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アルマの叫び  作者: (iTi)miru
第2章 炎の悪魔
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第8話 守るべき者

 【山賊の城 2階 牢屋】


 ガルディアはアルマに山賊の相手を任せた後、ソラ以外の2人の村娘の救助に向かった。


 ガルディアが入った部屋は、1人用の机と椅子と小さな棚が置いてあり、また簡易的な寝袋が敷かれた人が1人生活出来る程度の小部屋だった。

 その小部屋には囚われた村娘達はいなかった。だがすぐにもう一つ扉がある事にガルディアは気が付く。

 恐らくその扉の向こうに村娘達が囚われているのだろう。実際に扉の向こうから声が籠って聞き取れないが、人の話声が聞こえてくるのだった。


 ガルディアはすぐさま、そのもう一つの扉を開き中に入る。

 扉を開いた先は先程の小部屋とは違って広く、10人程の人数でも寝泊まり出来る程の広さがあった。

 その部屋は物置として使われているのか、使っていない大きな棚や壊れた椅子や机などの残骸が放置されていた。そして部屋の奥には、壁から垂れる黒い鎖に繋がれた手を拘束された若い人間の女性と、2人の山賊とガルディアよりも背の高く大きな体をした大男がいた。


「おぉ? なんだお前? オークが何でここに? もしかしてさっき仲間が言ってた聖国軍の奴か?」


 ガルディアよりも大きな体をしたその大男は、ガルディアに気が付くと近くに立てて置いてあった大きなハンマーを手に取るとガルディアに話掛ける。


「おい、オーク。お前、何しに来た?」

「そこにいる女性達を助けに来た。俺は出来れば無用な争いは避けたい、武器を下ろして今すぐに彼女達を解放するんだ。そしたらこちらも危害を加えない」


 ガルディアは恐らく無理だろうが、ダメもとで山賊達を説得しようと試みる。 

 だがしかし、その山賊達はガルディアの説得に対して嘲笑い、部屋に山賊達の笑い声が響く。


「がははははは! 何を言ってるんだこのオークは! 聖国軍のクセにお優しい事だ、がははははは!! 悪いがそれは無理だ。この女達は兄貴と一緒に使う女だ、お前には使わせない」


 山賊の大男は、村娘の1人の頬をその大きな手で摘まむと彼女に顔を近づけいやらしい目つきで舌なめずりをする。

 山賊の大男に掴まれたその村娘は、その顔を恐怖と不快感で歪め小さな悲鳴を上げる。


「……女性は道具ではない」

「なにぃ?」

「女性は道具ではないと言っている」


 ガルディアは静かに怒っていた。

 怒鳴り上げる事も暴れる事もなく、だたその場で動かずに眉間や腕に血管を浮き上がらせ、全身の筋肉がはち切れそうな程に全身に強い力を込めていた。


「だったらなんだ? 女など使ってなんぼだろ? まぁいい、そんなにこの女達を返して欲しかったら俺達を倒してみろ。言っとくが俺は強いぞ! 俺にはオークの血が混じってる! だから強いオークも何人も殺して来た! そして、お前が強ければお前が5人目になるな!!」

  

 山賊の大男は大きなハンマーを両手で持ち上げる。あとの2人の山賊達も1人は盾と斧、もう1人は2本の短剣を手に取り構える。


 それを見たガルディアは、深く大きく鼻で息を吸う。それから一瞬息を止めた後に静かにゆっくりと息を口から吹き出しながら、まるでその場に根を張る様にどっしりと重心を落として剣を両手で構える。

 そして強い光を宿したその青い瞳で敵を捉え、敵に向かって叫ぶ。


「来いッ!!!!」


 ガルディアの低く重い声が部屋全体を震撼させ、戦闘が始まった。


 ガルディアの威圧に一瞬押される山賊達だが、すぐに体制を戻し山賊の2名が同時に彼に襲いかかる。

 盾と斧を持った山賊が盾を構えて突撃し、その後ろに短剣を持った素早い山賊が追従する。


 ガルディアに突撃してくる2人の山賊は、盾による体当たりで切迫し相手の体制が崩れた所に短剣の相方が懐に入り、手足を切り裂き急所を突き。動きが鈍くなった所で斧による止めをする戦法をしかけて来た。


