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アルマの叫び  作者: (iTi)miru
第2章 炎の悪魔
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第17話 宴の終わり

 聖国軍拠点のすべての敵を倒し、ピウス村の捕らわれた全ての村人達とエルフのリシェスを救い出したアルマとガルディア。彼女達はその日は村人を連れて一度村に帰り、生き残った者達と再会の喜びを分かち合った。

 強制労働をさせられていた男達は、改めて長く引き離されていた女達や子供達との再会を喜び。女達や子供達も涙を流しながら喜んだ。

 重症を負い、瀕死の状態だったピウス村の村長も一命を取り止め、再び愛する妻と娘に出会えた事に涙を流した。


 だがしかし……捕らわれたピウス村の人々を救ったとはいえ、今回の件で刻まれた傷は消える事はなかった。

 荒らされた村、焼かれた家、奪われた命、自身の無力さに傷つけられた自尊心と失う恐怖を刻まれた男達、傷物にされずに済んだと言えども若き女達の心に深く刻まれた性暴力による恐怖の傷……それらの傷を無かった事にすることは出来なかった。


 それでも彼ら彼女らには、生きている限り朝日と共に明日が来る。深く傷つけられても生きている限り前に進むしかない。


 後日、アルマ達とピウス村の人々は村の復旧への第一歩を踏み出した。

 聖国軍拠点へと奪われた物資を取り戻したり、焼かれた家の撤去と簡易的な新たな家の建築の開始など、つい昨日までは最悪の日だったのにも関わらず人々は忙しく動き回った。明日も生きる為に、その次の日も生きる為に、彼ら彼女らは今日を懸命に生きる。



【ピウス村の復旧を始めてから3日目の夜……】



 アルマ達は遂に明日の朝、ここピウス村を立つ。

 ピウス村の復旧はやる事がまだ山の様にある。しかし、アルマ達にも目的があり先に進まなければならないからだ。

 だがアルマ達はこの3日間、この村の復旧に大いに貢献(こうけん)した。


 アルマは日中に再び聖国軍の拠点を訪れ、聖国軍への警戒を兼ねて拠点の偵察、物資の捜索と選別、聖国軍に関する情報収集を行った。夕方以降は夜間暗くなった後に村の男達を連れて、奪われた村の物資を闇に隠れて回収した。

 夜に物資の回収を行ったのは、もし他の聖国軍連中に拠点の物資が村に運ばれて行くのを目撃されたら、その報復(ほうふく)がピウス村に向く可能性があるからであった。

 村が回収した物資も奪われた村の物と、建築に最低限必要な物資、並びに春まで持ちこたえれる分の食料だけだ。金品や嗜好品(しこうひん)などは一切回収しなかった。これもピウス村があの拠点と関係が無いと証明する為の痕跡の除去だ。

 村の物資と必要な物資を全て回収し終わった後、アルマは拠点の全てを焼き、破壊した。ピウス村の痕跡を残さぬよう、再び聖国軍が再利用しないように、山賊共が住みつかぬようにと消し去った。


 ガルディアは護衛も兼ねて、村で残骸の撤収や建築作業の支援を行い。食料調達の為の森の奥への山菜取りの護衛、それに合わせて狩りもついでにやった。また村の男達の要望で剣の振り方や盾の使い方、足さばきなどをほんの僅かな時間ではあるが教えたりもしていた。


 リシェスも村で怪我人の手当や、村の女達に混ざって炊事や洗濯など村の生活の支援を行った。

 また、今後の村の生活が少しでも安定するようにと、田畑や家畜、それに山菜を取りに行く地域に森の加護を掛けていた。その加護の効果は作物や家畜が健康に育つようになり。更にはもしも不吉な事が近くに迫って来たのなら、森が知らせてくれるというものだった。リシェス(いわ)く、エルフが備え持った能力と言う。


 そうやって村の人々と過ごし3日目となった今夜、村の復旧への前祝いとアルマ達の旅路の安全を願って、村でほんの(ささ)やかではあるが宴を用意したのであった。


「ねぇ、村長……本当に良かったの? 宴なんて上げたりして。しかも私達も加えてだなんて」

「良いんですよ、辛い時こそ皆で祝い笑うのです。これはこの村の復旧への前祝いと、アルマ様達への感謝と旅路の安全を願っての細やかな宴です。本当はもっと豪勢にしたかったのですが……」

