第三話 名残惜しさに
「君のテイアンとやらのためにいちいち時間を割かねばならんのか、俺は?」
課長がいやみったらしい口調でそう言ってくる。六人以内向けの狭い会議室という閉鎖空間も手伝って、圧迫感がいつもより増している気がする。本来であればこのような狭いところで二人きりで話をするのは貞操の危機を覚えるから辞めて欲しかった。
「楽することばかり考えていないで、やるべき仕事の内容をきちんと覚えたらどうなんだ、え? 君はいま何年目だと思っているんだ。あれもこれも覚えるべきことが山のようにあるはずだろ。自分の立場を考える必要があるんじゃないのか!」
「はぁ」
岡真理はその話を課長とテーブルをはさんだ反対側で視線をテーブルの上に落として縮こまりながら聞いていた。このように怒鳴っていては外に声が漏れてしまい、人前で叱責するのを避けてここに来た主旨から外れてしまいやしないか。
返事をし、表情を暗くならないよう普段通りに保ちながらも、内心では、
(ふざけんなよこのジジイ。
そもそもの今回の私の話って、いかに効率的に仕事を覚えるかってのがテーマだったじゃないか。
それを、きちんと覚えろ、だって? 楽することばかり、だって?
ひとの話なにも聞いちゃいないじゃないかこのジジイめ……っ)
内心ではそう思うものの、口には決して出せない。
「効率云々言うんだったらな」
課長は上半身を乗り出して、
「君のテイアンとやらのためにいちいち時間を割くのだって、効率の観点から言えば大いに問題ありじゃないか?
一体君は上司の時間を何だと思っているんだ?
言っておくが、俺の時間を時給に換算したら、かなり高いからな。それを君のテイアンとやらのためにドブに捨てているってわけだ。
それとも君がその分を補填してくれるってわけか?
そんなこと、君にできるわけないだろう。
これに懲りたら、君のテイアンとやらはいい加減諦めるんだな。
だいたいが、君の年次でテイアンなんて十年早いんだよ。
いいか? テイアンなんてものはな、やるべき仕事をきちんと覚えた者がするもんなんだよ。それを何だ? 君みたいな半人前が一人前の顔をしてやるもんだとでも思っていたのか?」
(ぶん殴っていいですか?)
そう思うが、もちろん実行はできない。
先日、今度こそはと思っていた恋人を友達に奪われたことが自身の誕生日に発覚し、その悔しさや心の傷を埋め合わせるために仕事に熱中したのだが、結局はこのありさまである。必死に資料を集めて読み込んで分析してまとめて問題点と解決策を提示したのだが、課長の目には時間の無駄遣いにしか見えなかったらしい。
「だいたい君はやる気はあるみたいだが、空回りしているんだ。考えていることが先走り過ぎなんだよ。
それだけやる気があるんだったら、もっときちんと仕事できるようになってくれよな」
「はぁ」
「覚えるべき仕事も覚えもしないで楽しようってのがそもそも間違いなんだよ。
君は俺と同じレベルで仕事ができるってのか? できるようになってからテイアンしろよな」
「はぁ」
「そもそも生意気だとは考えなかったのか。そういう常識のないところがまだまだ甘いんだよ。
いいか。常識のないやつはいくらやっても伸びないからな。まだ若いから常識がないのも仕方ないのかもしらんが。
仕事できるようになりたからったら、そういう生意気なところから改めないとならんぞ。
聞いているか?」
「はぁ」
「『はぁ』『はぁ』じゃないっ。
まったくちゃんと聞いていないじゃないか!