 この戦法で幾度もの戦闘を生き残って来た2人の山賊の動きは確かなもので、実際に彼らは2人で武器を持ったオークを相手に勝利する程の実力の持ち主だった。

 だがそれでも、彼らはそれに(おご)る事なく、2人共が自信を持った正確な動きでガルディアに襲い来る。

 ガルディアも彼らの動きを見てすぐに実力者だと悟り、より一層(いっそう)重心を落とす。


 山賊の2人はガルディアとの距離があと少しの所で、ガルディアを倒すイメージがはっきりと浮かび上がり「倒せる」と確信する。もちろん相手はオークだ、その巨体によって自分達の体制が崩れた時のお互いの動きもしっかりとイメージできており、その後の勝利も見えていた。


 だが、彼らは1つ見落としていた。


 彼が……目の前のオークが、ただのオークでない事を彼らは見落としていた。


「――ふんっ」


 ガルディアが手を伸ばせば盾を持った山賊と触れれる距離になる時、ガルディアは自らその盾に向かって体当たりした。


 次の瞬間、盾を持った山賊は「人」ではなく、「分厚い壁」に勢いよく衝突した。

 自ら全力で「壁」に体当たりした事により、その跳ね返って来た衝撃は相当なものだった。むしろ「壁」の方からもぶつかって来たのだ、その山賊は盾越しに頭部を強打し、後ろへと吹き飛ぶ。


 その後ろにいた短剣の山賊は、その反射神経で咄嗟(とっさ)に跳ね返って来た相方をギリギリ回避する。

 しかし、回避した矢先にガルディアが素早く体捌(たいさば)きし、その怪力を活かした斬撃を短剣の山賊に振り下ろす。

 咄嗟の回避により体制を崩していた短剣の山賊は、成す術もなく「あ……」と声を上げた時には既に首を跳ね飛ばされて死んだ。


 その後ガルディアは、強い衝突により脳震盪(のうしんとう)を起こし上手く動かない体で立ち上がろうとする盾の山賊の斧を蹴り飛ばし。それから山賊の盾を振り払い、ガラ空きになった心臓目掛けて剣を水平にして突き刺す。

 服、皮、筋肉、それから肋骨の隙間を突き抜けて行った剣先は、山賊の心臓を貫く。

 

心臓を貫かれた山賊は、口から赤黒い血を吐き出しながら息絶えた。


 ガルディアは山賊から血で濡れた剣を引き抜くと、盾を持った山賊から鉄の円状の盾を取り、素早く自分の左腕へと装備した。

 そして再び深くゆっくりと深呼吸しながら盾と剣を構え、残った山賊の大男と向き合う。


「ははははッ! やるな! オーク!! 少しは手ごたえがありそうだ!!」


 ガルディアの戦闘を見ていた山賊の大男は、ガルディアを強者と見たのか興奮した様子で歯を剥き出しにして笑い、先程よりハンマーを強く握り締め重心を落とす。


「だがな。力自慢なのは、オーク、お前だけじゃない! 俺はお前より力があるぞ!! うおぉぉりゃぁぁぁあああああッ!!!」


 山賊の大男はその巨体でガルディアに向かって突撃し、ガルディアに向けてハンマーを振り下ろす。

 振り下ろされるそのハンマーは巨大な岩そのもので、まともに食らえば人だろうと大きな熊だろうと一撃で即死もしくは致命傷になるだろう。

 

 ガルディアは振り下ろされるハンマーの軌道(きどう)を読み、横に避ける。そのまま剣による突きでハンマーを握る手を突き刺そうとするが、山賊の大男はその巨体に似合わず俊敏(しゅんびん)な動きで後退しガルディアの剣先を避ける。


 山賊の大男は今度は、体を(ひね)り回転を加えてガルディアの側面に目掛けて横にハンマーを振り回す。ガルディアは一週目の打撃は避ける事が出来たが、続けて二週目の時に山賊の大男がハンマーを持つ位置を取っ手の下端にずらし、リーチを伸ばした為に攻撃範囲内に入ってしまう。

 

「――ぐぅッ!?」


 ガルディアは咄嗟に襲い来るハンマーに向かって盾を構え、その強打撃を盾で受け止める。

 盾にハンマーが当たる寸前、ガルディアはハンマーの軌道に合わせて後方へ飛ぶ。その為、ハンマーの打撃によって吹き飛ばされるが、ハンマーによるその衝撃を軽減した。

 しかしながら、軽減したとしてもその威力は強く、ガルディアの腕に痛みが走る。また吹き飛ばされたガルディアは、放置された残骸の山の中へとぶつけられる。

 

 「がははは! まだまだ終わるなよぉ!!」


 残骸の山に埋もれたガルディアを山賊の大男が引きずり出し、そのまま別の残骸の山へと投げる。


 「がはッ……!」


 またしても残骸の山にぶつけられたガルディアの体には。確実にダメージが蓄積されていく。これがもし一般の人間だったら、始めに食らったハンマーの一撃の時点で死亡していただろう。ここまでガルディアが耐えきれるのは、彼がオークであり、かつ己を鍛えぬ続けてきた者だからこそ成しえていた。