「いいえ、もう充分嬉しいわ……ありがとう。 まぁ、文句を言うとしたら、もっとお酒が欲しかったかしらね? 1人、コップ一杯だけだなんてあんまりだわ!」

「あははは、ごもっともですね! やっぱりあの拠点の酒を頂戴すべきでしたかな?」

「ふふふ、そうかもしれないわ」


 大きな焚き火を前にして、村長と共に丸太の長椅子に腰掛けるアルマ。焚き火の光によって映し出されるアルマの姿は、正しく聖国軍兵士そのものだった。

 炎の巨人との戦闘で服を燃やされたアルマは、拠点から新たに拝借したのだった。今後も聖国軍の領地を移動するという事でそうなった。もちろん、今度のは血で汚れていない洗濯された物ではあった。

 ではあったが……アルマにその服を着させる苦労が無かったと言えば、嘘になる。


「ぁ痛ッ……!? うむぅ……」

「ガルディアさんまだ痛むんですか? 引っ掛かれた跡、なかなか消えませんね……」

「あぁ……それにしても、よっぽど聖国軍が嫌いなのだな。服を着てもらうのにあれ程拒まれるとは……」

「ま、まぁ、女性でしたら誰だって知らない男性が着ていた服なんて着たくありませんから……」

「まぁ、そうだな――いててッ」


 ガルディアの顔には、これまで無かったはずの爪による引っ掛かき傷が2本あった。

 それは額から右の頬にかけて斜めに引っ掛かれた爪跡だった。1本は額から鼻の上を通って頬へ、もう1本は額から右目を通って頬へと繋がっていた。

 幸いにも右目自体には傷は無く失明は免れたものの、意外と深く切り裂かれてしまいリシェスの治癒魔法でも傷跡は消せない程に痛々しい傷跡となって残っていた。


 誰がとは言わないがその傷を付けてしまった本人は、すぐさまガルディアの傷の応急手当をした後、しぶしぶガルディアの指示に従ったらしい。


「怖いと言われる俺の顔が更に恐ろしいものになってしまったな……」

「そ、そんな事ないですよ! ガルディアさんは格好いいです! あ、痛みを抑えるお薬を持って来ますね。この村の年配の方々に薬の調合を少々教わったんですよ? 待ってて下さいね」


 リシェスがガルディアと座っていた丸太の椅子から立ち上がり、リシェスが寝泊りさせてもらっている村長の家へと入って行く。


 今夜開かれた宴の会場は、村長の家の前にある広場で開かれ。大きな焚き火を中心に皆で囲んでいた。

 もちろんそれだけでは光も少なく村の全員が暖も取れないので、それとは別に点々と小さな焚き火で暖を取り。また広場に村の全員が入れる訳ではないので、村長の家も使って行っていた。


「アルマさん、隣良いですか?」

「せいかのネコさん! となりいいですか!」

「あら、ソラにミウィ。えぇ良いわよ、座ってちょうだい」


 アルマの隣に村長の娘達が料理が載った皿と、ぶどう酒の入ったコップを持って腰掛ける。村長の隣には村長の妻が腰掛け、村長にぶどう酒の入ったコップを手渡す。それに村長が「ありがとう」と声をかける。アルマにもミウィから同様のコップを手渡された。


「ふふ……ねぇ、ミウィ? さっきの『せいかのネコさん』って、なぁに?」

「えっとね、アルマおねぇさんを見てたらね〝せいかから生まれたネコさん〟なんだってね、思ったの! だからね『せいかのネコさん』なんだよ!!」

「『せいか』? それって、あの『聖なる火』のことかしら?」

「うん! そうだよ! わたしたちを悪いものから守ってくれる、せいなる火だよ!!」


 そう言ってミウィが満面な笑みを浮かべる。その笑みは、アルマ達が初めてミウィと出会った日に見せてくれた時と同じものだった。

 そんなミウィの胸に抱かれる猫の人形の尻尾には、以前は無かったはずの〝火〟の様な形をした赤い布が、尻尾の先端に慣れない手つきで縫われた跡があった。


「あぁッ!! ガルディアさん!?」


 アルマの後ろから女性の声が上がる。その声は驚きを隠せない声だった。

 アルマが声のした方を見ると、そこは村長の家の玄関の前だった。

 その扉が開かれた玄関の前には、驚愕したリシェスが立っていた。『目は口ほどに物を言う』という、ことわざがあるが、リシェスの目には「信じられない!」「しまった!?」っといった様な感情が込められた。

