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アルマの叫び  作者: (iTi)miru
第2章 炎の悪魔
14/19

第13話 雷を纏いて

 【東中央通り 国旗掲揚場手前】


 アルマとピウス村の男達は、頭に赤いバツ印の装飾品を付けた少女を追って拠点内を走っていた。

 少女の向かった道を進んでいると、道中に原因は不明だが気を失っている兵士や怪我などで身動きが取れなくなっている兵士が数名いた。アルマ達は、その兵士達に止めを刺しつつ少女が向かったであろう道を進んだ。


 アルマ達は、結局あの少女を見つけられないまま開けた道へと出た。辺りを確認していると、道の先から喧騒と剣を打ち合う音、そして女性の悲鳴が聞こえて来る。


「――ッ! こっちよッ!! ついて来なさい!!」

「「おう!!」」


 アルマ達は音のする方へと走る。

 その場所に近づくにつれてその場所が明らかになっていく。

 そこは、建物に囲まれた開けた場所だった。広場の前方には他の建物と違って、いかにもお偉いさんの建物だと思わせる建物がある。また、その建物の前には国旗掲揚塔(こっきけいようとう)があり、白いロープが巻かれた2本の柱が立っていた。


 その広場の(すみ)には人がいた。

 白い装備や鎧を身に(まと)った聖国軍兵士達

 兵士達に追いつめられる女達

 その女達を守ろうと奮闘する、オークのガルディア

 そして、猫のぬいぐるみを持った幼い女の子と、その子に向けて剣を振り上げる兵士


 ――プチッ


 アルマの中で何かが切れる。


「伏せなさいッッ!!」

「――ッ!?」


 アルマは少し先の地面に火球を放ち、その地面に大きな穴を作り。アルマはその穴を飛び越える。

 彼女のすぐ後ろにいた村の男達の数名は、死を感じ取り咄嗟(とっさ)にその穴へと潜り込む。

  

「子供に刃先を……ッ!! 向けてんじゃないわよぉぉぉおおおッッ!!!」

 

 アルマの両腕に青紫色の魔力の光が現れる。アルマはその両手を後ろへと一気に突き伸ばす。

 次の瞬間、赤い閃光と共にアルマの姿が消える。音と爆炎と衝撃波をその場に置き去りにして。


 その先は、幼い女の子『ミウィ』と、今まさにミウィに剣を振り下ろそうとしている兵士だった。


「死ねぇ! ガ――」

「あ……」

「キ」


 ミウィの目の前から兵士が消える。

 それを認識した直後、耳をつんざく破裂音と突風が追従してくる。ミウィは思わず耳を抑えながら、風に飛ばされない様に踏ん張る。

 

「うぅ……ッ、な、なに?」


 何かが通り過ぎて行った後に、ミウィの横から何かが壊れる音が響く。

 そちらを見ると、建物の壁に大きな穴が開き埃が舞い上がっており。そこから更に手前には、地面を大きく(えぐ)るようにして伸びた跡があった。


「ミウィ、怪我は無い?」

「……ネコの、おねぇさん?」


 砂埃が舞う中、抉られた地面の先からアルマが現れる。アルマは自身に付いた砂埃をはたきなかがらゆっくりとミウィに近づいていく。


「ミ、ミウィ!? ミウィッ!!」

「あ……おかあさん」

「あぁ……ミウィ……ッ! ミウィ……!」

「おかあ、さん……う、うぅ……うわぁぁあん!! うああああぁ!!」


 ミウィの母親が、自分の娘に駆け寄り抱きしめる。

 ほんの一瞬、娘の手を離してしまったが為に愛する娘を失いかけた母親は、娘が無事である事を確認する様に強く抱きしめる。ミウィも、母に抱きしめられてようやく自分が死ぬところだった事に気が付き、その恐怖と母に抱きしめられた安心感から涙をポロポロと零して泣いた。


「ミウィ、お母さんから離れちゃダメよ」

「ネコの、ひっく……おねぇ、さん?」

「えぇ、猫のお姉さんよ。怖かったわね? もう大丈夫よ、今から猫のお姉さんが悪い奴をやっつけるから」

「う、うん……! あ……ソラ、お姉ちゃんは……?」

「大丈夫、あなたのお姉ちゃんも無事よ。さぁ、危ないからお母さんと一緒にいなさい」

「うん……!」


 ミウィは母親に連れられて、村の皆が集まっている建物の(すみ)へと向かう。そこには、村の女達と女達を守るように陣を張った男達がいた。

 村の男達は、アルマに遅れて辿り着くとガルディアと共闘して聖国軍兵士を一旦下げさせ。その後、ガルディアの指示で身動きの取れなくなった女達を守るように囲んで陣を張ったのだった。


 アルマは、先頭に立って聖国軍兵士達と睨みあうガルディアと急ぎ合流する。

 

