第15話 悪魔の笑み
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――あぁ……痛い。体全身が痛む
――体も熱い……いや、そこまで熱くないか
――あれ? 私、何してたんだっけ?
ミウィの声が聞こえる。
――ミウィ? ミウィの声が聞こえる。何でミウィの声が? ……あぁ、そうだ。あの性悪クソババァと戦ってたんだ
私は重たい目蓋を開く。
ぼやける視界に始めに移ったのは、黒い世界と赤い世界だった。
視界が鮮明になって来るとその世界がはっきりと見えた。左目に移るのは、私の顔を掴む炎の巨人の手。右目には私を上から見下ろし、私に向かって臭い息と一緒に炎を勢いよく吐きかけるムカつく顔をした巨人が移った。
――本当にムカつく顔だ、そのアホ面を私に向けるなって言ったろ。しかも臭い息まで吐きかけやがってクソが……ぶっ殺してやる
「うふふふ! 火加減はどう? 熱い? 熱いわよねぇ!? うふふふ! そうよねぇ、熱いわよねぇ、だってその地獄のような炎は私の怒りそのものだもの!! 私を散々馬鹿にしてきた奴らへの怒りと復讐の炎! お前も思い知れ!! あはははは!!」
兵士長も兵士長でうるさかった。
過去に受けた屈辱から抱いた悲しみ、憎しみ、怒り、そしてそれらから生まれた復讐心を込めて私の事を見下しながら笑う。
誰だって辛い事や悲しい事はある、私だってある。辛さの感じ方は人それぞれだ、だから兵士長に対して「ただ馬鹿にされただけだろう」とは思わない。兵士長にとってそれが酷く傷つけられた事なんだろう。
だが……そんな事は関係ない。あの兵士長の見返したいという復讐心と、研究に対する知的好奇心を満たす為に、身勝手に命を奪われたあげく自分の体を素材に使われた子供がいる。
恐らく1人2人ではないだろうし、年齢や性別関係なくやっていたのかもしれない。そしてそれはこれからもあるだろうし、炎の悪魔と呼ばれるこの巨人が召喚された今、新たに召喚する時の素材が必要となる。
では、この召喚に必要となる素材はなんだったか……? その素材となるのは……誰か?
考えただけで苛立ってきて、私の中の奥底で何かがグツグツと沸いてくる。どれほど辛い思いをしてきたからといって、あの兵士長がやった事、やろうとしている事を私は許しはしない。
そして、私をより一層苛立たせるのが……。
私を掴む炎の巨人の手に更に力が込められる。
――この手だ! この汚い手! 私の体に触れるこの汚物が私を更に苛立たせる!! あぁ、気持ち悪いッ!!
本当にムカつく。この炎の巨人が男なのか女なのか、そもそも性別があるのかは分からない。だけど生理的に受け付けない。
まるで邪な下心を持って近づいて来て、興味も無ければ心も体も許していない嫌いな男に肌をいやらしく触られた時の様な、虫唾の走る生理的嫌悪感。
背筋にゾワリと何かが走り、毛が逆立ち、気分が悪くなる。まごうことなき拒絶反応。こいつの場合はそれともう一つ、また別の何かがある気がするが気持ち悪くて殺したい事には変わりはない。
私の中で何かが激しく燃える。地中の奥深くから大量の真っ赤な溶岩が勢いよく地上へと吹き上がろうとする様に、私の奥底から熱いものが湧き上がる。それが私の体をどんどん熱く加熱していく。
こいつらの私欲の為に身勝手に殺されてきた人々と子供たち。
汚い手で体を触れられ心に傷を負った女達。
愛する家族から無理やり引き離されたうえに、その家族を失う恐怖を負った男達。
このままこいつらを好き勝手にさせれば、あの村の男達は死ぬまで働かされ、女達は永遠に道具として扱われるだろう。
そして幼い命すらも、私欲の為に奪われる。
――許さない
もしかすると私も、このクソッタレ共と同じように私の〝復讐〟という名の私欲の為に、子供から親を、親から子を、帰りを待つ者から愛する人を既に奪っているのかもしれない。これから殺すのかもしれない。
だけど、それでも……。
――絶対に許さない
私の家族、私の愛する人、私の友、私に親切にしてくれた人達……。
私からあの人達を奪っていった奴らと同じコイツらは……ッ
――絶対に殺して、地獄に引きずり落とすッ!!