 目、口、顔と、この3つ全てから感情をさらけ出させる程に驚愕させる程の出来事がリシェスにはあったようだ。


 そんなリシェスの注視しる視線の先には、数人の村の若い娘達に囲まれたガルディアの姿があった。

 村の若い娘達は、ガルディアにくっつくかの様に体を寄せて彼に話しかけていた。そのガルディアはと言うと、嬉しい半面、どうしたらいいのか分からず困った顔をしていた。

 そんな光景を見ていた若い娘達の父親達の顔は、怒りで満ちていた……のではなく、むしろ納得した様な満足げな表情をしていた。可愛い娘が他の男の元に行くことに寂しさはあるが、「彼なら良いだろう」とでも言う様な顔だった。


「ごめんなさいっ! どいてくださいっ!! ……ふぅ。さぁ、ガルディアさん! 痛み止めの塗り薬を持って来ましたよ!! 私が塗りますね!!」

「ぬおっ!? どうしたんだリシェス!? そんなに慌て――って、痛ッ!? ま、待てリシェス! そんな強く塗ったらいたたたたッ!?」


 ガルディアを囲んでいた若い娘達を押し退け、ガルディアの傷を手当するリシェス。そのリシェスの手荒な介護に涙目になるガルディア。そんな光景を見ていた村人達に笑みが零れ、笑いが上がる。


 余談ではあるが後日、この光景を見ていた若い男達や嫁を持たない男達がこれまで以上に村の復旧に精を出し、村の復旧に大きく貢献(こうけん)したのだった。

 またそれだけでなく、彼らは自ら体を鍛え、戦いの鍛錬をし、狩りや農作業だけでなく村の警備や、山に山菜を取りに行く者達の護衛もするようになり。やがては村で想いを寄せていた女性を射止めた者達もいれば、別の場所で素敵な女性を嫁に迎えた者などが続出した事は……また別のお話。


「はっはっは! モテる男は大変ですな! ……さて! よいっ、しょ……ありがとう」


 村長が妻に支えられながら立ち上がる。


「さぁ、村の皆よ! その手に酒は持ったか? まだ行き渡っていない者はいないか?」


 村長がその手にぶどう酒入りのコップを持って、周囲の村人達を確認する。

 村長の声に、村の者達もアルマ達も手にコップを持って立ち上がる。


「今宵は祝いの宴であり祈りの宴だ。皆ここに集まってくれてありがとう……。ここ数日、皆辛かっただろう。誰もが心に傷を負った次の日には、朝から晩まで働き、また次の日も朝から晩まで働いた。心を休ませる暇も無く体に鞭を打って働いたのだ……辛かっただろう」


 焚き火のパチパチと燃える音が耳に響く程の静寂の中、村の皆が静かに村長の声に耳を傾ける。


「私は今回の件で改めて実感したよ……〝生きる〟とは、こんなににも痛く辛いものなのかと……。だが、私はまだ生きている、もうダメだと思ったのに私はまだこうして生きている。私だけじゃない、私の愛する妻や娘達も生きている、そして今ここにいる村の皆もだ……皆もうダメだと思ったのに生きている」


 村長がガルディア、リシェス、そしてアルマにそれぞれ目線を送った後、再び語る。


「……あの日、私達はこの命を救われた。私達は未来を与えられた。血の繋がりも無ければ村の者でもない方々のお陰で、消えるはずだったこの命を繋がれて私達は今もこうして生きている。私達の意志で歩むめる未来を手にする事が出来ている。だから私は思った、改めて思った……〝この繋いでもらった命を無駄にしてはならない〟と」


 村長は自身の愛する娘達を見つめながら話す。隣に立つ妻の手を優しく握り締めながら。


「……今思えば私達は、この可愛い我が子達に〝生きて欲しい〟〝笑っていて欲しい〟と、願いながら育てて来た。でもそれは私達も同じだった。私達も様々な人達からそう願われて、様々な人達が自らの命を削って働き、様々な命からその命を頂いて今日まで私達の命を繋いでくれていたのだ」


 再び村長は、村の皆を見渡すように顔を上げる。


「だから村の皆……明日も生きよう。明日もきっと辛い、明後日もその次の日も、これから先もずっと辛い事があるだろう……だがしかし! 今日まで繋いでもらったこの『命』! 決して無駄にしてはならない……! 生きている限り、精一杯生きよう……!!」


