襲撃
一人じゃない!?
仲間がいたのか。
「摩訶、久しぶりだね」
と微笑む勇美。
「まさか、君達がここにいるとは驚きだよ」
そこまで、驚いた様には見えない。
これは想定内だったのか。
それともまた、別の意味の驚きなのか。
「こんなに酷い事を……」
「酷い?
そうかもね。
でも、これが幸福への近道ならば僕は何でもするよ」
狂ってる。
いくら幸福の為だとしてもやっていい事と悪い事がある。
そのぐらい小さな子供でも分かる。
「君には分かるはず。
この気持ちが。
自分以外の他人が邪魔な事を」
「それは……」
私は他人が嫌いだったのは確かだ。
でも今は……
「そうそう、言うの忘れてたけど僕の手下が君の家に行ってるよ。
沢山ね」
!?
それは、つまりあの家を襲いに行ってるって事!
動こうとするアレクとシュバルツの目の前に勇美の横にいた人影が移動した。
ここには二人しかいない。
あと一人がさっきまでいたけど……
「悪いね。
邪魔されちゃ困るから」
という事は、もう一人はルナの所か。
無事でいてもらいたい。
「摩訶以外には、大人しくしてもらわないと始まらないからね」
少しずつ摩訶に近付く勇美。
「君は僕からは逃げられない。
それと、話しをしよう」
話し、だって?
「実は君をあの世界で殺したのは僕なんだ」
えっ……
どういう事??
「そして、あの世界に導いた。
吸血鬼にするつもりでいたから魔界に落としたけど、何故か人間に戻っちゃうし」
あれは確か、黄泉がえりの歌で……
「それに誰も殺そうとしないし、歌の力に目覚めるし。
これは僕のが愛すれば手の届く所に来ると思っていた。
そうすれば、力を得られると思ったから。
だから、君に他人の振りをして近付いた」
初めて森で会った時……
「その辺までは上手くいくか微妙な所だったんだ。
ただ、予想以上の事が起こった。
摩訶はそこの吸血鬼に気に入られた」
と言い、シュバルツを指さした。
「きっと、摩訶が死ねば吸血鬼の血を与えて生かすと思ったから。
吸血鬼の癖に妙な感情を抱いてさ」
「何……!!」
怒りを表すシュバルツ。
「いや、いいんだよ。
そのお陰で成功した。
僕がやりたかった事がね」
「やりたかった事……」
「ああ。
歌が歌えてしかも吸血鬼。
こんな組み合わせは滅多にない!
一度死んだと思えば、ワルキューレに見込まれ加護を受けた。
魔力も倍の力を発揮するようになった。
人間でも吸血鬼でもなく最早兵器だ!!」
へ、兵器!?
わ、私は……
膝を地面につく摩訶。
「私は今まで……」
「摩訶は良くやってくれた。
僕の理想を遥かに超えた兵器に」
「そんな……」
全ては勇美に仕組まれていたの!?
「摩訶!!
そんなの信じるな!!」
「そうだ!!」
と言うシュバルツとアレク。
確かにこれはもう、人間ではない。
吸血鬼でもない。
魔術師でも歌を奏でる奏者でもない。
自分でも自分が何者なのか本当に分からなくなってしまった。
全ては勇美の手のひらの上で踊らされていたの……?
事故に遭った時から……
仕組まれていたの?
そんな……それって………




