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アルマの叫び  作者: (iTi)miru
第1章 はじまりの炎
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第4話 怒りの炎

 アルマが炎に包まれ焼かれているのを見て、聖国軍兵士達はどこか安心していた。


「……やっと死んだか」


 兵士達は皆、そう感じていた。


 だが、彼らは動かなくなったアルマから目を離さなかった。もう死んだと分かっているのに、目を離せなかった。

 どこか胸騒(むなさわ)ぎがしていたからだ。兵士の中には「早くここから逃げた方が良い」と、己の勘がそう(ささや)いている者もいた。


「し、指揮官」

「なんだね?」


 ついに痺れを切らした一人の兵士が、小太り指揮官に話しかける。


「もうここから離れましょう。何だか、あのキャルト(猫人)の死体から嫌な感じがして気味が悪いです。野営地(やえいち)もこことは別の場所にしましょう」

「何を言うか! そんな余力は今はない! 今晩はここで野宿だ! そんなに怖いなら死体を川にでも流しておけばいい!」

「……まぁ、そうですね。分かりました、後で処置しておきます」

「指揮官!」

「どうした!」

「このオークはどうしますか!? まだ(かす)かに息をしています!!」

「ほっておけ! 勝手に死ぬわ!! まったく……」


 小太り指揮官は今一度、燃えているアルマを見下ろす。

 アルマを今なお包み込んでいる炎は、まだ弱まる気配がなく絶えずアルマを燃やしていた。


「……気味の悪い炎だ。本当に死んだんだろうな……?」


 小太り指揮官もまた、他の兵士達と同様にどこか胸騒(むなさわ)ぎがしていたのだった。だが彼は、それは気のせいだと気づいていないフリをした。

 正直、小太り指揮官は怖かったのだ。今にもキャルトの女が動きだして、襲い掛かって来そうな気がして。だから、先程よりも炎の勢いが少しずつ増している事からも目を(そら)らした。


「しょ、諸君! こやつらの事はもういい! 撤収(てっしゅう)だ! 各班の長は後で被害報告をせよ!!」


 小太り指揮官は兵士達に指示を出すと、その場から逃げる様に自身の天幕(てんまく)へと向かう。


 だが、指揮官がアルマに背を向けて歩き出してすぐに一人の兵士が叫んだ。


「……何だ、これ……? し、指揮官ッ!!」

「ちぃ! 今度は何だッ!?」


 小太り指揮官は兵士が叫んだ方向を見る。その方向は、ついさっき彼が背を向けたアルマがいる方向だった。


 小太り指揮官が見た先には、金色に輝く炎があった。


 その金色に輝く炎はアルマを包みこんでおり、更にその炎の勢いは増していく。

 やがてその炎は、アルマの中へと入っていくように彼女に吸収されていく。するとどうだろう、切り落としたはずのアルマの両手両脚が金色の光と共に再生していくではないだろうか。


