悪夢の祭り
何事も起きなかった、お祭りの一日目。
二日目も特に何も起きなかった。
心配はしていたが、立香と白野とお祭りを満喫出来た。
そして、今日はお祭り三日目。
朝早くから自宅周辺の結界の強化にあたっているルナ。
「摩訶、大丈夫か?」
「うん。
大丈夫!」
支度は出来た。
いつでも行ける。
「いや、支度じゃなくて……」
シュバルツは、摩訶顔色を伺う。
言いたい事は分かっている。
これが最後になるから。
ここにいられるのは。
「……大丈夫だよ」
悲しいけど涙は出ない。
ここが本当の自分の生きてた世界じゃないからか、感情に鈍感になってきたのか。
両親、それと立香と白野には言ってある。
今日は外に出ないで、と。
ここに張られた結界は、ルナがこの世界に存在し続ける限り張られているので安全だと。
別れの言葉はいらない。
きっとまた出会えると信じているから。
「よし、準備出来たぞ」
ルナが戻ってきた。
「勇美とは、これで決着をつけたいけどな」
「俺もそう思う」
と言うシュバルツとアレク。
「行くよ」
四人は街の中心へと向かった。
街へ到着したが異変はない。
私達は、見つからないようにビルの屋上から見守る。
道路は一部封鎖。
人で溢れている。
上から見るとこんな感じなんだ。
凄いな……
今のところ異変は見当たらない。
このまま待機か。
本当にこの日に何か行われるとは思えない。
あくまであれは私達の予想。
外れたら外れたらでそれに越したことはない。
だが、そう思い安心しきっていた頃にそれは訪れた。
お祭りの中心となる場所で悲鳴があがった。
!?
ただの事故である事を祈りたかった。
だがそこには、数名血だらけで倒れる人の姿があった。
次々と人が黒く薄い影に貫かれていく。
そして、人の叫び声。
間違いない。
何かが起こっている。
これだけ離れていても分かる血の匂い。
ごくり、と喉が鳴る。
………そうか。
血の匂いだけで飲みたい、と思う様になってしまったのか。
今まで良く耐えていたものだ。
「摩訶、大丈夫か?」
と言うルナ。
うん、頷く。
「……でも、これじゃ理性が保てないかも」
と言う摩訶。
「確かにな。
これだけ血の匂いがしてれば」
「ああ。
俺らはまだしも人間の血を飲んだ事のない摩訶にしてみれば、飲んでみたい、という欲求しかないだろうからな」
そう解釈するアレク。
そうなのか。
これは、飲んでみたいという欲求なのか。
人間の血に興味を持っている、と。
「三人共、無茶はするなよ?」
「分かった。
なんかあった時の為にツヴァイは置いていくね」
ツヴァイを呼び出し、ルナに預けた。
摩訶、シュバルツ、アレクの三人は、ビルの下へと降りる。
これは酷い。
バラバラになった人の身体があちこちに落ちている。
道路も血だらけだ。
こんなにも惨い事を……
そこに知り合いの顔がなかったのは幸いだ。
こんな変わり果てた姿を見たくないから。
「摩訶、用事しろよ」
「……うん!」
「……来るぞ!!」
アレクの言葉とほぼ同時に黒い影が伸びてきた。
それを交わす。
三人は武器を構えた。
その影の先には、勇美と三人の人影があった。




