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アルマの叫び  作者: (iTi)miru
第2章 炎の悪魔
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第14話 猫と炎の悪魔

「ガァァッ! グルァァアアッ!?」


 1匹の炎の獅子の背中に、1匹の猫がしがみついていた。


「あはッ、捕まえた」


 猫は炎の獅子の首に腕を回して組み付き、もう片方の手で上顎を掴んで無理やり口をこじ開けるように引っ張っている。正常な首の角度に反して首を曲げられて、獅子の耳に骨のきしむ音が響く。更に掴んだ上顎と鼻には、猫の指先が痛々しく食い込んでいた。


「ヴァァアアッ!!!?」

「暴れるんじゃないわよ、まったく。(しつけ)のなってない悪い子にはぁ……」


 猫は、獅子の首に回した手の爪先をその太い首に突き立てる。


「お仕置きしましょうねぇ」


 獅子の首に猫の爪が深々と突き刺され、喉周りを大きく引き裂さかれる。

 そのままその裂け目を更に広げようと上顎を引っ張る力が強くなり、裂け目から張った筋肉がミチミチと音を鳴らして無理やり引き千切られていく。

 兵士長よって召喚された炎の獅子は、炎の肉体をもっており。不思議な事にしっかりと骨、筋肉、皮を持っていた。

 

「ガァァアアァアアッ!?」


 炎の獅子から悲痛な断末魔が発せられる。

 「ブチリ」という音と共に、獅子の頭が体から引き千切られ断末魔も途切れる。頭の無くなった体が力無く地面に音を立てて崩れる。

 猫が掴んだ(たてがみ)の先には、炎の獅子の生首がぶら下がり。首元からは溶けた金属のような炎の血がボトボトと落ちていた。


「ガルディア! ……そっちは任せたわよ?」

「うむ……任せろ」


 迷いの無い、何かを決意した男の横顔

 オークである彼の顔は醜く恐ろしいものだ。だが彼の顔はまるで信じる者の為に戦い、守るべき民を守る騎士の様だった。


「ほんと男って、女の為になると急に気合入るんだから……ふふっ」


 アルマはちょっと呆れた様な、満足した様な笑みを零す。


「グルァァァアアアッ!!」

「うるさい!」

「ガァァ――アプッ!?」


 炎の獅子がアルマの死角から飛び掛かる。

 アルマは手に持った生首を、(たてがみ)を使って素早く回転させ獅子の顎めがけて下から殴打した。

 生首アッパーを食らった獅子は、腹部をさらけ出しながら中に浮く。

 アルマの拳に青白い魔力が灯る。


「お腹を撫でて欲しいの? なら撫でてあげるわ」


 炎を纏ったアルマの拳が獅子の腹部に炸裂する。

 肉片と炎の血をぶちまけながら獅子の胴体は吹き飛び、腹部から真っ二つに千切れた。


「ガァァァア!」

「グルァァ!」


 2匹の獅子が同じ方向からアルマに同時に飛び掛かる。


――パァン!


 2匹の獅子が飛び掛かり、獅子の爪が振り下ろされ、牙の生えた大きな口がガチリと音を鳴らして閉じられる。


「……グルゥ?」


 しかし、炎の獅子達はそこで気がつく。

 自分たちが飛び掛かった場所に、先程までいたはずのアルマがいない事に。


――パァン!


 次の瞬間、上空からの破裂音と共に獅子達が頭から地面に叩きつけられる。地面にめり込まされた獅子達の頭には、華奢な手がその頭を掴んでいた。

 獅子達が困惑するも次の行動に出る間の無く、獅子達の頭を掴んだ手が青白い魔力と共に爆裂し、獅子達の頭部が吹き飛んだ。

 2匹の獅子は、そのまま2度と立ち上がる事はなかった。


「ふぅ……やっぱり猛獣は厄介ね。でも、所詮は人の手で生み出された召喚魔ってやつなのかしら? 動きが単純だったかも。本物の猛獣の方が強くて賢く、そしてもっと恐ろしかったわ」


