想い
まだ起きてないよね?
母屋の方へと足が向かう摩訶。
きちんと部屋を見ておこうと思った。
それだけじゃなく、私の事も……
「摩訶?」
!?
そこには、母親の姿があった。
「どうしたの?
こんな朝早くから……
寝てても良かったのに」
「大丈夫。
目が覚めただけだよ」
二人はリビングのソファーに座った。
ここで話すべきなのだろうか?
自分についての話しを。
「お母さん、明日シュバルツもついて来るって。
洋服も買いたいし」
「分かった。
じゃあ、三人で行こう」
しばらく、沈黙が続いた。
「摩訶、無理して話さなくてもいいんだよ。
自分が話したい時にしなさい」
そうだ。
私の母親はそういう母親だった。
辛かった時期もそうだった。
そう言ってくれた。
けど、私は今話すべきだと思い全てを告白した。
辛かった気持ちを。
だから、今回もそうする。
「ううん、今聞いてほしいの」
と言い、今までの話しをする。
自分はあの日、事故に遭って亡くなった事。
だが、死んだと思ったらそこは異世界だった。
色んな人との出会い。
仲間との出会い。
そして、その世界は自分が好きな音楽の世界。
しかし、その世界の住人は誰一人として音楽を知らない。
その中で様々な経験をした。
それを母親は、静かに時には楽しそうに聞いていた。
この世界へ来た目的も。
自分が吸血鬼だという事も。
全てをありのまま話した。
「摩訶、大変だったんだね」
と言い、摩訶の頭を優しく撫でる。
「それが吸血鬼だとしても摩訶は摩訶。
私にとっての摩訶は一人しかいない。
今、自分の目の前にいるのが摩訶だから。
性格とか考え方とかその表情、顔も。
全部含めて摩訶なんだよ」
あぁ、前にも同じ様な事を誰かに言われた様な気がする。
その時、ふと浮かんだのはシュバルツの顔。
涙を流す摩訶。
「ほら、泣かないで。
摩訶はいつも太陽のように笑うのよ」
と言われ、摩訶は涙を拭って笑顔になる。
「青白い肌に赤い瞳、鋭い二本の牙、黒髪……」
母親はニコリと笑う。
「可愛らしい吸血鬼ね」
ここに戻ってこれて良かった。
「ここは摩訶の家。
ここにいる間は好きに使いなさい」
「……ありがとう」
警察署に行くまではまだ時間がある。
「部屋に戻るね」
と言い、摩訶は部屋に戻った。
話せて良かった。
ここは本当の私の家だ。
あとは、どうしてこんな事になったのか。
部屋に入るとルカは起きていた。
「良く寝れた?」
「ああ。
ずっと野宿だったし、久々の布団だったから」
ルナは摩訶がどこに行っていたか聞くのはやめた。
何となく、分かっているから。
「買い物にはいつ行くんだ?」
「まだ、早いからお店はやってないし。
しばらく待機かな」
まだ、8時。
摩訶とルナは服を着替えた。
赤いパーカーに紺のミニスカート、黒いタイツを履いた。
ルナは白いブラウスに黒いリボン。
黒いロングスカート。
私の服から自分で選んでいたけど……
モノトーンコーデが好きなのか。
私のでサイズが合って良
支度が出来たところで、向かいの部屋にいる二人も呼んだ。
「二人が外出している間は何をしてればいいんだ?」
そうだなぁー
「この周辺の調査をしてもいいか?
あたしが透過魔術を使う。
それで姿は隠せる」
「うん、じゃあお願い」
やる事もないだろうし。
状況を把握する為にもそれが適切だろう。
「今後の予定は私達が帰って来てからで」
三人は頷く。
本当にここにイサミがいるのだろうか?
「ツヴァイはどうする?」
「もしもの事を考えて摩訶と一緒にいよう」
と言い、陰に潜んだ。
「摩訶、何かあったら強く念じろ。
それで、念話が出来るはずだ」
「やった事無いけど……」
「大丈夫だ。
摩訶は魔力が強いから」
摩訶は頷く。
「分かった」
このコンビで離れるのは今回が初めてだ。
いつもはルナがいたから、魔術関係の事はどうにかなってたけど。
魔術が使える者が分かれるのは、初めてだ。
自分の力を試す機会でもある。
ツヴァイもついてるし。
時計を見る。
九時半になった。
そろそろ、時間だ。
私は腕章を付ける。
シュバルツが不満そうな顔で私の付けた腕章を見ていた。
聞くと長いだろうからやめておこう。
「それじゃあ、夕方までには家に帰る事。
それでいい?」
「ああ。
分かった」
「何かあったらここに戻って来よう」
と言い、摩訶とシュバルツは出かけた。
まずは最初の目的でもあった洋服屋。
私もいくつか洋服を買った。
シュバルツは色々と迷いながら洋服を選んでいた。
もちろん、アレクのも。
中々のセンスだと思う。
だけど……
「何で私と同じ色のパーカーにしたの?」
「えー、お揃いっぽいから?」
まぁ、いいけどね。
パーカーにボトムス。
初めとあまり、変わってないけど。
「あら、摩訶と同じ色のパーカー!」
と言う母親。
「摩訶と似たようなのを選んだんだ」
「ふふ。
二人とも仲がいいんだね」
そうかなぁー
少し照れる摩訶。
「まるで、兄妹みたい!」
そっちか!!
洋服も買ったので、警察署に向かう事にした。