私の魂が地獄の炎の如く燃え上がる。奴らを焼き殺そうと私の奥底から真っ赤な溶岩が吹き上がり、私の体を熱くさせる。
体全身に熱い魔力が溢れ出し、力が湧き上がる。
私の体に怒りの炎が纏い、その炎を纏った手で私に触れる汚い手を掴む。炎の悪魔と呼ばれる巨人の手首を両手で挟むように掴み、力を込めて持ち上げる。これでまともに口が開ける。
「……おい、ゲス野郎」
巨人の顔が歪む。まるで何が起こったのか理解できないかの様に、そのアホ面を困惑させる。
「いつ私に触って良いと言った? あ゛? いつお前に、私の体に触れて良いと言ったぁッ!? あ゛ぁ゛んッ!?」
青紫色の魔力が両手に灯ると同時に、私の手が奴の手首をミチミチと締め上げていく。
「――ッ!? ――ッッ!?!?」
「……強い魔力の気配? なんだ、どうした……? 何が起き――え? あの魔力の色は……ッ」
驚愕する炎の巨人と兵士長
炎の巨人の手首を掴む手に更に力を込めると、ミチミチと音を鳴らて、やがては巨人の手首から赤黒い血が流れ出す。
「……いいか、よく覚えておけゲス野郎……ッ! 女の体はね……そう軽々しく触れていいものじゃないのよ! 気持ち悪いッ!! 気安く触るなゲスがぁぁぁあッ!!」
私を纏う炎が更に熱くなる。
その炎が、巨人の手を燃やす。巨人自らが放つ炎にすら燃えなかったその手が、私の炎によって燃やされ痛みを感じる巨人。
その顔は苦痛と驚愕の表情を浮かべていた。
炎の巨人の口から放っていた炎が止み、私の手から離れようとその腕を上げる。体重の軽い私は、その掴んだ手首と一緒に軽々と持ち上がる。
だが、もちろん逃がすわけがない。足が地面から離れる前に、両足を地面に叩き付けて足の爪で地面に張り付く。ついでに尻尾も地面へと突き刺す。すると炎の巨人が持ち上げようとした腕が止まり、私から逃られなくなってしまう。
炎の巨人はどうにか私を引き剥がそうと、空いた手で私の体を掴んだ。しかし、その手は私の体を掴むと同時に音を立てて火傷を負い、すぐにその汚い手を離した。
……このゲス野郎は、またしても私の体に触れたのだ。
「お前……また私に触れたな? またその汚い手で触れたなぁ……ッ!? 私の、私の体を好きに触れて良いのは……私の体を好きに使って良いのは……ッ! ――"あの人"だけだぁぁぁああああああッッッ!!!!!」
ブチリという鈍い音と何か軽い物が折れる音と共に、肉を千切る感触と骨を折った感覚が私の両手に伝わって来た。
「――ッッ!?!?!? ――――ッッッ!!!!!」
ようやく私の手から離れられた炎の巨人が、両膝を地に付けながら体を反るようにして上体を起こし、右腕を掴みながら天を仰ぎ、声帯が無いのか声無き悲鳴を上げていた。
炎の巨人が掴んでいた右腕の先には赤黒い血が溢れ出る噴水口があり、その先にあったはずの右手が無くなっていた。
じゃあその右手はというと、私の足元だ。気持ち悪ッ。
私は足元にあった右手を蹴り飛ばして肉片にした後、炎の巨人を見上げる。
炎の巨人は先程と変わらず右手の無くなった腕を掴んでおり、信じれないと言わんばかりに苦痛と驚愕が入り混じった表情でその血塗られた腕を見ていた。
「あはっ。血が出るって事は〝殺せる〟って事よね?」
その可能性に、私の中で何かが心躍り始める。
私は自身の手や指先で、奴の血と私の血が混じった血を乱暴に拭う。
額と目の周り、口周りを拭い。そして再び目の周りに垂れて来た血を、血で赤く染まった指先で拭う。