 聖国軍兵士達は全く動けなかった。見たこともない目の前の出来事に、皆が口を開けてただただ見ていた。

 そのアルマに最も近い位置にいる、あのアルマの四肢を切り落とした兵士の男も、動かずただ見ていた。


 ついには四肢(しし)は完全に再生し、アルマがゆっくりと立ち上がる。

 アルマは自分の両手や体を見つめる。その体からは薄っすらと金色の光が出ていた。


 そのアルマと最も距離が近い、アルマの手足を切断した兵士の男が声を発する。


「……なぜだ? お、お前は死んだんじゃないのか?」


 アルマはその兵士に気が付くと、その兵士の問いに答える。


「さぁ? 知らないわ? 私にも分からない。でもそんなに知りたいなら……」

「え?」


 アルマは男の顔に手を伸ばす。


「――地獄に落ちてみれば分かるんじゃない?」


 アルマは自身の四肢を切った兵士の顔を手で鷲掴(わしずか)みする。するとアルマに掴まれた部分が、肉を高温で焼く音を発し出す。

 アルマのその手は、鉱石をも溶かす程の高温だったのだ。もうすでに手が触れている顔の部分が溶け始め、黒い血肉の付いた白い骨が露わになりつつあった。


「あ゛あ゛ぁぁあああああああッッ!! あ゛づい゛ぃぃいい!!??」


 その兵士はその激痛から逃れようとアルマの腕を掴むが、掴んだその手も熱で焼かれてしまう。それでも必死にアルマの腕を退けようと足掻(あが)く。

 アルマはそんな行為には微妙だにせず、そのまま掴んだ兵士を引き寄せると。


 ――首をごっそりと噛み千切った。


「ぁ……が……」


 まるで果実をかじったかのように噛み千切られた箇所からは、ドクドクと真っ赤な血が溢れ出し、首の中を通っている(くだ)(あら)わになる。

 兵士は両腕をだらりと下ろし、ビクビクと痙攣し始める。


 アルマは満足したのか、そのまま近くに投げ捨てる。するとその兵士の噛まれた所から火が上がり、瞬く間に全身を燃やし始めた。

 彼女の四肢を切り落とした兵士は、アルマに首を噛み千切られて死んだ。


 アルマは噛み千切った肉を吐き捨てた後、両手を何度か握り閉めたり開いたりと手の感覚を確かめ。片手を顔の高さま掲げると、手のひらの上で火を出現させる。


「へぇ、これが魔法なのね」


 アルマが手のひらの上に出現させた炎は、メラメラと勢いよく燃え、金色の光を発していた。だがその炎からは底の見えない憎しみと激しい怒り、そして殺意が渦巻いていた。


 あの炎を見た者は皆こう思った。


「あれは……死の炎だ」


 あの怒りと殺意は何処に向けられるのだろうか? 自分達の指揮官か? 彼女の手足を射抜いた弓兵か? それとも彼女を袋叩きにした兵士達だろうか? いや……そんな事を考える兵士は誰一人とていなかった。


 彼らは分かっていたのだ「次は自分だ」と……。何故なら、目の前の殺したはずの女が言ったのだ。


「殺してやる」と、そう自分達に向けて言ったのだから。


 だから、彼らは選んだ。目の前に現れた『死』に対して、どう行動するか。

 『闘争(とうそう)』か『逃走』か……。


 そして、彼らが選んだのは。


「や、奴を殺せぇぇぇえええええッッッ!!!!」

「「うわああああああああッッ!!!!」」


 小太り指揮官の一言で、兵士達が一斉にアルマへと襲い掛かる。

 皆、生き残る為に己の全ての力を振り絞ってアルマへと武器を振りかざす。


「ふふっ、来いクソ共……お前ら全員、地獄に落としてやるッ!!」


 アルマは手のひらの火を握り締める。

 その握り締めた火に更に少しだけ魔力を上乗せして、向かってくる兵士に狙いを定めて解き放す。


 アルマから解き放たれた火の玉は、先頭を走る兵士に命中した瞬間に炸裂(さくれつ)した。

 炸裂(さくれつ)した火の玉は、命中した兵士の上半身を吹き飛ばす。またその隣にいた兵士の体の右半分までもが爆風で吹き飛んでしまった。

 更には後ろの兵士にも爆発が届き、剣を構えていた両腕は消え、胸の防具はベコリと押し潰され、その顔は原型を留めておらず顔の判別がつかない程に損壊(そんかい)していた。


 アルマの一発の炎弾で、3人の兵士が吹き飛ばされて死んだ。

 やがてその体は、残り火で瞬く間に炎に包まれて焼かれていく。


「う、うわぁ!? ひぃぃ!!」


 仲間の見るも無残(むざん)な死体を見た兵士達は、目の前の『死』に恐怖する。しかし、生き残りたい彼らは指揮官の命令によって、がむしゃらに突っ込む。


「止まるなぁッ!! 行けぇぇええ! 包囲して八つ裂きにしろぉぉお!!?」

「うわぁぁああああ!!」


 アルマに接近し斬りかかる兵士

 彼女の首筋にめがけて振り下ろされる剣を、アルマは避けることなく片手で掴み、受け止める。


「へ?」


 アルマは掴んだ剣を一気に熱し、一瞬で剣を真っ赤にすると空いた手で兵士の頭を引き寄せる。そしてその兵士の頭に、真っ赤に熱した剣をぶつける。

 熱した剣は、まるでリンゴを包丁で真っ二つに切る様に兵士の頭蓋骨(ずがいこつ)に深々と入り、その剣の高熱が脳髄(のうずい)を焼き焦がす。その兵士はビクビクと痙攣しながら、脳を焼かれて死んだ。


