黄金の懐中時計
「……ありがとう」
摩訶は車の中でシュバルツの血を吸った。
「本当は人間の血の方が治りは早いんだけど……」
「大丈夫だよ」
傷はすっかり痛まなくなった。
シュバルツは摩訶を抱き締めた。
「ごめん、いつも摩訶の傷付く事ばかりで……」
「しょうがないよ。
この世界には、私の大切なものがあり過ぎるんだよ。
きっと」
失いたくないものがあり過ぎる。
何十年も生きて、失うものが無くなったら楽になるのかな?
でもその頃には、そんな感情は無くなっているのだろう。
「そうだ、摩訶。
これやるよ」
シュバルツはポケットから金色の懐中時計を取り出した。
「これは?」
「うちに代々伝わる懐中時計だ。
小さい頃、おばさんがくれたんだ」
「そんな大事な物を!?」
「俺はもう、ワルキューレじゃない。
今はお前の方が必要だからな」
摩訶はワルキューレの加護を受けている。
きっと、この懐中時計は摩訶を導いてくれる。
「おい、ワルキューレの黄金の懐中時計ってまさか……」
と言うアレク。
えっ??
「ああ。
別名“真理計”。
名前の通り人の真理を見抜く。
そして、正しい真理を示す」
よく見ると羅針盤の様に記号が描かれていた。
それは文字だったり、絵だったり。
針が三本ある。
「針をセットする事で真理を読む事が出来る。
但し、ワルキューレにしか読めない」
「でも私……」
ワルキューじゃないし。
「摩訶はワルキューレの加護がある。
きっと読める」
そうなのかな?
それなら……
それに、シュバルツから何か物を貰うのは初めてだか。
後で読んでみよう。
自宅に到着した。
ルナが外で待っていた。
車から降りてきた摩訶を見る。
「ボロボロに……
何があった??」
魔術でボロボロになった摩訶の服を直す。
「それが……」
通り魔に遭った事を話す。
男の言っていた言葉でも。
ルナは考える。
「また、勇美関係か」
摩訶は先に家に入れた。
安静にしてた方がいいだろう。
そうじゃなくても、今は昼。
外にいるより中の方がいいだろう。
家族もいる事だし。
安心するだろう。
「……摩訶はまた、血を失ったのか?」
「ああ。
あれだけ傷付けばな」
「シュバルツ、お前はそれで大丈夫なのか?」
「まぁな。
摩訶はまだ、抵抗があるのか勢い良く血を吸われない。
それか……」
俺の勘違いか摩訶は、俺が苦しまない様に加減をしているのか?
そうであるなら、完全に回復してない筈。
「摩訶は優しい。
いや、優し過ぎる」
と言うルナ。
「他人を気にし過ぎているのかもしれないな」
「確かにそれはある」
もっと楽になればいいのに。
「それで、ソイツは確かに祝福騎士団と言ったんだな?」
祝福騎士団とは、自分達の祝福を願う集団。
目的の為なら何でもやる。
それが幸福に繋がる事なら。
「何処に身を潜めているのかと思いきや……
この世界にいたとはな」
勇美と共に滅亡したものかと思っていたが……
勇美が復活した事により、組織も復活したのか。
「恐く奴らの目的は、あたし達を排除する事。
それと何らかの計画に摩訶が必要だという事。
ここに、組織を潜めさせていたと言う事は、この世界で何かを行おうとしている。
そしてそれは、あたし達の世界にも繋がる事だ」
二人は頷く。
奴らの目的は一体……
この世界にあたし達を呼んだ理由も分からない。
ただ、邪魔なだけなら向こうの世界でも出来る。
摩訶が吸血鬼になる事も計画の一つであったかのようだ。
だとしたら………
「アイツの思い通りって訳か」
思い通りに行ってるって所が嫌だな。
「次は何を仕掛けてくるか分からないぞ?」
「ああ。
摩訶を行方不明にしたのも気になる。
もしかしたら、俺達の世界に来たのさえ偶然じゃなくアイツの策略だとしたら……」
分からない事だらけだ。
鍵を握るのはあの二人。
俺らはそれに居合わせたに過ぎない。
いや、もし俺らと出会うことさえアイツに仕組まれてたのだとさしたら……
と考えるシュバルツに
「摩訶はきっと俺達と出会った事を喜ぶ筈だ。
向こうの世界で過ごした事も。
そんな事で俺らは悩む必要なんてない」
と言うアレク。
「そうだぞ、シュバルツ。
あたし達は自分の意思でここに……摩訶と一緒にいる」
そうだった。
「……そうだな」
「あたし達を排除しようと考えてる時点でな」
そうだ。
何もかもアイツの思惑通りにさせるものか。
「さて、摩訶の様子も気になるし戻ろう」
三人は部屋に戻った。