そういうところが生意気で非常識だって言っているんだ!」
「す、すみません……」
謝ったが、その後もねちねちと課長の説教は続いた。
(今夜は飲もう、浴びるほどに)
と決意せざるをえなかった。
『PDP党員米崎、公安の監視下から逃れたか』
という衝撃的なニュースがネットに流れてきたが、光一は今一つ反応ができなかった。
「ここ数日、挙動不審だよ、どうしたの
あのアニメ声が何かしたの? それとも鶏ガラのほう?」
アニメ声とはレン、鶏ガラとはアイのことを指しているのだろう。そう環樹から訓練所の休憩室で言われたのである。
「そっか? そんなことないと思うけど……。
あと、あいつらにはそれ言うなよ」
そう返しはしたものの、環樹の不信感を払拭できたわけではないようで、首を傾げつつ、
「まあいいけど……」
と言ってそれ以上その話を続けなかった。
挙動不審になった理由には心あたりはあった。
数日前に騎士団長の快から打診された、王の姉の紅亜の旅に同行するスタッフに選抜された件について心に引っかかっていたからである。
もっとも、環樹に対しては以前キスされてしまったことから若干挙動不審気味に接するようになってしまいはしたのだが、こうして「ここ数日」という条件がつけられたところから考えると、該当するのはそれしかない。
今は訓練を終えて自宅に帰ってきており、これから食事の用意をしなければならないが、なんだか物憂く、やる気がしない。
だからこうしてソファの上に転がってだらしない姿勢でネットニュースをぼうっと眺めていたのだが、衝撃的な事件も心に刺さってこない。
衝撃的だからといって自分の仕事に直接大きなかかわりがあるわけでもない。この世ならざる獣を倒す際に邪魔をしてくる連中ではあるが、PDPに直接対処するのは警察組織である。
もともと光一は政治的には特に意見を持っているわけではない。共和国派に関しても、危険な連中だという一般的な認識とそう変わらない。思想そのものは良いとする人々もいるが、そういう発言が許されるほど寛容な世の中でもあるから、共和国派の表明する不満に同調する気持ちはまったく起こらないのである。
「挙動不審って……」
つい口に出してしまう。
「マスター? どうしたのさ」
ジャージ姿のアイがソファの背もたれの向こうから身を乗り出してこちらを見下ろしてくる。そのままやじろべえのように上半身と下半身を交互に上下させていた。
「何か心に引っかかるようなことがあるなら、何でも話してください」
レンがソファの前にかがみ込んだ。園児に対して保母がするかのようだと思った。
何かあるたびにこのガイノイド姉妹は心配してくれるが、光一はそういうときはいつも決まって、
「何でもねえよ」
としか言わないようにしている。ガイノイド相手に自分の心の内をさらけ出すのは恥ずかしい気がして、拒否するしかなかったのである。
「ほんとうですか?」
「何か隠してることねえの?」
その疑り深さはやさしさから来るものと受け取って良いのかどうか判断できない。とりあえずその疑問は脇に置いて、
「ないって」
「それじゃあ……」
とレンが改まった調子で言った。
「今日の晩御飯の話ですけど……」
危うくソファからずり落ちそうになった。このガイノイド姉妹はいつもそればかりである。
同時に苛立ちも覚えた。先ほどまで心配するそぶりを見せていたというのに、結局は食欲優先なのが憎たらしい。
「今日は出前で。
俺、ちょっと飲んでくるわ」
言うなり、姉妹の顔が輝いた。
「ほんとうですかっ?」
「何でも好きなものを好きなだけ頼んでいいのかっ?」
「……腹八分目くらいで頼むわ……」
げんなりしつつも起き上がり、外出する支度を始めた。友達も都合がつきそうになく、また、独りでいたいという気持ちもあったため、誰にも声をかけなかった。