「おい、まだ終わってないぞ」
私の問い掛けに我に帰った炎の巨人が、怒りの表情を私に向けて拳を振り上げて殴りかかって来るが、その拳を〝私の巨大な炎の手〟が受け止める。
文字にしたらその文章通りの出来事だろう。魔力を込めた私の右腕から、爪を生やした炎で作られた巨大な手が出現しているのだから。
その巨大な炎の手は、私の本来の手の動きに合わせて同時に動く。
私の巨大な炎の手は、目の前の巨人の顔に丁度収まる程の大きさがある。私はそれで、そのまま炎の巨人の左拳を握り潰した。
「――――ッッッッ!?」
炎の巨大は声無き悲鳴を再び上げながら私の手を離れる。私の手から離れた奴の左手からは、折れた黒い骨が飛び出し、原型がはっきりと分からい程にその左手は変形していた。
その左手に、手の無い右腕でさする様な動きをする炎の巨人。その表情は何とも情けなく、泣いている様にも見えた。
「おい……だからまだ終わってないぞ」
私の声にピタリと動きを止める炎の巨人。
次に巨人が私の方に視線を向けた時には既に遅く。私の巨大な炎の手が奴の顔まで伸び、その片目に指を突っ込んでいた。
私は指先に触れる球体を、本来あるべき場所から抉り取る。
手の無い両腕で目を抑える様にして地面に丸くうずくまる炎の巨人。
私はそんな巨人をよそに、抉り出した眼球を確認する。
私の巨大な炎の手が指先で摘まんでいるのは、大きな白い眼球。
それは生贄になった幼い子供の眼球と思われ、赤黒い血が付いた目にはブラウンの瞳があった。
私はそれを指先で摘まんだまま、私の炎で跡形も無く静かに燃やして消し去った。少しでも安らかに眠れるようにと。
「……おい」
私は再び炎の巨人に呼びかける。
炎の巨人は私の呼びかけにビクリと反応すると、バッとうずくまっていた顔を上げる。失った目から赤黒い血の涙を流しながら。
「だから、まだ終わっていないのよ。あと1つあるんだから」
私の言葉に炎の巨人が両膝を地に着けたまま勢いよく上体を起こす。手首から先が無い右腕、手であった物をぶら下げた左腕を私に向かって伸ばす。攻撃するのではなく、まるで命乞いをするかのように震える腕を私に向かって伸ばしていた。
『炎の悪魔』と呼ばれた巨人のその顔は、私に対する恐怖で歪められており。くしゃくしゃと、なんとも情けの無い顔をしていた。聖国軍の檻馬車の中で、生きる事を諦めていた時のガルディアの顔より酷い。
――これが『悪魔』? これが悪魔と呼ばれた奴の顔? はッ! ダメね、そんなんじゃないわ。私も悪魔なんて実際に見たこと無いけれど、それでも何となく想像できる。〝悪魔の顔〟ってのは……
私の巨大な炎の手に青紫色の魔力を流し込めながら、炎の巨人へと歩み寄る。その私に炎の巨人がまるで私から逃げる様に、その体を反らしていく。
炎の巨人が声帯の無い口で、何かを訴えようと口を開いた瞬間……
炎の巨人の胸に、私の伸ばした巨大な炎の手が突き刺さる。
私が突き刺した場所は、私から見て巨人の胸の真ん中からやや右……そう、ちょうど心臓の位置だ。
掴んだ〝それ〟を体内から引きずり出す。それと繋がった管をなるべく引き千切らないように、かつ体を動かす暇も与えない様に素早く取り出す。
取り出した〝それ〟は、炎の巨人の心臓だった。それは今も脈打ち、その振動が私の手へと伝わって来る。炎の巨人の心臓は、思ったよりも長く伸びる管を繋げており。炎の巨人が少し下を覗けば、自身の心臓を見ることが出来るほどに。
