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アルマの叫び  作者: (iTi)miru
第2章 炎の悪魔
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第12話 猫と村の男達

 【聖国軍拠点内 屋外】


 ガルディアが食堂で女達を助け出してから数分後……。


「ひぃ、ひぃぃ!?」

「お、おい! 逃げるな――あ゛ぁ゛ッ! あぁぁああぁぁあッ!? お、俺の、が……ッ」

「は! クソ野郎のうえに、モノも小さいの――ねッ!!」

「ぎ――」

「た、たすけてッ! 誰か……!」

「……逃がすかッ!!」


 何かが破裂するような音が響く。


「うぐッ」

「あはッ! 捕まえたぁ……ッ」

「お、お願いします! 殺さないで! ころさ、ああぁあぁああッッ!! 腕! 腕がぁ!!」

「いやらしい欲を叶えようとするこんな悪い両手、いらないでしょぉッ!!」

「あ゛ぁ゛あぁぁああああッッ!!!??」

「うるさいッ!!」

「あぇ――」

「ふふ……ふふふ……ッ」


 拠点の正門が破壊されてから約10分の時間が経った。


「おい! いたぞ!! 侵入者だ!!」

「包囲しろ!! 一斉にかかれッ!!」

「ふふ、ふふふふ…………アハハハッ!!」


 その約10分で、拠点の3分の1が火の海と化していた。

 正門から続く火の手が上がった道を辿れば、そこら中に真っ黒な物が転がっている。それは、真っ黒になるまで燃やされて炭化した人の焼死体だった。

 その黒い物体は、正門からまるで道を描くように幾つも転がっており。その数は、山賊の城にいた山賊達の数を上回っていた。


 そして、その黒い物体を追って辿り着いた先に――


「アハッ! アハハハハハハッ!! ふふッ! いいわぁ! もっとよ! もっと来い……ッ!! うふふふふッ!! 殺す! 全員殺すッ!! お前ら全員、皆殺しにしてやるわぁ!!! アハハハハハハハッッ!!!!」


 ――『悪魔』がいた。


 その悪魔は、憎い聖国軍兵士を惨殺しながら。邪悪な笑みを浮かべてとても愉快に笑っていた。


 黒い猫の耳、漆黒の長い髪、赤みかかった灰色の毛と猫の尻尾、そして金色の瞳を宿したキャルトの女……『アルマ』だ。


 彼女は、向かい来る憎き聖国軍兵士を殺しに殺しまくっていた。惨く、苦痛を与えながら焼き殺して行った。


 憎き聖国軍兵士を殺しても殺しても、止まる事なく湧き上がる憎しみと怒りがまた殺意を生み出し、

 その殺人衝動が彼女を湧き立て、そして興奮させる。


 そんな彼女はキャルトである為、皮膚が毛で隠れて肌の色が読み取れない。しかし、例えその皮膚が隠れていようとも、その頬が赤くなっている事などその笑みから容易に読み取れる。


