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最弱魔法の歌姫  作者: クロ
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ヴェリアス目線です

 この世界には人を襲う魔物がいて、その魔物を産み出す迷宮ダンジョンがあり、その迷宮ダンジョンを攻略する冒険者がいる。

 中でも魔物と冒険者は、実力に応じてランク分けされており、その階級は下からF、E、D、C、B、A、と六段階になっていた。

 読み方としては、例を上げれば、『Cランクの魔物を五人未満のパーティーで討伐できれば、そのパーティー全員の冒険者ランクはC』みたいなものだ。

 無論、それはあくまで目測みたいなものであり、実際冒険者ランクを上げるにはランクアップ試験に合格しなければならないという決まりがあるのだが、今はそれは置いておこう。

 問題はその強さだった。



 階級の最上位Aランク。

 それは魔物基準で、『龍』や『魔王』など『生きた災害』と呼ばれる極めて飛び抜けた力を持つ数体しかなれず、それは冒険者も然り。ランク制が始まってからの長い歴史の中で、未だに三名しか出てないほどの、まさに『英雄』と呼ばれる者しか手に入れることができないランクだった。

 その到達基準の高さにAランクに到達する魔物と冒険者、双方は滅多に現れない。なのでAランクの名は幻とまで呼ばれるようになり、今やBランクが最高ランクとされている。


 ◇


 ヴェリアスはBランクの冒険者である。


 それは彼が【魔法使い(ヴィザード)】だから……と言うわけではない。

 確かに【魔法使い(ヴィザード)】は普通の人には使えない力を使えるため、冒険者となった場合ランクアップしやすいのだが……ヴェリアスの魔法は【音魔法】。『音の大きさを変える』だけの魔法だ。

 実用性が極めて低いその魔法は日常生活や迷宮探索だけでなく、とにかく実戦をこなしていくスタイルのランクアップ試験においても全く効果は発動しなかった。

 そのため、ヴェリアスは剣の腕一本でBランクまで成り上がった。

 普通なら諦めるような道も、その両の手に握る剣を巧みに使い切り抜いてきた。

 

 自分の命すら惜しまず、格上とばかり戦い、最速でランクアップしていく彼をいつしか人は『剣王』と呼んだ。


 それは『剣術が最高クラス』という意味も勿論あるが、いつもギリギリの戦いをする故に『自分を一振りのつるぎとしか捉えていない男』と随分と皮肉が利いた意味を持つ二つ名だった。

 ろくに手入れもせず、刃をボロボロにした状態で、次々と新しい敵に斬りかかる『剣王』を見て、誰もがいつ折れるのかだけを気にしていた。



 Dランクの魔物はダメだった。なら次はCランクだ。 


 ランクの魔物もダメだった。だが、Bランクならあるいは……。



 だが、彼はBランクに上がった直後に子を授かったため、冒険者を引退。

 ボロボロの剣は遂に折られることはなかった。


 --今日まで。


          ◇


「くっ、強い。さすが父さんですね……まだまだかないません」

「パパ大人げない……」

「……」



(あ、あぶねぇ……)


 内心焦りながらヴェリアスは尻餅をついたヴィレッカと、泥で汚れた靴を黙って見下ろした。


 初めは二人がどのくらい強くなっているのかちょっとした確認のつもりだったから半分の力で戦おうと思っていた。


 だが、結局本気を出してしまった。本気を出さざるを得なかった。

 それほどまでに二人は強くなりすぎていた。

 

 正直、半年後には『全力の自分相手に一分耐えれれる位にはなるだろう』と予想を立て思い始めた鍛練だったが、まさかその半分の日数で予想を超え、『全力で戦ってギリギリ』にまで成長するとは……。


 冒険者を引退してからはや五年。

 多少の衰えはあるのだろうが、それでも元Bランクの自分と互角に戦い抜いた二人に感心すると共に、恐怖を覚えた。


 今は互角だったが、次打ち合ったら負けてしまうのではないか。

 二人の成長速度は異様だ。可能性は充分に有り得る。いや、むしろ抜かれない可能性の方が低い。


 ふと負けたときの妄想が脳裏をよぎる。



「父さん。弱すぎじゃないですか。もう父さんって呼ぶのはやめてザコって呼んでもいいですか?」

「パパよわーい!ザーコザーコ!」



(……)



 それはヤバい。精神的にも父親の威厳的にもヤバい。致命傷だ!


 男のヴィレッカは負けるのはまだいい。負けるのは死ぬほど悔しいが、それが息子なら嬉しくもある。

 だが、女のヒメネスにだけは負けたくない。負けられない。負けたら二度と立ち直れなくなる気がする。



(これは男としての意地だ。絶対に負けられるかッ!)



 この日、この世にせいを受けて初めて(・・・)挫折を味わったヴェリアスは本気で決意した。


          ◇


 それから更に一月がたった。

 予定通り、この一ヶ月間は毎日打ち合いは行われていた。が、しかしヴェリアスは未だ無敗を貫いていた。


 ヒメネスは勿論、すぐに己を抜くだろうと思っていたヴィレッカにも負け無し。むしろ、差は近づくどころかどんどん離れていってる気がしないでもなかった。


 成長期である二人が後退してるとは考えにくい。導き出される結論は一つ。



 ―――ヴェリアスが二人を越える速度で成長している―――



 ヴェリアスは27歳だ。自分で言うのもおかしいが、まだまだ若い。十分に成長できる歳だと思う。

 しかし、それでも5歳である二人には成長速度の点では及ばない。では何故ヴェリアスは二人に勝てるのか。


 それはヴェリアス自身でも分かりはしなかった。だが、一つ言えることがある。それは、



 「成長速度が明らかにおかしい」



 もしかしたらヒメネスの歌には『回復・疲労回復』の他に『成長補助』もかかっているのかもしれない。

 冒険者をやっていたときよりも圧倒的に早い成長ッぶりに、そう勘ぐってしまう。



 このペースで鍛練を続けていたら……あと二ヶ月後、いったいどうなることやら。



 この二人に合わせた魔物狩り場を見つけるのは困難かもしれないな。



 ヴェリアスは鍛練開始前とはまた少し違うベクトルの不安を募らせ苦笑した。

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