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奴隷と悪役令嬢

 1年前ツバキ様に出会った時、私の頭の中に前世の記憶が蘇った。


 まさか、これは乙女ゲーム『ミモザの庭』の世界だ!



 『ミモザの庭』は超人気絵師キャラデザの美麗CGスチルが沢山でるゲームで、声優さんも一流どころがキャスティングされ、尚且つアニメやキャラデザした絵師によるマンガが同時発売された。


 発売当初、大手人気乙女ゲーム制作会社が張り切ってCMを流して、爆売れが予想されたがソフトの売り上げは制作会社側の期待を大きく裏切り、大した人気は出なくて第2弾で不発に闇へと消えたある意味伝説のゲームなのだ。


 製作会社の中では黒歴史扱いで製作自体無かった事になっているようだった。


 かく言う私もリアルタイムでこのゲームをプレイしたのではなくて、発売から10年以上経ったワゴンセールでたまたま見つけてプレイした。


 24歳独身OLで正月に実家に帰省する予定も無かったので、超暇つぶしに500円で買った。


 会社の正月休みの間に全攻略キャラ全クリアを目指したため、攻略情報を求めてネットを探したがアップしている人は無く、売れなかったからかゲームの攻略本は新品も中古も出回っていなかった。


 しかし自力で攻略していくしかなかったのが反って心を燃えさせた。


 私はプレイ前の期待値が低かったためか、このゲームが面白かったわ。


 そして今まで自分の嵌った事の無いタイプのキャラに落ちたせいでより熱中した。


 ワンレンの美しいプラチナブロンドで意志の強い青い瞳のハンサムな女騎士。


 主人公ミモザとの友愛エンディングがあって、そのキャラの美麗CGスチルを集めたくて必死に『ミモザの庭』をプレイした。


 男性キャラとは違う女性同士の華やかで楽しい交流や時折見せる彼女の騎士としての強さ。

 細身の彼女が雄々しく主人公を守る姿に胸がときめいた。


 ゲームでは主人公と彼女の間には友情しか描かれていなかったけれど、私はハッキリ彼女に恋をしていた。


 ツバキ……ツバキ様が恋しい。




 前世の記憶を思い出す前の自分は路上で生活していた。


 物心ついた時から自分より少し年上の少年や少女と、盗みでその日食べる物を調達して生きていた。

 毎日感じる空腹をどうやって凌ぐかで頭の中はいっぱいで、不幸だとは考える余裕のない生活だった。


 そんな生活の中、14歳の時に悪い大人に捕まってしまった。

 大人たちは人買いで自分は奴隷として売りに出された。自分を買ったのは金持ちの太った男だったが、自分を買った日に野盗に襲われて殺された。

 自分は野盗達に連れられツバキ様に会うまで強盗の身の回りの世話をさせられていた。


 ツバキ様に出会う前まで自分は心が無いような生き物だった。


 毎日命を繋ぐ生きる事だけを考え、出来るだけ体に傷を付けないように、食べるものを少しでも多く手に入れられるように願うだけだった。




 ツバキ様の姿を見てツバキ様の名前を聞いた時、生まれて初めて景色に色がついて見えて心の中が輝いたんだ。


 そして自分が自分であって喜んだ。ゲームの中のツバキ様の横に描かれていた黒髪の従士、ゲーム内ではモブキャラだった、自分はあのツバキ様の従士ササなのかもしれない。


 ツバキ様に縋る。


「……()()()()が言われることは何でもやって見せますから、どうか私を見捨てないで下さい」


 ツバキ様は眉を下げ溜息を吐きながらも奴隷(ジブン)を引き取ってくれて、ローズ嬢がササと名前を付けてくれた。


 自分はこの上ない幸運を手に入れたんだ。

 前世で好きだったキャラの一番近い場所で生きていけるのだから。




 ゲームではツバキ様は特に男性と結ばれる事はなかった。

 ただ周囲の噂でツバキ様と従士ササの関係を怪しむ噂が流れる。前世で自分はゲームプレイ時にササならツバキ様とくっ付いても許せると個人的に思っていた。


 なぜならササは『影の貴公子』と呼ばれるほど素敵男子だったから。


 モブキャラのくせに名前があって二つ名まで付けられていたササが、何故主人公の攻略対象者で無かったのか、このゲーム最大の謎だけれど答えは探せなかった。


 ササになれた自分は『影の貴公子』と呼ばれるようになるため頑張ろうと思う。


 ただ、何をどうやれば貴公子になれるのか分からなかったが、ツバキ様の友人ローズ嬢が助けてくれた。

 ササの髪の毛を切り身だしなみの整え方や文字を教えてくれたり、礼儀作法まで教示してくれた。


 ローズ嬢の的確な指導の下、自分はメキメキとツバキ様の従士ササへ成長していき、自分でもかなり驚いたがツバキ様と出会ってから半年ほどで『影の貴公子』と領主様の館の使用人たちに囁かれるようになった。


 ローズ令嬢は『ミモザの庭』の中で悪役令嬢の立ち位置の方なはず。ゲーム内での彼女は美人で傲慢な主人公を貶めるキャラ。


 しかし自分に親切にしてくれるローズ嬢は美人だが傲慢ではない。むしろ周囲に気を使う優しい女性だ。


 ある時ローズ嬢に何故自分に親切にしてくれるのか聞いてみたら、自分にササと名まで付けてくれたローズ嬢は、実は転生者で、『ミモザの庭』についても知っていたのだ。

 ツバキ様に黒髪の『影の貴公子』と呼ばれる従者がいないので長年不思議に思っていたが、野盗の根城で会った奴隷(ジブン)を見てササだと直ぐに分かったと言われた。


 自分も前世の記憶があると打ち明けるとローズ嬢はかなり驚いていたが、自分にローズ嬢を助けて欲しいとお願された。

『ミモザの庭』でローズ嬢は悪役令嬢の役柄、バッドエンドを迎えるからだ。

 ミモザの攻略者は4人いるのだが、どのキャラでもローズ嬢は投獄されるか又は殺されたり自殺したり……生きられない。


 ローズ嬢は10歳の時に領主様一家と顔を合わせて前世が蘇ったらしい。それからバッドエンド回避に向けて沢山努力をしたと語った。

 確かに目の前にいるローズ嬢はゲーム内の令嬢とは別人で穏やかな性格。

 彼女が悲惨な最期を迎えるなど想像もつかないが、主人公ミモザが現れた時にゲームのシナリオの強制力が急に働く心配は理解できた。


 ツバキ様の従士にしてくれたし、『影の貴公子』に育てて貰った恩を自分はローズ嬢に感じている為、ローズ嬢のバッドエンド回避に協力する約束をした。

 ローズ嬢は今まで1人で気を張ってエンド回避を考えていたので、ササの協力がとても心強いと喜んでくれた。


 自分はこの世界に生まれて、両親は無く幼い頃は犯罪を犯し惨めに生きた。その日暮らしの中で奴隷にまで落とされたが、ツバキ様に出会えて真っ黒だった人生が薔薇色に変わった。


 近頃、ツバキ様は自分を見て頬をうっすらと赤く染める。


 ああ、愛しいツバキ様の側で奴隷(ササ)は毎日幸せを噛みしめる。






ここまで読んでいただきありがとうございました。

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