 アルマはゆっくりと立ち上がると、消えゆく獅子達を見下ろしながらそう呟いた。炎の獅子達は黒く炭化し、やがて崩れて黒い塵となって消え去っていった。


「う、嘘でしょ……!? わ、私の多重召喚の炎の獅子達が……やられたの!?」

「本物の猛獣はあんなのじゃないわ、彼らはもっと賢い……躾がなってないんじゃないの? おばさん?」

「こ、このクソ猫がぁぁ……!!」

「お前の魔法はもう終わりかしら? なら今度はこっちから行くわよ」


 アルマは兵士長に正対し、腰を低くして構える。


「……くっ! お前達、時間を稼げ!」

「お、俺達だけでですか……!?」

「泣き言を言うんじゃないよ! 私も支援する! ……我が炎の僕達よ、我に仇名す愚者をその炎で罰せよ! 多重召喚魔法――≪炎の兵≫!!」


 兵士長は分厚い本を開き、本に魔力を込めながら詠唱する。更には、ポーチから細長い小瓶を取り出し。蓋を開けて赤い液体を地面にぶち()ける。

 すると赤い液体が青白い魔力の光を灯すと、ぶるぶると動き出し、やがては兵士長の召喚魔法によって赤い液体を元に人型をした炎の人が十数人現れる。炎の兵達はその手に炎の剣や槍を持ち、アルマに対して敵意を持っていた。


「炎の兵を前衛にして戦いな! とにかく私の詠唱が終わるまで時間を稼ぐんだよ!!」


 そう兵士長が言った後、兵士長は腰のポーチから先程とは違った形のガラスの小瓶を取り出す。

 その小瓶の中身には、何やら赤い液体とピンク色の何か、それから白い球体が1つあった。

 

「強度強化魔法、解除!」


 兵士長が手に持った小瓶から何か色が抜け、ただの透明な小瓶となった。初めは気が付かなかったが先程まではどうやら、ほんのりと青白い色をしたガラス瓶だった様だ。

 兵士長はその小瓶を自身の足元に叩きつける。

 脆く割れるガラスの小瓶。真っ赤な液体が地面へと広がり、ピンク色の何かと謎の白い球体が瓶の外に出る。


「認めたくないが、お前には本気でいかないとヤバそうね。ふふ……有難く思えよクソ猫、私の究極魔法を見せたげるよ! さぁ、行きなお前達! しっかり時間を稼ぐんだよ!! ……闇よ、闇よ……深淵の闇よ私の声を聞きたまえ――」


 兵士長の合図で炎の兵達を先頭に聖国軍兵士達がアルマに襲い来る。それに合わせて、兵士長が詠唱を唱え始める。

 魔法の本に魔力を込め、言葉と共に魔法のイメージを整えていく。

 割れたガラズ瓶が溶け始め、地面に撒かれた赤い液体と混ざり合う。


「オ゛ォ゛ォォ……」

「ア゛ァァ……」

「何こいつら? 炎でできた……人? 動きは鈍いけどタフでウザいわね!!」


 炎の兵は炎の獅子と同様に実体のある肉体を持っていたが、強い打撃を加えても「ぐにゃり」と体が変な方向へ曲がるだけで、またゆっくりと元に戻り再び襲い掛かって来る。

 

