第5話 南へ
聖国軍兵士達を全員殺害して気が済むまで笑ったアルマは、近くに落ちていた聖国軍の物であろう白いマントを拾い、それを羽織る。
火炙りにされた時に、身を包み隠す衣服が燃えて無くってしまったからだ。
マントを羽織ったアルマは、自身を守ろうと必死に戦ってくれたオークの大男『ガルディア』のもとへと向かう。
地に倒れることなく膝を付いて眠っているガルディアの体には、いくつもの槍と剣が刺さっていた。
こんな状態になろうとも、彼は最後までアルマを守ろうとしていた。
目を閉じて、眠っているガルディアの顔は苦痛に満ちていた。
きっととても悔しかっただろう。目の前で、守ろうとした人を守れなかったことは、ガルディアにとっては死よりも辛いことだったのかもしれない。
アルマはしゃがんでガルディアの手を握ると、アルマはその手を慈しむように優しく撫でる。
その手は大きくて、ごつごつしてて、敵の血と己の血で汚れた傷だらけの手だった。
そして……まだ、暖かかった。
アルマの動きが止まる。
「…………貴方、もしかして!」
アルマはガルディアの胸元に耳を押し当てて、じっと耳を澄ます。
…………トク……トク……
聞こえて来るその音は、まさしく心臓が動いている音
ガルディアの心臓は、ほんの僅かだが小さく鼓動していたのだった。
それが意味するのは……『まだ生きている』ということだ。
アルマの中で希望の光が灯される。
しかし、このまま放っておけばガルディアは確実に死ぬだろう。
だが治療しようにもその傷は致命傷で、手の施しようが無かった。
それでも、アルマは諦めなかった。
アルマはガルディアの手を握り締めたまま、目を閉じ、何かを集中する。
すると、アルマの体から金色の光が現れ始める。
眩しい程に輝くその金色の光は、やがてはアルマの手に集まると、その光の半分がガルディアの手へと移る。
その後、その光はガルディアの体へと吸い込まれていった。
すると今度は、ガルディアの中から金色の光が溢れだす。
それから金色の光は、ガルディアから突き刺さっていた槍や剣を抜き出し。彼の体を急速に修復していった。
そしてついには、傷が治ると同時にガルディアは大きく息を吸う。それから大きく体内の空気を吐き出した後、ゆっくりと正常な呼吸をし始めた。
それを確認したアルマは、どこか疲れたようにぐったりとしていた。
「……ガルディア」
「……ん」
「ガルディア」
「ん……うむ」
「起きなさい、ガルディア」
――バチン!
「あだっ!? な、なんだッ!?」
なかなか目を開けないガルディアに痺れを切らしたアルマが、ガルディアの額にデコピンを叩き込む。
女性の力とは思えない威力でデコピンされた彼の額には、赤い点ができていた。
「な……ッ!? ア、アルマなのか?」
「えぇ、そうよ」
衝撃で起きたガルディアは目を覚まし。目の前にいるアルマを見て驚いていた。
「ほ、本当にアルマなのか?」
「だからそう言っているじゃない」
「そうか……アルマも俺も、やはり死んでしまったのだな……」
「は?」
「ここは、やはり死後の世界なのか?」
ガルディアは突然、意味の分からない事を言い出したのでアルマは口を開けて唖然とする。
「貴方はいったい何を言っているの?」
「む? 何って、俺達は殺されてしまったのではないのか? それにしても、死後の世界とはずいぶんと現実味のある場所なのだな。アルマに叩かれた所がまだ痛いのだが?」
――バチンッ!!
