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アルマの叫び  作者: (iTi)miru
第2章 炎の悪魔
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第7話 山賊達の城

 山賊に襲われた村長の娘『ソラ』を救いに、アルマとガルディアは襲われた場所へと馬を走らせていた。


「アルマ! そろそろ立ち入り禁止区域だ!」

「分かったわ!!」


 アルマとガルディアは、村の外れにある山へと続く森の中を走っていた。

 そこには、人が出入りしている通り道があり。目印となる赤い印が、道に沿って岩や木々に塗られていた。

 村の人々はその赤い目印を頼りに、山に山菜を取りに行っていると言う。そしてその山菜を探す範囲は決まっており、森の奥に迷い込まない様に立ち入り禁止区域が決められていると村人は言っていた。

 ソラと数人の村娘達は、その立ち入り禁止区域へと踏み込んだ先で山賊に襲われた様だった。


「――ッ! 見つけた!! ガルディア! 立ち入り禁止の柵よッ!!」


 馬に乗って森の中を駆け抜けるアルマが指を指す。

 その先には人の出入りを妨げる様に設置された、それ程高くない簡易的な柵があった。


「確認したッ!!」

「このまま行くわよッ!!」

「おうッ!」


 アルマとガルディアは馬の速度を緩める事無く、その低い柵を飛び越え走り抜ける。


 柵を乗り越えてしばらく進むと、そこには村娘達が使っていたと思われる(かご)が転げ落ちていた。

 その籠からはまだ切り取られて間もない、新鮮な状態の山菜が散乱していた。


「ここね、ソラ達が襲われたのは……。確かソラ以外の村娘も連れ去られたのでしょ?」 

「あぁ。逃げ延びたあの子が言うには、ソラ以外にあと2人と一緒にいたそうだ。その2人も連れて行かれたと言っていたな」


 ソラを含めた4人の村娘達は、聖国軍に無理な貢納(こうのう)をさせられた事により食料の備蓄が少なくなった村を救う為に。彼女達は人の手がまだ届いていない立ち入り禁止地域に入り、多くの山菜を取りに来ていたのだった。

 そこに運が悪い事に山賊と出くわし、襲われたという訳だ。


「アルマ、ここに引きずられた跡が残っているぞ。……足跡もあるな」

「そのようね、(わず)かに男共の鼻に(さわ)る嫌な臭いもするわ。足跡と臭いを辿りに追跡しましょ」


 アルマ達は山賊達の残した痕跡(こんせき)を辿り、山の方へと追跡した。

 しばらく追跡していくと、遠くの方から甲高い音が(かす)かにアルマの耳に入った。


「――ッ! 聞こえた!」

「なに!?」

「こっちよ!!」

「了解した!」


 アルマとガルディアは、音の聞こえる方へと馬を走らせる。

 するとその音……女性の悲鳴の元へと、どんどん近付いて行く。


 そして2人が辿り着いたのは、廃墟(はいきょ)となった古い石の建物だった。

 所々崩れているその建物はかなり昔に使われていた小規模な砦の様で、周りの外壁は殆ど崩れ落ちており外壁としての役割を失っていた。

 その砦はいつからそこにあったのかは見当もつかないが、砦としての役割はともかく人が住むには充分だった。


 その古い砦は、今となっては山賊の城となり果てていた。


「いやぁぁあ! 離して! キャァァアアアッ!?」


 アルマ達がその古い砦を見ていると、その砦の中から女性の悲鳴が聞こえて来た。


「ぬ!? アルマ!!」

「分かってるわ! 行くわよ!!」


 アルマとガルディアはその悲鳴を聞いた途端、迷いなくその砦の入口に向かって馬を走らせる。


 アルマ達が向かった入口である大きな木の両扉の前には、2人の人間の男が立っていた。

 その男達は粗末な服と獣の毛皮で作った服を羽織っていた。

 山賊であろう男達はアルマ達に気が付くと、棍棒または斧を手に持ち、アルマ達に向かって怒鳴る。


「ぁんだおめぇらはぁ!!」

「それ以上来たらぶっ殺すぞぉ!?」


 山賊と思われる男達に向かって、ガルディアが叫ぶ。


「お前らか!? 村の娘達を(さら)った山賊はッ!!」

「娘ぇ? あぁ、あの女達の事か? そうだ! 攫ったさ! だったら何だ!? 俺達の邪魔をしよって言うんなら、ただじゃお――おぉ?」


 一人の山賊の男が話終える前に、男の頭上に何かが降ってくる。


 山賊の男に落ちて来たそれは――

 