「ガルディアッ! 何をやっているの! しっかりしなさい!! 貴方なら守れるはずよッ!!」

「すまない、アルマ……注意力が欠けていた」

「言い訳は後よ。村の女達はあれで全員?」

「あぁ、全員だ。だが、それとは別にいた部外の2人とははぐれてしまった」

「部外の2人?」

「あぁ、赤いバツ印の装飾品を付けた少女と、フードを被った少年だ。アルマは見てないか?」

「フードの奴は知らないけど、女の子ならたぶん会ったわ、けどすぐ何処かへ逃げた。今は部外の奴はいい、リシェスはどうしたの? 見当たらないわ」


 アルマが横目で村の女達を確認するが、そこにはエルフの女性『リシェス』は見当たらなかった。生き残った村人の話では、リシェスも連れて行かれたと言っていたはずだった。


「リシェスは、村の女性達とは別の所に連れて行かれたらしい。だから、女性達を誘導しつつ怪しい場所を探していたのだが……このザマだ」

「反省も後よ。でも、気持ちは分かるわ。次はその時の状況に合わせて優先すべきことをしましょう。ほら、気を引き締めなさい……どうやら親玉のお出ましよ」


 アルマがそう言うとアルマ達を囲む聖国軍兵士達の後ろから、更に兵士達が集まって来る。

 アルマ達は村人も含めて、聖国軍に建物の壁に追いつめらる様にして囲まれている。兵士達との距離はあるが、もう村人達を連れて逃げる事は難しい状況となっていた。


 大勢の兵士達の後ろから誰かがやって来る。兵士達が自ら道を開けて、その道を進んでやって来た。


「さぁ、道を開けろ。僕はこの拠点の司令だぞ?」


 そう言って兵士達の開けた道から現れたのは、サイズの合っていない白いコートを腕を通さず羽織(はお)った人間(ヒューマ)の男だった。

 男はコートのボタンを閉めておらず、その開かれた所からコート下の服装が分かる。コート下には、アルマが初めて聖国軍と戦った時の指揮官と同様の白い軍服を着ており。両(えり)には銀色の棒が2本と銀の円が2つの階級章が装飾され、その胸には(きら)びやかな記章が飾られていた。

 あの時の指揮官と比べて、体系は健康的であり顔も整っている方に見える。あの時の指揮官の様な威厳の無さはないが、どこか服に着られている感じがあった。恐らくそれは、周りの兵士達よりも少しばかり背丈が低い事と、その若さが原因なのだろう。

 その男は、拠点を任せられる程の階級の者にしては若かった。


「ほぉ、お前らか。僕の拠点を荒らしたあげく、村人を牢から逃がした畜生は……。お前らといい、僕の兵士達といい……どこまで僕を馬鹿にすれば気が済むんだ? ……おい! 兵士長!! 早く来るんだ!!」


 この拠点の司令と思われる男がそう叫ぶと、男が来た道を辿ってまた1人やって来るのが見える。その人物は、どこか歩きにくそうに進み、兵士達の間を抜けて現れる。

 現れた人物は、背の高い女兵士だった。そして、その女に引きつられてもう一人。


「ガ、ガルディアさん……!」

「リシェス!?」


 後ろで手を縛られたエルフの女性『リシェス』が、背の高い女兵士に捕らえられていた。

 その背の高い女兵士は、他の兵士達の様には鎧や防具を身に付けてわおらず。動きやすいズボンの白い軍服を着て、二等辺三角形の白い略帽をかぶっており。両(えり)には銅色の棒が1つと、その銅棒の上に銅色の円が2つ付いた略章が付けられている。

 また、肩からは本専用の吊り下げ具の紐が伸びて、その紐の先には分厚い本がぶら下げられている。


「おい、兵士長。村の女達を捕えて来いと指示したのはお前か?」

「いいえ」

「では、僕の兵士達が何の指示も無しに身勝手に行動したと言う事か?」

「はい、その様で」

「どうなっている? 規律が乱れているぞ兵士長? 中尉でありながらお前には特別に、兵士長の権限を与え兵士達の指揮を許可させてやっているのだぞ? この意味が分かるか? 僕はこの拠点の司令だぞ? 僕に恥をかかせるな。お前の指導不足だ、お前の責任だぞ兵士長」

「……チッ、知るかよ。お前が勝手に私の意志を無視して任命したんだろ……コネ上がりのガキが」


 兵士長と呼ばれる背の高い女兵士が、あからさまに不機嫌な顔をして隠すつもりのない音量で呟く。

 その悪態に対して、司令の男はこれといって怒る事もなく兵士長の方を見上げて声を発する。


「何だ、兵士長? 文句があるのか? 僕は司令だぞ? お前は中尉、僕は中佐だぞ。僕の方が上なんだ、僕の言う事を聞け。お前の才能を僕が見込んでわざわざ抜粋し、階級だって少尉から中尉へと昇格させてやったんだ、僕の為に働け。それにお前の研究も僕の助け無しには――」