アルマは無言で、予告無しにガルディアの額にもう一度デコピンを叩き込んだ。
「あっだぁッ!? な!? え、何をするんだアルマ!? い、痛いぞ!? 凄く痛いぞ!? アルマ、貴女はこんなにも力が強かったのか!?」
「私も貴方も、たぶん死んでないわよ。勝手に殺さないでくれるかしら? 貴方が寝ぼけているようだから起こしてあげたの。だけど……まだ寝ぼけているみたいね? なんだか眠たそうだわ? もう一発必要かしらね?」
「いや! 待ってくれ!! 起きた! 俺はおき――」
まだ朝日が昇って来ていない早朝の森に、誰かの皮膚が叩かれた軽い音と男の断末魔が鳴り響いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……こ、これ、全てアルマがやったのか?」
「ええ、そうよ。ここにいた聖国軍は、私が全員殺したわ」
20体近くはある焼死体が散乱するこの惨劇の現状を見て困惑するガルディアに、私は兵士達に焼かれた後の事を説明した。
兵士に生きたまま燃やされ。死ぬ直前に何者かに声をかけられ。謎の力を手に入れて、その力で兵士達を皆殺しにしたことを伝える。
ガルディアは始めはどういう事なのか理解していなかったが、私の言う事を彼は信じてくれた。
彼は「この額の痛みが何よりの証拠だ」と、晴れ上がった額を触りながら答えた。
それから私達はクソ聖国軍兵士に連れていかれた、レジスタンスの女性を探した。
レジスタンスの女性は、奴らの天幕の中で見つけた。
だが彼女は服をびりびりに引き裂かれ、薄茶色の短い髪はボサボサに乱れており。その顔や体中には奴らのものが掛けられた痕跡があり、彼女の光の消えた目には大量の涙を流した跡があった。
レジスタンスの女性は、兵士達に犯されて息を引き取っていた。
私とガルディアは、彼女の体を川の水で綺麗に洗い流した後に、私達と逃げようとして死んだレジスタンスの男と共に私の炎で弔った。また、彼女が犯された天幕も完全に燃やした。
そういえば、死んでいてもおかしくなかったガルディアがこうして復活した理由だが。
単刀直入に言うと、私の中に突如として現れたこの力の半分を彼に分けたのだ。
死ぬ寸前だった私は、この謎の力によって体が再生した。
だから、この力を分け与えればガルディアの体も治せると思ったのだ。
正直できるか分からなかったが、ひたすらにこの謎の力に訴えかけたのだ。「私のこの力を、彼に分け与えろ」と。そしたら何かうまくいった。
だけど、それによって私の中にある謎の力は、かなり弱くなったと感じる。現に彼に力を与えた後から物凄い疲労感があり、力も全力が出せない感じがする。
だがこれは、元に戻ると思う。
いや、それ以上に更に強くなれると私は強く感じる。だから私は、これから更に強くなる努力をしていこうと思う。今のままではまだ聖国軍は倒せない、むしろガルディアに力を分け与える前の強さでも、何故かそれでもダメだと感じる。
さらに強く。誰よりも強く。暴力を圧倒的な暴力でねじ伏せれる様に。悪であろうが正義であろうが何であろうが、圧倒的な力でねじ伏せられるだけの強さを手に入れなければならない。
この理不尽な世界に蔓延るクソ共を殺す為に。
「長い道のりになりそうね……」
私とガルディアはレジスタンスの者達を弔った後、聖国軍兵士達の荷物から必要な物を漁ることにした。
するとガルディアは、少しこの場を離れると言って森の中へと入っていった。
それからしばらくすると、彼は森の中から帰って来た……一人の金髪の女性を連れて。
「ガルディア……その人は?」
「この人は、俺達と同じ死刑囚の生き残りだ」
なんとガルディアは私達以外の商品の生き残りを助けていたのだ。
その女性は、主に白と緑色の生地で彩られた服を着ており、汚れてはいるがどことなく高価な服を着ている事は分かった。恐らく地位の高い者だったのだろう。
