元の世界へ
「やっぱり、会ったのかよ」
「うん。
シュバルツの事、心配してた」
「はぁー、俺はもうあそこに戻らないからな」
それをきっと、あの人は知っている。
気付いているのだろう。
「じゃあ、マカは本当にワルキューレと会ったんだな?」
「そうなんだけど……」
魔力が上がったような感じは自分では分からない。
「そういう事か」
とシュバルツに言うアレク。
「何の事だ?」
「いや、やっと謎が解けた」
ホッとした顔をするアレク。
「一体、序列何位だ?」
それを聞いてビクッとするシュバルツ。
「まぁ、俺は気にしてないけどな」
と言い、マカの元へ行った。
「マカ、これやる。
予備だけどな」
アレクから腕章を受け取る。
あっ、そうか。
太陽光を防止する……
日焼けの心配はいらなくなったのか。
私は渡された腕章を付けようとしていると
「おい、マカ。
俺が腕章を付けてやる」
シュバルツが手を差し出してきた。
「えっ」
確か前に腕章の位置についてアレクと揉めてたよね??
これは厄介な事になる。
「自分で付けるからいいよ」
「いや、ちゃんと位置があって……」
シュバルツの話しを遮って
「ルナ、吸血鬼になったけど……歌えると思う?」
と上手く話しを逸らした。
「そうだな……
この世界だと人間意外は歌えなくなっている。
試して見るか?」
マカは頷いた。
風の……歌でいいかな?
ルシファーに貰ったあの楽譜だ。
えっと……
すると、目の前に竜巻が現れた。
!?
まだ歌ってないのに!?
どんどん風が強くなる。
「マカ!!
竜巻を消せ!!」
と叫ぶルナ。
「でも……」
さっきから消そうとしている。
だが、消えない。
「魔力を……弱めるんだ!!」
ルナの言う通りやってみる。
体から力を抜くように。
竜巻はどんどん小さくなり、消えた。
周りには何もなくて良かった。
「マカ、歌ったか?」
「歌おうと思って楽譜を思い出してたら……」
「ルナ、どういう事だ?」
ルナはしばらく考える。
「多分、これもワルキューレの加護だ」
そうか。
この金色の光の粒が……
「じゃあ、話してたアレか?
魔力が高まっているせいか?」
「恐らく。
歌も魔術らしいしな。
歌詞が詠唱のようなものだろう。
あたしの考えではな」
少し便利かも。
詠唱破棄だなんて。
「そうだ!
これ、忘れてた」
シュバルツから楽譜を渡された。
「イサミの奴が置いていった」
そうだ!!
イサミについて聞くのを忘れていた。
「イサミはあれからどうなったの!?」
三人はマカが倒れてからの話しをする。
「それじゃあ、行かないと!!」
元の世界に!!
行けるのなら!!
「これはきっと元の世界へ……
イサミのところへ行く為の楽譜だよ」
多分これは、追ってこいって事だと思う。
イサミは私が死なないと思っていたんだ。
「マカ、元の世界って……」
そう。
私がここに来る前。
死ぬ前に住んでいた場所。
「私のいた世界だよ」
元の世界に戻ったとしても、同じ時代だとは限らない。
「もちろん、あたしも着いて行くけどな」
良かった!
「俺も行くぞ」
「だな」
と言うシュバルツとアレク。
そう言ってくれると思ってた。
四人は円になる。
「何が起こるか分からない。
準備はいい?」
「いつでも」
頷くアレクとルナ。
「戻れなかったら……」
「大丈夫だ。
その時はその時。
マカの魔術だったら何とかなる!」
そうだね。
「一応、あの不死鳥を都に送った」
今まで情報は暁を通して行っていた。
なら、大丈夫だろう。
「行くよ」
マカは楽譜を開く。
「山よ海よ太陽よ。
風は私達を運ぶ。
森を谷を川を越えて。
遥か彼方の大地へ。
果てしない夢を叶える為に。
恐れず歩み続けろ。
これはブレイブストーリー」
幻想的な曲調。
幻想曲だ。
歌を歌い終わると体が宙に浮く感覚があった。
そして次の瞬間、目の前が黄金の世界に変わった。
えっ……
「ここは……」
「……まるで、ヴァルハラだ」
と呟くシュバルツ。
何だろう?
と思っていると、体が落下し始めた。
足元は白い光が見えた。
どうやら、そこへ向かっているらしい。
そして、目の前が真っ白になった。
眩しくて一瞬、目をつむる。
落下する感覚が無くなったので、目を開ける。
目の前には何処か懐かしい風景が広がっていた。
少し大きめのショッピングモール。
出入口には、いくつかのベンチ。
あっ、あそこは……
忘れる筈がない。
マカが事故に遭った道路。
辺りが暗い。
空を見上げれば、星と月が輝いていた。