学生時代に酔い過ぎて倒れた経験があり、それゆえに光一は自分の限界をわかっていると思っている。
だから、あと数杯くらい飲んでも平気なはずである。少なくとも学生の頃はこれより多く飲んでいたはずだから、まだまだ余裕はあると思われる。
「マスター、同じものをおああり」
バーのカウンターの片隅でグラスをつまんでぶらつかせた。
「狩野さん……いくらなんでも飲み過ぎでは……?」
「あにいっれんらよ、まらまらこえくあいらいじょううらっへ……ヒック」
「何言ってんのかよくわからないけど」
このバーも学生時代からの行きつけで、マスターとは顔見知りだった。酔って醜態をさらしたことも数知れずあり、光一が頭が上がらない人物の一人である。
「しょうがないですね……」
そう言ってマスターはカクテルの追加を作ってくれ、すぐさま光一はグラスに口をつける。
「マスター、この仕事始めてからさ、色々話せないことばっか増えちゃって。
ほんとうは、話せないことがあることさえ言っちゃいけないんだけど、マスターにだけは特別……!」
「はいはい、ほどほどにね」
「マスター、ここ最近、キスした?」
「してないけど……狩野さんはしたの?」
「へへへ、内緒」
そのことを思い出しただけで自然とにやけてしまうのは我ながらしかたない。マスターは苦笑して、
「意地悪ですね……」
「何言ってんの。
意地悪なのは、みんなだよ、俺の周りのみんな!」
両手を広げ、みんな、を表現する。
「狩野さん、いじめられてるの?」
「そう、俺、いじめられてんの……!」
光一はそう言ってカウンターの上に突っ伏した。
そこへ、バーに新たな来客があった。
「マスター、聞いてよお」
とその来客の女は目つきを据わらせ、足をふらつかせながらカウンターのスツールに腰かけた。
「いったいどうしたの?」
「世の中のみんなが、私に冷たいの……っ」
と言ってぐでんぐでんになった女は泣き始め、
「スクリュードライバー」
と注文を口にした。飲みやすいがアルコール度数の高いカクテルである。
「そんなもの飲んで大丈夫なの?」
「女にはね、飲んでごまかさなきゃならないときってもんが、ヒック、あんのよお」
「何かあったんですか? 話だけでも聞きますよ」
「それよりスクリュードライバーちょうらい!」
「はいはい……」
スクリュードライバーが出てくるのを待って、女は、
「どうせ私なんかね……って」
と、こちらを急に向いてきた。
「何あんた。
エロい目でこっちみてんじゃねえよ」
「何らと!
だえがあんたみたいなのをエロい目で見るかってんだ!」
光一は立ち上がるも、マスターになだめられ着席する。
「ったく、最近の男は、エロばっかりが目的で、心ってもんがわかってない!」
女がこちらに聞こえよがしに独り言ちる。光一は猛烈に腹が立ち、
「何らと!
俺はエロくなんかねえよっ」
「エロくない男なんて男じゃないっ」
「あんた、さっきといまと、言ってること違うじゃないか」
と、光一は女と口喧嘩を始めた。
「二人とも、ほどほどに……」
マスターがそう言ったが、数分後には、
「なんら、同じ大学の先輩と後輩らったの!」
ということが判明し、二人は肩を組んで歌を歌い始めた。
「あいして~、いるから~、ひとりで~、いいの~♪
このきもちさえ~、あれば~、くらやみでも~、すすめる~♪」
丁度二人が大学生の頃前後に流行っていた歌である。
「よし、二次会!」
女はたちあがって光一の背後に回って肩を揉みはじめた。この肩揉みにどんな意味があるのかはわからないが、突然のスキンシップに舞い上がってしまい、
「あんたは二次会じゃねえだろって!」
「あはは~そっか~後輩く~ん!」
光一の頭を女が撫でる。
「二次会の二次会、私ん家でやろうよ!」
「マジで?