 しかし、そんなガルディアでもこのままダメージを受け続ければやがては動けなくなってしまうのは、本人がよく理解していた。

 そしてガルディアが何よりも理解していたのは、自身が今持っている盾が限界だと言う事だった。

 

 長年、盾を使って戦って来たガルディアだからこそ感じ取れる感覚であり。今使っている鉄の盾があの大男のハンマーの攻撃をまともに受け止められる回数は、残り1回だと悟る。

 もしそれ以上攻撃を受け止めれば、受け止められたとしても確実に左腕をもってかれるだろう。そしてそのダメージは腕だけでなく、体全体までにも伝わり。最終的に動けなくなって殴り殺される。


「くそ……たった一撃でこれか……情けない。俺の力がもっと強ければ、この盾がもっと硬ければ……あの攻撃にも耐えられるはずなのに……!!」


 ガルディアは思わず自身の実力に愚痴をこぼす。

 だが、今そう思ってもどうにもならないとガルディアはその悔しさを振り払い、前を向く。


「う‶ぅ……ッ! まだだ……! まだ戦える!! ――でぃぃぃいいいやぁぁぁああッ!!!」


 ガルディアは残骸の山から這い上がると、盾を正面に構え、山賊の大男に向かって突撃する。


「がははは! まだ動くか!! いいぞ! かかって来い!! オラァッ!!」


 山賊の大男は突撃してくるガルディアに目掛けて、また上段からの振り下ろしをしてくる。

 ハンマーの重さ、大男の筋力、大男の体重が加わったあの凶悪な振り下ろしの威力は、今の盾ではあと1回も防げない。

 それを感じ取ったガルディアは、剣の握り方を逆手に変えるとハンマーの軌道を読んで横に飛ぶ。その時、ガルディアは剣を山賊の大男の心臓目掛けて腕力と腰の捻りのみで投擲する。


「がぁぁあッ!?」


 ガルディアが投擲した剣は見事に狙い通りに命中した。しかし……。


「くそがぁ! 痛てぇぞ!!」


 ガルディアが投擲した剣先は、山賊の大男の分厚い脂肪と筋肉によって心臓へとは届かなかった。

 山賊の大男は、胸に突き刺さった剣を引き抜くとその場に捨てる。


「ちぃ……! やはり踏み込みが無い分、威力が低い!」


 ガルディアは回避してから地面に受け身を取りつつ効果を確認したが、効果がいまひとつだった事に若干の焦りを感じた。

 だがすぐに気持ちを切り替えると、盾のみを装備して山賊の大男に向かって走り出す。


「――!! オークが小癪(こしゃく)なマネをすんじゃねぇッ!! うおらぁ!!」


 山賊の大男はガルディアがまた接近してきているのに気が付くと、ガルディアの頭部に向かってハンマーを横に振るう。

 ガルディアはハンマーが届く寸前で、山賊の大男の足元に滑り込む様に姿勢を低くしてハンマーを(かわ)す。


「クソ……!」

「ふんッ!!」

「い゛ぃぃってぇ!?」


 ガルディアはスライディングしながら山賊の大男の足元に捨てられた剣を回収し、そのまま奴の片足を切り裂く。

 山賊の大男は堪らずその場に片膝を付く。

 ガルディアはそのチャンスを逃す事無く素早く立ち上がると、奴の背中目掛けて上段からの体重を乗せた大振りの斬撃を振り下ろした。


「ぎぃぃァッ!!??」


 ガルディアの斬撃は山賊の大男の背中を深く切り裂き、その背中から真っ赤な血が流れる。

 ガルディアは更にトドメを刺そうと剣を突き刺す構えを取るが、そこに奴の裏拳がガルディアの顔面に直撃する。


「ぐッ!?」

「があぁぁぁぁああああああッッ!!!!」

「――ッ!? ふ、ぐあぁ……ッ!!」


 山賊の大男の裏拳により、よろめくガルディア。

 そこに山賊の大男が、振り向きざまの回転を加えたハンマーの渾身の一撃がガルディアに命中する。

 ガルディアはこれまでの戦闘で(つちか)った戦闘経験から、本能的にそのハンマーの攻撃を盾を咄嗟に構えて直撃を防いだ。しかし、その渾身の一撃はかなりの威力で体の大きなオークのガルディアを簡単に吹き飛ばした。