「なら死ね」


 アルマだった。


 アルマは山賊の男がガルディアに向かって叫んでいる途中。馬から跳躍し、そのままその男の顔面に向けて落下していた。

 落下による加速と謎の覚醒した力で強化された脚力で、アルマは両脚で山賊の男の顔面を踏み潰す。


 アルマに踏みつけられたその山賊の男は、背骨が本来とは真逆の方向に折られ。その頭は地面に埋まる様に踏み潰された。

 踏み潰された頭は、真っ赤な血と共に目玉や割れた頭蓋骨、脳髄がアルマの足の裏から飛び出していた。


 アルマに踏み潰された山賊の男は、頭部を潰されて死んだ。


「え……ひ、ひぃぃッ――べっ」


 その踏み潰された男の隣にいた、もう一人の山賊は。

 相方の無残な姿に悲鳴を上げようとしたところで。ガルディアによって投擲された剣に頭を串刺しにされ、そのまま門の壁に貼り付けにされて死んだ。


「あら、やるじゃない、ガルディア。なかなかの投擲術よ」

「投擲の鍛錬もしていたからな、当然だ。だが、ありがとうアルマ」


 息の合った連携に、アルマとガルディアはお互いに相方の力を認め合っていると。入口の向こうから声が聞こえてくる。


「お、おぉい! どうしたぁ? そっちで何かあったかぁ?」


 木で作られた大きな扉の向こうから、山賊の仲間達が先程の騒動によって集まってくる気配があった。


「ガルディア、下がってなさい」

「うむ」


 ガルディアは入口の扉に貼り付けにされた山賊の頭から剣を引き抜くと、アルマから言われた通りに門から離れる。


 それを確認したアルマは、右手をギチギチと握り締め、その拳に魔力を集中させる。

 すると、その拳から青白い光が現れ始め。眩しい程に青白い光を溜めると、アルマは大きな木の扉に向かって渾身の一撃を叩き込んだ。


 アルマの拳が当たった瞬間、強力な爆発と共に大きな木の扉が爆散する。

 それによって入口の向こう側にいた山賊達数名が、その爆発と吹き飛んできた破片に巻き込まれ、一瞬にして人肉へとなった。


「ひぎゃぁぁあ!? めがぁ! おれの目があああ!!」

「はぁぁッ!? あぁぁぁあ!? 腕ぇ、腕がないぃ!? うでがぁあ!!」


 運悪く、一瞬で人肉になれなかった者達は、破片によって重症を負い。大量の血を流しながら激痛にのたうちまわっていた。


「なんだ!? なんの騒ぎ――ッ!? な、何だこれは!? お、おい!! な、何があったんだ、これはいったいどう言う事なんだッ!?」


 砦の1階の広間での爆発音を聞きつけた者が、部屋の奥の階段から数名降りて来た。

 その中に一際(ひときわ)体のデカい人間の大男がいた。その大男はここの山賊達の長の様で、子分の山賊達に囲まれていた。


「親分! あの聖国軍の野郎でさ! 奴が入口をぶち壊して仲間を殺しやがった!!」

「はぁ!? 聖国軍!? なんで聖国軍が俺達を殺しに来てんだ!? 意味が分からんぞ!?」

「で、ですが、あいつら聖国軍の格好をしてやすぜ!」

「なんだと?! ふざけんなクソ聖国軍めッ!!」

 