炎の巨人は脈だつ自身の心臓を見た後、口をパクパクと動かしながら私を見てくる。
そんな炎の巨人をよそに、奴の心臓を私の方へと引き寄せる。すると、それと繋がっている炎の巨人の体もそれに合わせて近寄ってくる。
私は巨人の顔を、私の顔の前まで近づけさせる。その距離は私の吐息がかかる程の距離だ。近づけた巨人の震える頬に私の左手を優しく添えて、私の顔の前に奴の黒くて大きな目を誘導させる。
巨人の頬に添えた左手はその頬を音を立てて焼くが、焼かれている本人はそれを気にする程の余裕は既に無かった。
私は炎の巨人に優しく語りかける。その声は、血も凍りそうな冷たい声だった。
「ねぇ、あなた……あなたは〝悪魔〟ってどんな顔をしていると思う?」
炎の巨人の残された目を覗き込む。すると炎の光に照らされて、巨人のその黒い目に私の顔が映り込む。その目に映り込んだ私の目の瞳孔は大きく開いており、私のその丸く大きな黒い瞳孔の中には、巨人の怯える目が映り出されていた。
「私はね……悪魔ってのはね、きっと……」
私は炎の巨人の怯える目を見つめながら、あの顔を思い浮かべる……〝悪魔の笑み〟を――
「――こんな顔をしているのよ……ッ」
炎の巨人の目に〝それ〟が映し出された。
見開いた目、丸く大きく開いた漆黒の瞳孔……真っ赤な血を付けた歯を剥き出しにした口。
血で塗られた赤いアイシャドウがその目をより大きく見せ、その漆黒の大きな瞳孔は獲物の魂を貪欲に欲する様に捉えており、底の見えない暗黒の渦が渦巻いている。その暗黒の渦を一度見てしまったら、二度と目を離す事はできないだろう。
血の滴る歯を剥き出しにした口は、今か今かとその魂を喰らう時を待ち望んでおり。その口からは、興奮する心臓を落ち着かせるようにゆっくりと吐息が漏れる。獲物に向かって至近距離で当てられている吐息は周囲の温度が高いのにも関わらず生暖かく感じ、それが更に巨人へと恐怖を与える。〝喰われて殺される〟という恐怖を……。
そして、炎の巨人の目に映し出された者の表情は……笑っていた。それはとても愉快そうに笑っていた、これから起こる事を心底楽しみだと言わんばかり笑っていた。目じりと頬が上がり目元を歪め、歪に吊り上がった口角はより一層、血の滴る歯を剥き出しにして邪悪な笑みを浮かべていた。
目の前の獲物を喰らう事が楽しい、獲物を痛めつけるのが楽しい、泣き喚き恐怖し絶望していくのを見るのが楽しい、地獄へと落とすのが楽しい。そんな感情を表現するような邪悪な笑顔。
正しくそれは、私の想像する地獄の底からやって来た〝悪魔〟の顔だった。
そういえば、地獄の炎の事をなんて言うんだったか? あぁ、確か……
「――≪業火≫」
私の掴んでいた奴の心臓が真っ赤な炎に包み込まれた。
炎の巨人が声無き悲鳴を上げて暴れ出そうとする。だが、私と目を合わせている奴は私の目から目を離せられず、金縛りにあったかの様に体を動かせずにいた。奴の心臓が先程よりも激しく鼓動する中、その心臓から繋がった管を通じて地獄の炎が奴の体を包み込む。
『炎の悪魔』と呼ばれた巨人が、私の地獄の炎で焼かれ声無き悲鳴を更に上げる。私は更に火力を上げて一気に焼くと、体をガタガタと震わせて悲鳴を上げる。私はそれに合わせて、笑った。互いに合わせた目を離す事無く、その目を覗き込みながら笑った。心底楽しいと言わんばかりに徐々に声量を上げながら、腹の底から悪魔の様に邪悪に笑った。