「……あぁ! 分かってる、分かってるよ!! 本当にネチネチうるさい奴だねアンタは! まったく……分かりましたよ、司令殿!!」

「そうだ、それで良い。まぁ、兵士達の勝手な行動のおかげでそのエルフの女を手に入れたんだ。その件については、そのエルフで帳消しにしよう。そのエルフには僕の――」

「あぁ、いい! いいってそんな情報、いちいち聞きたくない! それよりも、あいつらどうすんのよ? 村人含めて全員殺すの?」


 兵士長が、アルマ達に何の感情も無い冷たい目線を向ける。その目はアルマ達の命を何とも思わない、ただの物としか見ていない目だった。


「いいや、村人は男女問わず殺すな、この拠点の物として最後まで使う。始末するのはあの畜生共だ、僕の拠点を傷つけた罰を受けさせよう」

「あっそ。私はあの小僧さえいればあとは良いわ」

「小僧? あぁ、あの部外の少年の事か。あれは……お前の趣味か?」

「……違うわよ。あれは良い素質を持っているから、私の私兵として育てる。もしダメなら……素材に使う」

「ほう、なるほどな。んー、私兵か……」


 兵士長がアルマ達に呼びかける。


「おい猫! その中に部外者の小僧はいるか!」

「部外者の小僧?」

「村の者じゃない少年よ! フードが付いた服を着ていた少年だ!」

「む? フードの少年? 赤い装飾品の少女と一緒にいた少年の事か?」


 ガルディアが女の言葉に反応する。ガルディアはどうやら知っている様子だった。

 アルマはガルディアと、2人だけで聞こえる声で話す。


「ガルディア、その少年って?」

「うむ。さっきも言ったが、ピウス村の村人ではない部外者の2人も救助したのだが。それが赤いバツ印の装飾品を頭に飾った少女と、その少女の同行者であるフードの少年だ。2人とも、俺の失敗で兵士達に見つかった時に助けてくれたのだ」

「それでその少年は? 今はいるの?」

「いや、助けてくれた時にあの少女と共に何処かに行ってはぐれてしまった。今ここにはいない」

「そう、分かったわ」

「おい猫! 小僧はいるのか!? いないのか!?」


 兵士長から声が上がる。表情には出してはいないが、声がどことなく焦っている様にも感じる。


「その少年がいたらどうするつもり?」

「殺しはしない。あの小僧に用があるだけよ」

「……いなかったら?」


 アルマのその問いに、兵士長の口元に笑みが浮かぶ。


「安心して、小僧がいてもいなくても村人は殺しはしないわ……ただ、お前達はどの道死ぬけどな? 総員、戦闘用意」


 兵士長の合図で武器を構えた兵士達が前に出て来る。兵士達から殺意のこもった視線が、アルマとガルディアに向けられる。


「小僧は後で探す。司令、あの2体は始末するで変わりないか?」

「んー……まぁ、待て。気が変わった」

「は?」

「エルフを僕によこせ」


 司令の発言に困惑する兵士長をよそに、司令は兵士長の手からリシェスを受け取る。

 リシェスを連れた司令が少し前に出ると、アルマ達に見せつける様にリシェスを突き付ける。


「おい、よく聞け! 見たところ、お前達とこのエルフは仲間なのだろう? もしお前達が逃げようものなら、このエルフは惜しいが殺す!! 村人達もこの拠点で死ぬまで奴隷として使う!! だが……大人しく降伏し、僕の忠実な部下となると言うならば……このエルフも村人達も悪いようにはしない。更にはお前達の働きによっては、それ相応の地位も与えるぞ! どうだ、僕の部下にならないか!? こんな所で死にたくはないだろう?」


 司令はなんと、敵であるアルマとガルディアを自身の部下にさせようと勧誘して来たのだ。司令側が優勢と見て、わざと窮地(きゅうち)からの逃げ道を作るようにして誘う。司令の言った言葉が真実かどうかは定かではないが。


「はぁ? アンタ本気で言ってるの? 本気で部下にするつもり?」

「あぁ、もちろんだ。僕はいつも優秀な人材を欲しているんだ。僕の為に働く、忠実で優秀な駒をな? ……さぁ! どうだね!? 部下になるか、村人とこのエルフを見捨てて逃げるか!?」


 司令は懐からナイフを引き抜くと、それをリシェスの白く細い首元へと突き付ける。先程言った事は嘘ではないぞと示しているようだ。

 

 アルマ達の前には、この拠点に現在いる総戦力が集まり、アルマ達を完全に包囲している。

 アルマの後ろには、もう逃げる事の出来ない追いつめられた村人達

 村人達とリシェスを見捨てて、アルマとガルディアだけで逃げれば逃げ切れる可能性は(かす)かにある。しかし、リシェスは殺され村人達には悲惨な未来が待っている。


 アルマ達と聖国軍との間に沈黙が流れ、建物が轟々と燃える音がこの場にいる者達の耳に鳴り響く。

 その沈黙はものの数秒だった。時間にして約3秒だろう、だが村人や聖国軍兵士からすれば時が止まったかの様に長い時間だった。


 やがてその沈黙は、アルマの行動によって破られる。

 アルマは、構えていた腕を下ろしたのだ。


「……アルマ?」

「ねぇ、ガルディア。貴方は古代文明でのやってはいけない仕草を知っているかしら?」

「し、仕草……?」

「私ね、幼い時に教わったの……今がまさにその時だわ」


 アルマは腕を下したまま、司令に向かって数歩前に出る。そのアルマの口元には笑みが浮かんでいた。


「どうするか答えは決まったか?」

「答え? ふふ、えぇ決まってるわ? これが答えよ」


 アルマは右腕を司令に向かって伸ばし、そして――


「くたばれ、クソ野郎……ッ!」


 アルマは司令に向けて、中指を突き立てていた。

 侮辱の思いを込めて力強く突き付けた。どれ程侮辱しているかは、アルマの表情がよく物語っていた。


「嘘がバレバレなのよ馬鹿が。お前はキャルトの目について知らないのかしら? だとしたら、随分と教養の無い頭の悪い幹部くんね? その階級章も胸の記章も捨てたら? お前に似合ってないわよ? あと服も着られてる感があってダサいわよ、お前」