身分の高い者だった事を表すように、その肌は白く透き通っており。腰まで伸びた彼女の美しい金髪は、神秘的とも言えた。
だが彼女のうつむいた顔の陰から覗く、緑色の瞳は酷く怯えており。その顔は恐怖と悲しみに満ちていた。
そこで私は気づいた。彼女の髪から現れた透き通った長い耳に。
「貴女……エルフなの?」
「ひっ……こ、この方はどなた……ですか?」
エルフの女性は、私の「エルフ」と言う単語を聞いた途端、ガルディアの後ろに隠れ、こちらの様子を窺った。
「大丈夫だ、リシェス。彼女はアルマだ。俺の命の恩人だ」
『リシェス』と言う名のエルフの女性は、ガルディアの話を聞くと恐る恐る彼の後ろから出てくる。
「ご、ごめんなさい、いきなり失礼な態度をとってしまって……」
リシェスは体を震わせながら私に謝罪をしてきた。
別に私は何一つ気に障る事はなかった。彼女の目を見ても分かったが、彼女はよほど恐ろしい目にあってきたのだろう。その目は恐怖と疑心に満ちていた。
だから、彼女が先程の行動をしても何もおかしくはない。
「いいえ、大丈夫よ。気にしていないわ」
作業を止めて、リシェスと向き合う。
「初めまして、リシェス。私はアルマ・カローレよ」
「あ、あの、初めまして……わたくしはリ、リシェス・ドネ・グ――」
リシェスは自身の名を名乗っている途中で言葉が止まる。その時の顔はとても辛く悲しそうだった。
「リシェス」
「は、はい……」
「無理に名乗らなくていいわ。貴女の呼んでもらいたい名を教えてくれるかしら?」
「え?」
私の言葉を聞いた彼女は、一瞬目を開いた後に少しだけ緊張の解けた声で答えてくれた。
「わ、私の名は……リシェス、です。リ、リシェスとお呼びください」
「えぇ、分かったわ。よろしく、リシェス」
私はリシェスに近づいて握手を交わそうとする。私に手を差し伸べられた彼女は驚きつつも、あたふたと手を出してくれた。
「え! えと、あの、よ、よろしくお願いします。アルマさん……」
私との握手を終えたリシェスは、僅かだが先程よりも緊張が解けたように見えた。
私はガルディアに、リシェスとの経緯を聞いてみる。
彼が言うには、彼が川から戻ると私がいなくなっている事に気がつき、辺りを探していると。どこからか女性の悲鳴が聞こえて来たので、そこに向かうとリシェスが聖国軍兵士3人に襲われそうになっていたそうだ。
だからガルディアはその兵士3人を殴り殺して、彼女を救ったそうだ。それからは、橋の方からまた別の女性の悲鳴が聞こえて来たから。リシェスを隠し、殺した兵士から武器を取って私の元へと辿り着いたらしい。
「……なるほどねぇ、そういうことだったの。あぁ、そうだわ。あの時は、助けに来てくれてありがとう」
「いや、俺は結局なにも出来なかった。礼を言われるようなことは……」
「いいえ、貴方はよくやってくれたわ。感謝の言葉は、素直に受け取りなさい? いいわね?」
「ぬ……う、うむ、分かった。受け取っておこう」
「よろしい」
「……ところで、アルマ」
今の私とガルディアは、リシェスを休めさせながら。荷台ごと逃げようとして木に引っ掛かっていた馬車を引いた二頭の馬を、荷台から外す作業をしており。その作業をしながらガルディアが質問してくる。
「何かしら?」
「俺達はこうして聖国軍の物資を漁り。旅の準備をしているが、これから貴女はどうするんだ?」
そう。ガルディアの言う通り、私達はこうして先程からあのクソ共の物資を漁って旅の準備をしていたのだ。今は移動手段である馬を回収しているところだ。
「そんなの決まってるでしょ?」
「む?」
「聖国軍の奴らを皆殺しにしに行くのよ」
「ぬぅ!? ま、まさか!? 聖国に攻めるのか!?」
「んー。まぁ、そうなるわね」