行く行く~」
頭を女の頬に寄せた。こんなことは酔っていなければできるはずもない。
「二人とも、ほどほどに……」
マスターがため息まじりにたしなめた。
ズキリと頭が痛い。
どうやら飲み過ぎたようである。
まぶたを開けるのも苦痛なくらいに身体が重い。久しぶりの二日酔いに後悔ばかりが心を占める。
飲みに行ってから先の記憶がすっかり欠けてしまっているが、視界に映る天井は自身の部屋のそれだった。ベッドの上で掛布が身体の上にかかっている状況に、どうやら無事に帰ってこられたらしいと安堵し、息を吐くと、再びズキリと痛みが襲ってくる。
もう馬鹿な飲みかたが許される年齢ではないのに記憶をうしなうほどに泥酔してしまった。誰に恥じるというわけでもないが、泣きたくなってしかたがない。しかたがないのだが、今は泣くことさえつらく、黙っているしかない。
そのまましばらく動けないでいる。すると、台所のほうからカチャカチャという音と味噌汁の匂いがしてきた。
状況がよくわからず、ものを考える能力も今は欠如してしまっているが、徐々に理解したのは、今、この部屋に他人がいる、ということだった。
(誰! だれだれだれだれ……っ?)
どういう状況なのか、身を守る必要があるのかどうか頭を働かせようとするが、あまり働いてくれない。とりあえず上半身を起こし、手近にあった未開封の缶を武器代わりに手に取る。
「お、起きた?」
そう言って台所で振り向いたのは、自分と同じか少し下くらいの男だった。
さっと顔から血の気が引くのが自分でもわかった。とっさに自分と男とを交互に指さして睨みつけ、
「……した?」
場合によっては手にした缶を投げつけなければならないかもしれない。とりあえず自分は昨日のままの衣服を身に着けてはいるが、だからといって何もされなかった証拠にはならない。単に寝転ぶときにずれただけの可能性もあるとはいえ、着衣の乱れも多少はあることから油断はできなかった。
「してないしてない!」
男は驚いた様子で両手を前に出して横に振って、
「酔った女と無理やりするような鬼じゃねえよ」
そう言われて安心するのと同時に少しばかり悔しい気持ちもして、缶を横に置いてから、うつむいて上目遣いで、
「……したくなかった?」
と訊いた。訊きつつ、うなずかれたらどうしようかともひっそりと思った。
「い、いや、そういうわけじゃ……」
男は少し赤らんだ顔をそらした。
とはいえ、うぶな男なのかどうかまではわからない。突然目の前に現れた男に距離感をはかりかねていると、男はお盆の上に食べ物を置いてこちらにやってきた。ベッドの傍のテーブルの上に置こうとしたようだが、あいにくテーブルの上はいつの間にか飲んだらしい無数の酒の空き缶が乱雑に載っていた。
「ああ、ごめん」
慌ててしまい、腕で空き缶を薙ぎ払ってテーブルを空けてしまう。
「乱暴だな……」
驚きつつも男はお盆をテーブルの上にゆっくりと置いた。
「どうぞ」
と言って男が用意してくれたのは、白飯と目玉焼き、味噌汁という朝食のセットだった。
特に警戒もせず、味噌汁の柔らかな匂いにつられてお椀に口をつける。
「寝てたようだから勝手に台所のもの使わせてもらったけど、二日酔いには味噌汁が良いっていうから」
男はそう言ったが、同じ台所のものをつかっても少なくとも自分にはこの味は出せない。どうしてこのような柔らかくあたたかな味が出せるのだろうと魔法を目にしたように不思議に思った。
箸を手に取って白飯を口に運び始めるが、
「あなたは食べないの?」
と、こちらを何をするでもなく見ている男が気になった。
「いや、勝手に台所のものを使った上に自分のものを用意するのは悪いかと思って」
「うそ……くくく……」
聞いて、思わず笑ってしまった。ここまで勝手にしておいて妙なところで律儀なそのアンバランスさに笑いを禁じ得ない。笑うと同時に頭が痛んだ。
痛みをこらえながらも台所を指さして、
「遠慮せずに自分の分も作りなよ、ここまでやったんだからさ」
「いや、そろそろ帰らないと怒られるから」
「うそ……くく……あはははは!」
