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最弱魔法の歌姫  作者: クロ
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ミルフィーナ視点です

 時が経つのは早いもので、鍛練に実戦を導入して二ヶ月と四週間が経過した。


 本日は半年前から始まった鍛練の最終日。明日からは魔物との戦いが始まる。

 流石に鍛練は夕刻には終わり、半年ぶりに家族皆で食卓を囲っていた。


 疲労を回復させることが出来ても、空腹を回復させることはできない。


 それに、休憩時間は午前二時から午前六時までの四時間しかなかったため、わざわざ母を起こして作らせるわけにはいかず、この半年間、休憩の合間にショボショボと冷たい携帯食料やおやつを齧っていただけのヴィレッカとヒメネスにとって久しぶりの温かい食事だった。

 

          □


「……で結局、俺達はどこに行くんですか?この辺りは魔物が出ないらしいから遠出するんでしょう?」



 干し肉を咥えスープの皿を持つヴィレッカが唐突に切り出した。


「あぁ。少し離れて『フローリック』にでも行こうと思ってる」

「『フローリック』ですか。……菓子物が特産品の街……でしたよね」

「ほはひ!?はへはひはへはひ!」

「ヒメ、口の中の物をちゃんと飲み込んでから発言しなさい。行儀が悪いわよ」



 菓子物。その言葉に興奮したヒメネスにすかさずミルフィーナが注意する。



「ごへんははい」

「……」



 ミルフィーナは呆れたような目をヒメネスに向けると、即座にその目線をヴェリアスに移した。



「あなた」

「な、なんだ?」

「ホントに大丈夫なの?」

「大丈夫だ」



 ヒメネスの行動を見て心配になってきたらしいミルフィーナの問いに、ヴェリアスは大きく頷いた。



「やけに自信たっぷりに頷いたわね。根拠は?」

「確かにヒメは危なっかしいが戦闘力は以前のオレより高いぐらいだから問題ない。それに危惧してる生活面でもヴィレッカがストッパーとなってくれるから大丈夫だ」

「え?あなたより上?何言ってるの?大丈夫?」



 ミルフィーナは元冒険者だ。

 ヴェリアスとは僅かな間だったが冒険者仲間としてパーティーを組んでていた時期もある。

 そのためミルフィーナは知っていた。Bランクの冒険者の、その規格外な強さを。


 だから、いくら夫の言葉とは言え、まだ5歳の子供達が元Bランクのヴェリアスよりも上だなんて信じることができなかった。



「はは。まぁ、信じられないだろうな……。オレがお前の立場だったらまず信じないだろうし……。いつか分かるよ」

「投げやりね」

「本来なら今すぐにでも目の前で打ち合って証明したいものだが、それだと何の為に鍛練を早く切り上げたのか分からなくなるからな」



 確かにその通りだ。ミルフィーナは追及をやめる。



「……それで父さん。何故俺達は『フローリック』に?」

「そうか知らないのか」



 一応話に区切りが付くまで待っててくれたらしい、ヴィレッカにヴェリアスは理由を説明しだした。



「『フローリック』には最近迷宮(ダンジョン)が出来たらしい。だから迷宮ダンジョン探索をしてもらおうと思ってな」

「「「迷宮ダンジョン!?」」」



 三人はそう復唱した後、目を丸くして硬直した。

 無理もない。

 迷宮ダンジョン探索は冒険者の死亡率No.1であり、5歳の子供にやらせるには極めて危険すぎる行為なのだ。

 それが最近できたばかりの迷宮ダンジョンなら尚更。死亡率は上がっていくのみである。

 


「ヴェリアス、あなた!馬鹿じゃないの!?」



 少し経って、ミルフィーナは冷たい視線をヴェリアスに突き刺した。

 だが、ヴェリアスは揺らいだりはせず、小さく嘆息して。



「最近はどうやらどこも魔物の発生率が低いらしくて、まともに戦えそうな場所は迷宮ここしかなかったんだよ。それに情報によると出てくる魔物は『牙犬コボルト』とか『醜小鬼ゴブリン』しかいないらしいし丁度良いかなと」



 不安要素を取り除くための補足を行う。

 ミルフィーナは顎に手を当てて暫し考えた後、結論を出した。



「……確かに『牙犬コボルト』、『醜小鬼ゴブリン』程度なら問題は無さそうね」



 牙犬コボルト醜小鬼ゴブリンはFランク、つまり最低ランクの魔物だ。

 そのため、やはり弱く駆け出しの冒険者でも負ける方が難しいとまで言われていた。


 とりあえず、ミルフィーナは害をなすような魔物じゃなくてホッとする。が、すぐに次の質問へと移った。



「滞在期間はどのくらいなの?」

「二ヶ月を予定してる。二人の誕生日には帰ってくる予定だ」

「そう」



 ミルフィーナがどこか寂しそうに呟く。


 ミルフィーナは元々冒険者であり身体は鍛えられていたのだが、二人を産んだときから体調を崩しやすくなっていた。そのため、家の外に出ることはほぼ不可能であり、子供達に付いていくことが出来ないのだ。


 守ってあげたい。しかし手が届かない。それが悔しい。もし子供達になにかあったら気が気ではいられなくなってしまうだろう。


 そんなミルフィーナの心境を理解したのか、ヴェリアスはポンッと彼女の肩に手を置いて、笑った。



「安心してくれ。二人は必ずオレが守る。命に代えても守り抜く。お前の分までな」



 そして表情を一変、真剣な顔で覚悟を表しているのか一字一字ハッキリと告げるヴェリアスにミルフィーナは気づけば頷いていた。


 ミルフィーナは23才。結婚こそして母になったものの心はまだ乙女である。


 あぁ。こういうところやっぱ好きだな。好き。大好き!


 改めて愛を実感して、頬を赤らめる。



「あなた……」

「ミルフィーナ……」



 熱い吐息を洩らしつつ、二人は二人だけの世界を展開していき。

 そして互いの情熱的な瞳が交じりあったとき―――



「ヒューヒュー!あついねー!あついよお二人さんー」

「おいやめろヒメ!ったくそんなのどこで覚えたんだ……。 あのー、お二人さん?盛り上がるのは良いんだけど、それは食卓でやるべきことじゃないと進言します」

「「ご、ごほん!」」



 二人の世界から無事帰還に成功したヴェリアスとミルフィーナは大きく咳払いをした後、一斉に顔を背けた。

 二人とも耳まで赤くなっていたことは言うまでもない。

次回『フローリック』に向かいます

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