「ほ、本気なのかッ!?」
ガルディアが驚いて大声を上げる。
その声に、馬車に繋がれた馬が驚いて暴れ出す。
「ガルディア! 大声を出さないでちょうだい! 馬がびっくりするでしょ!!」
「ぬぉ!? おぉ、すまない。どう、どう……」
ガルディアが暴れる馬をなだめようとするが、馬はパニックになり暴れ続ける。このまま暴れ続ければ、何かの拍子に馬が怪我をするかもしれない。
この場に残っている馬は、この二頭のみ。怪我をされては非常に困る。
すると、休んでいたエルフのリシェスが暴れる馬に近づく。
「ぬぁ! リ、リシェス!? 危ないぞ!!」
「大丈夫ですよ、ガルディアさん。……ほら、落ち着いてください。あの人たちは怖くありませんよ……? ほら、大丈夫……大丈夫ですよ……」
リシェスは暴れる馬に恐れることなく、馬に触れると優しく撫でる。その時のリシェスの瞳は、とても優しい瞳をしていた。
彼女は、馬に優しく話しかけながら撫で続ける。
するとどうだろう、つい先程まで暴れていた馬はすぐに正気に戻り、落ち着きを取り戻した。
それからリシェスは、馬車から残りの拘束部を馬から外し、手綱を引いて私のもとへと来る。
「ありがとう、リシェス。助かったわ」
「お役に立てて良かったです。……ところで、アルマさん」
「何かしら?」
「……聖国軍を倒すとは本当でしょうか?」
リシェスはその言葉と共に、どこか強い思いを込めた眼差しで私を見つめてくる。
その目を見て私は何となく分かった。だから答える。
「えぇ、殺すわ。あのクソ共は必ず殺す……私から全てを奪ったあいつらを、私は絶対に許さない。絶対に殺す」
「……そうですか。でしたら、アルマさん。貴女にお願いがあります」
私の言葉を聞いたリシェスは、姿勢を正すと深々と私に向かって頭を下げてくる。そして、彼女の願いがその口から発せられる。
「アルマさん……! どうか、どうか……! 聖国軍を倒してください……!! わたくし達から……いえ、この大陸の多くの人々から大切なものを奪っていった彼らを――倒してください……ッ!!」
リシェスは頭を下げたまま、震える声で力強く彼女の願いを言った。
私は彼女の顔を上げさせると、彼女に言い返す。
「もちろんよ。奴らは絶対に倒すわ。でもね、リシェス……それには条件があるわ」
「条件……」
「そうよ、条件よ。私は貴方にいったい何があったのかは知らない。だからこれから言う事は、貴女にとって辛いことかもしれない……それでも言わせてもらうわ」
目に涙を浮かべるリシェスの顔に、不安の影が浮かぶ。
「――もう悲しみで泣くのをやめなさい。絶望でうつむくのをやめなさい」
「え?」
「いい? 涙を拭いて、顔を上げて、胸を張って立ち向かいなさい。あのクソ共の思い通りにさせてはダメよ? 貴女はまだ生きているの、あのクソ共に屈してはダメ……前を向いて戦いなさい。これが条件よ、この条件を満たすのなら、あのクソ共を貴女の代わりに倒してあげるわ? いいわね?」
「――! はい……ッ」
リシェスは自身のこぼれる涙を拭い、ほんの僅かに笑みをこぼす。
それから私達は旅の準備が終わり、いよいよ出発しようとする。その頃にはだいぶ朝日が現れ始めていた。
「アルマ」
「何?」
ガルディアが馬に乗った私に話しかける。
「本当に聖国軍を倒しに行くんだな?」
「えぇ、そうよ。文句ある?」
「……いや、そうではない」
「なら何かしら?」
まだ馬に乗っていないガルディアは、馬に乗った私を見上げながら強い眼差しを向ける。
いったいどうしたのだろうか? 今さっきは口では否定したが、やはり気が乗らないのだろうか? 聖国軍の本拠地は聖国にある。その本拠地に攻め入ると言う事は、聖国を攻撃するという事になる。彼はそれが嫌なのか? だとしたら彼はもしかすると聖国の出身なのか?