左手で炎の巨人の額を抑えると、奴の心臓を力任せに一気に引っ張る。
引っ掛かっていた柔らかいものがブチブチと千切れる感触が、私の巨大な炎の手を手を通じて伝わって来る。最後には絡まったものが無くなって、取りたい物が取れた時の満足感が私の中に広がった。
心臓の無くなった開いた胸とその管から、大量の赤黒い血が地面へとボタボタと流れ落ちていく。心臓の無くなった炎の巨人の体からは徐々に力が無くなり、重力に従ってうずくまっていた時の様に体をたたみながら沈んで行く。
最後に奴の頭を抑えていた左手を離すと、その頭は呆気なく地面へと落ちた。
炎の巨人から生命の音が消え、奴の屍を轟々と燃やし続ける音だけが残った。
掴み取った心臓は握り潰すことなく、そのまま跡形も無く静かに燃やした。炎の巨人も私の炎で瞬く間に黒く炭化し、崩れて塵となって消え去った。
「そ、そんな……そんな馬鹿な……! わた、私の……! 私の究極魔法が、私の生み出した炎の悪魔が……やられた? ……あ、あは、あはは……うそ、そんなの嘘よ……あはは」
炎の巨人の召喚者である兵士長が、引きつった顔でその場にへたり込む。現実が受け止められないのか、ブツブツと何かを呟いていた。
生き残ってた聖国軍兵士達も兵士長の近くで武器を構えているが、どうすればいいのか分からずその場でたじろいでいる。
「アルマ!!」
「アルマさん!」
ガルディアとリシェスが私の名を呼び、駆け寄って来た。
「あら、ガルディア。無事にリシェスを救い出したのね」
「あぁ、とは言ってもリシェスの助けあっての――って!? アルマ!? 服はどうしたんだッ!?」
駆け寄って来たガルディアが突然、手で顔を隠して驚いていた。
ガルディアはどうやら、炎の巨人の炎によって素っ裸になっていた私の体を見て驚いたようだ。別にキャルトの裸を見たところで、人間と違って毛で覆われているのだからそんなに気にしなくても大丈夫だろうに。
「服? 燃えたわよ? なに、恥ずかしいの?」
「い、いや、そうではなくてな……」
「はぁ……大丈夫よ。どうせ私はキャルトだし、それに私を纏っている炎が良い感じに隠してくれてるから、いちいち気にしないでちょうだい。あと、あまり近づくとたぶん火傷するわよ」
「う、うむ……と、とにかく無事で良かった。……加勢に行けなくてすまなかった」
「いいのよ、勝てるって信じてくれたんでしょ? それよりも貴方もよくやったわ、流石よ。怪我は? していないの?」
ガルディアの体を見てみるが、これといって外傷は見当たらなかった。
「怪我は大丈夫だ。火傷や体に痺れがあったが、リシェスが治癒魔法で癒してくれた」
「リシェスが? リシェス、貴女は治癒魔法が出来るのね」
「初歩的なものであれば……ですが」
怪我を治してくれる魔法……治癒魔法
私も子供の時に受けた事があるがとても便利な魔法だ、これは非常に心強い存在となる。そういえば、幼い時に出会ったエルフの先生も治癒魔法を備えていたような。
でも、あの時は何故か治癒魔法を使わずに私を治療してくれたんだっけ……?
「う、うわぁぁああ!?」
リシェスを見ながら過去の記憶をさかのぼっていたら、兵士長の方から突然、男の悲鳴が聞こえてきた。
私達はその声に反応し、その方向を見る。
そこには、血に濡れた短剣を部下の兵士に突き刺して、部下を殺している兵士長の姿があった。