「――我が魔の血、若き生娘の瞳と心の臓の欠片を生贄に……我が願いを叶えたまえ――」


 炎の兵を含めた聖国軍兵士達とアルマとの戦闘が続く中、兵士長の詠唱は続く。

 溶けたガラスが混ざった真っ赤な液体が自らうごめきだし、ピンクの何かと謎の球体を中心に魔法陣らしき模様を描く。

 魔力を込める魔法の本と同様に、血の魔法陣も青白い魔力の光が現れる。しかし、それらは瞬く間に変貌し始めた。


 青白い魔力の光は、まるで静脈から流れ出る血の様に赤黒く。

 血の魔法陣からは、只ならぬ雰囲気を漂わせた黒い霧が放出される。黒い霧はまるで意思を持っているかの様にうごめいており、それは明らかに不吉なものだった。


 アルマの背筋にゾワリと何か冷たいものが走る。毛は逆立ち、血の気がサッと引く。

 アルマの勘が警報を鳴らす。


〝あれはヤバイ〟……と。


「シャァァアッ!! そこをどけぇぇぇえ!!」


 アルマは毛を逆立たせながら威嚇し、兵士長に向けて炎の兵と聖国軍兵士達の包囲網を突破しようと試みる。


 しかし、爆発による推進力で一気に包囲網を突破しようとしたところで、炎の兵が体当たりしてきてアルマに組み付く。

 炎の兵が纏っている炎は本来ならば大火傷を負うものだが、アルマには無意味だった。しかし、アルマの動きを一時的に止めるには充分だった。


「クソがッ! 邪魔よ!!」


 アルマは組み付いた炎の兵を引き剝がし、魔力を込めた拳で殴りその頭を吹き飛ばす。その衝撃で炎の兵は後ろへと倒れる。

 だが、頭を失ったはずの炎の兵の体が再び動き出す。どうやら急所という物が無い様だった。


「はっ! ミンチがお望みって訳ね。だったらお望み通りにしてやるッ!!」


 体制を整えたアルマに、再び炎の兵達が襲い掛かる。

 炎の兵達は炎の剣や槍で攻撃するのではなく、アルマを(おさ)え込もうとしてくる。これは炎の兵の行動が明らかに変わったのが分かる。

 どうやらアルマの行動を予想した兵士長が、炎の兵への命令を変えたようだった。


「――聞け、闇の住人よ……炎を(まと)いし悪魔よ……!」


 ピンクの何かと謎の球体が地面の赤い魔法陣へと沈んでいく。

 兵士長の詠唱に力が入る。召喚がもうすぐ終わるのが伝わってくる。

 それが間違いではない事を証明するかの様に、黒い霧の勢いが増し、アルマの背筋が更に凍る。


「ミ゛ャ゛ァ゛アアッ!! ――シィッ!!」


 炎の兵達がアルマの炎を纏った爪によって手足を切り落とされ、その爆裂の拳によって原形の分からない肉片へとなり果てる。

 炎の兵達を殲滅したアルマ。彼女の前に立ち塞がるのは聖国軍兵士のみ。


「ひ、ひぃ……!」

「あ、あ……そんな! あ、あぁぁ……!」

「邪――魔ァッ!!」


 アルマは素早く両手に魔力を込めて火球を出現させ、アルマの進行方向にいる兵士達に放つ。

 爆発と共に人が血と肉片へとなって弾け飛ぶ。アルマの進行方向にいた聖国軍兵士達は、悲鳴も上げる間も無く爆散した。

 それによって、爆煙が風で薄れた先に兵士長への道が切り開かれていた。


「こ、こ、だぁッ!!」


 狙いを定め、低く重心を落し、その両手に魔力を瞬時に込める。


「――我との生贄の契約に従いその姿を現せ! 我が願いを叶えるべく我が召喚に答えよ!! いでよ、我が究極召喚魔法ッ――」

 

 爆炎と破裂音と同時に、爆煙の尾を引いて何かが兵士長に向かって飛んで行く。

 その拳に炎を纏って。


 アルマの拳が兵士長の顔面を捉える。


「――もらった……ッ!」


 アルマが勝利を確信する。


 だが、しかし――


「ガ、ガルディアさん!?」


 ガルディアの名を叫ぶリシェスの悲鳴が、アルマの耳に入る。

 仲間の危機を知らせる悲鳴。それにアルマは思わず反応し、一瞬だがそちらに意識が向いてしまった。



「「―― ≪炎の悪魔(イフリート)≫ッッ!!!!」」



 巨人の拳がアルマの視界を埋める。


「え?」


 アルマの意識が一瞬飛んだ。

 次に意識を取り戻した時には、アルマは建物の2階の壁へと背中からめり込んでいた。

 木の壁に腰掛ける様に壁を突き破り、木の壁にはまっていたのだ。


 状況をはっきりと把握する前に、アルマの視界の先に大きな火球が映る。それはアルマ目掛けて向かって来ていた。


「……や、ば」


 アルマがいた場所が強力な魔力と共に爆発した。空気と地面が揺れる。

 爆煙の中から、アルマが煙の尾を引きながら地面へと「トサッ……」と、静かに着地する。アルマはギリギリのところで大火球を回避していた。しかし着地の後、上手く力が入らないのか体がよろめき体制が崩れる。


