暗闇
摩訶を黒い塊が覆う。
「摩訶‼︎」
叫ぶシュバルツ。
「さて、これで準備は整った」
「お前、摩訶に何をした‼︎」
「何もしていないよ。
ただ、アレは今までの摩訶の闇だよ。
心の……ね」
その勇美の言う言葉を最後に摩訶の意識は消えた。
そして、目を開ける。
暗闇の中にただ一人。
いや、違う。
目の前にもう一人。
髪は血のように紅い、自分と瓜二つの人物が。
「あなたは……誰?」
「誰……だと?
私はお前だ」
えっ……
「お前のもう一つの意識。
もう一つの人格。
もう一つのお前だ」
もう一つの⁇
「なりたかった自分、抑えていた自分」
「私は……」
そんなのは無い。
「そんな事はない。
本当は壊したい。
この世界の何もかもを。
自分ばかりを裏切る世界を」
違う‼︎
そんな事ない‼︎
「自分ばかりが酷い目にあって、辛い思いをして。
不幸な思いをして」
間違いではない……のかも。
「そうだ。
私に委ねろ。
そうすれば、全てを終わらせてやる」
私は彼女に手を伸ばす。
そうだ。
人間だった。
あの世界に行く前の話し。
私は本当は、あんな汚れた世界では生きたくなかった。
人間なんていらなかった。
何でそんな人間の為に働かないといけないのか。
嫌いな人間の世界に貢献しなければならないのか。
こんな人間しかいない世界にいるぐらいなら死にたかった。
人間に慣れたいから仕事に復帰したなんて、ただの綺麗事。
生きるにはそうするしかなかったから。
「そうだ。
それでいい」
人間がいなくなれば、皆いなくなっちゃえばいいんだ。
私だけになれば何処にいたって辛くない。
苦しくない。
悲しまなくて済む。
そう。
一から自分で作ればいいんだ。
その為に一回、掃除をしなくちゃね。
「さぁ、踊ろうか」
彼女の手を握った。
黒い塊が弾けた。
「摩訶……!!」
だが、そこにいたシュバルツとアレクには分かってしまった。
摩訶であって摩訶ではない気配に。
中からは、真紅の髪の摩訶がいた。
目はどこか冷たい。
そして、黒い鎌を持っている。
「摩訶……なのか?」
「何だこの、禍々しい殺気は……」
そして、摩訶はどこかへと消えた。
まずい‼︎
あれはこの街に放ったら。
移動しようとする二人をまたしても、あの二人が邪魔をする。
「俺はアレを追う。
二人の相手を宜しくね」
と言い、勇美も消えた。
「勇美様の邪魔はさせない」
「そうだ。
これから世界は変わる」
世界が変わる⁇
「桜庭摩訶は闇に堕ちた」
「摩訶はそんな事には……」
「アレは心の闇。
それに負けた」
摩訶は今まで、色んなことを一緒に乗り越えて来た。
摩訶は強い心を持っている。
そう思っていた。
俺らがそう思っていただけなのか。
「勇美様を追うのなら我らを倒して見ろ」
「アレク!」
「ああ。
分かっている」
二人は武器を構える。
先にシュバルツが動いた。
ハルバードで斬りかかる。
だが、二つに割れ消えた。
「何だ⁉︎」
「シュバルツ、足元‼︎」
シュバルツの足元の影から矢が飛んできた。
そうだ。
勇美は影を操っていた。
コイツらも影か。
自分に影がある以上、至近距離で攻撃がくる。
こんな所で足止めを食らってる訳には……
「影からは逃げられない」
「お前らにも影があるからな」
昼間でしかも周りには建物がある。
どこに隠れても攻撃される。
何か方法は……
光……か。
空を見上げる。
太陽が照りつける。
邪魔だな、太陽。
………‼︎
ああ、そういう事か。
影をなくせばいいのか。
「全てを闇に覆い尽くせ」
そうこれは
「ブラックホール‼︎」
一定の範囲内を暗闇にする魔法。
少し魔法を教わっていたのて良かった。
暗闇になっても吸血鬼は、目と耳、鼻が効く。
なので、二つの影の居場所も分かる。
シュバルツのハルバードが黒い電気を帯びる。
「ダーク・ラクサス」
アレクの槍が黒い炎を纏う。
「セレルト・イフリート」
二人は武器で留めを刺した。
影はチリとなって消えた。
これで終わった。
二人は顔を見合わせた。
「今度こそ終わったな」
「ああ。
摩訶を追うぞ」
二人は急ぐようにしてその場を去った。




