世界の成り立ち
移動中、私の世界について話した。
私はシュバルツに背負われて。
吸血鬼は普通の人間と違って身体能力が高い。
なので、走る速さも違う。
建物から建物へと飛び移りながら移動をしている。
「それはつまり、僕らの世界と違って人間が繁栄した場合の世界って事だね?」
「そうかな」
「その世界では、死んだ。
そして目覚めたらこの世界、人間が滅んだ場合の世界に迷い込んでいたと」
そういう事だろう。
簡単にまとめると。
ここはもしもの世界だ。
もし、人間が滅んだとしたらの。
私のいた世界は、もし人間が繁栄していたらの世界。
でも、どうやってこっちに来たのだろう。
それも魔界というこの場所に。
死者として扱われてたからなのかな?
「君がここに引き寄せられたのもこの世界のせいかもね」
「この世界のせい??」
「今、魔界と天界ではバランスを崩して崩壊しかけている」
と言うシュバルツ。
崩壊!?
「それで、歌で世界を変える事の出来る者をお互い探していた。
歌は壮大な魔術だと昔から伝わっているからな」
壮大な魔術……
確かに、さっきみたいに歌で死んだ者を蘇らせられるなら。
「この世界では、様々な楽譜が発見されているんだよ。
さっきの歌みたいに。
だけど、僕ら読めないから」
そうなんだ。
「それは僕の家系に代々伝わる楽譜だよ」
代々伝わる⁇
それって……
「そんな大事な物を私が貰ってもいいの?」
「僕が持ってたらただの紙切れだから」
でも、そんな事で世界の均衡を守れるとは思えない。
それどころか、きっと悪化する。
その力を巡って。
「知ってる?
この世界はね、ある一人の人間が滅ぼしたって」
人間が⁇
人間に世界を滅ぼすだけの力があるとは思えない。
「“最後の裁判”と呼ばれる歌があって、それで滅んだって説がある。
まぁ、それも三千年以上前の事だから誰も知らないよ」
「でも吸血鬼って長生きじゃ……」
不死身だとも聞く。
「僕の生まれる前だよ。
僕はこう見えて二千年しか生きていないから」
想像のつかない年数。
見た目はと変わらなそうなのに。
そんな昔には、人間もここには住んでいたのか。
………でも、そんな昔に私のいた世界では人間がいたのだろうか⁇
歴史は詳しくないから分からない。
ではなぜ、幻想種が現れるようになったのか。
あっ!
「そういえば、エルフ族がいるって……」
カイスは思い出したのか
「そうだった!
まず、この世界について話そう」
と言った。
「元々、この世界は天界、地上界、魔界と別れている」
三つの国……領土があるんだね。
「天界は、天使が主に支配している国。
空の上にある」
と言い、空を指差すカイス。
「他にも妖精や精霊だね」
そんな感じか。
よくあるファンタジーものの分類だね。
「地上界は、エルフ、その他かな。
主にエルフが国を統一している。
魔界は、主に悪魔が統一している。
僕ら吸血鬼やユニコーン、ケンタウロスなどの幻想生物はそれぞれにあった環境の元で暮らしている」
なるほどね。
人間を天使、悪魔、エルフに例えるとすれば、幻想生物は動物ってところかな。
でも、どうしてバランスが崩れているの?
「最近になって、夜叉の数が一気に増えた。
それをエルフの魔術だけじゃ追いつかず、僕らもこうして戦っている」
夜叉はここだけじゃなくて、各国に存在しているんだ。
「人口も減りつつある。
そこで、膨大な魔力の“歌”で夜叉の殲滅して平和を取り戻そうとしている。
もちろん、その者を手に入れた国は繁栄するだろうね。
強力な兵器を手に入れたのだから」
兵器……か。
私達を楽しい思いや辛い事、悲しい事から救ってくれる歌が兵器だなんて……
そんなの悲しい。
「って事で、探し回っているんだよ皆。
古からに言い伝えを信じて」
大変な世界に迷い込んだものだ。
向こうの世界では、死んだ事になっているからきっと戻れないのだろう。
ここで生きていくしかないのか。
気がつくと崖の険しいところに来ていた。
「……重くない?」
とシュバルツに聞く。
「あ?
お前、軽過ぎるぞ。
人間はこんなに軽いのか?」
なら、良かった。
気を遣っているだけかもしれないけど。
「時期に着きます。
カイス様、どうします?」
「一度、王様に会っておくよ。
この子の武器も必要だろうし」
えっ⁇
戦うの⁇
「だから、謁見の準備をお願いアレク君」
「了解しました」
と言い、先に行くアレク。
「さてと、シュバルツ君」
「はい?」
「ぶっちゃけ、マカちゃんのどこに惹かれたの⁇」
驚きの質問に顔を赤くして困惑するシュバルツ。
私もそれには驚いた。
「あの、だから放っておけなくて……」
ニヤニヤしながらシュバルツの反応を楽しんでいるカイス。
「本当は⁇」
「本当は……」
迫られ困るシュバルツ。
「……可愛いかったです」
ボソッと小さな声で呟いた。
「そうか〜」
私はこの時、決意した。
この人には弱みを握られない様にしようと。
てか、えっ⁇
可愛い⁇
身長が148cmだから良く、同性からは可愛いとは言われるけど……
男の人……しかも、吸血鬼に言われるのは初めてだ。
「さて、もう一息だよ」
と言い、カイスは先に進んだ。
だが、シュバルツは進まない。
「どうしたの?」
シュバルツの顔色を伺うマカ。
「……さっきのは忘れろよ」
「何で?」
「恥ずかしいから……」
吸血鬼にもそういう感情があるらしい。
生き物だもんね。
人間みたいだけど人間じゃない。
「素直でいいと思うけど」
「そうか?」
「うん。
じゃあ、歌を歌うよ」
「歌⁇」
私の歌がこの世界の鍵となるのなら、私は歌いましょう。
この私でいいのなら。
「〜♪〜♪〜♪〜」
それは、私の世界の歌。
元気の出る恋の歌。