「――ここだぁッ!!」

「おぉぉおおッ!!」


 アルマの注意が()れている隙に、彼女の後ろから奇襲する兵士が二人。アルマの死角から、二人の兵士がアルマの背中を槍で突く。その槍先は、アルマの背中に深々と刺さった。


「ど、どうだ!?」


 二人の手には確かに槍が当たった様な手応えがあった。

 だがしかし、すぐにその手応えは別のものだと兵士達は知る。


「……なんだよそれ? 嘘だろ……?」


 槍は確かにアルマに当たっていた。

 しかし、アルマに触れたはずの槍の先が溶けていたのだ。そこから槍に火が移り、たちまち槍は燃えてしまい兵士達はそれを手放す。


「ふふっ、残念」


 アルマは始めから二人の兵士に気づいていたようで、動揺(どうよう)することなくゆっくりと後ろの兵士達に向き合う。それから困惑(こんわく)して固まっている兵士二人の頭を両手で鷲掴(わしずか)む。

 アルマは高熱の手で兵士の頭部を焼きながら、まるで果実を手で握り潰すように二人の頭をぐしゃりと握り潰して殺した。そのアルマの手の隙間からは、ピンク色の何かがはみ出し、瞬く間に黒く縮んでいった。


 アルマは燃え始めた死体をパッと手放す。頭を握り潰された死体は、その場に音を立てて落ちた。


 それからまた三人の兵士が意を決して同時にアルマを襲うが、1人はアルマに高熱の手で心臓をえぐり取られて死に。また一人は口を掴まれ、そのまま口の中にアルマの手から放たれる大量の炎で内臓を焼かれて死んだ。

 最後の一人は、アルマが人間(ヒューマ)の女を守ろうと最初に噛み付いた男だった。その男は、アルマに両腕を一瞬にして引き千切られた後に、舌と男性器を引き抜かれて死んだ。


 それらを見ていた兵士達は足を止める。彼らの意思で止めたのではなく、体が勝手に止まったのだ。

 何故なら彼らが向かう先には、惨殺(ざんさつ)された仲間の焼死体がゴロゴロと転がっていたからだ。

 本当にあっという間だった。あっという間に仲間が惨殺(ざんさつ)された。それはもう人の死に方ではなかった。

 それを見ていた兵士達は思ったのだ「あんな死に方は嫌だ」「まだ生きていたい」と。

 彼らの生存本能が「逃げろ!」と叫ぶ。


 だから彼らは、武器を捨てて逃げた。足の遅い自分達の指揮官を置いて、我先にと脱兎(だっと)の如く全力で走って逃げだした。


「お、おい! だ、だだ誰か奴をころせぇ! たたかえぇ! お、おいぃ!? にげ、逃げるな貴様らぁ! 誰かワシをまも、守れぇ!? なぁ!?」


 アルマは逃げ出した兵士達をよそに、小太り指揮官に()み寄る。


「おい、豚」

「ひぃッ!?」


 アルマはその金色に輝く目で小太り指揮官を睨み付けた。更に燃え上がる憎しみと怒り、そして殺意を込めて。


「お前……確か腹を引き裂()()()、内臓を引きずり出()()()のが好みだと言ったな?」

「へぇ? いや、ち、ちがっ――」


 アルマは口元を「ニィ」と歪めると、小太り指揮官のぶよぶよした腹に手刀で一線、横に引き裂いた。


「――ぴぎぃぃいいいッッ!?!?」


 するとぱっくりと開いた腹から、血と共に彼の内臓がドロリと顔を覗かせる。アルマはその臓器(ぞうき)(つか)んで一気に外に引きずり出す。その臓器は持ち主と繋がったままボトボトと地面に落ちる。


「ハァーッ……ハァーッ……わ、ワシの内臓が……ぁ、あぁ……」


 腹の重みが少なくなって軽くなった小太り指揮官は、顔を真っ青にしながら地面に膝を付き。地面に落ちた自身の臓器をかき集め始める。


「……誰も逃がさないわよ」


 アルマは小太り指揮官を放置して、逃げた兵士達に目を向ける。それから一番距離のある兵士達に狙いを定めると。姿勢を低くすると同時に、空間を裂く様にして後ろに両手を素早く伸ばし、両手が光った次の瞬間――