 ガルディアは囚われた村娘達から少し離れた壁へと勢いよく叩きつけられる。


「ゴフッ……」


 今のハンマーの一撃と壁への衝突で、ガルディアは骨や内臓まで大きなダメージが入る。彼は口から血反吐を吐き出し、その場に崩れ落ちる。


「くそがぁぁ! 痛てぇぇぞぉ!! オークのくせにちょこまかと動きやがって! おい、どうした!? 立てぇ、オーク! まだ終わってないぞ!?」

「――ぬぅぉお……ッ! た、て……! 立って、彼女達を……守るんだ…!!」


 ガルディア遠ざかる意識をしっかり引き寄せ、立ち上がろうとする。しかし全身が悲鳴を上げて限界を迎えており、立ち上がる事も難しくなっていた。


「おらぁ! 立てオーク!! ……なんだ? 立てないのかオーク? だったら……だったらこの女の1人を叩き潰してやるぞぉ!? がはははは! あぁ、潰してやる! この女を叩き殺してやる!! がはははは!! お前が立ち上がって俺に潰されるか、この女が潰されるかのどっちかだ!! オラァ! 来い女ぁ!」


「嫌……ッ!? いやぁぁぁああッ!!」


 ガルディアの戦闘で頭に血が上り、興奮状態となった山賊の大男。大男は立ち上がらないガルディアに痺れを切らし、無理やりにでも立たせてガルディアを叩き潰そうと村娘を使って時間制限を設けた。


「10秒数え終わるまでにお前が立ち上がらなかったら、この女を殺すぞぉ! いーち! ……にー!!」

「いやぁぁ! いや! 死にたくない!! やだぁ! やだぁぁ!!」


 山賊の大男は、まだ若く未来ある女性を鎖で手繰(たぐり)り寄せ。もう片方の腕でハンマーを持ち上げる。


「止めて! お願い! その子を殺さないで!? お願いよ!!」

「うるせぇ!! お前もこの後、殺してやるから黙ってろ!! ……さーん! ……しー!」

「やぁ!? お、お母さん! お父さんたすけ、助けてよぉぉ!? やだぁぁあ!」


 これから先、恋をして、愛する人と結婚し、子供を産み、家族で愛を育み幸せになるはずであろう村娘に向けて死のハンマーが持ち上げられる。


「……ごー! ……ろーく!」

「お願い……! 殺さないでよぉ……ッ」

「こ、この子を殺すなら、私を殺しなさいよ!!」


 もう一人の村娘が山賊の大男から庇う様に、殺されようとされている村娘の前に出る。


「なんだお前! 邪魔だぁ!! ……あぁ、めんどくせぇ! 2人まとめて叩き潰してやる!!」


 山賊の大男は興奮のあまり、人質を2人ともハンマーで撲殺しようとハンマーを握る手に力を入れ、更にハンマーを高く振り上げる。そのハンマーが振り下ろされれば、村娘は2人同時にあの鉄の塊に叩き潰されて即死するだろう。


 ガルディアの意思に反して、意識がどんどん薄れゆく。

 

「(また守るべき者が殺されるのか? ……また俺は、守れないのか?)」


 山賊の大男の声も、村娘達の悲鳴も遠くなってゆく。


「(俺は……死ぬのか?)」


 ‶貴方はあいつらに殺されたいの?〟


「(何……?)」


 ガルディアの脳裏に、馬車の中で出会った彼女の言葉が響く。


‶貴方の言う守るべき人々がまたあの悪党共に殺されていいの?〟


「(……いいや、ダメだ。だから、だったら――!)」


 彼女の言葉を思い出すと同時に、ガルディアの全身にもの凄い勢いで血液が流れ始める。


「――立て……! 立って、動けぇ……!! 俺は、まだ生きているんだッ!!」

 

 ガルディアは限界を迎えているはずの体を無理やり動かす。全身のあちこちから悲鳴が上がる。

 それでも、彼はその体を動かす。動くはずのない体を動かす。両手を地面に付き上半身を起こし、足の裏を地面にしっかりと付け腰を起こす。


 ガルディアの全身から薄っすらと青白い光が現れる。

 すると、更に彼の血流が勢いを増して流れ始め、青白い光と共に彼の体の傷が見る見るうちに修復されていく。


「……きゅうッ!! がはははは! 死ねぇ! 女ぁ!!」


 ガルディアは落とした剣を手に取り、剣と盾を強く握り締めるとハンマーを振り下ろす山賊の大男に向かって地面を抉る様に駆け出す。


「じゅぅぅううう!!」


 そしてついに、山賊の大男のハンマーが村娘達に向けて勢いよく振り下ろされた。

 その威力は絶大で、この場にある物では防ぐ事は出来ないだろう。ましてや限界を迎えた盾であれば尚更だ。

 もしも、あの振り下ろされるハンマーに耐えれる盾があったとしても、この場にその威力に押し潰される事無く耐えられる者はいないだろう。


「たすけ――――え?」

 