「……ぷふっ……だそうだぞ? 司令殿? おい、猫! お前とは気が合いそうだな!」

「は? ふざけるなよ? お前みたいな、卑しいのっぽおばさんと気が合うなんて冗談じゃないわ。それと、加齢臭くさいから近づかないでちょうだい。部下達も部下達なら上司も上司ね? お前ら臭いわ」

「――ッ!? こいつ……ッ!!」

「どうやら、交渉決裂のようだな」

「何が交渉決裂よ。元々、交渉なんてものではなかったじゃないの。喋るな馬鹿が」

「……やれ」

「言われなくても! 総員、攻撃開始ィッ!! あのクソ猫を殺せぇぇぇッ!!」


 鼻を摘まんでいるアルマに向かって。兵士長の合図で、一斉に矢と魔法が飛んでくる。アルマへの集中砲火だ。

 しかし、その矢と魔法はアルマに命中する事なく『壁』に(さえぎ)られた。


「あら、ガルディア。そういえば貴方、その盾は? 前の捨てたやつより大きいわね。どこまで耐えれるか試してもいいかしら?」

「やめてくれ!? これは兵士から奪った! それよりもアルマ、(あお)りすぎではないか!? アルマに集中してるぞ!?」

「何のことかしら? ……おい、お前達!! 矢が飛んでるわ! 女子供に当たらない様にしっかり防ぎなさいッ!!」

「「おう!」」


「突撃ぃッ!! 奴らを切り刻めぇッ!!」


 矢と魔法の一斉射撃の後、今度は近接武器を構えた兵士達が突撃してくる。


「ふふっ! さぁ、ガルディア……私の背中は任せたわよ」

「うむ! 任せろ!!」

「村人からは、離れ過ぎず近づき過ぎずに戦う!」

「了解した!!」


「「うおぉぉおおおおおッ!!!」」


 押し寄せて来る兵士達に向かって、アルマはガルディアを踏み台に跳躍する。

 アルマの振り上げた両手(こぶし)に魔力を込めると、青白い光と同時に真っ赤な炎が灯る。


「あはっ! 初っ端から飛ばして行くわよッ!!」


 アルマは兵士達に向かって地面にその拳を叩きつける。

 地面から真っ赤な炎の華を咲かせ、爆裂音と共に灼熱の炎と衝撃波が正面の兵士達に襲い掛かる。

 先陣を突っ切っていた兵士達がその攻撃に吹き飛ばされる。灼熱の炎に包まれた皮膚は一瞬にして焼けただれ。衝撃は四肢や胴体を引き千切る様に吹き飛ばし、骨は砕け、臓器は破裂し、真っ赤な血を撒き散らす。爆心地から近かった者ほど見るも無残な姿へと成り果て、離れていた者は地獄の様な苦痛を味わった。


 陣形を崩され、一瞬にして地獄絵となった光景に動揺する兵士達。アルマはそんな兵士達に容赦なく追撃をくらわす。

 アルマの両手から轟音と共に火炎放射が放たれる。アルマの放った炎が、死体に埋もれた兵士や腰を抜かした兵士、動揺し立ち尽くす後続の兵士達に襲い掛かる。

 アルマの炎が兵士達を包み込むと、少し遅れて一斉に兵士達の悲痛な断末魔が響き渡り、炎に包まれた兵士達がのたうちまわる。


「あはははッ!! ガルディア! 私に続きなさい!!」


「何を突っ立っている! 応戦だ! 応戦しろ!!」


 アルマ達と聖国軍兵士との戦闘が始まった。

 アルマが陣形を突き破り、その後をガルディアが追撃する。爆炎と共に肉片が飛び散り、笑い声と悲鳴が上がる。剣が振り下ろされる音に続いて血しぶきが飛び、装備を身に着けた人間が投げ飛ばされる。

 アルマとガルディアは、互いの背中を守りながら聖国軍兵士を蹂躙(じゅうりん)していく。2人の足元には、いくつもの黒い死体と引き裂かれた死体が転がっていた。


「アルマッ! 一旦後退だ!! 村人達から離れている!!」

「えぇ! そうしま――ッ!? ガルディアァッ!!」

「どうした――うおっ!?」


 突然、アルマが叫んだと思えば、ガルディアはアルマに思いっきり蹴り飛ばされた。

 次の瞬間、ガルディアがついさっきまで立っていた場所に何か大きなものが通り過ぎる。


「くっ……! なんなんだいったい!? アルマ、いったい何が――な、何だあれはッ!?」


 ガルディアはアルマに蹴り飛ばされ、上手く受け身をとれぬまま地面に倒れこむも素早く立ち上がり体制を整える。

 その彼が何事かとアルマの方向を見る。

 彼の見た先には『炎の獅子』がアルマを襲っていた。その数、4頭……4頭の炎の獅子がアルマを四方八方から襲っていた。


「アルマッ!! 今行くぞ!! ――くッ!?」


 アルマの窮地(きゅうち)に駆け出すガルディア。しかし、その行く手を(さえぎ)るように青い稲妻(いなずま)がガルディアの足元で炸裂する。地面は(えぐ)れ、今も小さな青い稲妻がパツパチと音を鳴らしながらその地面を這っていた。