 耳をつんざく爆音が鳴り響く前に、アルマの姿が消える。


 アルマが消えた後に残ったのは、残響と衝撃波、その衝撃波に飛ばされ転がる小太り指揮官だけだった。


 アルマは一瞬にして100メートル以上先の兵士の元まで飛んで行き、兵士の横を通り過ぎまに彼の頬にビンタをする。

 ビンタされた兵士の頭は、一瞬にして粉々に吹き飛んで死んだ。残った体はぐるぐると勢いよく回転しながら宙を舞って地面に転げ落ちる。


 アルマはその勢いのまま、更に先にいた兵士の背中に跳び蹴りをかます。

 その兵士は、体の内側から破裂し。内臓や骨の混じった血肉をぶちまけながら数十メートル先まで突き飛ばされて死んだ。


 その後アルマは地面を大きく削りながら止まり、逃げようとしていた兵士達の前に立ち塞がる。


 兵士達は見た。

 烈火の如き怒りと殺意を込めた地獄の炎を体から放出させながら、とても愉快そうに薄ら笑いを浮かべて、金色の目をギラギラと輝かせながらゆっくりと近づいてくる化け物を見た。殺戮を楽しんでいる悪魔を彼らは見てしまった。


「……あ、悪魔だ」


 1人の兵士が体をガタガタと震わせながらそう呟いた。


「あ、あれは、悪魔だ……ッ! あれは『炎の悪魔(イフリータ)』だぁッッ――」


 そう叫んだ兵士は、次の瞬間には爆発と共に下半身だけ残して消し飛んだ。


 アルマはその後も、聖国軍兵士達を殺し回った。

 この場にいた聖国軍兵士を一人も逃さぬように殺し続けた。

 森へ逃げようとした兵士も、馬で逃げようとした兵士も、馬車や天幕に隠れた兵士も、勇敢(ゆうかん)に挑んできた兵士も、命乞(いのちご)いをしてきた兵士も……皆、惨殺した。


 やがてアルマは、最後の生き残りの小太り指揮官の所へと行く。

 指揮官は手にかき集めた自身の内臓を抱えて、手から零れた大腸の一部をずるずると引きずりながら橋の向こう側に向かって歩いていた。


「……ワシの、ワシの……内臓……」


 アルマは、指揮官が引きずっている大腸を踏みつけて指揮官の歩み止める。


「――ぁあッ!? あ、熱いッ! やめ、やめて! はなしてくれぇ……ッ!?」


 アルマは握りしめた手を胸の高さまで持ち上げると、つぶやく。


「……《灯火》よ」


 すると彼女の握りしめた手の中から金色の輝きが溢れ出し、彼女が手を広げるとその手のひらの上には小さな火があった。

 

「あの醜い豚を、焼き殺せ……ッ!!」


 そう言うとアルマは、その小さな火を足元にある指揮官の落とし物の上に落とす。

 小さな火が指揮官の大腸に触れた瞬間、脂がのっているのかその火は勢いよく燃え始める。


「ぶぎぃぃいいいッ!?」


  導火線となったそれは、見る見るうちに持ち主の所まで炎を導いていく。そして最後には、炎は小太り指揮官を包み込み、勢いよく小太り指揮官を生きたまま燃やす。


「ぶぎゃあぁぁあああああッ!!?? あぁぁあああああッッッッ!!!!」


 火だるまとなった小太り指揮官は、人が燃えているとは思えない程に凄まじい火力で轟々(ごうごう)と燃えた。


 やがて小太り指揮官は真っ黒焦げになるまで燃えて、ようやく死ねた。


 アルマはそれを最後まで見届けた。

 見届け終わると、アルマの肩が小刻みに震えだす。やがてアルマは……。


「――ふふっ……ふふふっ……ははっ……アハハハハッッ!! アーッハッハッハッハッッ!!!」


 笑った。


 この場にいた憎き聖国軍兵士を皆殺しにしたアルマは、笑った。とても愉快(ゆかい)そうに笑った。世界中に(とどろ)かせる様に彼女は大いに笑った。とても楽しそうに笑った。


 憎き奴らを惨殺(ざんさつ)して大笑いする彼女の姿はまさに、悪魔そのものだった。


 


 ――この日。世界中を恐怖させる、聖なる炎を操る『炎の悪魔』が誕生した。


 

 

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