 1人を除けばの話だが。


 振り下ろされたハンマーは地に付くことなく宙に止まっていた。

 いや……受け止められていた。


「――な、なッ!?」


 山賊のハンマーを受け止めていたのは、既に限界を迎えたガルディアの盾だった。

 その盾には大きく窪んだ変形跡があり、ヒビの跡さえあった。だがそのボロボロになった盾はガルディアと同じ様に青白い光が薄っすらと現れており、山賊の大男が振り下ろしたハンマーを防いだのにも関わらず新たな傷が付いていなかった。


「ふ、防がれただと……!? ――いや、待て!? オ、オークお前! な、何で傷が無いんだ!? 何で治っているんだ!?」


 傷が無かったのはガルディアの盾だけではなかった。

 ガルディアに先程まであった戦闘の傷が無くなっていたのだ。むしろ先程まで防ぐのが困難だった山賊の大男の攻撃を、まともに受け止めれているのだった。


「お、お前まさか……魔法が使えるのか?」


 

―― 治癒魔法《自己再生》……発動

―― 変異魔法《肉体強度強化》……発動

―― 変異魔法《身体能力強化》……発動

―― 付呪魔法《武器防具強度強化》……発動

―― O(オー)タイプ固有能力《防衛本能》……発動、リミッターを一時的に解除



 山賊の大男の言う通り、ガルディアはアルマから貰った『謎の力』で、自身が心で願った事を無意識に魔法として発動したのだった。


「お前は、オークの血を持つものとして……男として、オークの十戒の一つを破った」

「な、なに?」

「いいか……? よく覚えておけ。女の子は……女の子はな――」


 ガルディアはギリギリと金属同士が擦れる音をならしながら、山賊のハンマーを盾越しに押し上げていく。

 山賊の大男はブルブルと震える程にガルディアを抑え込もうと両手でハンマーに力を籠めるが、ガルディアは微動だにせずどんどん持ち上げていく。

 そして……。


「女の子は――男が守ってあげるものだぁぁぁあああああああッッッ!!!!!」

「ぬおぁぁぁあッ!?」


 ガルディアは声を上げながら山賊のハンマーを盾で弾き返す。

 ハンマーを弾き返された山賊の大男は、ハンマーと一緒に両手を後ろに向かって振り上げてしまい胴体がガラ空きとなる。


「でぃぃぃぃいいいやぁぁぁああああぁぁぁああああッッッ!!!」


 ガルディアは山賊のハンマーを弾きながら、もう片方の手で剣を構える。

 そして、そのがら空きになった胴体の心臓目掛けて、魔法で更に強化された怪力による渾身の刺突を繰り出す。

 重心を落とし、地に根を張るように踏ん張り、腰を回転させる。足先から腰、肩、腕、そして剣先へと伝える。


 ガルディアの剣は「ドン!」という音と共に山賊の大男の心臓を貫ぬく。貫かれたその巨体は、一瞬だが少しばかり宙へと浮かんだ。


「――が、がぁッ!? ぅあ、がはっ……あ、あに……き……」


 心臓を貫かれた山賊の大男は、口から真っ赤な血を吐き出しながら膝から崩れ落ち。ガルディアが剣を引き抜くと、そのまま音を立てて倒れた。


 山賊の大男は、心臓を貫かれて死んだ。


「ハァッ……ハァッ…………スー……ぶはぁぁああぁぁ~……ッ」


 ガルディアはしばらく山賊の大男が本当に息絶えたのか観察し確認した後、一旦周囲を警戒した後、大きく息を吸い思いっきり息を吐き出した。

 呼吸を整えると、ガルディアは鎖で繋がれている村娘達の元へと行き、剣を置いてしゃがみ込み声を掛ける。


「大丈夫か? 助けに来たぞ。どこか怪我は無いか?」


 ガルディアの心強く優しいその声を掛けられた村娘達は、一瞬の間を空けてその目に大粒の涙を浮かべてるとガルディアのその大きな胸へと抱き着き、わんわんと泣き始めた。


 ガルディアは突然の事で両手を上げて固まってしまうが、娘達の頭をその大きくて優しい手でぎこちなく撫でる。


「遅くなってすまない、怖かったな。もう大丈夫だ」


 ガルディアは見事、新たな力と共に山賊の手から2人の村娘を救い出したのだった。


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