追復曲(カノン)
扉が開かれ、中へと入る。
「全く、いきなり来るとは。
お前は常識というものを知らないのか?」
犬の顔をし、二足歩行をしている。
見た目、老人のようだ。
艶やかな着物を着ている。
でもこの人、目が見えていない。
「急用で用事があったんだ」
謝るルナ。
「まぁ、良い。
それも極秘任務だろ??」
察しがいい!
「匂い的にそっちは、吸血鬼。
んでもってもう一人は……人間か」
流石に匂いは誤魔化せない。
「わしはな見ての通り老いぼれの狗神。
力になれるか分からないがいいのか、人間の娘よ」
狗神だったのか。
「私はマカです。
異世界から来ました」
「俺はシュバルツ」
「頼む、ラーマ。
他に頼れる人物が思い当たらないんだ。
ここなら、マカの扱いや軽蔑の目など言葉を浴びさせることはない。
そう思った。
歌が歌えるんだ!!」
ラーマは少し考える。
「マカは歌の力を持つ者。
この世界を変えられるんじゃないか?」
特に驚く様子も見せず
「確かにな。
そうかもしれない」
と言うラーマ。
「私、助けたいです。
この世界を。
それに私の歌で助ける事が出来るのなら」
ラーマは一枚の楽譜をマカに渡す。
「これを歌ってもらえるか?
ある人魚の一族に伝わる曲らしい。
綺麗なメロディーだと言われた事がある。
だが、誰も聴いたことがないもんでな」
これがさっきナタリアが言っていた、癒しの歌か。
「題名までは教えてはくれなかったがな」
そうなんだ。
私はそれを受け取る。
深呼吸をして歌い始めた。
「空いた心の穴をを埋める。
悲しい言葉も勇気のある言葉も。
力を与えてくれる。
絶望を希望に変える。
それは知っている。
ありがとう、だから頑張れる。
命は一つ。
だから尊いの。
一生懸命に生きなさい」
涙が溢れる。
この歌詞は、私に合っている。
そして、この曲はカノンだ。
和音の多い曲。
癒しの歌に相応しい歌詞とメロディーだ。
「おぉ……」
ラーマは目を開いた。
!?
「光が……見える!!」
目が見えないはずのラーマが癒しの歌の力によって、目が見えるようになったのだ。
本当に……癒しの力が!?
「ナタリアが言っていたな。
確か癒しの歌だって」
と言うルナ。
「って事は、マカの魔力によって治ったのか!?」
と驚くシュバルツ。
「そうなのか……」
腰を降ろすラーマ。
「確か、目は若い頃に失ったとか……」
「ああ。
夜叉との戦いでな」
それを治しちゃったのか。
「傷を癒す力があるのか?」
「確かにそうかもしれないです」
「力がある者が歌えば魔力を与えるのか。
この世界にマカしか歌えないとすれば、本当に奴を救えるかもしれないな」
奴??
「それって、都で言ってたこれの事か??」
都の門番どあるドワーフに貰った手配書を見せるルナ。
「そうだ。
そいつはここの人間を滅ぼし、歌う事を禁じさせた者。
その顔の印が何よりの証拠だ」
「でも、それって何年も昔の話しですよね?」
そんな昔の人間が生きているとは考えられない。
「そうなんだ。
アイツは自らも呪いにかかっている」
呪い??
「ああ。
それが解けない限り死ねないと言われている」
「その人間の男がどこにいるとかは、分からないんですか!?」
「そこまではな。
だからそうして、手配書を配っている。
捕縛する為に」
その前に聞きたいことがある。
どうして歌う事を封じて、人間を滅亡させたのか。
同じ人間が。
「私、彼に会いたいです」
!?
一同、その言葉に驚く。
「だが、会ってどうするのだ?」
「言ったじゃないですか。
救えるのは私しかいないって」
「あくまで可能性の話だ。
同じ人間で歌う者同士で分かり合えると考えた。
しかし、このまま進めばお前の命にも関わるかもしれない。
危ない旅になるぞ?」
覚悟は出来ている。
ここに来た理由がもし、彼を救う為だとしたら。
この世界を救う為なら。
「歌が歌えないだなんてつまらないよ。
私は皆に音楽を楽しんでもらいたい!
こんなに素敵な歌があるんだもん。
私みたいに魔力はなくても皆に歌を歌ってもらいたい」
「……そうか。
そこまで言うのなら止めない。
我が道を行くがいい。
もし、力が必要ならばその時は力を貸そう」
三人は笑顔になる。
「ありがとうございます!」
「いいんだ。
目を……歌を聴かせてくれたお礼だ。
これは一人で聴くには勿体ない」
「ありがとな!」
ニカッと笑うルナ。
「お前がマカに執着する気持ちも分からなくない」
「まあな。
あたしもマカと一緒に世界が変わる瞬間を見届けたい。
ただ、それだけだ。
あとは、歌を聴きたいってのもあるけどな」
「そうか」
とラーマは頷いた。
「マカよ」
「はい」
「ルナを頼むぞ」
私は微笑んで言う。
「分かりました」
と言うと、扉の奥から声がした。
「ラーマ様!
アレクと名乗る吸血鬼が訪ねて来ました」
クルドはシュバルツを見る。
「俺らの仲間だ」
「入れてやれ」
と言い、扉が開かれる。
「何で、お前が来たんだ?」
と言うシュバルツ。
「夜叉の討伐で魔界をウロウロとしていたら、お前らの噂話を聞いてな」
噂話??
「何でも、歌う人間と吸血鬼、エルフが一緒に旅をしているとか」
噂になっているのか。
「そんで、カイス様が行ってこいって言うから来た」
「部隊の方はいいのか?」
「ああ、問題ない。
カイス様がその間、面倒を見るらしい」
「じゃあ、四人になるのか?」
と言うルナ。
「そういう事だ。
世話になるな」
二人は自己紹介をしている。
「マカ」
ラーマがマカの隣に立つ。
「そいつ、懐いているな」
ずっと、肩に止まっていたフェニックス。
「その子も連れて行くといい」
「えっ!?」
「いいんだ。
そいつが他人に懐くのは珍しい。
それに旅に役に立つはずじゃ」
よしよし、とフェニックスを撫でる。
「仲間を大切にしなさい」
…………仲間か。
「はい」
アレクを加えた四人。
ラーマに別れを告げて、謎の男を追う事にした。
目的は決まった。
彼を探しながら歌をこの世界に広める。
それが私の今、出来ることだ。