「フゥーッ! フゥーッ!!」


 先ほど現れた聖国軍兵士達を殺した頃には、アルマは完全に興奮しきっていた。その目は大きく瞳孔を開いており、耳をたたんで尻尾をビタンビタンと激しく振っている。

 兵士達を殺していくに連れて冷静さを失っていったアルマは、途中から建物の事など気にせず、ただ兵士達を殺す事だけを考えて見境なく暴れていた。


 だから、そんなアルマに不用意に声でもかけようなら……。


「お、おい! そこキャルトのお嬢さん!!」

「ヴぅぉぅうううッッ!!!! シャァァアッッ!!」

「ひぃぃぃいいいッ!? あち! アチチチ!!?」


 ……誰であろうとアルマの火の粉が降りかかるだろう。


「ま゛! 待ってくれぇ!! 僕たちはて、て、敵じゃない!! 攻撃しないでくれ!!」


 そう言って、先程アルマに不用意に声をかけてしまった不運な男とは別の男が、両手を挙げて立っていた。その男、いや男達は牢屋の様な建物の中にいた。


「ア゛ぁ゛ッ!? ダレだ、オマエラぁッ!!」

「ひぅッ! ぼ、ぼぼ、僕達は聖国軍じゃない……ッ! や、奴らにむ、む、無理やり、働かせられて、る――ハァ! ハァ! むむ、村人だ……!!」


 牢の中のその男は、緊張から上手く呼吸できず呼吸を乱しながらそう叫んだ。

 アルマと喋ってる間、アルマの殺気に当てられ過ぎてガクガクと震えだしたその男を含めて、その牢に入れられていた男達はどうやら村人らしい。


「……オマエ達、ピウス村の?」

「そ、そうだ! 僕達はピウス村の住人だッ!! し、知っているのかい!?」

「フーッ、フーッ…………えぇ、知ってる」

「本当か!?」


 牢の中の男達が一斉に歓声を上げて立ち上がる。


「お、俺たちをここから出してくれ!!」

「村の女達がここに連れて来られたと聞いたんだ!! 俺の妻が捕まってるかもしれねぇ! 出してくれぇ!!」

「ぼ、僕もだ! 妻と娘が危ない!! 助けに行きたいんだ!!」

「オイラのねぇちゃんもだ! 頼むよ! ここから出してよ!!」


 村の男達が一斉にアルマに救いの手を求める。ここから出してくれ、助けに行きたいと叫ぶ。


「う゛るさいッッ!!」

「「――ッ!?」」

「『ここから出して』じゃないわ……! 何で今もそこにいるのお前達はッ!?」

「え……」


 アルマの突然の叱咤(しった)に男達の声がピタリと止まる。

 アルマはまだ興奮が収まっておらず、血走った目のまま男達へと近寄るとその鉄格子を掴む。するとその鉄格子は、音を立てて赤く熱を発していく。


「お前達の大切な人が危ないのでしょう!? それを知ったのでしょう!? じゃあ何故、今もその中でうじうじと留まっているのかと聞いているのよッ!!」

「え、あ、それは……」

「何? チャンスを(うかが)ってたの? 念入りな作戦を立てていたの? 違うわよね? 怖かったんでしょ? あのクソ共に殺されるのが、目の前で自分の女や家族が犯されるのを見るのが、大切な人が殺されるのを見るのが怖かったのでしょう!? それをしてくる、あのクソ共自体が怖いのでしょう!? 怖くて動けなかっただけ!! 傷つくのが怖くて、目を背けて逃げていただけでしょ!?」


 違う――。そう声に出そうとして、男達の口が開いたまま動かなくなる。

 彼らも本当は分かっていた、自分が聖国軍を恐れている事を、死ぬのが怖い事を、見たくないものを見せられる事を。だがそんな弱い自分が嫌で、彼らは気が付かない内にその事から目を背けて逃げていたのだった。


「それで? 可能性が見えたから行動するの? 誰かの助けが来たから動き出したの? ふざけるな!! それじゃあ遅いのよッ!! 可能性が来てくれるのを待ってたら何もかも手遅れよッ!? お前達はまだ生きているのでしょう!? 動かせる体があるのでしょう!? だったら動けッ!! 戦えッ!! 自ら動いて可能性を見つけ出しなさいッ!! 生きている限り、生きる事を諦めるんじゃないわよッ!! ――バカァアッ!!」


 アルマは掴んだ鉄格子から、根こそぎ鉄格子の枠を引っ剥がす。

 それからアルマは呼吸を乱しながら、男達に背を向けて立ち去ろうとする。それは、勝手に逃げろと言っているものだった。

 村の男達が、その背中を見ながら呆然と立ちすくむ。


「ま、待ってくれ!」

「……あぁ?」


 だが、そのアルマを呼び止める男がいた。苛立ちを隠すことなく、アルマはその呼び止めた男を睨む。


「ま、まだ間に合う、だろうか?」

「何? じゃあ、もう間に合わないと言ったら? 諦めて何もせず帰ってくれるの?」

「い、いや……」

「チッ……間に合う、間に合わないだとか。願いが叶う、叶わないだとかを考えて迷っていたら。間に合うものも間に合わないし、叶えられるかもしれない事も叶わないわよ」

「う……」

「……あぁ、もう! お前は今、どうしたいの?」

「え? ……ぼ、僕は、僕の妻と娘を助けたい……!」

「なんでッ?」

「……妻と娘が、あいつらに汚されるのが嫌だ……。2人を失うのが嫌だから……」

「それで? だからどうするの?」

「……僕も、僕も連れて行ってくれ。頼む。僕も、あいつらと戦うよ」

「オ、オイラもだ! 戦うよ!!」

「お、俺も……!」

「俺もだ!」


 その男の後に続いて、村の男達が次から次へとアルマと共に戦う事を宣言していった。

 アルマはそれに更に苛立ちを覚えた。だか、そこに同調などと言うものは無かった。その目を見れば、一人一人が己の大切なものを守る為に立ち上がっている事が分かった。

 そんな男達にアルマは、苛立った声で問いかける。


「……覚悟は出来ているのでしょうね?」

「あぁ……妻と娘を守る為なら、死ぬ覚悟だって――」


 そう男が言いかけた所で、アルマが目にも止まらない速さで移動し、その男の顔を鷲掴みにする。顔を掴んだ手の指と指の間から見える、その男の目を覗き込んでアルマが静かに、そして冷たく言い放つ。