「ハァ……ハァ……体力が……」


 アルマの視界に移る地面が、赤い光に照らされる。

 再びアルマに大火球が追っていた。


「クソが……ッ」


 アルマは力を振り絞り、その身体能力を活かして大火球を回避する。1発、2発、3発、4発と回避していく。着弾した大火球は、強烈な爆発を起こし地面を吹き飛ばし、爆煙と土煙が薄れた先には大きな穴が出来ていた。

 

 4発目にしてようやく攻撃が止む。そこでアルマは大火球を放っていた張本人を確認する。そこにはこの世に存在しない者がいた。


 羊の角を生やし、炎でできた獅子の(たてがみ)を生やした炎の巨人

 その背丈は7メートル程あり、その体は筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)としており、2本の腕を備え2本の足で地に立っていた。また頭は、人型の本来の大きさに比べて異様に大きいものだった。

 その炎の巨人の顔はオークよりも醜く恐ろしいもので、目は黒一色だが左目だけ人間の目をしており、ブラウンの瞳がアルマを見ていた。その表情はまるでアルマを嘲笑うかの様に邪悪な笑みを浮かべている。


「ハァ、ハァ……なにあのブス? 私に、アホ面向けて笑ってんじゃないわよ……ぶっ殺すぞ……」


 炎の悪魔と呼ばれた炎の巨人の足元に、召喚者である兵士長が立つ。

 兵士長は魔法の本を開き、今尚も赤黒い魔力を放っていた。


「アハハハハ! どう? 私の究極の召喚魔法『炎の悪魔』は!? ねぇ、どう!? この召喚魔法は私の研究によって生み出した魔法……どの魔法技術の資料にも載ってない未登録の魔法……! 新たに誕生した召喚魔法! 私が編み出した、私だけの召喚魔法ッ!! 私の究極魔法! 私の奥義ッ!!」


 兵士長は虚ろで冷たい目を輝かせ、頬を赤く染めて興奮した様子で自身の心の声をさらけ出す。


「教範に書かれた事だけが正しいと思い込んでいる、現場の現実も技術の進歩も知らない知能の無い幹部共……部下の意見も自分の都合の良い事しか聞かない無能な上司……無名の学者の研究をただ無名だど言う事だけで嘲笑い、一行も読む事もなく資料を投げ捨てる実績と肩書きだけで人を見下す進歩を止めた愚者共……全員、あいつら全員を見返せる! あの馬鹿共を全員見返して、私の研究を、私の実力を世界に認めさせられる魔法よ!!」


 心の声をさらけ出していく内に、兵士長の声が次第に大きくなり、口元には笑みがこぼれていた。その笑みには、純粋な喜びと(よこしま)な感情が込められていた。


「ねぇ、クソ猫。お前はこの召喚魔法を見たことある? ないわよねぇ!? うふふふ! だってこの召喚魔法は普通の魔法の手順だと実現出来ないんだから! 私はね、新たな発見とより強力な魔法を生み出す為に従来の法則とは別の方向から研究を進め、新たな方法を見つけたの……それが――」


「――生贄か……」


 アルマの言葉に兵士長が満足気な顔をする。


「そうよ。等価交換……とも言うのかもね。……私は魔法の歴史を一から学び直した、古代文明の資料も調べたわ。歴史を調べる過程で私はある事に目を付けたの……! この世とは別に冥界、闇の世界、地獄といった別の世界があるのではということに! 古代文明の魔法に関する歴史には――」


 アルマは魔法については殆ど知識が無い為に、兵士長が何を言っているのか分からなかったが。自身の語りに夢中になって攻撃が止んでいるこの機に乗じて、呼吸を整えていた。

 だが呼吸を整えていたのが、だんだんと今度は苛立ちで呼吸が荒くなっていた。アルマは戦闘中に微かに耳に入った、兵士長の詠唱からある事に気がついたのだ。


「おい」

「――魔素は血や肉に……なによ?」

「1つ確認するぞ…………お前がさっき生贄に捧げた物って、まさか……」


 無表情に戻っていた兵士長が、ゆっくりと邪悪な笑みを浮かべる。

 そして、口を開く。


「……処女の子供のよ?」


 アルマの両手に魔力が込められ爆発し、破裂音と共に兵士長へと飛ぶ。


「――カ、ハッ……!?」


 だが、気がついた時にはアルマは地面に叩きつけられ宙を舞っていた。


 アルマは宙で体を(ひね)り、素早く体勢を戻して地面へと着地する。叩き飛ばされたのか宙を舞っていたアルマの体には推進力があり、地面を(えぐ)りながら滑る様にして止まる。