 山賊達がパニックで騒ぐ中、アルマはゆっくりと山賊達が集まる広間の中央に歩み寄り。山賊の長に話しかける。


「お前がここの長かしら?」

「んだおめぇ! 聖国軍が俺達に何の用だ!?」

「お前達に攫われた、村の娘達を取り返しに来たの」

「村娘ぇ? あぁ、あの女達か! はははは! なんだおめぇ? 聖国軍のくせに英雄ごっこしてんのか? しかもお前、女か? はっ! 笑えるぜ!! 生憎、あの女達は俺達の性奴隷にするから無理だなぁ? はっはっは! 聖国軍の女なら、聖国軍の男達の夜の世話でもしておけ! それとも……お前も俺のを世話してくれてもいいんだぜ? はっはっは!!」

「貴様ぁ! 女性を侮辱するのも大概(たいがい)にしろぉッ!!」

「うるせぇ! デカブツ! おい聖国軍の女ぁ、そんなにあの女達を返して欲しかったら、あの女達の代わりの女を倍の人数で連れてきたら取引してやってもいいぜ? 仲間を失ったんだ、その分のガキを孕ませねぇとな! はっはっは!!」


「おい、肉だるま。お前、何か勘違いしているわ?」

「あぁ?」

「私は『取引』や『お願い』をする為に来たんじゃないの、私は『取り返し』に来たの。この意味が分かるかしら?」

「あ? どう言う事だ?」

「こう言うことよッ!」


 アルマは両手に魔力を溜め込むと、手をかざし、火炎弾を放つ。

 アルマが放った火炎弾は、死角からアルマ達を狙っていた弓使いの山賊達に直撃した。

 その直撃した山賊達は悲鳴を上げる間もなく、下半身や体の半分だけを残して死に。その後は残り火によって火だるまとなり、その体は燃やし尽くされる。

 

「クソッ! おい! おめぇら!! こいつらを殺せ! 殺した奴には、好きな女を最初に使わせてやるぞ!!」

「「おっしゃあぁああ!」」

「ホントに虫唾が走るクソ共ね……ガルディア」

「なんだ?」

「私の背中を守りなさい」

「……あぁ、分かった。守ってみせる」


 アルマはフードを外し、マントを脱ぐ。

 それから胸の白い防具も外し、動き安いように上は長袖の白いシャツのみになる。

 ガルディアも顔を隠していた白い布を外し、オークの恐ろしい顔を露わにする。


 アルマ達の素顔を見た山賊の子分達は、馬鹿にする様に騒ぎ出す。


「キャルトにオークだと? はっ! 他種族差別主義の聖国に他種族の聖国軍がいるとは、笑えるな!」

「キャルトの女ぁ! お前のその毛を剥いで、毛皮の絨毯(じゅうたん)を作ってやるよ!! 覚悟しやぎゃ――」


 喚き出した山賊の一人の頭に、真っ赤に熱した聖国軍のナイフが深々と突き刺さり。その山賊は死んだ。


「あら、当たったわ。ガルディア、今みたいな感じかしら?」

「あ、あぁ……いい感じだ」

「ちぃ! おめぇら! 一斉にかかれぇ! ぶっ殺すんだぁっ!」

「「うりゃぁぁああああッ!!」」


 山賊の長の指示で、山賊達が一斉に襲い掛かってくる。

 アルマとガルディアは、互いに背中を守る様にして身構える。


 そして、殺戮が始まった。


 アルマは火炎弾による遠距離攻撃で弓使いや近寄ってくる山賊を撃ち落とし。

 ガルディアは、その盾と筋肉を使って敵を吹き飛ばし、盾や拳で殴り殺し、剣による重たい斬撃で叩き斬る。


 ガルディアの攻撃後の隙を突いて襲ってくる敵には、アルマが魔力を込めた拳や蹴りが敵の頭部や体を吹き飛ばし。アルマに矢や斬撃が向かえば、ガルディアが盾と剣を使って防ぎ、その者の首を撥ねる。