 村長がアルマ達へと向く。


「ガルディア様にリシェス様、それからここにはいない名も分からない2人の少年少女、そしてアルマ様……改めて感謝の言葉を伝えさせて頂きます。この度は、我々ピウス村の皆の命を危機から救って頂き、本当に……本当にありがとうございました……!!」


 村長が想いの込められた強い眼差しでアルマの目を見て、感謝の言葉を伝えた。

 村の者達も村長と同じ様に感謝の想いを込めた眼差しを、アルマ達に向ける。


 それから村長はゆっくりと村の皆へと視線を向け、コップを持った手を掲げる。


「さぁ、村の皆……今宵は未来ある村の復興への前祝とアルマ様達の旅路の無事を祈願して……乾杯!」


「「乾杯!!」」


 木のコップを軽く打ちつけ合う音と共に、細やかな宴が始まった。人々の明るい声が飛び交い、その顔に明るい笑顔を咲かせた。


 暗闇と静寂で染まる夜の世界に、2つの月による綺麗な月明りと心と体を温める火の光が人々を照らし、彼ら彼女らの生命力溢れる明るい声が夜空へと溶けていった。



【村の復旧から4日目の朝……】



「ここから南に、この道を辿って行けば城塞都市『ディスティーノ』に辿り着きます。途中、山道がありますので野獣などにお気を付けください。最悪の場合、山賊もいる可能性もありますのでそちらにも気を付けてください」


 村長が地図を広げ、地図上と現物に指を指しながらアルマ達に説明してくれている。

 アルマ達は引き続き南へと旅をするにあたって、旅に必要な物資を入手する為に人が多くいる都市へと向かう事にした。

 ここピウス村はその城塞都市から少しばかり離れているが、その領地に含まれている様だった。もちろんその城塞都市も今は聖国軍の支配下にある。


 村長の話によると、聖国軍はこのピウス村も含めてその城塞都市も攻撃して侵略する予定だったそうだ。しかし、その当時の領主が領土の村々に犠牲が出る前に降伏し、聖国軍と交渉して聖国軍の傘下に加わる形となって人々に犠牲を出さずに事なきを得たそうだ……その領主の命と引き換えに。


「しかし、この道で本当によろしいのですか? 本来ならばこの山道を避けたもっと安全な道があります。その安全な道を行けば、別の村にも立ち寄って休む事も出来るのですが……」

「その道だと遠回りになるわ。この地図を見たところ、山道を通った方が早く着くわ」


 村長から地図を受け取るアルマ。その地図はある程度精密に書かれた地図で、紙も上質な物だった。その地図は聖国軍の拠点から回収した地図であった。


「それに立ち寄った村で寝込みを襲われない保証は無いし、何より私は早く聖国軍領土を抜けたいの。じゃないとこの気持ち悪い服を脱げないのよ……他の村で休めないのもこれのせいよ」


 アルマが自身の来ている服を摘まみながら、あからさまに嫌そうな顔をする。


「あぁ、それは確かに急がねばなりませんね。一刻も早くその聖国軍の服を脱がないと、また新たな爪跡が増えるかもしれませんねぇ……」


 村長がそう言ってガルディアをチラリと見る。

 村長が見た先では、荷馬に荷物を載せる作業をしていたガルディアが唐突にくしゃみをしており、リシェスに心配されていた。


「あら、それに関しては触れないでちょうだい。私も反省してるのよ? ところでこの城塞都市を抜けた先……つまりここ『ロックランド』を抜ければ、聖国軍の占領地から抜けられるのね?」


『ロックランド』……大陸の北にある聖国と隣接する国。

 アルマ達は今、そのロックランドの最南端にいる。次に目指す城塞都市を過ぎれば、やがて国境を超えてロックランドと隣接する国『ドクリュウ』へと続いていた。


「はい、そうです。しかし、今はどうなっているか分かりません。聖国軍は貪欲に領地を拡大して行こうとしています。あの拠点に囚われていた男達の話では、近い内に『ドクリュウ』への進行をするという噂を聞いたとか……現にアルマ様達が来られる以前に、村の近くを大勢の聖国軍兵士達が移動しているをの目撃しています。もしかすると『ドクリュウ』ももう支配下に……申し訳ありません、曖昧な情報しかなくて」

