28
美少女改めシリーさんは一瞬だけ私のことをキッと睨み付けると笑顔を作り直してミュラー夫人に向き合った。
「酷いではありませんか。私をレイモンド様の婚約者にしてくれるとおっしゃっておきながら他の女、しかもどこの家だかわからないような者を急に婚約者にしたいなんて。私はずっと一途にレイモンド様を思ってきましたのに。」
レイに婚約者候補がいたなんて知らなかった……。そりゃあレイは公爵家の一人息子だから早めに婚約者をと望むのはわかるけど。
頭ではわかっていてもなんだか胸が痛い。
ケーキの食べ過ぎとかならよかったんだけど。
この令嬢にも私は申し訳ないことをしてしまったと思う。
あと一年後、レイが婚約可能な年になったら婚約するつもりでずっと待っていたのに私が横から奪おうとしていたなんて……。
私が逆の立場なら傷ついていただろう。
「本当に申し訳ないことを……」
「アイリーンちゃんは名門伯爵家、シュタイナー家のご令嬢ですよ?自分が無知だからと相手を貶めるのはいかがかと思いますよ。さあ、今日はもう帰りましょうか?」
私がシリーさんに謝ろうとすると、ミュラー夫人が私の言葉を遮った。
そして私の手を引くと強引にお茶会を後にしてしまった。
一体どうすればいいのかオロオロしながら馬車に乗り込むと夫人は不機嫌そうに切り出した。
「アイリーンちゃんがあんな女たちに謝る必要はないのよ。あの女と来たら何年たっても懲りないんだから。」
随分怒ってはいるようだが私にではなくシリーさん親子に対して怒っているようだ。
「あの母親の方はね元々王女、つまり現国王様の妹君だったのよ。だけど気性があの通り荒くてお世辞にも立派とは言えなかったの。それで何故私と王女様みたいに身分の違う人がこんなに仲が悪くなったかというと……」
「すみません、ちょっといいですか?あの方はリンリー様を嫌っているなら何故レイと自分の娘を結婚させようとしたんですか?」
わざわざ敵対しているもの同士をくっつけるなんて変だ。
「それはこれから話す私と王女が不仲になった理由に関係してくるわ。」
「その関係と言うのは……?」
ドキドキしながら答えを待つ。
「まあ簡単に言うと、同じ男を取り合った仲というところかしらね。」
「はぁっ!」
「驚くわよね。私もあの女も私の旦那である公爵様を好きになったのよ。あの通りかなりの美男子でしょう?若い頃はモテモテですごかったんだから。」
「確かに今でもかっこいいです‼」
「そうでしょう?!私は旦那様にアプローチされたのがきっかけで気になり始めたから、両思いになるのは時間の問題だったわ。それをあの女は王女の権限を使ってあの手この手で妨害してきたんだから二人の仲は最悪にもなるわよね。」
「そんなことが……。」
「旦那様と私が結婚したら諦めるかと思ったらとんでもない!あの女は自分と旦那様が私によって引き離されたと思い込んでるのよ?!親がダメなら子供でって考えたの。」
「それはかなり斬新な考え方ですね。」
じゃあ今でも公爵様と自分は両思いだと前王女様は考えているということ?もしそうなら悲恋のヒロインってことだよね。
「だからあの女の娘なんかに負けちゃダメ‼そもそも婚約者にする話だってレイが三歳位の時に自分の娘を連れて押し掛けてきたから、追い返そうと思ってもし、将来的にお互いが思いあっていたら婚約させましょうと言っただけよ?今のレイはアイリーンちゃんに夢中だからその約束は無効だわ!」
そうなんだ。良かった、シリーさんとレイが婚約するんじゃなくて。
心の中でほっとしているとどうやら公爵邸に到着したようだ。
夫人と楽しく話ながら馬車を降りた。




