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最弱魔法の歌姫  作者: クロ
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7

 次の日。

 朝早くから起床したヒメネスは、生活必需品であるおやつを大量に詰め込んだバッグを持って部屋を出た。


 そのまま家を出ると、家の外には既にヴィレッカ、ヴェリアス、ミルフィーナの姿があった。



「遅いヒメ。集合時間は過ぎてるぞ。何やってたんだ」

「おやつを厳選してたの!ほら見て見て!」



 じゃーん、とバッグを開けてヴィレッカに見せびらかしていると、ミルフィーナにバッグを取られた。



「ママ!?」

「見事におやつしか入ってないじゃない。遠足に行くんじゃないのよ。これは没収ねはぁ、こうなることを予想して準備しておいて正解だったわ。はい、こっちを持ってきなさい」

 


 ミルフィーナに渡されたバッグを開けてみると、そこには着替えや砥石等が入っていた。おやつは無論ない。



「あああ……」



 カクンと項垂れながら、ヒメネスは深い溜息を吐いた。


 一ヶ月でもかなり苦痛だったのに、二ヶ月もおやつがないなんて耐えられない。下手したら死んじゃうレベルだよこれ。魔物と戦う前に絶望に圧し殺されちゃうよ……。



「『フローリック』は菓子物の街なのでしょう?だったら心配しなくてもおやつなんて簡単に手に入るわよ」

 


 絶望と不安に染まった未来にガタガタと震えていると、ミルフィーナが呆れたように肩を竦めながら言った。

 


「はっ!そうだ、そうだね!よし、行こうすぐ行こう!」

「いやまてヒメ。お前どこ行く気だ?」



 ヴィレッカに肩を掴まれた。

 


「何レッカ?はっ、もしかして行き先忘れちゃったの!?『フローリック』だよ!」

「そっちの方向は『フローリック』と反対方向なんだが?」

「……」



 よく考えたらわたし『フローリック』の場所わからないや。

 大人しくその場で待機することにした。



「……」

「ヒメ、何て顔してるんだ。変な顔だぞ」

「え?」



 どうやら早く早くと急かす思いが顔に出ていたらしい。

 ヒメネスはえへへーと誤魔化すように微笑む。



「表情で誤魔化してるつもりだろうが、地団駄踏んでるから意味ないぞ」

「え」



 言われて足を見やる。確かにダンダンと地団駄を踏んでいた。



「―――どうやらヒメが我慢の限界みたいだ。じゃあそろそろ行ってくる。家の留守番は任せたぞ、ミルフィーナ」

「ええ、お土産話楽しみにしてるわ。あの子達を絶対に守ってね、あなた。レッカもヒメを守ってあげてね」

 


 ミルフィーナの言葉に、隣に立っていたヴィレッカは頷いた。



「はい母さん。ヒメは俺が守ります!」

ヒメを守るって、なんだか親衛騎士の台詞みたいね。ん?どうしたのヒメ」

「わたしは誰を守ればいいの?」



 ヴェリアスはわたしとヴィレッカを、ヴィレッカはわたしを。ならわたしは一体誰を守れば?

 そう考えて聞いたのだったが、ミルフィーナは極力困った顔をして考え込んでしまった。



「……ヒメはその笑顔を守っていればいいわ」

「うん!わかった!」



 苦肉の案と顔をしかめながら言ったミルフィーナの言葉に、ヒメネスは大きく頷いた。


          ◇


 家から出て、そのまま直進していくとやがて石畳が見えてきた。その石畳には作られて大分時間が経過したのか所々苔が生えており、また同じ石が道を作って大通りとなっていた。

 見渡す限りどこまでも続いていく石畳の道にヒメネスは感嘆の声を溢す。



「そっか、ヒメは初めて国道を見るんだっけ」

「レッカは見たことあるの?」

「前に一度だけな。父さんが釣りに行くときに付いていった」

「えぇ、釣り!?いつのことそれ!?」

「……ヒメは本気で話を聞く練習をした方がいいと思う」



 なんてヴィレッカと話をしていると、ヴェリアスから声がかかった。



「おい、二人とも。こっちだ。付いてこい」

「はーい」



 迷宮ダンジョンか……どんな感じなんだろ。菓子物、楽しみだな~!


 これから行く街に期待をしつつ、ヒメネスは良い返事をしてヴェリアスの後を追いかけた。


 『フローリック』への旅は始まった。


          ◇


 この国にある街は全て国道と接しているようで、国道を歩いていけば全ての街に辿り着けると知った昼頃。

 ヒメネスはヴェリアスに抱き上げられながら国道を進んでいた。


 『フローリック』までは片道30キロ。馬車で行けば一日足らずで着く距離なのだが、何せうちは平民だ。馬車を借りる余裕など有りはしない。そのため歩きで30キロを進まなければならず、おやつがなく力が出なかったヒメネスは早々にリタイヤして、今に至る。



「そういえば、パパ。『フローリック』に着いたらまずどこ行くの?」



 ヴェリアスの腕の上で昼食である林檎を齧りながらヒメネスは聞いた。



「そうだな。まずはギルドに行こうと思っている」

「何それ?ギロド?」



 初めて聞いた単語が出てきた。こういう時は詳しく聞いておくのが一番だ。



「ギルドだよ」

「へぇー、ギルドかぁ。レッカは知ってる?」

「あぁ、もちろんだ。冒険者に仕事を斡旋したり、支援したりする組織だろ?」



 「斡旋」?「支援」?ちょっと何言ってるか分からないです。分からないけど、ヴィレッカがギルドについて知ってるってことは分かった。


 もしやギルドについてパパに教えてもらったのだろうか。

 わたしはまた聞き流してしまっていたのだろうか。


 ヴェリアスの方を見ると、予想に反してヴェリアスはふるふると首を振った。

 反応を見るにヴェリアスはギルドについて教えてないらしい。



「なんで知ってるの?」



 不思議に思って聞いてみると、ヴィレッカは若干嫌そうな顔をした後、淡々と答えた。



「まぁあれだよ。俺にも中二っていうかなんというか『ゲーム』にハマってる時期があって…………」

「?ゲームって?」

「な、何でもない!忘れてくれ」



 それっきりヴィレッカはそっぽを向いてしまった。

 よく分からないがこの話は止めにしといたほうが良さそうだ。

 他に話題はなんかないものか……。


 と、そこでヒメネスはパチンと指を鳴らした。



「どうしたヒメ?」

「パパ、おやすみ」

「えっ?」



 無理に話題を探すくらいなら寝たほうが良いに決まってる。

 そう考えたら後は早い。ヒメネスの意識は急速に闇へと落ちていった。

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