「違うわ。お前の死ぬ覚悟なんていらないのよ。私が言っているのは、手足が千切れてようとも、目が見えなくなろうとも、お前の大切なものを守り抜き、そして生きて帰る覚悟よ? ……その覚悟はあるの?」


 その言葉は決して大きな声ではなかった、だがこの場にいる男達全員の耳に響いた。


 その男の鼓動が音を鳴らしながら激しく動く。その肩に重たいものが()し掛かる。男は生唾を音を鳴らせて飲み込むと覚悟を口にする。


「あぁ……! ある!」

「……ふん」


 アルマはまるで興味が失せたように鼻を鳴らすと、男を離す。そして次の獲物を求めてどこかへ行こうとする。


「い、いいのか!? ついて行っても!?」

「好きにしなさい。でも、いちいちお前達の面倒は見てられないわ。自分の身は自分で守りなさい。だけど死ぬ事は許さない! 私はソラに全員連れて帰ると言ったの。地獄の様な苦痛を与えてでも連れて帰るから、怪我はしないことね。……分かった?」

「あ、あぁ……」

「返事はぁッ!? 聞こえないわよッ!?」

「「は、はいィ!!」」

「はぁ……まったく、男って……」


 アルマが顔を手で押さえて、ため息をつく。しかし、アルマが気疲れする暇も無く別の事が起こる。


「……ァ…ァ…ァァァァァアアアアアアアアアッッ!!」


「あ?」


 アルマが手で顔を押さえて、ため息をついていると。突然、正面から誰かが悲鳴を上げながら走ってくる。それも、その後ろに大勢の聖国軍兵士を引き連れて。


「いぃぃぃいやあぁぁああああ!!? しぬぅ!! 死んじゃうぅぅぅうううううッ!?」

「何……あの子?」

「死ぬぅ! し――はうぁッ!?」


 目に大粒の涙を溜めて、悲鳴を上げながらアルマへと向かって来たのは……一人の少女だった。


 その少女は、自身の前方にアルマの存在を認識すると、キィィィイイ! っという音でも鳴らすかのようにして無理やり速度を落とし、アルマの前で止まる。


 「あ、あわ……わ」


 その子はまごうことなき、少女だった。

 アルマより背が低く、年齢もアルマより低いのが分かる。外見からして人間(ヒューマ)だった。

 2本の三つ編みを後ろに伸ばした、東雲(しののめ)色の髪。

 青緑(あおみどり)色の大きな瞳。今は困った様に歪めた、少しばかり太い眉毛。

 肌は東寄りの白い肌で、今はその肌を更に白くする様に顔を真っ青にしてる。

 服は、女の子らしい赤い服に茶色のミニスカートで、その下に黒いスパッツを履いており、靴は動きやすくも頑丈そうな茶色い靴だった。背中にはリュックを背負っていた。

 そして、頭の横には赤いバツ印のアクセサリーが付いていた。


 小動物の様に怯える彼女は、聖国軍の装備を着たアルマと目が合うと瞬時に理解した。


 あ゛ぁ~、こいつぁマジでやべぇ奴だ。……っと。


「――ッ!」

「あ、ちょっと……」


 少女は声を発する事無く、即座にその場から逃げる。脱兎の如く、直感を信じ、本能の警告に従って悲鳴を上げる暇も無く全力で逃げた。

 この時の選択は、少女にとっての人生で一番正しい選択をしていたと生涯で常々思う事となった。

 

 アルマが呆然と立っていると、また前方から声が聞こえてくる。


「おい! 向こうに逃げたぞ!!」

「待て! 前方にもいるぞ!! 二手に分かれろ!!」

「「了解!!」」


 赤い服の少女が別の方向へと逃げると、それを追って聖国軍兵士達も追いかける。

 だが、その片方の兵士達が殺意を剝き出しにして剣を向けて来る。もちろん、その剣が向けられた先はアルマ達だった。


「お前達、剣を取りなさい」


 アルマは村の男達にそう告げる。

 村の男達はそれに従って、アルマが殺した兵士の武器を手に取る。

 彼らは、手に取った武器を自然と構える。今まで恐怖の対象として見ていた聖国軍兵士達に向かって武器を構える。もうそこには、聖国軍に対する恐怖は無かった。あるのは死の恐怖、大切な人を失う恐怖。そして、大切な人を守って生き残る闘志があった。