「待つんだオーク。お前の相手は僕だ」

「ガルディアさん!」


 声の発せられた方向を見ると、そこには捕らわれたリシェスと彼女を捕えている司令がいた。司令が持っていた先程のナイフからは、青い稲妻がほとばしり。その刃先はガルディアに向けられていた。


「リシェス!」

「……オークよ、お前には兵士長があの猫を倒すまでの間、僕の相手をしてもらう。もし僕を無視してあの猫に加勢する様なら、このエルフを殺す」

「ガルディアさん! この人の言っている事は嘘です!! 私のことよりアルマさんを!!」

「司令! もうアンタの嘘は通用しないよ! それに私なら、私1人でこいつらを始末できる!!」

「なら、確実に1人ずつやろうではないか。可能ならこちら側に取り込め、こいつらは良い戦力になる」

「チッ……! 注文の多い奴だねアンタは!!」

「頼んだぞ?」


 司令の目線が再びガルディアに向けられる。この間も、アルマは4頭の獅子に襲われ続けていた。

 炎の獅子達は動きも早く、力も強い。あの凶悪な牙と爪に傷つけられればひとたまりもないだろう。アルマは間一髪の所で回避しつつ、獅子達と対峙していた。


「さて、エルフを殺すと言うのは確かに嘘だ。このエルフは非常に利用価値があるからな」


 司令はナイフをしまう。だが、その代わりに今度は綺麗に加工され先端に宝石が装飾された細く短い棒の杖(ワンド)を取り出した。

 その取り出した杖を、司令はガルディアに向けずにリシェスへと向ける。杖の先端に青白い光を灯らせて。


「だから、その利用目的の為にはこんな事はしたくはないんだが……≪(いかずち)≫よ」

「――あぁぁあッ!?」

「な!?」


 司令の持つ杖の先端が青く輝いたかと思えば、リシェスの体に青い電流が勢いよく流れ込む。電流はリシェスの体を痙攣されながら彼女に痛みを与える。

 司令はすぐさま魔法を止める。リシェスに電流を流した時間はほんのわずかだったが、彼女に痛みを与えるには充分だった。リシェスの額に汗が流れる。


「う、あ……はぁ……はぁ……」

「大事な体だ。本当は傷つけたくないが、オーク……お前があの猫の助けに行くのならこのエルフに苦痛を与え続ける。死にはしないが、後遺症なり残るかもな」

「貴様……ッ!!」

「ガル、ディアさん……(わたくし)の、ことはいいので……アルマさんを……」

「ほぉ、あの威力を体感しても(なお)も他人を気遣うか。なかなか強い女だ、ますます気に入ったぞ? さぁ、どうするオーク?」


 アルマは今も尚、獅子達と戦っていた。

 ガルディアは考える。今、優先すべきことは? 何が最善の選択か? アルマならなんて言うか?

 

 ……自分は、どうしたいか?


 ガルディアは盾を構え、剣先を向ける……リシェスを傷つける司令へと。


「アルマとはまだ出会って間もないが、それでもアルマは俺の事を信頼してくれている。ならば、俺もアルマを信じる! 彼女の望みの一つは皆を無事に連れ帰ることだ。であれば、俺の今すべきことはリシェス……貴女を救うことだ!!」

「ガルディア、さん……」


「「ガァァアアァアアッ!?」」


 アルマのいた方向から野獣の叫び声が聞こえてきた。

 そちらに目を向けると、アルマの手には獅子の生首が吊るさられていた。その獅子の顔を見れば、壮絶な死を迎えたことが見てとれた。


「ガルディア! ……そっちは任せたわよ?」

「うむ……任せろ」


 アルマはそう言いながら横目でガルディアを見つめる。その目はどこか満足気だった。


「決まったようだな……歩兵隊、前へ。おい、そこのお前」

「はッ!」

「このエルフをしっかり持っておけ。逃がすなよ?」

「はッ!!」


 司令を中心に聖国軍兵士達がガルディアにジリジリと近づく。どうやら相手をすると言うのは、他の兵士達を含めての相手だったようだ。


「……1対1、ではないのだな?」

「あぁ、ははは、悪いな。僕はあの兵士長の様に強くないんでね。まぁ勝てば良いんだよ、勝てば……歩兵隊、攻撃開始! ――≪雷≫よッ!!」


 司令の杖から青い雷がガルディアに向かって放たれる。

 ガルディアは構えた盾に力を入れ、青い雷を盾で受け止める。雷の威力は強く、踏ん張っていたガルディアを少し押し戻した。それだけでなく、直撃を免れたにも関わらず強い電流がガルディアの体に走りダメージを蓄積させる。

