」
「能力なしで戦えるのか?」
「一応武器があるから平気だっつーの」
『はいはい、二人とも急ぎましょ』
イフの言葉にうなづいて、僕たちはその場から走り出す。大体の行き先はイフリートが教えてくれるので迷うことなく進むことができた。しばらく走っていたら、大勢の魔物を引き連れた一人の女性の姿があった。間違いない、あれが魔族だ。
「あら、可愛い人たち。どうしたのかしら」
「確かにイフリートが反応するだけはあるな」
「あ、柏木も感じた? 俺もだ」
「無視しないでもらえるかしら?」
「ごめん」
僕たちに話しかけてきたけど、それを無視して感想を言ってしまった。これは確かに彼女に対して失礼すぎたと思う。でも、その一連の過程において油断なんて一切しない。この女性、間違いなくかなり強い。まあ、イフが反応するぐらいの強さは持っているのは間違いないからね。
「もしかして、あなたが魔王……なわけないか」
「違うわよ。私は魔王様にお使えする12騎士の一人、ジェミスよ」
「ジェミニ?」
「ジェミスよ! 耳が遠いのかしら?」
「ごめん」
「水希、どういうこと?」
「あー、関係ない。忘れてくれ」
水希が何やら呟いているけど、本人も望んでいることだし忘れることにしよう。それはそうとこの魔族は魔王直属の部下なのだろうか。そして、ジェミスはふと、思い出したかのように後ろにいる魔物たちに指示を出す。
「お前たち、この先にある村を襲ってきなさい……『炎舞』」
「!」
『「炎」使いか〜珍しいわね』
そして魔物たちが僕たちの横を素通りしていくと同時に僕たちの周りを炎の渦が巻き起こって、魔物たちを邪魔することができなかった。
「あなたたちは私が相手してあげるわ」
「柏木、これお前の分野だろ。頼む」
「水希は?」
「予想以上に魔物の数が多いからあいつらを手伝いに向かう」
「おっけー『焔』」
互いに素早く情報を交換して作戦を立てる。水希が移動できるように焔を生み出して、僕たちの周りに巻き起こっている炎を全て吸収する。炎が消えたことで水希は素早くこの場を移動して村の方へと進む。一方で、ジェミスの方は自分の炎が全て防がれたことにショックを受けていた。
「なんで!? 私の炎が」
「あー、僕の能力です」
「炎の上があるっていうの?」
『なんていうか、炎系統の人間が圭に勝てると思わないでおいてねー』
「お前言い方考えろよ」
「せ、精霊」
あ、精霊の存在を知っているんだ。なら都合がいい。僕は自分の腕に焔を集めて、そのままジェミスの方に進んで行く。
「私の炎が全部消えるっていうの!?」
「精霊の力だから……仕方がないよ」
ジェミスの足元に焔を這わせて、そのまま拘束する。……そのまま殴ってもいいけどなんか絵面的に最悪な気がしないでもない。そのまま燃やす方が安全か。
『多分もっと酷いことになってるわよ』
「じゃあ殴る方がいいのか?」
『どのみちあなたは女の子を殴ったらダメな人』
「そんなことはわかってるよ」
「くっ、敵を目の前にしてその余裕ぶった態度……」
「あー、なんていうか勝負はもう着いたので降参しませんか?」
一応声をかけてみる。まあ、普通に炎以外の属性で攻撃してきたら僕に効くと思うのだけどね。でも、それを使ってこないということは他の属性を持っていないと考えてもいいのかな。まあ、複数の属性を持つことがかなり稀だしね。
「ふざけないでよ……こんな、こんな人間ごときに、私が、私が!」
ジェミスが叫んだかと思うと、彼女の体から炎が生まれて、そのまま拘束を引きちぎる。そして僕に近づいてくると殴りかかってくる。
「うわっ」
「私は、人間ごときに屈しない。お前も、殺してやる」
「『焔』」
「きゃあああああああ」
向かってきたところを焔の渦に巻き込んでいく。そのままゆっくりと渦の隙間を小さくしていって、最後は普通に火あぶりみたいな感じになった。
「あ……あがっ」
『相手が悪かったわねー。けーじゃなくて水希だったらいい勝負してたんじゃないかしら? もちろん、今の状態で』
「お前追い討ちしかけるなよ」
「……」
イフリートが漏らした言葉にも一切反応することなく、ジェミスは倒れこむ。うん、死んではいないみたいだから問題ないな。さて水希たちの方はどうなっているだろうか。




