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最弱魔法の歌姫  作者: クロ
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「国営ギルドにようこそ!本日はごのような用件で!?」

「あー、冒険者登録をしに来たんだが」

「冒険者登録ですか!?はい!では、まず初めに貴方様の冒険者カードを拝見させてもらいますがよろしいですか!?」



 東メインストリートの最端の大きな建物、通称『国営ギルド』に入ると、そこには同い年ぐらいの人から老人まで多くの世代の人たちがごった返し、祭りのようにざわめいていた。

 受付は十ヶ所。その内六ヶ所は行列を作っている。六ヶ所全て、受付はどれも女性職員。空いている他の四ヶ所の受付は男性職員だった。

 ヴェリアスは迷わず空いている方へ向かい若い男性職員へ話しかけると、彼は何故か嬉しそうな顔で生き生きと対応し始めた。

 


「何で皆わざわざ混んでいる方へ行くのかな?」



 ヴェリアスが男性職員と話している間、暇だったのでヴィレッカに訪ねると、ヴィレッカは小さな声で教えてくれた。



「あの行列に並んでいる人をよく見てみろ。どれもオッサンとかオッサンとかオッサンとかだろう?」



 ホントだ!よく見るとオッサンしかいない。

 ……言い方移った。もう一度。

 オジサンしかいない!



「―――でも、それが行列に何の関係があるの?」

「きっとあの人達は冒険者業のやりすぎで婚期を逃したんだ。だから女性の目を引こうと必死なんだよ。それにギルドに働いてる人はある程度冒険者業に理解がある人だからな。コアな話も弾むだろうし心を奪われるのに時間は然程かかんなかったんだと思うぜ」

「あー……」



 つまりあの人達は冒険者の成れの果ての姿は

ってことだね。何事も程々にってことですか。

 よし、あの人達の姿を鮮明に捉えてこれからの教訓にしよう。



「ひぎゃん!?」



 なんて考えてジーっと見ていたら頭を叩かれた。



「なにするのお兄ちゃん!」

「そんな好奇心丸出しの目でいつまでも見てたら見られてる人が可哀想だろ。さっきも言った通りあの人達は必死なんだ。そっとしといてあげろ」

「えー、せっかく良い教訓になると思ったのに……」



 もっとよく観察したかった。と口を尖らせた、その時……。



「え!?ええええええええっ!?ヴェリアス・シュレイグって、あの『剣王』じゃないですかぁぁぁぁあああああっ!?」



 ヴェリアスが差し出した冒険者カードと呼ばれる物を見た男性職員が、大声を上げた。



「『剣王』だって?奴は殉職したはずじゃ……」

「馬鹿野郎。殉職じゃなくて結婚による引退だろ」

「戻ってきたってことは……離婚したのか!?」



 施設が途端に静かになり、ひそひそ話が展開されていった。皆の視線の中心はヴェリアスだ。


(……あれ?パパって有名人なの?もしかしてスゴい人?)



「誰だ!今離婚したとか言ったやつ!俺は離婚してねぇからな!」



 そう言うとヴェリアスは人混みへと突っ込んでいった。

 ぎゃーぎゃー、乱闘が起きる。


(パパがスゴい人のわけないか。きっと問題児ってことで有名だったんだね。ママも前に悪名は広まりやすいとか言ってたし)


 そう考えるとスッと腑に落ちた。



「ヴ、ヴェリアスさん!僕子供の頃から貴方のファンなんです!サインしてくれませんか!?」



 だが、男性職員がサインを求めるあたりどうやら悪名が広まったようでも無さそうだ。ギルドの職員が悪人に憧れるわけないだろうし……。

 ヒメネスはうーんと頭を悩ませると、男性職員の服をクイクイと引っ張った。



「ねぇ、お兄さん。パパって何やってたの?」

「パパ?え、君!ヴェリアスさんのお子さんですか!?」

「あ、はい」



 質問するつもりが逆に質問されてしまった。勢いに圧されて思わず頷いてしまう。

 しまったと思ったときにはもう遅い。視線は完全にこちらに移っていた。



「えっ、あの可愛い女の子が『剣王』の娘なのか!?」

「『剣王』の娘だからゴツゴツのゴリラみたいな子だと思ってたけど、母親の血を上手く引き継いだんだろうな」

「ってことは、あの娘がさっき「お兄ちゃん」って言ってたあの少年は『剣王』の息子か……うん」

「「「似てなくて良かったな!」」」



 ……どう反応したら良いか困る。

 肯定したらヴェリアスが悲しむだろうし、否定したらお父さん大好きっ娘に見られるかもしれない。

 オロオロしていると、さっきまで「どこから話そうか……」と悩んでいた男性職員が、キリッとした顔になって。



「まずはヴェリアスさんの生い立ちからですがヴェリアスさんは今から二十七年と九ヶ月前『フィーリプシル』の街で生まれそこで3歳から8歳までの5年間英才教育を受けました10歳になり洗礼式を受け国民権を獲得した後すぐに王都にある王立冒険者学校に入学そのまま13歳の卒業時まで首席をキープし首席卒業を果たすと『レーグラン』の迷宮ダンジョンへ……―――」



 息つく間もなく捲し立てるように発された言葉に、ヒメネスはうっと息を呑んだ。

 助けを求めるように、男性職員の横に立っている中年の男性職員を見ると、その人は「あーあ。やっちまった」と呆れた顔をしていた。

 ……反応を見るに、この人にヴェリアスもとい『剣王』の事を聞くのはタブーだったようだ。


(そういうのは先に教えてよ……)


 呪いのように永遠と紡がれる知りたくもない(ヴェリアスの)話にうんざりしていると、乱闘にケリが着いたのかアザをいくつかも付けたヴェリアスが戻ってきた。


(アザにまみれてキスマークまであるのはさすがにアウトだね。これは帰ったらママに要相談案件だよ)


 なんてヒメネスが考えてることなど露知らず、ヴェリアスは自分の武勇伝を淡々と語り継ぐ男性職員の話を強引に断ち切らせると、ヒメネスとヴィレッカを指差した。



「じゃあ早速だがコイツらの冒険者登録をしてくれ。なるべく早く頼む」



 憧れのヴェリアスの言葉に、男性職員は全身を固まらせて「はい!」と威勢の良い返事をすると、ヒメネスとヴィレッカに質問を重ねて、カウンターの向こうで何やら書き始めた。

 とはいえ聞かれたのは名前と年齢くらいだった。……一応他にも聞かれたのだが、『ヴェリアスさんのいつもの様子は?』『ヴェリアスさんの好物は?』『ヴェリアスさんの(以下略)』などの完全に関係ないものだったので無視した。

 こちらに答える気がないと知ってか、男性職員は残念そうに息を吐くと、ヒメネスとヴィレッカを交互に見て一礼した。



「これで冒険者登録は終わりとなります。明日にでも冒険者カードの方は作られますのでなるべく早く取りに来てください」

「わかった。いろいろありがとう。 では行くぞ、二人とも」

「はーい」「はい!」



 男性職員に軽く一礼した後、ヒメネスとヴィレッカの二人はヴェリアスに続きギルドの外へ出た。

 ヴィレッカが小声で「中二くせぇ……」と呟いていたけど『中二』って何なのだろうか?

中々個性の強い職員です。

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