私は彼の過去を知らない、素性も分からない。唯一知り得ているのは彼は『元聖国軍兵士』だという事だ。その聖国軍にも、いったいどういう経緯で軍に入ったのかも分からない。
聖国の出身の可能性があり、元聖国軍兵士。そして、彼『ガルディア』の性格……まさか――
私は、既にガルディアの間合いにいた。彼の剣は彼の左腰の鞘に納められている。あの剣を抜くには……。
私の目線がガルディアの右手へと向く。彼の右腕は、既に動き出していた。
「アルマ、すまない――俺も連れて行ってくれ! 俺も貴女と共に戦わせてくれ!!」
ガルディアは自身の大きくて逞しい胸にその右手を当てて、言葉を発して来る。
その口からは、私の想像していた事とは全く違った言葉を私に向かって発して来たのだった。
彼とはまだ短い時間だが、彼のこれまでの行動に既に私の中で信頼が芽生えていた。ガルディアは仲間になってくれたんだと思い、私は少し油断していたが「まさか……!」と思ったらこれだ。
私はガルディアのその言葉を聞いた瞬間、思わず――
「――ぷっ、あはははははは!!」
笑ってしまった。
「ぬぁ!? 何故だ!? 俺はなにかおかしな事を言ったか!?」
「あっはっはっはっは! いえ、あの、くふふ! ごめんなさいね、ふふっ、いやだって貴方、くっくっく! あ、ダメ、あははははは!!」
「ア、アルマ!?」
「あはは! はは、ひっー、ひっー、あはは……はぁ、はぁ……はぁー……まったく貴方は……」
「あ、あの、アルマさん?」
笑いすぎてリシェスにまで心配されてしまった。これも全てガルディアのせいだ、後でもう一発あの額に食らわせてやろう。
「ごめんなさいね、リシェス。ふふっ、ねぇガルディア」
「な、何だ」
「貴方、私が貴方に馬車でなんて言ったか覚えてる?」
「む?」
「ふふっ。私はあの檻馬車の中で、貴方に『私と来なさい』って言ったのよ? それなのに貴方は『俺も連れて行ってくれ』だなんて、ふふふっ! 凄く真剣な顔をして話して来るから、何事かと身構えたら……あはははは! もう、ビックリしたじゃない!! ふふふふっ、なにぃ? 死にかけて記憶が無くなったのかしら?」
「え? あ、あぁ、それは覚えているぞ? だがそれとは別にだな……俺もアルマと聖国軍を倒しにだな」
「何を言っているの? 当然よ? 私は貴方について来いと言った、それは聖国軍を倒すことも含めて言ったのよ。そして、それは今も変わらない。でも、やはり怖気ずいて私と来ないならそれでも良いのだけれど、そうでもないみたいだし。そうね……だったらガルディア」
「何だ、アルマ?」
私は馬の上からガルディアに手を差し出す。
「もう一度言うわ…………ガルディア、私と来なさい」
「――! あぁ! アルマ! 俺に出来る事なら何だってやってみせようッ!!」
そう言ってガルディアも手を差し出す。
朝日が現れ、暖かい光で私達を照らす中、私とガルディアは改めて握手を交わした。だが彼の手はやはり、私の手を痛めないように優しく握ろうとして少し震えていた。
「ふふっ、手が震えてるわよ?」
「む、む、すまんな。下手に握るとアルマの手を痛めてしまうやもしれんからな。ぬぬっ、難しいな……」
「あらあら、それはどうも」
私とガルディアは握手を終えると、彼は自分の乗る馬に向かい。私は太陽の位置を確認する。
「それじゃあ、出発するわよ。ガルディアはリシェスと一緒に乗りなさい」
「うむ。ではリシェス、失礼するぞ」
「へ? きゃッ!?」
ガルディアはリシェスをいわゆるお姫様抱っこで抱えると、そのまま馬に乗せる。それからガルディアがリシェスの後ろに座り、彼が後ろから彼女を包むような体勢になる。
「ガルディア……貴方、リシェスを後ろにした方がいいんじゃない?」
「そうか? この方が守れると思ってな」
「わ、わたくしは、だ、だいじょうぶです……」
リシェスはそうは言うが、彼女の透き通った白い肌は耳の先まで真っ赤になっていた。
だがまぁ、彼女がそう言うのだ。気にすることはないか。
「そう。でも、ごめんなさいねリシェス。馬が二頭しか手に入らなかったから、我慢して頂戴ね」