 アルマは額から血を垂らしながら兵士長を確認した。

 そこには、兵士長の前に炎の巨人の大きな手があった。どうやらアルマが兵士長を攻撃する直前に、あの手によって叩き落とされた様だった。


「――プッ……フーッ、フーッ……短期決着で、いかないと、ヤバイわ…………あ」


 血反吐を飛ばし、口元の血を拭うアルマ。

 アルマは兵士長との戦略を考えながら、何気なしに後ろを確認した。後ろに何かの気配を感じたからだった。


 そこには、ピウス村の人々がいた。


「……しまっ――!?」


 すぐさま兵士長の方を見返すと、炎の巨人がその大きな口に大火球を溜めていた。


 アルマは即座に大火球の射線外へと走り出す、ピウス村の人々に射線が被らない様に。目標であるアルマが動けば狙いも動く。

 だが、炎の巨人の顔は……ピウス村の人々へと向いていた。


「性悪クソババァめッ!!」


 アルマは両手に魔力を溜め、爆発と共に再び大火球の射線上へと滑り込む。なるべく村人達よりも前に、より炎の巨人の近くへと。

 それを待ってましたと言わんばかりに、アルマが射線上に戻ると同時に大火球が発射された。


 炎の巨人から放たれた大火球が、アルマへと直撃した。


 爆炎の華が咲き、炸裂音が轟き爆風が追従する。

 舞い上がった土煙と爆煙の中に炎の巨人が手を突っ込む。その手は何かを掴むと、爆煙の中から引きずり出す。


 それは、ボロボロになったアルマだった。

 炎の巨人は、その大きな手でアルマの顔を鷲掴み自身の方へと引き寄せた。アルマはダラリと力無く吊るされ、炎の巨人の動きに合わせて揺れていた。


「はっ! 何とも勇敢な行動だねぇ? 赤の他人の為にわざわざ当たりに来てくれるなんて本当に……バカな猫だよ!! あはははは!!」


 兵士長は、ぼろ雑巾の様に吊るし上げられたアルマを見て、心底おかしな事をした馬鹿を見る様に腹の底から笑った。


「ねぇ、クソ猫! まだ生きているんだろう? 私は全然乗り気じゃないんだけどさ、ここで生きるチャンスを与えるよ。うちのボンボン幹部君の慈悲でお前らを部下にするとの事だが……どう? お前の回答次第では生かしてやるよ」


 兵士長は恐らく生きているであろうアルマに、あの幹部の男の部下になれと提案してきた。

 当の兵士長は始めは機嫌が良かったが、話す内に次第に不機嫌そうな顔でアルマを見上げる。


「……――ッ」


 兵士長の問いに対し、アルマが何かを伝えようと右手をふるふると上げる。


「おや? まさかの降伏――」


 兵士長の言葉が止まる。

 その兵士長の目線の先には。


 弱々しく震えながらも、中指を突き立てていたアルマの右手だった。

 

 兵士長へと突き付けたれたその手を見て、兵士長は謎の怒りを覚えていた。

 あの仕草が何の意味を示しているのかは分からない。だが、何故だか無性に怒りが沸いてきていた。仕草の意味が分からなくても、侮辱されている事は伝わって来ていたのだ。


「その仕草……何を意味してるか知らないけど……ッ! 本当にムカつくわねッ!? いいわ!! なら死ねぇッ!!」


 炎の巨人はアルマを掴んだまま地面へと叩きつける。

 そのまま間髪入れず、口から地獄のような炎を放射する。その炎は自身の手ごと地面へと叩きつけたアルマを轟々と燃やす。

 アルマの体が炎に包まれ、彼女の衣服を塵と化し、彼女の体を燃やす。


「――ネコのおねぇさんッ!! 死んじゃダメぇぇ!?」


 それを見ていた村人の中から幼い女の子の声が上がる。

 その声は、赤い光に染まった世界に響いて行った。

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