 司令の攻撃に続いて兵士達がガルディアに突撃する。


「うりゃぁぁあ!!」

「ふんッ! せぇやぁぁッ!! ――ッ!?」

「あ゛ッ……カハッ……ッ」

「……なんだ、今の感じは?」

「死ねぇぇ!!!」

「む! ふぅッ!! でぃぁああッ!!」


 兵士達の攻撃を盾で防ぎ、剣でさばき、その怪力を活かした渾身の斬撃と刺突を繰り出すガルディア。しかし、その一つ一つの動作の中で何か知らぬ違和感をガルディアは感じていた。


「――≪雷≫よ!!」

「む!? ……くぅッ!?」


 兵士達と間合いを取っているガルディアに、再び司令の魔法が放たれる。

 司令の詠唱に気づくガルディア。彼はすかさずそちらに盾を構え、その魔法を防ぐ。だがまたしても、ガルディアに強い電流が走る。

 司令の雷魔法の威力は、あの山賊のハンマーに比べれば大した事はない。威力自体はそれほど脅威ではなかった。しかし、本当の脅威はそれではなかった。


「おらぁぁッ!!!」

「ふんっ! ――ぬぉっ!? なんだッ!?」

「おいおい! どうしたオーク!? 急に力が無くなったぞぉ!?」

「ちぃ……ッ! ぬぉぉおおおおおおッッ!!」

「どわぁぁああ!?」

「まただ、また違和感が……!」

「――≪雷≫よ!」

「――しまッ!? ぐぅぅッ!!?」


 青き雷がガルディアを襲う。今度は防ぐことが出来ずに、ガルディアは直撃をくらってしまう。

 直撃した所から青い稲妻がほとばしり、その衝撃でガルディアを吹き飛ばす。彼は上手く受け身を取れぬまま地面へと転がってしまう。

 ガルディアは追撃に備え、激痛が走っていようとも立ち上がろうとする。だがここでガルディアは、あの雷魔法の脅威に気が付く。


「――ッ!? ち、力が、入らない……ッ!? まさか、これは……ッ!!」


 ガルディアの体に力が入りずらくなっていたのだ。

 青い雷が今もなおガルディアの体に走り、痛みと共に筋肉を痙攣させ神経を麻痺し、体の自由を奪っていたのだった。


「ようやく効いて来たか。流石オークだな、丈夫な体だ……ふむ、これはオークで固めた分隊を作るのも良いかも知れないな」

「貴様……!」

「ん? あぁ、雷魔法は初めてか? まぁ無理もないか、雷魔法は上級魔法技術に分類される。扱える者は少ないからな……とは言っても、僕自身も簡単に扱えてる訳じゃないがな? この杖をよく見てみろ。見えるか? 模様の様なものが描かれてあるだろ?」


 司令は自身が手に持っていた細く短い棒の杖を、杖の全体が見えるように持ち替えてガルディアに見せつける。

 その杖には、司令が言っていた様に杖に金粉で染められた模様が描かれていた。


「これは『魔方陣』だ、分かるか? この杖には『雷』の魔法陣が付与されている。これと先端のこの魔力石のお陰で僕は『雷』の魔法が容易に扱えるのさ。さっきのナイフも、これとはかなり威力は劣るが魔法陣が刻まれている。魔道学も随分(ずいぶん)と発達したものだな? ははは」

「なるほど……確かに、その技術は凄いな……ぬぉぉぉおおお……ッ!!」


 ガルディアは先程よりは弱くなった電流の走る体を無理やり動かし、膝を地面に付き、剣を突き立ててゆっくりと立ち上がろうとする。


「おぉ、立ち上がるか! この『雷』の魔法は雷魔法の初歩的な攻撃魔法とは言え上級魔法だ。それなりの威力はあるぞ? それに初めて雷魔法を受けたんだ、なかなかやるじゃないかオーク。――≪雷≫よ」

「ぐぉぉおおお……ッ!!?」

「ガルディアさん!!」


 司令の追撃の攻撃がガルディアを襲う。

 ガルディアは盾を構えてそれを防ぐも、盾を伝って再び強い電流がガルディアの体に走る。それを見てリシェスの悲鳴の様な声が上がり、ガルディアの耳に入る。


「オークよ。再度聞くが、僕の部下にならないか?」

「断る!!」

「なぜだ? お前も、あのエルフも殺しはしない。僕に従えば悪いようにはしないぞ?」

「うるさい!! 貴様の様な奴に、リシェスは渡しはしない!!」


 ガルディアの体に魔力が流れ、青白い光が灯る。



―― 治癒魔法《自己再生》……発動

―― 変異魔法《肉体強度強化》……発動

―― 変異魔法《身体能力強化》……発動



「でぃやぁぁぁあああああッ!!」

「な!? こい、つ――ぎゃ」

「しぃやぁぁああッ!!」

「あ゛――」


 青白い光と共にガルディアは立ち上がり、先程とは段違いの動きで周りにいた兵士達を斬殺していく。

 その巨体からは想像もつかない素早い動きで移動し、薄い装甲の鎧は彼の斬撃の前では無意味だった。その斬撃は装甲を突き破り、鎧ごと肉を斬撃する。

 

