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アルマの叫び  作者: (iTi)miru
第2章 炎の悪魔
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第9話 救出

 【山賊の城 2階 中央広間】


 ガルディアは村娘を救った後、彼女らを別の小部屋に待機させて部屋の外から人が入れない様に指示する。それからガルディアは、アルマのところに向かう。


 村娘が囚われていた部屋から出る。するとそこには先程は無かった、まだ焼かれてまもない黒焦げの死体がいくつも転がっていた。


 頭の無いもの。

 手足の無いもの。

 腰から上もしくは下が無いもの。

 胸に大きな穴が開いている、もしくは臓器を引きずり出されているもの。


 惨たらしい死を迎えた焼死体が、そこにはあった。


「地獄絵図とは、このことを言うのだろうか……」


 今だに「ぶすぶす」と音を立てる黒い死体は、最上階の3階へと点々と続いていた。

 ガルディアは、黒くなった死体を辿って3階へと昇る。


 ガルディアが3階へと昇るとそこは、円状の大広間となっていた。

 その部屋の奥には、村娘のソラを人質にしている山賊の長と子分の山賊達がいた。

 そして、その山賊達を追い詰める様にしてアルマが山賊達の前に立っていた。


「アルマ」

「あら、ガルディア。娘達は無事に助け出せたの?」

「大丈夫だ。今は別の部屋に隠れさせている」

「そう。ならよくやったわね、貴方も無事で良かったわ。でも、何だか服がやたらとボロボロね?」

「あぁ、手慣れた者達がいたからな。苦戦した……」


 ガルディアは、自分のボロボロになった盾を見る。


「……そう、ならもっと強くならないといけないわね」

「あぁ、その通りだな」


 ガルディアは、アルマの横へと行くと武器を構える。

 アルマは腕を組んだまま、村娘のソラに話しかける。


「ソラ、もう少しの辛抱よ。今助けるから」


 ソラはアルマの言葉に小さく頷く。

 だが、それに対して自身を無視してまるで勝利を確信したかの様な態度に山賊の長が怒り叫ぶ。


「お、おい! 何勝手に勝った気でいやがんだ!? こっちにはまだこの女がい――」

「――うるさい、黙れ」

「いっ……!?」


 山賊の長は、アルマの凄まじい殺気に当てられると全身に鳥肌を立てて腰が抜けそうになる。だが、そこを踏ん張り、山賊長は子分達に指示を出す。


「く、くそが! おめぇら! 奴らを囲め! おいクソ猫、反撃するなよ? この娘が殺されたくなかったら、おとなしく殺されろ!!」


 山賊長の指示で、生き残りの子分の山賊達が恐る恐るアルマ達を囲む。


「……ガルディア、その盾はあと1回もちそう?」

「大丈夫だ、耐えられる」

「そう、なら私の後ろに来なさい」

「うむ」


 ガルディアは、アルマの指示でゆっくりとアルマの後ろに回る。

 それを見た山賊長が、慌ててアルマ達に叫ぶ。


「お、おい!? 勝手に動くんじゃねぇ!?」

「ガルディア、あいつらの動きを一瞬だけでいい。動きを止める事はできるかしら?」

「……ふむ。出来るには出来る。だが……()()()()()()()()()()()()()?」

「善処するわ」

「なに話してんだ!? へ、変なマネすんじゃねぇぞ!?」

「いい? ガルディア。私の合図で動きなさい。合図は4回よ、4回目の合図で動きなさい」

「了解した」

「それじゃあ行くわよ」

 

 そう言うと、アルマは腕を組んだまま「一つ……二つ……」と数え始める。

 ガルディアは肩を一度回し、盾の取っ手を確かめるように握り直す。アルマの合図に合わせて、ガルディアの重心が落ちてゆく。


「三つ……」


 一気に空気を吸い、ガルディアの胸が大きく膨らむ。


「おい! 聞いてんのか!? ちぃ! おめぇらかかれぇ――」


 ――四つ 

 

「――ガルディアァッ!!」

「――ッ!! ッッッでぃぃぃぃいいいいいああああああああああああああああッッッ!!!!!!」


 アルマの合図に合わせて、ガルディアの本気の咆哮(バインドボイス)が室内に響き渡る。


 その咆哮は部屋全体を震撼させる。それを直に聞いた山賊達は、反射的に両耳を塞ぎこむ。その拍子に、武器を落とす者もいた。

 それは山賊長も同様で、長は村娘のソラに向けていたナイフを落としてしまう。


 アルマの金色の瞳が鋭く光る。


 アルマは瞬時に両脚に魔力を溜める。

 アルマの両足に青白い光が浮かび上がるのと同時に、その場で軽く跳躍する。それに合わせてガルディアは盾を構えると、アルマはそれを踏み台にして爆炎と轟音と共に高速で飛んで行く。