 アルマとガルディアはお互いを守り合い、呼吸の合ったその戦い方は、まさに歴戦の戦士同士が共に戦っているかのようだった。


「な、なんなんだよこいつらぁ!?」

「強すぎる!?」

「な、なにやってんだおめぇら! とっとと殺せぇ!」

「ダメだ親分! こいつらつよ――」


 山賊の長の近くにいた山賊が、アルマの火炎弾により胸から下が吹き飛び、残った胸部から内臓を露出させながら地面に落ちる。


「ごふっ……お、お゛や……ぶん……」

「ひ、ひぃぃ!? く、クソぉ! お、おめぇらここを抑えてろッ!!」

「お、親分!?」


 山賊の長は、仲間の子分達を置いて元来た階段を上がろうとする。


「……逃がすか! ガルディア!」

「どうした!?」

「私の蹴りを受け止めなさいッ!!」

「――!! 了解したぁぁぁああああッ!!」


 アルマはその場で軽く跳躍する。

 それに合わせてガルディアが振り向き、アルマに向かって盾を構えて防御の体制になる。

 アルマは両脚に魔力を少し込めると、ガルディアの盾に向かって蹴りを当てる。

 次の瞬間、「バァンッッ!」と爆発と共にアルマが勢いよく一直線に飛んで行く。

 その先は、山賊の長であった。


「うわぁぁああッ!?」


 だが、山賊の長はギリギリの所で避ける。

 狙いが外れたアルマは、山賊の長の近くにいた2人の山賊を拳で貫き、その拳は壁にめり込んでいた。


「ひぃ! ひぃやぁぁッ!!!」


 運良く避けきれた山賊の長は、おぼつかない足でバタバタと階段を駆け上がって行く。


「クソ……! 外した!」

「ひ、ひぃ……ッ! ば、ばばば、化け物だぁッ!!」

「うるさいッ! 死ねッ!!」

「ひぎゃ――」


 アルマは自身の後ろにいた腰の抜けた山賊を後ろ蹴りで、蹴り殺し。血で染まった右腕を壁と2人の死体から引き抜く。

 それからアルマはガルディアの方を見ると。彼は残りの山賊達と応戦しており、剣と盾を使いこなして山賊を倒していた。

 そして最後の一人に止めを刺すと、一度周囲を確認した後にアルマの元へと駆け寄る。


「大丈夫かアルマ?」

「大丈夫よ、だけど逃げられてしまったわ。貴方こそ腕は大丈夫?」


 アルマは、ガルディアのボロボロになった盾のある左腕を見る。少ない魔力とは言えアルマのあの強力な蹴りをを食らったのだ、ただでは済まない。


「あぁ、盾は見ての通りもう使い物にならないが。腕の方は問題ない、まだ痺れているぐらいだ。なに、気にするな大丈夫だ」

「ごめんなさいね。でも無事で良かったわ」

「うむ。さて、追撃と行くか」

「えぇ、でも待ち構えているでしょうね。貴方の盾も無いしどうようかしら……」

「盾か? アルマ、盾ならここにあるぞ。それも大きなのがな――ふんっ!」


 そう言ってガルディアは、アルマが破壊した入口の大きな扉の残骸(ざんがい)を持ち上げる。

 残骸と言ってもそれはガルディアよりも大きく、成人男性が6名集まって持ち上げられる程の重量があった。

 それをガルディアは1人で持ち上げて、アルマに見せつける。

 その残骸はガルディアとアルマを(おお)い隠すには充分に大きく、かつ階段の広さに収まる大きさで、また弓を防ぐにも充分な厚みがあった。

 

「この盾ならどうだ、アルマ?」

「……ふふっ、貴方って本当に凄いわね」

「そうか?」

「そうよ。……ならガルディア、先頭を頼むわ。私を奴らの攻撃から守りなさい」

「うむ! 了解だ」


 アルマとガルディアは、山賊の長が逃げた階段を上る。


 巨大な盾を構えたガルディアが先頭に立ち、その後ろをアルマが付いて行く。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 【山賊の城 2階 中央広間】


 山賊達は、アルマが予測していた通りに待ち構えていた。

 