まるで子供のような言いように頭痛がするとわかっていても笑いをこらえきれない。
「何だよ、朝食まで用意してやったのに」
そのふてくされるような口調に、ますます笑ってしまう。
と同時に、
(ちょっと、良いかも……)
そう思ってしまった。
困ったような顔をしつつ、男は、ふっと笑みを見せて、
「じゃあ、俺、帰るよ」
と言うので、玄関先まで出て見送ることにした。
「それじゃあ」
手を上げる男のその手を握って、
「今日はありがとう」
「あ、いや……」
突然手を握られたためか、どぎまぎしている様子である。
「そういえば名前も知らない同士だね。
私は岡真理。
あなたは?」
「狩野光一」
どぎまぎをごまかすためか、ぶっきらぼうに男は答えた。
「光一君っていうんだ。ふふ」
「いや、あの、それじゃあ」
光一は手を振り払ってアパートから帰って行った。その後ろ姿に手を振った。手を振るこちらの姿をどう思ったのかは、その姿が遠くになってしまいよくわからなかった。
どういうわけか名残惜しさを感じ、ベッドの上に腰かける。
よくよく考えてみれば連絡先も訊いていない。どういう過程で光一と出会ったのか覚えていない以上、これでは向こうから接触してこない限り再び会うことはかなわないのではないか。
早く帰らないと怒られるということは、つまり家で待っている人がいるということである。待っている人の存在というのはどういうものなのだろうと考えると、不思議と胸が痛んだ。それは知っている感情で、確か嫉妬と名づけられていたはずである。
(私と一緒になってくれる感じの人じゃないのかな……)
そう願った人々はみな自分のもとから去って行った。
ひとのものばかり欲しがる友達に恋人を奪われ、仕事では上司から怒られ、その上に、少し良いと思った男はまずもって再会が難しいとなれば、不幸続きに呪いたくもなる。
ごろりとベッドに横たわる。
すべては、この世の中が悪いせいである。
(憎い……っ!)
何もかもが憎い。
思い通りにならない人々も、何より自分自身も、何もかもが憎かった。自然と涙がこぼれてくるので右の前腕で両目を覆った。憎しみで全身が腐っていくような気さえする。
(何か、良いことないかな……!)
そう思っていると、鋭い痛みが頭を襲った。
二日酔いの痛みとは違う、鋭くねじ込んでくるようなこれは、
(テレパシー!)
の予兆だった。
<定例報告を怠ったな……>
とその声は暴力的に頭に響いた。超能力者でない自分にとってはテレパシーは一方的に襲ってくるメッセージでしかなかった。受信することしかできず、何かあってもこちらから返すことはできないのである。
<任務をほうりだして男遊びか。ずいぶんと結構な御身分になったものだな>
自分の動向が筒抜けであることに恥を覚え、瞬間的に顔が熱を帯びる。
<まあいい。
報告がなかったのは取り立てて言うべきことがなかったからと好意的に受け取ることにしよう。
それよりも……>
テレパシーは一方的に話を続ける。
(すみません米崎さん……)
念じるが、向こうに届くはずもなかった。
「で、虚勢を張ったは良いものの、途中で二日酔いを我慢しきれずにダウン、というわけですか」
トラックを運転するレンが少し怒ったような声で言い、ハンドルを切った。曲がり角の揺られ具合で頭が痛くなる。乱暴気味な運転はおおざっぱな性格がさせるものか、それともわざとなのか。
真理のアパートを出てからすぐ物陰に隠れ、ガイノイド姉妹に迎えに来るよう指示をしたのである。そうして今は、助手席でシートベルトに身体を拘束されながら家に着くのを待っている。
<プークスクス、行きずりの女にかまけているからバチが当たるんだよお>
棺桶の中からアイがテレパシーを飛ばしてくる。座席に空きがないため、そこで待機しているらしい。ならば自宅で待っていればよいものを、姉一人で行かせるのを嫌ったらしい。抜け駆け禁止、とアイは呟いていたが。
<テレパシー、やめろよな。二日酔いに響く……>
それにしても真理を指して行きずりの女とは人聞きの悪い、と思ったが、たしなめる体力も今はなく、黙って車に揺られて自宅のベッドを思い浮かべるばかりだった……。