 アルマはそれを見ると、少しだけ関心した様に微笑む。それからすぐに、聖国軍兵士達に対して邪悪な笑みを浮かべて叫ぶ。


「――殺せ! 殺すのよ!! あのクソ共を皆殺しにするぞッ!!」

「「うぉわあああぁぁあああ!!!!」」


 聖国軍と村の男達を率いたアルマの戦闘が始まった。


「な、なんだこいつら!? 村の男達じゃないか!?」

「うろたえるな! たかが村人だ! ただの雑魚だ――」

「――そうね、相手を軽視して油断している奴ほど、雑魚な奴はいなわね」

「え?」


 アルマが油断していた兵士に音もなく素早く接近する。その兵士の下顎に爪を立てると、一気に引き裂く。たったそれだけで、その兵士の顔の下半分が無くなってしまう。そのままアルマは、そいつを蹴り飛ばし後続の兵士にぶつけると、人の頭サイズの火球を作り出し、その兵士に向かって飛ばす。


「獲物から目を離しちゃダメよ? じゃないとお前が狩られる側になるわよ?」


 アルマの火球が直撃した瞬間、激しい爆発が起こる。その爆発に巻き込まれた兵士達は、跡形も無く肉の破片となり、爆心地ギリギリの兵士は体の一部を大きく失って死んだ。

 アルマのその一撃で、アルマ達と同等の人数がいた兵士達の半数が一瞬で死んだ。

聖国軍兵士達はそれによって、一気に体制を崩す。


「何をぼさっとしているの!? 囲めッ! 誰一人として逃がすなッ!!」

「「おう!!」」


 アルマの指示で、体制が崩れた聖国軍兵士達を村の男達が囲む。

 盾を持った者が前に立ち、その後ろに剣を持った者や槍を持ったが並ぶ。日頃から、遠目から兵士達の訓練風景を見ていた村の男達。特に意識している訳でもなく、戦う意思が、本能が、彼らの体をその様に動かしていた。


「ふふッ! やるじゃないッ!! ちょっと見直したわッ!!」

「わっ!? く、来るぞ!?」

「ミ゛ャアァァアアア!!」


 逃げ場の失った兵士達を、アルマが蹂躙(じゅうりん)していく。

 ただ殺すだけでなく、苦痛を与えながら殺す。手足を引き千切り、喉を嚙み千切り、腸を引きずり出し、目玉を抉り取る。そして、男性器すらも潰してから引き抜く。

 アルマの殺戮は、まるでこれまでの罪を裁くかの様に、その罰を与えているかの様だった。村の男達にはそう見えた。

 

 途中、恐怖のあまり囲んでいる村人達に向かって突っ込んでくる兵士もいたが、彼らは今まで見てきた訓練通りに動き、兵士を殺していった。

 そうして、最後には兵士達の惨たらしい黒い焼死体が残った。アルマの炎を纏った手足で殺された者は皆、その炎で焼かれていった。


「フーッ! フーッ!! ふふ、ふふふッ!」

「キャ、キャルトのお嬢……さん?」

「アルマ、よ……ッ」

「え?」

「私の名は、アルマ……ッ」


 アルマはまた興奮して、呼吸を荒げながらそう答えた。


「ア、アルマ、様……こ、この後は……?」


 村人が勇気を出して、アルマに質問する。


「フーッ、フーッ……さっきの女の子が向かった先へ行くわ。そこに、クソ共がいる、から」

「あ、アルマ様、大丈夫ですか? 何か、その、辛そうですが……?」


 アルマは前の戦闘よりも、激しく呼吸をしていた。それはまるで、体力が減って来ているようだった。


「はぁ……はぁ……、どうやら、この力を手に入れてから、体力が増えたとはいえ……やっぱり、私には、あまり体力が無い、のね……」

「アルマ様……?」

「すぅー……、はぁぁー……。大丈夫よ、ありがとう。……行くわよ」

「は、はい!!」


 アルマは改めて、この謎の力の強化と体力を付けなければならないと実感した。


 アルマ達は、先程の少女の向かった先へと急いで進軍する。アルマの記憶ではその先は、拠点の中央付近で建物に囲まれた大きな広場となっていた場所だった。

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