「……は、はいぃ……」
「じゃあ、出発ッ」
「うむ」
私達は馬を蹴り、遂に出発する。だがここでガルディアが質問してくる。
「あ、そうだアルマ。俺達はこれからどこへ行くのだ?」
「ふふっ、今更それ聞くかしら?」
「すまんな」
「南よ。私達は南を目指して行くの」
「南だと? 聖国軍の本拠地は、北にある聖国ではないのか?」
「確かにそのはずです。わたくしも、彼らの本拠地は聖国だと聞いています」
ガルディアもリシェスも、私の回答にとても疑問を抱いた顔をしていた。
「えぇ、そうよ。それは私もよく知っているわ」
「では、何故なんだ?」
「私のこの力は、まだ完全じゃないの。むしろ昨晩よりとても弱くなったわ、このまま本拠地に向かって挑んだとしても、辿り着く前に殺されるわ。それに、私とガルディアの二人だけで聖国と言う大陸一の大国と戦えるかしら? 今の私達じゃあ無理よ。だから――」
「だから?」
「――仲間を増やす。それと同時に私の力も強くしていく。それに私、言ったでしょ? 聖国軍を皆殺しにするって」
「……あぁ」
私は獲物を探しに行く感覚で話す。きっとガルディア達から見たら私の今の顔は、この目をギラギラと輝かせながらとても恐ろしい顔をしているのかもしれない。
だって、『悪魔』と呼ばれるくらいだ。きっと良い顔をしているのだろう。
「聖国軍は今や大陸のいたる所にいるの。だからそいつらも殺しに行く。じゃないと皆殺しにできないでしょう?」
――あぁ、考えただけでうずうずして来た。どうにかこの衝動を今すぐ発散できないだろうか? …………あ、そういえば。
「そうか……分かった。ならば南に向かおう。それに南に行けば聖国軍の数も多少は少なくなるから、そこのどこか安全な所でリシェスを保護してもらえれば安心だ」
「ご迷惑を掛けて申し訳ありません。ですが、ありがとうございます、ガルディアさん」
「気にするなリシェス。アルマもそんな事は気にしないだろう。なぁ、アルマ?」
「…………」
「アルマ?」
ガルディアは、反応の無い私の方を見て来る。
私は無言で自身の馬をガルディアの馬に近づけると、以前よりも動きやすくなった体で音も無く軽やかに彼の乗っている馬へと乗り移る。ガルディアは私の突然の行為に困惑しつつも、流石キャルトだなぁ……とでも言いたげな、感心してそうな顔で私の顔を見て来る。
私はそんな屈強なオークを気にすることもなく、馬の首元らへん、リシェスのすぐ前にバランスよく立つと。右手を、ガルディアのまだほんのり赤くなっている額に近づける。
その右手は、ギチギチと今にも弾けそうな凶悪な中指を親指で止めていた。
朝日が照らす森に、皮膚が強く叩かれた軽い音と、オークの断末魔が山の向こう側まで鳴り響いた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
少しでも「面白い」と感じて頂ければ幸いです。
この「アルマの叫び」は、シリーズとして約10部作品ほど考えています。なので何十年とかけて制作していきます。更新はゆっくりです。
小説創作初心者の自分がどこまで出来るか分かりません。ですが、思い描いた世界や大好きなキャラクター達がどんな様に愛されるのか見届けてみたいので、頑張って完走します。
アルマを描いてみました。
Picrew の「ななめーかー」と言うサイトにてアルマのモデルを創作し、それを元に自身のイメージしているものを描いております。
アルマの目の下にクマがあるんですが。クマ無しの方が良いのかも?と悩んでいます。修正しようにも元のデータが消えてしまいました。(;T;)
現在のストーリー上では、アルマはまだ奴隷服から聖国軍のマント一枚へとなっておりますが、近い将来にこの様な服装になります。
服装のモデルは、ベトナムの民族衣装『アオザイ』となっております。イメージの参考程度に見て行って下さい。
ちなみに主人公アルマの姿は、実在する猫「サイベリアン」と「ロシアンブルー」をモデルとしています。
イラストも小説を書くのもまだまだ不十分な所もありますが、もし良ければまた次回も読んで行って下さい。