閑話 弟達の決心
今回はヘンリー目線です。
「なあリド。」
「なあに、兄さん?」
「姉上には好きな人ができたようなんだ。」
「それは、レイモンド・ミュラー公爵子息のこと?」
「そうだ。本人は否定しているが、自覚するのは時間の問題だろう。」
「そっかぁ。僕はあいつもどうにかしなきゃと思ってたんだけどそれは杞憂だったんだね。入学したときから生け簀かないやつだと思ってたけど。だって僕やエドよりなんでも出来るんだよ?ちょっとムカつくよね。」
「そうだな。だが、だからこそ姉上を任せられる。」
「その点は僕も認めるよ。じゃないとカイズ・ブルーノにリーちゃんを奪われるからね。」
もう、大切な家族をあんなやつに奪われてたまるか。
本当はレイモンドが現れなかったら僕がどこかの強い力を持った貴族の家に婿入りするつもりだった。
僕は姉上のためなら自分をも殺せる、そう思っていた。
リドが思い付いたように言った。
「僕はね、リーちゃんがカイズのやつに惚れないという確証がないことに不安を覚えていたんだ。だってあいつ、すごい女誑しらしいじゃん。うぶなリーちゃんじゃあイチコロかもしれない。」
「いや、それはない。」
「何でそんなこと言えるの?」
「リドは姉上が何故男を苦手としているのか知っているか?」
「そういや知らない……。まさか母さんのこと知ってるの?」
「いや。そうじゃない。」
そして俺は5年前に見てしまったことを思い出して話すことにした。
「確証はなく、推測の話だ。5年前の忘れもしないあの夜会の夜、俺は初めて夜会に出たんだ。顔見せ程度で済ませるつもりで、すぐに姉上と抜け出したんだ。お菓子を持ってきて姉上に渡そうとしたのがいけなかったのだろう。姉上のところに戻ってくると姉上ともう一人男がいた。そしてその男は二十代だと思われるかなりの美丈夫だった。」
「それはまさか‼」
「後になって知ったが、その男こそがカイズ・ブルーノだった。そして僕が駆け寄ろうとしたとき、あいつは姉上の唇に口づけたんだ。」
「そんな……。ただのロリコンじゃない!」
「僕は初めて見る光景に立ち尽くすしかなかった。姉上は驚いて暴れていたが、放されることがないとわかると急に力を抜いて倒れてしまった。僕が駆け寄って相手に詰め寄ると、どうせ俺のものになるのだから構わないと言ったんだ。」
「何それ!いやがってるリーちゃんに無理やりキスするとかサイテー。あいつを倒すことができたら真っ先に僕が男じゃなくしてあげるよ。」
全く、リドは姉上に似た優しそうな見た目とは裏腹に残忍なところがある。
まあ、俺もカイズを倒したらそんなことじゃ生ぬるいと思うが。
だから希望を持たせてくれたレイモンドには感謝している。
「話は戻るが、結局姉上はその日のことをほとんど覚えていなかった。だが、その頃から男に手を握られたり、ちょっと近づかれただけで怯えるようになったんだ。今は大分ましになったほうだ。」
「そうなんだ……。そんなことがあれば男が苦手にもなるよね。」
そう言ってリドは黙り混んだ。
そして急に話を変えてきた。
恐らく、そうでもしないとカイズへの怒りが押さえきれなかったんだろう。
「振り返ってみると懐かしいよねー。僕と兄さんで汚れは被る。刺し違えてもカイズを倒すって誓った時のこと思い出すなぁ。」
「そうだな。取り敢えず僕が最強の騎士になって、リドは最強の魔法使いになって姉上を守るってな。もう誰も家族を失いたくないって思ったんだよな。」
でも、とリドが少しだけ顔を歪めて言う。
「いくら強くても、やっぱりそう簡単にリーちゃんをレイモンドに渡したくない‼」
「そうだな。事が片付いたらまずは僕たちの姉離れから始めるか!」
こうして僕とリドの決心が固まったのだった。
恋に障害はつきものですよね……。