「いいえ、充分よ。情報をありがとう、助かるわ」


 アルマは手に持った地図を聖国軍の拠点で拝借(はいしゃく)した鞄へと入れる。


「ガルディア、リシェス、準備はいい?」


 そう言ってアルマが向けた視線の先には、荷馬に載せた荷物を固定し終わった2人の姿があった。

 馬の数は3頭。ピウス村に来た時は2頭だったが、アルマ達は新たに馬を1頭増やしたのだ。もちろん拠点から頂戴した馬だ。新たに加えた馬は、荷物を運ぶ為の馬として加えた。

 本当は荷馬車を連れたい所だが、荷馬車が通れる道がこれから先にあるのかも分からないのと。もし急遽逃げる事になった時に逃げやすくする為だ。最悪、荷馬だけ置いて逃げる事もすぐできると考えた。

 もちろん全ての荷物をその荷馬に背負わせるのは、荷馬に大きな負担が掛かる為、アルマ達が乗って来た馬達にも荷物を分配している。

 

「あぁ、アルマ。こっちは大丈夫だ、いつでも出発できる」

「そう……なら出発しましょうか」


 アルマがそう言うと、各々が(はい)のうや鞄を背負う。

 城塞都市まではなるべく徒歩で移動する予定のアルマ達。都市で荷物が増え、馬を連れて徒歩で移動する事が多くなるだろうから、それに向けた肩慣らしの様なものだった。


「遂に行かれますか……」

「えぇ、もう少し手伝いをしたい所だけど、私達にもやるべき事があるから行くわ」

「アルマおねぇさん!」


 ミウィがお気に入りの猫を抱きかかえてアルマの元へと駆け寄る。

 それにアルマはしゃがみ込み、ミウィと目線を合わせる。


「アルマおねぇさん、行っちゃうんだね……」

「えぇ、そうよ。世界にはまだまだ悪い奴らが一杯いるの……だからおねぇさん、そいつらを倒しに行ってくるわ」

「うん……また会える?」

「えぇ、また会えるわ。絶対とは言えないけど、また会えると信じて願っていればきっとまた会えるわ」

「うん、分かった……わたし、アルマおねぇさんとまた会えるって信じてるね……!」

「えぇ……ありがとう、ミウィ」

「アルマさん……」


 ミウィの後ろからソラが歩み寄る。

 アルマは立ち上がり、ソラと言葉を交わす。


「あらソラ、どうしたの? そんなしんみりした顔で?」

「……私、アルマさん達に自分や自分の家族、村の皆を救ってもらって感謝の想いを伝えたいのに……ただ『ありがとう』だけじゃ全然足りなくて、それで何かお返しをしようと考えたのですが結局納得のいくものがなくて……」

