人間の心
これは、まだこの世界に人間がいた頃の話し。
僕はごく普通の家系に生まれた。
歌を歌う事が好きで、毎日色々な曲を考えては歌詞を作って歌っていた。
そんなイサミの歌が人間達はもちろん、エルフや幻想種も好きだった。
一緒に歌う者、それを記録する者。
沢山いた。
イサミの歌のファンが。
そんなある日、ある歌を歌ったところ怪我が治ったのだ。
そう。
癒しの歌。
気づいてしまった。
自分の歌う歌には、エルフの扱う魔術とは違う何かがあると。
「イサミ、また歌を聴かせて」
と言い、歌を聞きに来る人間。
小さな舞台を岩で造り、そこで演奏会を行っていた。
だがある日、その噂を聞きつけた悪人がいた。
「幻想種なんていらない!!
人間だけが支配する世界を作ろう!!
幻想種から権利を奪おう!!」
と言う者が増えてきたのだ。
確かに人間は弱い。
一人では何も出来ない。
「そんな事をしたら……」
「まぁ、予想通り戦争が起きたよね」
やっぱり。
「それで、僕は歌を戦争の道具として使われた。
兵器としてね」
武器も魔術もない人間には都合が良かったのだ。
魔術を使えるイサミが。
「僕は作曲としての才能もあったみたいでね。
作った歌はそれぞれ異なる魔術を起こした」
じゃあ、あの楽譜を作ったのはイサミなんだ。
それから、長くの間その戦争が続いた。
あらゆる魔術を作り出した。
エルフの間では使われない、禁止とされている魔術までも生み出してしまったのだ。
歌の力は、エルフの使う魔術よりも壮大な魔力だった。
その内、戦うのはイサミに全て任せて他の人間は隠れるように暮らすようになった。
敵が来たらイサミ。
敵が来たら歌。
ただの兵器としか扱われなくなってきた。
「だから、僕は憎くなった。
人に全てを任せて何もしない人間に。
それに歌ってなんだ??
僕はこの為だけに生まれて来たのか??ってね」
確かに。
それは、私も嫌だな。
「生きる意味を失い始めていた。
だから、言ったんだ。
戦争をやめようって。
他の種族と仲良くやっていこうって。
共に生きようってね」
そうなるよね。
だが、違った。
他の人間は、戦う事を諦めていなかった。
イサミがいるから勝てる。
イサミにはかなわない。
「戦わない!?
何を馬鹿な事を言っているんだ!?」
と言われ、街すら追い出される。
勝つまで帰って来るなと。
その時、思いついてしまった。
人間を殺そう。
そうだ。
人間さえいなければ、こうなる事はなかった。
人間がいなければもう、歌わなくてすむ。
四種類の楽譜は既にいくつかの種族に渡っている。
だが、あれは読めない。
人間以外は。
この世界では、人間と幻想種の間では書く言葉が違う。
ならば、歌える人はいなくなる。
もし、解読されてしまえばあの魔術を使われてしまう。
なら、この世界は歌を歌う者がいなくなれないい。
と思い、考えたのが人間を滅ぼす事になった曲。
「最後の裁判、だよ」
「本当に……」
「ああ。
人間は消えたよ。
僕を残してね」
「歌は……」
「封印したよ。
歌えない様にね」
そうだったのか。
可能性だったけど本当に可能性にしたんだ。
「でもね滅亡、封印だなんて禁忌とされていた魔術を使ったらバチが当たってね」
バチ??
「人間を愛し、何か大切なものの為に歌を歌う呪い」
!?
禁忌と言われているんだ。
そのくらいのバツは受けても仕方ないのか。
「人間は滅んだのにどうやって人間を愛せと??
大切なものもないのに」
と言うイサミ。
最後の日にイサミは街中の人間を集めた。
「この歌を歌えば……長かった戦いは終わるよ」
それに喜ぶ人間達。
イサミは歌を歌った。
最後の裁判を。
黒い気に包まれ、人間は次々に死んでいった。
これでいい。
それがここから人間が消えた日。
そして、この世界から音楽が奪われた日。
「このくらいかな。
あの時の話しは。
君はどう思う??」
「確かにそんな事をされたら私も同じ行動に出るかもしれないかな」
「じゃあ、僕のやった事は正しい!」
そうは思わない。
「それでも、命を殺めるのは良くない、私はそう思う」
人間は嫌いだけど家族や友人、職場の人は何とも思わない。
嫌いだと感じるのは、その他の人の事。
自分に関わる人は平気だという事は、嫌いとそう思わせる原因は他にあると思う。
ただ、その他の人間の事は何も理解していないからだと思う。
嫌味を言われたから嫌いとかそんな単純なものじゃない。
最近の事。
その人間や人物に対する気持ちの持ちようだと思うようになった。
シュバルツやルナもそう。
理解し合えば気持ちも変わる。
その人に対する見方も。
「だから、人間と……自分の心と向き合おう。
理解し合えば気持ちも変わる。
私はそう思う。
人間、全員が悪い訳じゃない」
イサミは寂しそうな顔をする。
「……そうか。
君は違うのか」
と言い、二人を包んでいた黒い霧が消えた。
「マカ!!」
声のする方を振り返るとシュバルツとルナがいた。
「また会おう、マカ。
僕は君が好きになったからね」
と言い、イサミは風と共に消え去った。