 山賊達がいるその部屋には、別の部屋へと繋がる扉が幾つかある部屋だった。

 寝室として使っている部屋、食料などを溜め込んでいる小部屋の扉、捕えた者を入れる為の檻がある部屋の扉があった。

 また、それに加えてアルマ達が上って来ようとしている階段と、それとは別の場所にある更に最上階の3階へと繋がる階段があった。


 山賊達はアルマ達が上って来る階段の通路に向かって、数人の弓使いが弓を構え。魔法を扱る者は魔力を溜め、いつでも放てる様に構えていた。


 山賊の長はと言うと、顔を恐怖で歪めながら階段を駆け上がって来た後、子分達に待ち伏せする様に指示を出してから怒りに(もだ)えていた。

 1階での殺戮から逃れられたのは山賊の長のみで。1階での惨劇を思い出した後に山賊の長は1人、徐々に顔を真っ赤にして怒りを露わにする。


「くそぉ! くそぉッ!! なんなんだ!? なんなんだあいつらは!?」

「お、親分、落ち着いてくだせぇ」

「落ち着けだと!? あんな奴らが来て落ち着いていられるかバカ野郎!! 俺の計画が台無しになろうとしてんだぞ!? 分かってんのか!? あの女達を使って村を乗っ取るはずの計画がだぞ!? あの女達も村の女達も全部! 村の全てが俺のもんになるはずの計画がぶっ壊れようとしてんだぞ!? 分かってんのかぁッ!?」


 山賊の長は感情のままに、長をなだめようとした子分を殴り飛ばす。山賊の長は、その後も沸き上がる怒りに任せて叫ぶ。


「くそぉ! くそがぁぁぁ!!! ぐ、偶然……ッ! 偶然あの女共を見つけた時はツキが回ってきたと思ったが、とんでもねぇ奴を連れて来やがって! クソッタレがぁ!! なんだってんだ畜生ッ!! 俺の計画を邪魔しやがって!! ゆ、許さねぇ! あの聖国軍共をぶっ殺したら、捕まえた女3人とも死ぬまで犯してやる!!」


 山賊の長は激怒し。その怒りを隠すことなく、その場で力一杯地団駄を踏みながら怒鳴り散らした。


 だがしばらくすると、先程の恐ろしい殺戮者(さつりくしゃ)達がやって来る事を思いだしたのか、再び顔に恐怖を浮かべると子分達に指示を飛ばす。


「い、いいか、おめぇら。俺の合図で一斉に矢を放つんだぞ? 分かったか!?」

「へい! 任せてくだせい!」

「親分、そいつらってそんなに強いんですかい?」

「強いってもんじゃねぇ、あいつらは殺戮者(さつりくしゃ)だ! 化け物なんだ!! と、特にあの女だ……あいつは、あいつは悪魔だ……ッ!」

「あ、悪魔ですかい? そんな大袈裟(おおげさ)な」

大袈裟(おおげさ)だとぉ!? そんなのは実際に奴を見てから言え!! と、とにかく、奴らが上がって来たら俺の指示で迷うことなく殺せぇ! い、い、いくら化け物でも、矢の雨と魔法を食らったら一溜まりもねぇだろ……」


 山賊の長は、自分達に勝算があると感じ始めると。先程まで強張っていた顔を緩めて口元に笑みを浮かべる。

 だが、今の策がもしダメだった時の事を想像してしまった山賊の長は、もう一つ策を準備した。


「おい! 牢から今日捕まえた女達から一人連れてこい!! 人質に使うぞ!」

「へい!」


 山賊の長の命令で、2人の子分達が隣の部屋に仲間と向かった。しばらくすると、その子分達が向かった部屋から女性の悲鳴が上がる。その女性の声と子分達の声は、次第に山賊の長がいる部屋へと近付いて来る。