「なんだ!? 何があった!? さっきと違うじゃないか!? ≪雷≫よ!!」

「ふっ!」

「避け……ッ!? ≪雷≫よッ!!」

「――ッ!!」

「また避けたッ!? 馬鹿なッ!?」

「ひっ!? く、来る――」

「しぃぁッ!!」

「――な、ぁ、ぇ?」


 ガルディアは、司令とリシェスを捕えている兵士を残して、魔法を回避した先の最後の兵士の首を切り飛ばした後、自身の持っている剣を逆手に持ち替え、離れている司令に投擲する。その軌道は司令の心臓を(とら)えていた。


「――≪磁場障壁≫ッ!!」


 ガルディアの投擲した剣は、司令の伸ばした左手の前でビタリと止まった。それはまるで、司令の前に目に見えない壁が現れたかの様で剣は宙に浮かんでいた。

 司令のその左手には、手甲がはめられていた。


「なに!?」

「消し飛ばせ! 雷鳴と共に!! ――≪雷≫よぉッ!!」

「ぬぐぁぁああッ!?」


 突然の予期せぬ現象に動揺したガルディア。その動揺の隙をついて、ガルディアに今まで以上に強い青い雷が放たれる。

 ガルディアは咄嗟(とっさ)に盾で防ぎ直撃は避けたものの、今度の魔法は持続的に放出され続けるもので、その電圧の威力に押されて身動きが取れなくなり、流れ込む大量の電流に力が削られ徐々にガルディアの生命を脅かしていく。


「はははは!! 惜しかったな!! 魔道具とは本当に便利なもんだ! さてオークよ、最後通告だ。僕の部下に――」

「――断るッ!!」

「……そうか。ならば、そのまま焼け焦げろぉッ!!!」


 司令の杖がより一層青白く輝くと同時に、魔法の威力が上がった。それにはガルディアも堪らず膝を付く。


「ガ、ガルディアさん!?」


 リシェスの悲鳴が響く。


 その悲鳴の直後、それに続くようにしてアルマと兵士長のいる方向から熱風と共に轟音が鳴り響く。何事かとそちらを見るリシェス。そこには"灼熱の炎を纏った巨人"がいた。

 炎でできた獅子の(たてがみ)を生やし、頭部に山羊の角を伸ばした炎の巨人がいた。


「し、司令! あれはいったい……!?」

「ほぉ! 兵士長に『炎の悪魔(イフリート)』を召喚させたか!」


 炎の巨人の動きに合わせて轟音と衝撃が、空気と地面を揺るがす。巨人が放った火球が建物と地面を破壊する。

 巨人の動きに司令は魔法を放ちながら横目で確認し、リシェスを捕らえている兵士は完全にそちらに注目していた。

 リシェスは、その事に気が付く。


「く……ッ!!」

「しまった!? ま、まて――って、なんだこれ!? 俺の足に、木のツタが……!?」


 完全に炎の巨人に注目していた兵士の隙をついて、リシェスが兵士の手を振り解き司令へと走り出す。


「この……ッ!!」

「うあッ!? なんだお前!? やめろ、どけッ!!」

「どきませんッ!! はぐ……ッ!!」

「――ッ!? 痛……ッ!?」


 リシェスが司令へと体当たりし、その体を使って司令の杖を持った腕に()し掛かる様にして組みつく。更に、そのまま体をずらして司令の腕に噛みつく。

 司令を倒れさせるまでには至らなかったが、魔法を止めさせるには充分だった。ガルディアへの攻撃が止む。


「どけと言っているだろ!! この女……! 邪魔を――するなッ!!」

「あぁッ……!」

「……リシェス!」


 司令はリシェスを引きはがすと、力一杯にリシェスの頬を叩いて突き飛ばす。

 リシェスは体制を崩し、手を後ろで縛られている為に受け身も取れぬまま地面に倒れこむ。

 上手く起き上がることの出来ないリシェスから司令が距離をとると、その杖をリシェスへと向ける。


「くそ……ッ! どいつもこいつも、僕に歯向かいやがって!? ……そんなに痛い思いをしたいなら、望み通りにしてやるよ!! 消し飛ばせ! 雷鳴と共に……!!」


 リシェスに向けた司令の杖が魔力と共に青白く輝く。

 司令は冷静さを失っていた。ガルディアから見ても、その杖に流し込む魔力はガルディアに対してと同等、もしくはそれ以上だと感じ取れた。もし、ガルディアではない者があの威力の魔法を受ければただでは済まないだろう。

 最悪の場合、リシェスは死――



 ―― O(オー)タイプ固有能力《防衛本能(ディフェンスシステム)》……発動、リミッターを一時的に解除



 大きな物体が風を切り、地面に突き刺さっていた剣が引き抜かれる。


「……≪雷≫よッ!!」


 青い閃光が眩く光り、青い雷がリシェスへと放たれた。

 対象へと命中した青い雷は、バチバチと危険な音を鳴らしながら弾け飛ぶ。持続的に放出され続ける青い雷は対象だけでなく、弾けた雷は対象を中心に周囲の地面までも抉り飛ばす。

 それは、近くにいたリシェスを捕らえていた兵士までをも襲う。その兵士は全身を痙攣させながら白目を向き、煙の上がるその体は大量の電流によって焼かれ、その心臓は機能を果たさなくなっていた。