 肉を裂く爪を出し、獲物の首を目掛けて行く。その先は、山賊長だった。


「――ぃッ!?」


 山賊長は、死を感じ取り。直感を頼りに咄嗟(とっさ)に人質を手放してアルマの攻撃を避ける。

 アルマの爪は空を裂き、山賊の長はギリギリのところで生き残る事ができた。


「ちぃッ!! にがすか……!」

 

 アルマは宙で体を捻り、壁に張り付くように衝撃を殺すとすぐさまアルマは山賊長を追う。

 山賊長は慌てて逃げ出し、子分達の方へと逃げ込む。


「ひ、ひぃぃぃぃ!? ど、どけぇ!? どけぇぇえ!!」

「うわ!?」

「お、親分ッ」

「じゃま」

「へ?」

「ぎゃ――」


 山賊長の逃げる先にいた子分達が、山賊長に押しのけられていく。そして、押しのけられたその先にはアルマが追っていた。

 その運の悪い子分達は、武器を構える暇もなく蹂躙(じゅうりん)される。引き裂かれ、貫かれ、消し飛ばされ、燃やされる。最後尾の子分はようやく状況を理解して手元の両手斧を振り上げる。だがアルマの平手打ちで壁へと頭から強打された後、追撃でアルマの炎によって燃やされた。


 ついにはアルマの前に残されたのは、追いつめられ地に尻餅をついた山賊長のみとなった。


「ひぃ、ひぃッ!?」

「あとはおまえだけよ」

「そ、そんな……!? ――あ、お、おい!? そこのおめぇら!! お、俺様を助けろぉ!? この化け物を殺せぇ!?」


 山賊長は、反対側にいた生き残った子分達に命令する。

 しかし、反対側にいた子分達の大半はソラを守っていたガルディアに殺されており、(わず)かに生き残った2人の子分達は戦意を失い降参していた。

 山賊長は必死に訴えたが、戦意を失った子分達は動くこともなく、ただ山賊長に向かってアルマが踏み寄って行くのを怯えた顔で見ているだけだった。


「ク、クソがぁ! 役立たずめぇ!! クソ! クソ!! や、やってやる……! やってやるよ!! クソッタレがぁぁぁあああああああッ!!!!」


 山賊長は、自身の足元に落ちていた両手斧を拾うとアルマへと突撃した。アルマもその行動に合わせて構える。

 

「だぁぁぁらぁっ!! しゃぁッ!! いやぁぁッ!! でぃぁああ!!」

「――シィッ!!」

「――ッ!? あ、っっぶねぇなぁぁああ!! うらぁ! おりゃあぁあ!!」

「ミ゛ア゛ァ゛ァアッ!!!」


 アルマと山賊長との戦闘は予想とは違ったものだった。

 山賊長は、その巨体からは予想もしなかった動きでアルマに対抗する。ただがむしゃらに武器を振り回しているのではなく、両手斧を振った際の遠心力をそのまま次の攻撃へと繋げ、時には斧の柄や足を使った蹴りなど物と体を巧みに使ってアルマに連撃を繰り出す。

 またそれだけではなく、山賊長は並外れた危機察知能力を持っていた。アルマの攻撃が来るとき、その勘が働き直感を頼りにアルマの攻撃を避ける。そしてその回避して崩れた体制から、器用に次の攻撃へと繋げていく。


 連撃、連撃、連撃、回避からの連撃。体力が衰えることもなく、アルマに攻撃を与える事を許さない嵐の様な攻撃がアルマを襲う。ここへ来て山賊長の実力が垣間(かいま)見え、そこらの山賊とは違う実力者というのが分かった。


 はたから見たら、アルマが一方的に押されている様に見える光景。だが、そのアルマもただ者ではない。

 その細い体に、一度でも攻撃を受けたら呆気なく死んでしまうであろう強攻撃の嵐をアルマは全て(かわ)すのだ。その細く柔軟な体を使って右に左、上へ下へと動き。時には空中で身を(ひるがえ)し、地面スレスレまで体制を低くして攻撃を間一髪の所で避けて行く。また、連撃の隙を見計らっては攻撃を仕掛けていた。

