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最弱魔法の歌姫  作者: クロ
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ヴェリアス視点です

 正午。

 いつもならこの時間は昼の飯時なのだが……しかし今日は家族会議が開催されていた。

 無論……何の会議かは言うまでもなく、ヒメネスの『回復』の力についてだった。



「―――で、ヒメネスが唄った時『回復』が発現したというわけだ」



 長々と今日の出来事を語り終えたヴェリアスの前には、三人の姿があった。

 右からヴィレッカ、ヒメネス。そしてヴェリアスの妻であるミルフィーナの三人だ。



「……でも、あなた。過去に『歌』は試したことがあるって言ってたわよね。その時は何も発現しなかったのでしょ?」

「その通りだ。現にオレもヒメが唄ってた歌を唄ってみたが何も発現しなかった」



 ミルフィーナの指摘にヴェリアスは深々と頷く。



「じゃあ何故ヒメが唄った時にだけその『回復』が発現したの?」

「……考えられる可能性は『ヒメの魔法が進化していたこと』だな」

「魔法が進化……?」

「気持ちは分かるが、レッカ。別にあり得ない話じゃないぞ。前例もあるしな。お前も知ってるだろ?」



 その言葉に、背中を丸めながら椅子に腰かけた、ミルフィーナが声を発する。



「あなた、まだレッカは5歳ですよ?」

「あっ……妙に賢いからその事を忘れていた」

「あなた……」


 

 視線が痛い。

 ヴェリアスは己をジト目で見つめてくるミルフィーナから慌ただしく視線を外すとヴィレッカの方に視線を移した。



「レッカ、ファニール魔公爵家の魔法は知ってるな?」

「はい。ファニール家は有名ですので勿論知ってます。確か【炎魔法】ですよね?」

「現在はそうだ」

「現在は……ですか」

「ああ。オレが子供の頃、つまり一昔前まではファニール魔公爵家の魔法は【炎魔法】ではなく【火魔法】と呼ばれていたんだ」

「……どういうことですか。何故急に呼び名が変わったんですか?」



 ヴィレッカが渋面を作る。

 しかしそれも無理からぬことではあった。


 今は平然としているがヴェリアスもその話を聞いた当時は同じような表情を作っていたのだから。しかもその時のヴェリアスの年齢は13。今のヴィレッカよりも8歳も上だった。



「ある時、魔法が急激に強い天才が生まれたんだよ。その力は【火魔法】を明らかに超越していた。もはや別種の魔法と疑われるくらいにな」

「え、だけどそれは個人の力でしょう?それなら個人の魔法の呼び名は変わりとも、ファニール家の魔法の呼び名は変わらないと思いますが―――」

「忘れたのか?レッカ。オレ達【魔法使い(ヴィザード)】は自分達の【魔法】を子供にそのまま受け継がせるんだぞ?」



 ヴェリアスが言うと、ヴィレッカが思い出したように頷いた。



「なるほど。その突出した力をそのまま受け継がせた、と言う訳ですね。……しかし、それでも腑に落ちないところがあります」

「ん?」

「父さん今何歳ですか?」

「唐突だなオイ。27だが……どうした?」

「……話を聞くところによると、父さんが子供の頃にはその天才が生まれたんですよね?だったらその天才は、あまり歳を取ってないはず。なのにも関わらず……ファニール家の魔法が【炎魔法】に変わったと言うことは―――」

「ま、色々あったんだよ」



 続けようとしていたヴィレッカの言葉をヴェリアスは遮った。

 これは子供に話す事ではない。そう判断してのことだ。



「なるほど。わかりました……」



 ヴィレッカが何か言いたげに、だがそれでも素直に退いたのを見て、少し大人げなかったかと弱冠後悔するが、一拍置いてヒメネスの方を見ると、はっきりと言い聞かせるように告げた。



「ヒメ、決して人前では歌うなよ」

「え?なんで?」



 不思議そうに首を傾けるヒメネスに、ヴェリアスは5歳でも分かるよう極力簡潔に説明する。



「『歌そのものに力があった』場合なら然程問題じゃないんだが、『ヒメの【魔法】が進化した』場合だったら大問題なんだ」

「大問題?」

「ああ。今まで、オレ達は『音の大きさ変化』という無意味な【魔法使い(ヴィザード)】だったからこそ、爵位を与えられることはなかったが、他の国に力を狙われる心配もなかった。だが、そこから急に『回復』なんて優れた魔法になってみろ。オレ達―――いやヒメは狙われる」