「おい! 暴れんな! こっちに来い!!」

「嫌ぁッ! 離して!!」


 そして乱暴に扉を開けて子分達が連れて来たのは、人間(ヒューマ)の若い女性だった。


 山賊の長は、連れて来させたその若い女性を自分の方へと引き寄せると、暴れるその女性の首に短剣を押し付けて怒鳴る。


「暴れんじゃねぇッ!!」

「ひっ」

「おい女……お前は今から人質だ。いいか? もしお前が暴れる様だったら、お前の大切なお友達のどちらかを殺す!」

「――ッ! そ、それは、ダメ! あ、あの子達に、手を出さないで!」

「だったら大人しくしやがれッ!! お前は俺の盾になるんだ!! 分かったかァ!?」

「ひっ……ッ!! う、うぅ……わ、わかった、分かったから、あの子達には手を出さないで……ッ」


 山賊の長から向けられる心を押し潰すかの様な威圧に、その若い女性は目に涙を浮かべ、体を震わせながら大人しく山賊の長の人質となった。


「ん? ……あ! 親分! 来やした! 階段の下から誰かがやってきやす!!」

「なに!? ついに、き、来たか……ッ!」


 人質となった若い女性が大人しくなった後、階段の下から誰かが上がって来る音を聞きつけた子分の一人が、山賊の長を呼ぶ。


 山賊の長は、人質を近くの子分に預けるとすぐさま階段の所に行き、その階段の下を上から覗き込む。


 山賊の長を含め、山賊達が見つめる先には暗闇があった。

 いつもはこんなにも薄暗くはないはずの階段なのだが、何故か今は不気味な程に暗く冷たい階段に山賊達は不安を募らせた。


 山賊達が見つめる暗闇の先には、まだ何も見えない。

 しかし、少しずつこちらに向かって近づいて来る音は聞こえる。

 その音は「ドス……ドス……」っと、重たい何かが歩いている異様な音だった。

 なぜ異様な音なのか? 恐らく何か生きた物なのだろうが、あまりにも重たい物の音だったのだ。

 階段の幅は、成人した男が横に5人並べる程の幅で。高さは3メートル近くあり、熊でも充分に入れる大きさだ。

 だから熊が上がって来ているのかと錯覚する山賊もいたが、すぐにその考えを捨てる。聞こえて来る音は人が歩いている音だ、熊がわざわざ二足歩行で階段を上がってくるはずがないと思ったからだ。


 そうこう思考を巡らせていると、その重圧的な足音はどんどんこちらに近付いて来る。

 するとその足音が近づくに連れて、今度は「ガリガリ」と何か固い物同士が擦れる音も聞こえて来た。


 何だ? 何の音だ?やはり熊か? 熊が爪を立てているのか?っと、どんどん近づいて来る異様な音に困惑する山賊達。

 様々な思考を巡らす山賊達だったが。山賊達が考えていた事は全て、暗闇から現れた木製の「壁」によって打ち消された。


 そう。山賊達が見つめていた身の毛のよだつ様な暗闇から現れたのは――「壁」だった。


 あぁ、なんだ壁か。


 そんな風に山賊達は、一瞬だが納得してしまった。 

 だがすぐに、それが異常だと判断し直す。階段の下から壁が歩いて来ている? そんなの訳が分からないだろう。だから山賊達はその異常な光景に恐怖する。


 だが、本当に恐ろしいのはそれではなかった。


 山賊達は気付いた。いや……気付いてしまったのだ。


 山賊達から見てその上ってくる「壁」の左端から、チラチラと見える一つの金色の丸い光に。


 歯を見せた不気味な笑みを浮かべながら「壁」の端から顔を半分覗かせて、その金色の目を見開いてこちらをじっと見つめる女に……。


 彼らはそれに気づき、そして――その女と目が合う。


 死という恐怖が、彼らの全神経を伝う。

 彼らの体中に鳥肌が一斉に立つ。

 背中をゾッと冷たいものが伝わると、だらだらと冷や汗を流し始め、体が小刻みに震え始める。


「悪魔だ」


 彼らは直感的にそう思った。

 自分達を地獄に連れて行こうと殺しに来た「悪魔」だと。


「う、うわぁぁぁああああッッ!!??」


 次の瞬間、山賊の1人が恐怖のあまり山賊の長の命令を待つ事なく、矢を放った。

 その放たれた矢は、悪魔の前にいる「壁」に突き刺さり止まる。


「ひ、ひぃぃぃッッ!!?」

「来るなぁぁあああ!!」

「せ、せ聖なる火よ! ひひ、ひ火のツブテとな、なり、や、奴を殺せぇ!? 《火弾》ッ!!」


 『恐怖は伝染する』とは、まさにこの事で。1人の蓄積された恐怖が爆破した事で、他の山賊達までもがプツンと糸が切れたように、恐怖のままに矢と魔法を放つ。

 だがその放たれる矢や魔法は、狙いの定まっていないただ放っただけのもので。それらは手前の地面に落ちたり、目の前にいる「壁」に遮られてしまい「悪魔」には1つも届かなかった。