「あははははは! どうだ女!? 痛いか? 熱いか!? 僕に逆らうと言う事はこういう……こ、と……あれ?」


 そこで司令はある違和感に気が付く。

 狙った対象の前に、別の何かがあることに。


「……やはり、定期的にこの電流には慣れておかないとな……ッ! 数年ぶりだと体が鈍っている……ッ!」

「へ?」


 そこには『壁』がいた。


「ガルディアさん!」


 リシェスの前に、ガルディアが立ち塞がっていたのだ。

 構えた盾で放たれ続ける青い雷を受け止め、盾を伝って流れ込む大量の電流をその身に受けていた。彼女を守る為に。

 そしてガルディアは、魔法を防ぎながら前進する。


「そんな!? そんな馬鹿な!? 何で動けるんだ!?」

「この魔法を受けるのは、初めてではないからだ……ッ!!」

「そッ……そんな事で、動ける訳がないだろうがッ!? ふ、ふざけるなぁぁああああッ!!!」

「ぬぅぅううッ!!?」


 司令がさらに魔力を込める。青白い光が更に強く輝き、放たれる青い雷の勢いが増す。その威力にガルディアの動きが止まる。


「ガ、ガルディアさん!? いけません! それ以上は!? 逃げて……ッ!!」

「死ねぇぇえッ!!! オークゥッッ!!」


「「――断るッ!! 俺はリシェスを守るッ!! 貴様にこれ以上、リシェスを傷つけさせはせんッ!!」」



―― 付呪魔法≪属性吸収≫……発動、雷属性を検知・吸収

―― 連鎖魔法、発動可能……発動

―― 付呪魔法≪雷属性付与≫……発動

―― 変異魔法≪雷耐性強化≫……発動



 ガルディアの体と、彼の持つ剣と盾に魔力が流れる。

 ガルディアへと放たれる雷が剣と盾へと吸収され、青い雷が剣と盾に(まと)う。雷によって止まっていたガルディアの足が再び動き出す。一歩、また一歩とその速度を上げながら前進する。


「は? へ!?」

「ぬぉぉぉおおおおッ!!」

「なぜだ!? なぜ動けるんだッ!?」

「……覚悟ッ!!」

「――ッ!? ≪磁場障壁≫ッ!!」


 司令が左手を伸ばし、司令の前に見えない障壁が張られる。その障壁は、先程ガルディアの剣を防いだ障壁だ。


「でぃぃぃいいいいあぁぁああああッッッ!!!」


 次の瞬間、ガルディアの青い雷を(まと)った剣による渾身の突きが繰り出される。

 空気を切り裂き、障壁を突き破り、司令の左手を貫く。


 そして……


 雷の剣が雷鳴と共に、司令の頭部を貫いた。貫かれた頭の後頭部は、内部から破壊される様に吹き飛び肉片をばら撒いた。


「貴様の雷に何故耐えられたかだが……俺の母の雷の方がもっと恐ろしいし、痛かったからだ」


 突き刺された剣を支えに膝から崩れる屍。ガルディアが足を使って剣を引き抜くと、その屍は重力に従ってゆっくりと後ろに音を鳴らして倒れる。

 聖国軍拠点の若き司令は、自ら放った雷を纏った剣に貫かれて死んだ。


 ガルディアは、聖国軍兵士達から捕らわれたリシェスの救出に成功した。


「ハァ……ハァ……」

「ガルディアさん……」

「すぅーっ、ふぅぅー……リシェス、今その縄を解く」


 ガルディアは深呼吸した後、すぐさまリシェスの拘束を解く。縛られていたその綺麗な手首には、縄で縛られていた痛々しい跡が残っており。ぶたれた頬は、少し赤く染まっていた。


「すまないリシェス、痛かっただろう? 俺がもっと強ければこんな事には……」

「いえ、そんな……! ガルディアさんに比べば(わたくし)のなんて大した事ありません! それに、私はガルディアさんのお陰で生きているのです! 貴方がいなければ私は……」

「いや、リシェスのあの助けがあったから勝てたのだ。あの時は、助けてくれてありがとう」

「え……! あ、あの、その……はぃ……」


 リシェスはガルディアの大きな両手に、下から支えられる様に手を握られながら感謝の言葉をもらう。その頬を、ぶたれた時よりも真っ赤に染めながら。


「さぁ、リシェス。貴女はあそこにいる村人達に合流するんだ」

「ガルディアさんは?」

「俺はアルマの助けに――」


 近くで轟音と共に地面に衝撃が走る。


 その後すぐに、また別の轟音が鳴り響き周囲の光が真っ赤に染まる。それに合わせて、灼熱の熱風と共に周囲の気温が一気に高くなる。


「――ッ!?」

「ガルディアさん! あれを!!」


 リシェスがガルディアの後方を指さす。その方向はアルマと兵士長、そして炎の巨人がいる方向だった。

 ガルディアがその示された方向を見る。するとそこには、炎の巨人が何かを地面に押さえつける様にして片腕を地面に付けており。そこに向かって地獄の様な炎を放射していた。


 轟々と放射される炎の音の中、村人達の方から声が聞こえる。幼い子供の声が。


「――ネコのおねぇさんッ!! 死んじゃダメぇぇ!?」


 『ネコのおねぇさん』……それが意味するのは。


「……まさか!? アルマッ!!?」


 巨人の吐く炎の先に、アルマがいた。

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