毒の記憶
今日も夫は5歳の子供と9時に就寝した、早くに寝て、早くに起きる、「朝活」というらしい。
今日も夫は先に寝た。
5歳の子供と9時に寝て、早朝3時に起きる。
「朝活」というらしい。
「お前とだらだら飲んでいるよりさ、なんか、いいだろ?」
わざと言ったんだか気づいてないんだか、そんなデリカシーのない夫の一言から始まった「朝活」は、どうせ三日坊主で終わるだろうと軽く笑っていたら、もうかれこれ一年目に突入する。
晩酌の時間がなくなったことで、夫婦の会話も減り、見事なセックスレスにもなったわけだけれども、この生活はなんだかお互いにとてもしっくりしていて、居心地が良い。
今日も聞こえてきたグワーという夫の寝息は、私にとって解放の序曲。
これから数時間、育児業からも妻業からも解放され、身軽になれる時間の始まり始まり。
チカチカ光る蛍光灯を頼りに冷蔵庫を開け、第三のビールを手に取る。つまみを探しながらプシュっと押し開け、一気に飲み干す。
別に隠れて飲んでいるわけでもないのにドキドキするこの感覚は、なぜかとても懐かしく切ない。
昔、二十何年か前の話。小学生だった私は、ナチュラル志向の母に、食に対してとても厳しく育てられていた。
「買食いはいけません。」「これはダメ。添加物が入っている。」「駄菓子は毒、禁止。」
毎日毎日、おやつは母お手製のボソボソのおからクッキーか、フルーツや芋類。
百円玉を握りしめて駄菓子屋へ走る友人達が羨ましかった。
そんな節制した私の食環境にハプニングが起きた。
小学4年生の夏。「これもってて!」理由は忘れたが、私に真っ赤なすもも飴を渡して走っていった友人。戸惑いながら受け取ったそれは、キラキラと太陽の光を反射し、溶け、私の手を赤く汚した。それを舐め拭うつもりだったのだが、つい噛り付いてしまった。
甘くねとねとと歯に絡みつく水飴、今までに体験したことのない科学的な酸味。衝撃だった。もりもりと一瞬で平らげた。
種と棒だけになったすもも飴を友人に詫び、お詫びに同じものを買いに走った。自分の分も、もちろん忘れずに。
4つは食べた。それ以上はお金が足りなかった。
それからというもの、親に隠れて色々な駄菓子を食べた。文具を買うと嘘をついて、毎月のお小遣いを持ち出した。手当たり次第にわざとドギツい色のものを食べ、舌に移る青や赤に心躍った。未知なる味への探求ももちろんあっただろうが、親に逆らう後ろめたい気持ちと、逆らってやった!という勝利の気持ちがとても愉快だった。
毎日甘い匂いを振りまいていた私の買食いを、親はきっと気づいていただろう。しかし、咎められることはなかった。妹が生まれ、私に構う暇がなくなったのだ。
月日が流れ、私は妻になり母親になった。
あの頃の母の言い分は正しかったと思う反面、私は未だに隠れ食べに恍惚を感じている。
私の隠れ食べは、今の所誰にも気づかれていない。
ほろ酔いで書いた初投稿なので、お見苦しいことありましたらゴメンなさい。