「ま、ままてお前ら! 俺の命令に従え!? 勝手に撃つなッ!?」


 突然の子分達の暴走に、山賊の長までもが混乱する。

 どうにか子分達を止めさせようとする山賊の長だが、子分達は完全にパニックになり全く止まらなかった。


 そこで山賊の長は、ある事に気が付く。

 どんどん近づいてくる「壁」の後ろが、青白く光っている事に。


 心臓が一瞬冷たくなるのを感じた山賊の長は、即座にその場から横に飛びこみ回避する。


 次の瞬間、子分達が攻撃している階段から地獄を連想させる様な恐ろしい轟音(ごうおん)と共に真っ赤な炎が、山賊達に向かって放射された。


 持続的に放射され続ける炎に飲み込まれた山賊の子分達は、全身が炎で焼かれ。高熱で喉を焼かれた彼らは声を発する事ができず、声なき断末魔を上げながらのたうち回り、勢いよく燃やされてゆく。


 人が焼かれる悪臭を部屋一面に放ちながら、数人の山賊達が一斉に焼かれて死んだ。


 一瞬にして部屋に幾つもの真っ黒に焼かれた人の焼死体が転がった。

 それを見た山賊達からは、どんどん血の気が引いて行った。中にはあまりの光景に嘔吐する者も出た。


「ひ、ひぃぃぃいいいッッ!?」


 山賊の長は逃げる様にその場から離れると子分から人質の女性を奪い取り、その人質を自分の前に盾の様に引き寄せる。


 山賊達が武器を手に取って身構える。

 人が焼かれた悪臭が漂う中、山賊達は黙って階段を上がって来る重たい足音を聞く。


 ドス……ドス……ドス……。


 そうやってその音の主が上って来るのを待つ中。山賊達の額には大粒の汗が流れ、心臓は激しく鼓動し、堪った唾を喉を鳴らしながら飲み込む。武器を手に取ったその手は、小刻みに震えていた。


 そして、ついに奴らが現れた。


 初めに現れたのは、木の残骸でできた分厚い壁だった。

 その木の壁は山賊達に正対しながら山賊達の前に出て来ると、動きを止める。

 しばらく動きを止めていた木の壁は、ゆっくりと前のめりに倒れて行き。最後は「ドォオオンッ!!」と大きな音を立てて倒れた。


 倒れた木の壁の後ろから現れたのは。

 屈強な体を持ち青い瞳をしたオークと、右手に炎を纏わせた金色の瞳を宿したキャルトの女だった。


 金色の目をしたキャルトの女がオークの背中から正面へと現れると。突然、人質にされている若い女性に向かって話しかけた。


「貴女がソラかしら?」

「え?」

「あら、違ったかしら?」

「な、何で私の名前を知ってるの?」

「あぁ、良かった。なら貴女がソラね? えぇ、知っているわ。貴女の妹、ミウィに頼まれたのよ。おねぇちゃんを助けてって」

「ミウィが……! あ、貴女はいったい誰?」

「私? 私はアルマよ」

「アルマ……さん? 貴女達は聖国軍なの?」

「ふふ、詳しい自己紹介はまた後にしましょう? 今は無事に帰る事に集中するのよ、分かった?」


 アルマはそう言いながら未だにチリチリと燃える炎を纏った右手で「しーっ」と人差し指を立てて、静かにする様にもしくは「今はまだ秘密」だと伝えるジェスチャーを見せる。


「わ、分かりました……! あ! あの隣の部屋! 右の部屋の奥に、私以外に攫われた子がいるんです!! どうかあの子達をたすけ――むぐぅ!?」

「おい! 何勝手に言ってんだ!! 黙ってろ!!」

「んんぅ!?」


 ソラがアルマに他に攫われた娘達の居場所を言おうとしたら、ソラの後ろにいる山賊の長に無理やり口を塞がれ、その細い首に短剣の刃先が押し当てられる。

 すると山賊の長は緊張からか短剣を持った手に力が入り過ぎてしまい、刃先が食い込んだソラの首から僅かながら真っ赤な血が垂れる。


 それを見たアルマは、先程までソラと話していた時の様な柔らかい表情から一転し。口元からは笑みが消え、目は見開き、その丸く開いた真っ黒な瞳孔(どうこう)の中には山賊の長が写し出されていた。