「あははは、そんな事で悩んでたの? ふふっ」

「そ、そんな事ではありません!? とっても大事なことなんです!! ……だけど、うぅ……」

「悩みが多い子ねぇ、貴女。そうねぇ……じゃあこうしましょう。私から貴女にお願いをしましょうか」

「アルマさんからの……お、お願いですか?」

「そうよ、私からのお願い。もし……また出会えた時に私達が困っていたら、その時は助けてちょうだい」

「そ、そんな! そんなの当たり前です! なんだってお手伝いします!! ……って、そうではなくてですね!!」

「ふふ、それで充分よ。その気持ちだけで充分、貴女の気持ちは伝わったわ。ありがとう」

「アルマおねぇさん、これをどうぞ!」


 ミウィが小さな袋を手に持って、アルマへと差し出す。

 アルマはしゃがみ込み、ミウィからその小袋を受け取る。手に持つと、見た目に反して意外と重量のある小袋だった。


「ミウィ、これは?」

「クコの実! 体にいいんだよ」


 ミウィから受け取った小袋の口を開けて中身を見ると、そこには〝乾燥された赤い木の実〟が袋一杯に入っていた。


「きょねんにね、お姉ちゃんとあつめて干してたんだよ」

「こんなにも沢山……本当にもらっていいの?」

「うん! おなかがすいたら食べて! あ、でも食べすぎたらダメだって、村のおばあちゃん達が言ってたから食べすぎちゃダメだよ?」

「あら、それは大変ね。あまりにも美味しそうだから、今日にでも全部食べちゃうところだったわ」

「あははは! ダメだよぉ、わたしみたいにお母さんに怒られちゃうよ!」

「まぁ! それは怖いわ!」


 そう言ってミウィとアルマは、ミウィの母親にチラリと目線を一緒に向ける。

 するとミウィとアルマの会話と目線に、村長の後ろにいたミウィの母親が困った様な苦笑いをしていたのだった。


「……さて、ミウィ。そろそろアルマ様達は出発しないといけない。最後にお別れの挨拶をしなさい……」

「うん……」


 ミウィの父親である村長が、どこか名残惜しそうな顔でミウィにそう告げる。


「アルマおねぇさん……ありがとう、わたし達をたすけてくれて。わたしね、またアルマおねぇさんと会えるって信じてるね」


 ミウィがアルマの首の後ろに腕を回してぎゅっと抱きしめる。それにアルマは一瞬驚くも、優しくミウィを抱きしめ返した。


「えぇ、私もまた会える事を願っているわ……」


 2人は抱きしめ合った。ほんの僅かな時間だったが、お互いに相手の温もりを忘れぬ様にと優しくも強く抱きしめ合った。

 やがて2人は伸ばした腕を離し、アルマがミウィの小さな頭を優しく撫でる。


「えへへ、アルマおねぇさん、なんだか〝優しい煙の香り〟がするね?」

「優しい煙? もしかして昨日、いっぱい焚き火で温まったからかしらね? ふふふ」


 それからアルマは立ち上がり、村長とソラに目線を向ける。


「そろそろ行くわ」

「はい、アルマ様……お気をつけて」

「アルマさん、またいつの日か……」


 そう言って、アルマは村長とソラと握手を交わした。

 するとそこへもう一人、アルマへと声をかける者がいた。その者は、アルマを聖国軍と思いアルマに向かって石を投げつけた、幼い男の子だった。


「ア、アルマさま! お、俺、次にあんたに会う時は今よりもっと強くなってるから! こんどこそミウィを守れるように強くなってるから!! だからその時は、むりょくなガキじゃないって認めてくれよな!!」


 幼い男の子はその目に強い決意を込めてアルマを見ていた。

 アルマはそれを見て、彼に言葉をかけようとしたところでミウィが先に答える。


「えぇ? それはむずかしいよぉ、だってアルマおねぇさんはとっても強いんだから! それに、なんでわたしなのぉ?」

「えぇッ!? いや、それはよ、その……アレだよ……!」

「アレ? アレってなにぃ?」

「うぅ……! ア、アレって言ったらそのぉ……やっぱ、な、なななんでもねぇよッ!!」

「えぇー、なにー? 気になるよぉ、おしえてよぉ」

「うぅ……ッ! い、今はまだヒミツだぁ!」

「えぇー」


 そんな幼い子供達のやり取りを見ていた者達から笑い声が上がり、笑顔が咲いた。だが、村長だけはどこか苦笑いだった。

 アルマは今度こそ、その幼い男の子へと声をかける。


「えぇ良いわ、楽しみにしてる。でもおかしいわねぇ、私が気に入った男の子はもっと度胸があったと思うのだけれど? あれは気のせいだったのかしらねぇ? 自分の想いも伝えられないんじゃあまだまだね」

「うぐぅ……!?」


 再び周りの者達から笑顔の花が咲く。ミウィは不思議そうな顔をして村長は苦笑いをしながら、この場の雰囲気が明るくなった。


「ふふふ、それじゃあ……またね」


 そして遂に、アルマ達はピウス村を出発した。

 幼い子供達によって咲かせたピウス村の人々の笑顔に見送られながら。アルマ達は馬を率いて、次の目的地『城塞都市 ディスティーノ』へと向けて歩き出したのだった。


「どうかアルマ様達の旅路に、聖火の導きがあらんことを!!」


 暖かい日の光を浴びながら遠ざかって行くアルマ達の背中に、村長が祈りを込めて叫ぶ。

 それに対してアルマは振り返り、ただ手を上げて返事を返した。そして、再び前を向いて歩んで行く。


 そんな遠ざかって行くアルマの背中に村長は1人、ボソリと呟いた。


「〝聖火の導き〟か…………もしかすると、あの方こそ『聖火』なのかもしれないな……」


 アルマ達は歩む。

 共に戦う仲間を探す為に、自身の仇であり人々を脅かす聖国軍を倒す為に、アルマから全てを奪っていった奴らを殺す為に一歩ずつ前へと歩んでいった。

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