 当たってもおかしくない様なギリギリの回避をする為に、見ているがわには息が詰まる光景だった。思いもよらない攻防戦にガルディアは、助太刀をしようにも入る隙間も無かった。


 そんなアルマと山賊の長との攻防戦は終わりを迎える。


「――ぃぎゃああぁあああああッ!?」


 山賊長がアルマへと渾身の一撃を振り下ろした後、山賊長から悲鳴が上がった。

 床へと打ち込まれた斧、その斧の柄を伝って山賊長の手を見ると、山賊長の両手の指が斧の取っ手ごと床へと埋め込まれていた。


 斧が振り下ろされた後、アルマが長の両手を取っ手の上から踏み潰したのだった。

 

「がぁぁあ!? 畜生がぁぁッ!?」


 斧の取っ手ごと床に埋め込まれた山賊長の指は、ただでさえぐちゃぐちゃになったのに取っ手で挟まれ身動きがとれなくなっていた。


「いぃッ!? クソぉ! ク、ソ――あ」


 指の痛みに悶える山賊長に影がかかる。

 

 影に気がついた長は、顔を上げその影の主を見上げる。

 そこには、無表情でただ目の前の敵を殺そうと見つめる、金色の瞳を宿した女がいた。その女は無表情のまま、両手を組んで高く振り上げていた。その手に地獄の炎を宿して。

 

 その女を見て、山賊長は最後にこう思った。

 

「悪魔め――」

 

 その後、山賊長は振り下ろされた地獄の鉄槌によって爆炎と共に床を突き破って行き、最後は1階の床をも突き破り、その下にあった薄暗い地下室へと肉の塊となって落ちて死んだ。そのままその肉の塊は残り火によって焼き尽くされていった。


 アルマとガルディアは、山賊達の手からピウス村の村娘達を無事に助け出した。


 アルマはしばらく穴の底を覗いていた後、ある事に気がつくと(きびす)を返して目的の場所へと向かう。その先は、降参した山賊の生き残り達だった。

 アルマはその手に再び魔力を込め、炎を宿しながら生き残りの子分達の元へと向かう。


「ひ、ひぃぃ!? ま、待って!? 殺さないでくれぇ!!」

「た、頼む!? 殺さないで!?」


 アルマはそんな子分達の命乞いを聞くこともなく、どんどん近寄っていく。だがそのアルマの前に立ち塞がる者がいた。


「待て、アルマ。彼らは降参したんだ、もう戦う意思は無い」


 それはガルディアだった。彼は剣を納め、アルマの肩を手で押さえ静止させる。


「あ゛ぁ?」

「必要以上に殺すことはない。もう戦いは終わったんだ」

「たのむぅ……ッ! 殺さないで……悪さしねぇから……」

「お、俺達は、な、何もやってない……。まだ入れられたば、ばっかなんだ……何もやってない……」

「彼らもあぁ言っている。真実かは分からない。だが俺から見ても本当のことの様に見える。まだ更生出来る可能性があるんだ、無駄に殺す必要はない」


 ガルディアは降参した山賊達を守る様に、必死にアルマに訴えかけた。

 恐らくアルマは、それに反対して暴言を吐いてくるのと、暴れるかもしれないと予想して覚悟しながらアルマに訴えた。

 だが……。


「あぁ!? なんてぇ!? こえがちいさいあ!!」


 アルマから帰って来た返事はそれだった。

 ガルディアは、もっとこう「知らん、邪魔、どけ、そいら殺せない、絶対に皆殺しにする」とか言ってくると予想していたが、思っていたのとは違った言葉が帰って来た。


「え、あ……だ、だから! 無駄に、殺す必要はないと言ってる!!」

「なにぃッ!? きこえあぁい!!? もっと、おおきあ、こえで、はなしなさい!!」

「え、えぇ……ウ、ウ゛ンッ! ……かーれーらーをぉッ!! こーろーすーッ!! ひーつーよーうーはッ!!! な――」

「――うるさぁぁぁいッ!!!」

「あだぁぁッ!?」


 アルマの耳元に向かって叫ぶガルディアに、アルマのグーパンチが飛んできた。

 額に思いっきりアルマのグーパンチを食らったガルディアは、両手で額を(おさ)えながら膝を付く。


「みみもとで、そんなにさけばないでちょうだい!! またキーンてしたじゃないの!! そのノドつぶわよッ!?」

「ぬぉぉぉ……ッ! あ、頭がぁぁ……ッ」

「ちょっときいてるの!? ひとのはなしをきかないなら、そんなミミいらないわね!? そのミミひきちぎってやる!!」

「いやッ! ま、待て!? ま、待つんだアルいででででででッ!!?」


 しばらくの間、どうすれば良いのか分からずにあたふたするソラと結局助かったのか分からず怯える山賊の生き残りを放置して、屈強なオークが正座をさせられてキャルトの女にひたすら「キャルトの耳」の大切さを説教されるという、先程まで血の流れる争いがあったとは思えない光景が続いた。