 表情にはあまり出ていないがアルマからは、怒りと殺意の感情が放たれており。ドスの効いた声で山賊の長に話掛ける。


「……おい。今すぐその子からその汚い手をどけろ」

「ひぃっ……!?」


 アルマから向けられる強い殺気に山賊の長は背筋を凍らし、一瞬短剣を手放しそうになるがすぐに我に返る。


「う、うるせぇ!! こっちには人質がいんだぞ!? この女だけじゃねぇ、まだ2人いんだ!! 俺の指示でそいつらも殺せんだぞ!?」

「……へぇ。なら、そのあとの2人はどうやって殺させるの?」

「あ、あぁ? それは、こ、ここにいる俺の手下を向かわせて殺――」


 ――ドォォオオオンッッッ!!!!


 山賊の長が怒鳴り終わる直前、アルマの方から爆発と共に何か大きな物が飛んで行ったと山賊の長が思った瞬間。強い衝撃と重たい何かが壁にぶつかる音が部屋中に響いた。


 未だに部屋にびりびりと残る衝撃音と埃が舞う中、山賊達は強い衝撃があった場所を見る。


 そこは丁度、村娘達を捕えている部屋に続く扉の近くで。そこには3人程の山賊達がいたはずだったが、そこに彼らはいなかった。

 代わりにその後方の壁にはバラバラになった木の残骸があり、よく見ると新鮮な人の死体もあった。

 だが、その死体は木の残骸に押し潰された物や無数の破片が体中に突き刺さってぐちゃぐちゃになった物がばかりで、もう人の死体とは程遠い肉の塊だった。


 今の一瞬で、数人の山賊が飛んで来た木の残骸よって人の形を失った肉となった。

 

 アルマは、先程まで盾として使っていた地面に倒れた大きな木の残骸を魔力を込めて蹴り飛ばし、恐らく村娘が囚われているであろう部屋に最も近い山賊達に命中させたのだった。


 何が起こったかも分からない山賊達に、邪悪な笑みをしたアルマは声を発する。


「……分かったわ。ならやってみろ。私の前からいなくなろうとした奴から殺してやるから!!」


 そう言われ、動けなくなる山賊達。

 戦えば死ぬかもしれない、だが逃げたら殺される、でも逃げなければ殺される。ならばどうすればいいのか分からない山賊達は、逃げ出そうとする体を必死に止め。一瞬でも悪魔から目を離せば死ぬと、アルマから目を離さず武器を構えて止まっていた。


 そんな彼らに構う事なく、アルマは村娘が囚われていると思われる部屋の扉に向かう。

 それに合わせて山賊達は、アルマから目を離さない様に離れすぎない様に横に移動する。


「ガルディア、残りの2人を助けに行きなさい。こいつらは私がやるわ」

「分かった。人質を解放したらすぐに合流する」


 そう言ってアルマと共に人質の部屋の前に立ったガルディアは、扉を開け、部屋の奥にある牢屋へと向かった。

 

 それを見送ったアルマは、人質であるソラを盾にする様に無理やり引き連れてる山賊の長に声を発する。


「おい、もう一度言うわよ? 今すぐその子からその汚い手をどけろ」

「――う、う、うるせぇええ!! お、おいおめぇら!! ビビんなぁッ! 殺せぇ! その猫女を殺せぇッ!!」


 山賊の長は顔を真っ赤にして叫ぶ。

 それに合わせて山賊達が悲鳴とも断末魔とも言えない叫び声を上げながら、アルマに襲い来る。


「ふふ、そう。――なら、かかって来い!! 全員殺してやるわ!!」


 そして再び、悪魔による殺戮が始る。


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