感情
ーー朝方
特訓が終わり部屋で休憩をしていると
「解析が終わった」
ルナが向かいの部屋から出てきた。
「どうだったの?」
ルナは魔法石を摩訶に渡した。
「確かにコイツが摩訶に力を与えていた」
摩訶はペンダントを首に下げた。
「だが、それは微力なものだ。
支障が出ないぐらい」
だとすると、やっぱり吸血鬼の力の制御か。
「分かった。
なら、あとは鍛えるだけだ」
と言うアレク。
ルナにシュバルツについて話しをした。
「やっぱり、そうか。
摩訶は能力についていけてなかったのか。
なら、暴走しても当たり前、か」
「ああ。
全く、重要な事を話さないとは」
と言い呆れるアレク。
「それじゃ、次は吸血衝動についてだ」
「おい、アレク。
休み時間は?」
「ん?
さっき、休んだだろう?」
いや、話しをしていただけで休んでた訳じゃ……
「マジかよ……」
アレクの授業はスパルタだ。
「吸血衝動は血が極端に少ない状態の時に起こる。
戦闘後、大きな傷を修復した後など。
吸血鬼としての力を多く使った時だ」
なるほど。
それでも、起きるんだ。
「“血の武器”を身に付けていれば、普段は血に飢える事は無い。
さっき言った事が無い限りな」
“血の武器”。
吸血鬼の為の武器。
吸血鬼以外が手にすると血を吸われて死ぬ。
「そして、吸血鬼になって初めて血を飲む事で本来の吸血鬼に覚醒する」
あの時、私は初めて本来の吸血鬼に覚醒したのか。
「覚醒すると何が起こるのか。
まず、歳をとらなくなる」
じゃあ、今の容姿のままってことなのか。
永遠の二十代か。
それならいいか。
「次に成長しない身体。
細胞の活動が休止する。
まぁ、歳をとらない理由だな」
そっか!
「そして、一番変わるのは“血の武器”の扱いだ」
扱い??
「まぁ、一般吸血鬼には関係の無い話しだ。
皆、同じ種類の物を使っているからな。
だが、俺は特別この“血の武器”を使っている」
えっ??
「皆、武器は違う形じゃなかったの??」
渡された物が大鎌だったし、アレクとシュバルツも違うからそうかと思っていたけど……
「シュバルツは話しを聞いて分かったからな。
一般吸血鬼は何の変化も無い。
摩訶もウルド様に見込まれての事だと思うが」
アレクはスティックを取り出して、刀に変えた。
「血を吸え」
すると、“血の武器”が赤く光った。
「武器に力を……自身の血を与える事によって力を解放出来る」
そんな力があったんだ!
「上級吸血鬼は皆、この特別な“血の武器”を使っている。
武器の形状も様々だ」
そうだったんだ。
今まで知らなかった事が色々と明らかになってきた。
「これも使い過ぎると血が欠乏するから注意しろ」
「はいっ!」
と返事をしそる摩訶。
その力も上手く使えるようにしよう。
そうすれば、前よりももっと強くなれる。
きっと。
護りたいものが護れる。
「摩訶、決して力に呑まれるな。
この間はどうにかなったが、これからはどうなるか分からない。
力に呑まれた時、それは本物の化け物、鬼となる。
そうしたら、俺らはお前を殺さなくてはならなくなるからな」
鬼、か。
「これまで力を上手く制御出来ず、鬼になった者を沢山見てきた。
お前にはそうなって欲しくないからな」
それもあってアレクは、ここまで世話をしてくれているのだろう。
それだけ、大切に想ってくれているのだろう。
いい仲間に恵まれたな。
「他にも教える事はあるが、とりあえず今まで話した事が今の摩訶にとっては大事だ。
良く覚えておけ」
「うん!
ありがとう!」
「いや、まだあった」
??
「俺らにとってはもう重要な事ではなくなったから、話すのを忘れていた」
って事は、私にとっては重要??
「時間が経つにつれて感情が薄れてくる」
「感情が?」
「長く生きているとそうなる。
何にも興味がなくなる」
何にも??
「そうだな。
唯一興味があるのは血だけだ」
「でも、アレクやシュバルツは……」
私達とこうやって分かり合えている。
「多分、俺らにとって今は特別な時間だと思うからこうやって一緒に行動している。
普通の吸血鬼は群れるのを嫌うからな」
そっか。
「まぁ、シュバルツは摩訶に興味を持った時点でおかしいけどな」
「おい!」
と怒るシュバルツ。
って事は、きっと家族の事も……
そう思うと寂しい。
「それは何百年も後の話しだ。
だが、徐々に感情が薄れていくのは忘れるな」
私は頷いた。
……それでも、今の事は忘れたくないなぁー
今が私にとって大切な時間だから。