 その後、アルマの気が落ち着き、耳鳴りも弱くなった後に降参した山賊達の事をガルディアは話した。

 結局、ガルディアの予想通り。アルマが生き残りを殺そうとしたので、必死に止める羽目になったガルディアだった。

 しかし彼の説得のお陰もあって、まだ罪を犯していなかった山賊の生き残りは砦に有り余った食料と少量のお金を持って更生への道を歩む事となった。アルマから「いつも見張っている」「次に会ったら殺す」という、()()()()()()()()付きでだ。


 後日、この時アルマの魔の手から逃れ生き残った山賊だった2人は、アルマと吐息の掛る距離で、あの殺意と怒りで満ちた瞳孔の開ききった目で覗き込まれ。死を宣告する呪詛が混じったドスの効いた声で耳元で囁かれた恐怖を、生涯忘れる事なく立派に更生への道を歩んだという。


 アルマとガルディアは、ソラ達以外に囚われている者がいないかを確認した後に、ソラ達を連れて砦をあとにした。

 結局、ソラ達以外に囚われてい者はおらず。山賊の長が落ちた地下室も、古代遺跡らしきものがあるだけでアルマ達は地下室からそそくさと退散した。


「アルマさん、ガルディアさん。見ず知らずの私達を助けてくださって、本当にありがとうございます……ッ!」

「いいのよ、私達にお礼なんて。むしろ私達は、無償で貴女達の貴重な食料を貰おうとしていたのだから当然よ」

「い、いえ、でも」

「私達よりも、貴女達の事を命をかけて伝えに来た貴女達の友達と、私達に助けを求めた妹のミウィに言ってあげて」

「……はい。でも、それでも! ありがとうございました……!」

「……もう、別にいいのに……分かったわ。どういたしまして」


 アルマはソラからのお礼の言葉に素っ気なく答える。アルマ自身、ソラ達を助けたのは善意の為でも正義の為にでもやったわけではなかった。ただ、ソラの妹であるミウィが「助けて」と言って来たからそうしようと思っただけだった。

 お礼を言われることを想定していなかったアルマは、どこかぎこちなかった。


「あ! 見ててガルディアさん! もうすぐ森を抜けるよ! あそこを抜けたら村が見えるのよ!!」

「む、そうか。やはり君はこの森に詳しいな」

「えへへ、そうでしょう!」

「ちょ、ちょっと! そんな動かないで! 落ちるわよ!! ……痛ッ」

「やはりまだ足首が痛むか? すまない応急処置しか出来なくて。村に戻ったらきちんと処置をしよう。捻挫は癖になりやすいからな」

「あ……は、はい……そ、その、ありがとうございます……」


 アルマの後ろから、アルマとソラの後ろ追従しているガルディアと、彼が手綱を引く馬に乗った2人の村娘の話し声が聞こえる。


「あ、そうだ! 村に着いたらお母さんにガルディアさんを紹介するね!! ガルディアさんなら、きっとお母さん喜んで認めてくれるから!」

「うむ…………ん? 紹介?」

「ちょ! バカッ! なに言ってんの!! それは、ダメよ!」

「ほらガルディアさん! もうすぐ村が見えるよ!!」

「ちょっと聞いてるの!?」


 ガルディアが手綱を引いている馬に乗った村娘の言う通り、森を抜けたアルマ達の前に夕焼けに照らされるピウス村が現れる。


「……え」

「そんな……なに、これ?」


 だが、我が家のある自分達の村を見て喜びの声を上げる者はいなかった。それもそうだろう、なぜなら……。


「……村が……燃えてる?」


 ソラ達の村、妹のミウィのいるピウス村からは所々から黒煙が上がっていたからだ。

 この場合の黒煙が意味する事は、「争い」「襲撃」「略奪」そして「死」

 

「アルマ、これは……」

「…………奴らよ」

「なに……?」


 アルマの中で、再び怒りと憎しみ、そして殺意が沸々と沸き上がる。

 風に一緒に流れてくる匂いの中には、物が燃えた臭いと鉄の臭いがした。

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