最期の日
こんな易々と話しをするなんて。
何か裏があるのだろうか?
「これはマカはもちろん、この世界にも関わる事だから」
私にもこの世界にも??
「マカ、元の世界に戻れる」
!?
「と言ったら、君はどうする??」
予想外の言葉に戸惑うマカ。
どういう事!?
「……それは、確定なの??」
「まあね。
マカ、僕と元の世界で暮らそう。
人間として。
その為に君の元の世界の人間に消えてもらう」
!?
人間に消えてもらうって……
「二人でいれば僕はマカしか見ないし、マカも僕しか見ないだろ?」
それは……無理な話だ。
「自分の為なら他の人は犠牲になってもいいの??」
「もちろん!
僕とマカ以外の人間は生きているは必要ない」
イサミは人間を愛さないと死ねない。
こんな言動しかしない者に人間は愛せない。
私だけを好きになったんじゃ意味が無い。
イサミにかけられた呪いは。
全ての人間を愛さない限り。
「マカ、コイツの相手をする必要なんてない」
と言い、マカの前に出るシュバルツ。
「でも……」
他人事とは思えない。
自分と似たような体験をしているから。
見捨てられない。
「ふーん。
マカを構うんだね。
君、マカの事が好きだもんね」
剣を抜く。
ハルバードを構えるシュバルツ。
後ろにいるルナとアレクも武器を構えている。
「でも、君らは甘いよ。
それじゃ、僕には勝てない」
「くっ!!
マカを守れ!!」
とツヴァイの叫び声が聞こえた。
その時にはもう遅かった。
一瞬の出来事だった。
マカの体の中心を鋭く尖った地面から伸びた影が貫いた。
「ぐはっ…」
大量の血を吐き出しその場に倒れるマカ。
影はイサミの元に戻った。
その後、ツヴァイがマカの影から出てくる。
「アイツ、影で動きを封じるぞ」
動きを封じられ助けに迎えなかったので、ツヴァイは大声で叫んだ。
しかし、間に合わなかった。
「マカ!!」
ルナはマカに駆け寄り、治癒術を施す。
「お前っ!!!」
怒りで我を忘れてイサミに襲いかかるシュバルツ。
「あはは。
僕はね人の絶望さした姿を見るのが好きなんだよ」
「待て!!
挑発に乗るな!!」
それを止めようとするアレク。
「嫌だなぁー
君ならマカを助けられるんじゃないの??」
と攻撃を余裕で交わすイサミ。
「いや、違ったな。
君達、吸血鬼なら出来るんじゃないかな?」
「そうしたらマカは人間では無くなる!!
マカはそれを望まない!!」
イサミはまた、意地悪そうに言う。
「ほら、早くしないと死んじゃうよ?
人間は脆いし。
どんなにエルフの魔術が優れてたってね」
「クソが!!」
その様子を見て笑うイサミ。
「あはは。
凄い必死だね。
あっ、そうそう。
マカのいた世界に行けるのは本当だから。
もし、生きてたら伝えて。
入口は既に開かれてる、てね」
と言い、一枚の楽譜を置いた。
「じゃあ、僕は一足先に向こうで待ってるから」
イサミは歪んだ空間へと消えていった。
シュバルツは思いっ切り、ハルバードを地面に突き刺した。
「……ルナ、マカの様子は…」
「……治癒術はかけている。
だが、この出血は……」
地面に広がる血を見る。
「……治癒を止めろ」
「!?
おい、シュバルツお前……」
アレクには、シュバルツが何をやるか分かっていた。
「本当にやるのか?
あたし、聞いた事がある。
吸血鬼は人間の血を吸う事でその人間を吸血鬼にする事が出来る、とな。
だが、それをしたらマカは……」
「ああ。
人間じゃなく吸血鬼になる」
マカはどう思うか分からない。
吸血鬼は太陽のある空の下を歩けない。
死ぬ事の無い不死の身体。
そうだ。
化け物になる。
「もう実体が保てない。
マカの身体も限界に……」
と言い、ツヴァイが消えた。
「召喚者を失えば使い魔も消える……」
シュバルツはマカを抱きかかえる。
「……本当にいいんだな?」
「ああ」
ルナは治癒術を止める。
俺はマカに恨まれたっていい。
けど、失いたくない。
一緒にいたい。
シュバルツは、マカの首筋に噛み付く。
ズルズルとマカの血を吸う。
マカの首筋から口を離す。
「マカ……」
すると、マカの身体の中心に空いた穴が徐々に塞がっていく。
他にも身体のありとあらゆる傷が癒えていく。
「これでマカは大丈夫だ」
「それにしても凄いな、吸血鬼は」
「いや、ただの化け物だ」
そう。
治療など出来ない。
ただ、人間を化け物に変えただけの。
「マカが目を覚ますまであたし達も休憩だ」
「そうだな」
その時、アレクは思った。
下級吸血鬼が人間を吸血鬼にしてはいけない、という決まりがある事を。
だが、アイツは平気で行った。
何も言わずに。
ルナは知らないようだったから、俺は何も言わなかったが……
やっぱり、そうなのか。
マカが目を覚ますのは、この日から一週間後の事だった。




