終焉の歌
くそっ!!
次の瞬間、摩訶の周りに結界が張られる。
勇美の影が消えた。
影と交戦していたアレクらがシュバルツを中心に集まる。
「どうなってるんだ、シュバルツ?」
「俺にも訳が分からない」
「さてと、ショーの始まりだ」
「一体、何を……」
勇美は笑いながら言う。
「僕が何であの世界の人間を消したと思っているの?」
「まさか、あの楽譜は……!?」
「教えてあげたよ。
僕の大好きな歌を。
じゃあ、また会おう。
今後の展開が楽しみだな」
と言い残し、勇美は姿を消した。
「僕は影。
いつでもどこでも君らを見ているから。
そして、僕の騎士団を見せる日を」
摩訶は深呼吸をして目を閉じる。
「不味くないですか、ウルド様?」
「そうだな、カイス。
あれがまた起こる」
あれ、だと?
その時、一気に場の空気が変わるのが分かった。
「おい!!
無事か!?」
遅れて後からルナがやって来た。
だが、ルナもその場の空気で分かったらしく
「おい……これは」
暫くして、声が聞こえた。
美しく透き通る綺麗な声が。
「何もかも全てを飲み込め。
光は届かぬ暗闇へと。
絶望への導きを。
風も水も炎も生命も飲み込みましょう。
深い深い暗闇の深淵へ。
嘆き悲しみ怒りを力に復讐を。
私に逆らう全ての者に罰を。
怯え震え喚け。
これは私の復讐。
終焉を告げる鐘の音。
呪えそして消えてしまえ。
全ての生命よ」
歌だ。
摩訶が歌い始めた。
これが“最後の審判”。
人間を滅ぼした歌。
辺りは暗くなり、強風が吹き荒れる。
地面からは夜叉が次々と出てくる。
救援に駆けつけた天使、幻想種が次々と倒れる。
「くっ……これは……」
ルナも地面に膝を着く。
「私までもか……」
空を飛んでいたワルキューレは、地面へと降りた。
「おばさん!!」
ワルキューレに駆け寄るシュバルツ。
「あれは、闇の力だ」
「闇の力?」
「ああ。
息が苦しい……」
ルナの付加魔法が消える。
「あたしにはもう、魔術が使えない……
どうやら、魔力もあの力に吸い取られている。
いや、生命力を」
シュバルツは不思議そうな顔をする。
「お前らも早く……」
ルナは、シュバルツとアレクだけではなくウルドとカイスも苦しんだ様子がないのに気付く。
「何でお前ら……」
「知っているか?」
とウルドが話し始める。
「あれが生命力を奪っているならな。
俺ら吸血鬼がそれで死ぬ筈がない。
何故なら、吸血鬼は既に死んだ存在だからだ」
所々で大きな爆発音が響く。
この歌がここだけではなく、他のところでも影響が出ているみたいだ。
建物から炎が燃え上がる。
「なるほど……
そういう事か」
ワルキューレは、上体を起こす。
「それならば、私は向こうに倒れた連中を送りながら救援を呼んでこよう」
「そういう事なら俺も戻ろう。
吸血鬼の増援を呼んでこよう。
ここは、カイスに任すからな」
と言い、一足先に戻るウルド。
「おい、大丈夫なのか?」
振らつくワルキューレを支えるシュバルツ。
「何とかな。
あの子は、仲間の君達にしか止められない。
頼んだよ」
「分かった」
「何、死んだらヴァルハラへ連れて行ってやる。
強い勇士は大歓迎だからな」
と言い、空にある歪んだ空間へと飛んで行った。
「ルナ、お前は安全な所に……」
ルナは立ち上がり
「そんな、あたしだけ休む訳にはいかないだろう?
アイツはあたしの友人であり、弟子だからな」
と言った。
「僕も支援するよ」
カイスは、鞘から剣を抜く。
「お願いします……!」
シュバルツとアレクも武器を構える。
相変わらず歌い続ける摩訶。
太陽も消え、昼間だというのに真っ暗だ。
「ヒールをかけるほどあたしは、余裕はないからな」
「吸血鬼は再生力はある。
忘れたのか?」
「そうだったな。
それなら、付加魔術をかける。
攻撃、防御を中心にな」
三人は頷く。
「あら、いい感じ♪」
その様子を見て微笑むカイス。
「摩訶っ!!
早く戻るぞ!!
あたしは摩訶に音楽を教えてもらわないとな!」
「そうだ!
また、鍛えてやるから覚悟しろよ!」
「摩訶ちゃんいないとシュバルツが面白くないからね」
「えっ!?」
と驚くシュバルツ。
ゴホン、と咳払いをして改める。
「前にも言っただろ?
摩訶は摩訶だ。
俺はいつでも摩訶の味方だ。
……悪い事をしたら叱るし良い事をしたら褒める。
今回は戻ってきたらしっかり叱るから覚悟しておけよ!!」
四人は届いているかも分からない言葉を掛け、摩訶への想いを伝えた。