「? 父さん、なんで魔法が優れてるからって他の国がヒメを狙うことになるんだ?」



 黙って話を聞いていたヴィレッカが申し訳なさそうに聞いてきたので蛇足だと思いつつも話してやる。



「簡単な話だ。国令で【魔法使い(ヴィザード)】が他国の者との結婚を禁止された今、正式な方法で他国がこの国『ティルナノグ』の魔法を手に入れる術はない。だが『ティルナノグ』の魔法はとても優秀た。他国としても手に入れたい。だから、他国は最悪の手段を選んだ。【魔法使い(ヴィザード)】をさらうことだ」

「拐う?」

「【魔法使い(ヴィザード)】の子供は魔法を受け継ぐ。ならば、【魔法使い(ヴィザード)】を拐って子供を作らせればその魔法が手に入ると他国は考えたんだ。 大抵拐われるのは女だ。何せ、男は精力剤やら何やら道具を使わせなければ作れないのに対して、女は子種を植え付けるだけで子供を作れる。狙われるのは当然だな」



 ヴィレッカは固まった。

 が、気にせずヴェリアスは続ける。



「……ヒメは女の子だ。それにオレ達は平民だ。他の【魔法使い(ヴィザード)】達と違って貴族ではないから、護衛を雇うこともできない。つまり、他国からしてみれば絶好のカモってわけだ。今までは使えない魔法だからと放置されていたが、これからは間違いなく狙われる。そうなったら最後、他国の刺客を前にオレ達は為す術なく蹂躙され、ヒメは連れ去られてしまうだろう。また国に報告しても然別しかり、ファニール家の二の舞になるだけだ。……だからそうならないためにも魔法を隠匿しておく必要がある、というわけだ」

「ッ!?」


「?」



 言葉を失うヴィレッカとは対称的にキョトンと首を傾けるヒメネス。


 もしやまた話を聞いていなかったのか。これは説教モノだな。



「こらヒメ!話を聞け」

「え、聞いてたけど」

「嘘をつく……」



 ヴェリアスが言いかけたところでミルフィーナに頭を叩かれた。



「あなた馬鹿なの?5歳児に「子種」とか「蹂躙」とか「隠匿」とか理解できるわけないでしょ」

「なっ!?でもレッカは理解してるぞ」

「レッカを基準に考えるのはやめなさい。 つまり、悪い人たちから狙われる可能性があるから知らない人の前では歌っちゃダメってことよ。分かったヒメ?」

「うん、分かった。歌わない!」



 ミルフィーナが話を噛み砕き簡単な言葉で伝えると、ようやく理解できたのかヒメネスは満面の笑みで頷いた。


 ヴィレッカを基準として扱ってはいけないのか。ヴェリアスは一つ学んだ。



「……ご、ゴホン。まぁ、結局問題を先送りにしているだけだからいずれかは必ずバレるだろうがな。だから、ヴィレッカとヒメネス、お前達二人には最低限自衛の手段を覚えさせようと思う」

「自衛の手段って……なにやるんですか、父さん」

「疲れるのはもうやだよ……」



 と。ヴィレッカが嬉しそうに、ヒメネスが目に涙を浮かべながら聞いてきたのでヴェリアスは胸を張って宣った。



「まず、明日からこ毎日二十時間、フルで剣の練習を行う!まぁ、ヒメの歌で疲労は回復できるし眠気も消せるから余裕だろ?」 

「「げ……」」



 確かにヒメネスの歌は疲れを完全に消滅出来るから、やれるかやれないかと聞かれたらやれるのだろうが……実際にやるかやらないかは別の話なのだろう。

 ヒメネスどころかヴィレッカまでもが心底嫌そうな顔をしたが、それも一瞬のことだった。

 


「見事毎日継続することができたらご褒美として半年後にお前達を魔物と戦わせようと思う」

「よっしゃあああ!!!!!!!」



 ヴィレッカの歓喜の声が家中に響き渡った。

 本当ヴィレッカは扱いやすい。思考が自分と似てるので、求めることが分かりやすいのだ。



「…………全然ご褒美じゃない。わたしはやらない!」



 うむ。ヒメネスがそう言い出すことは想定内だ。だから、ヴェリアスは切り札を使った。



「やればおやつ二倍にしてやるぞ」

「わぁい!」

国名がさらっと出てきました。ティルナノグです。

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