おりおんは帰らない
わたし、あなたの喜ぶ顔が見たかったから、
凍てつくような寒さの中も
手袋もせずに新芽を摘みに行ったの。
あなたは予想通りにたいそう喜んで、
すっかり冷たくなったわたしの手をきゅっと握って
何度もありがとうって耳元で囁いてくれたわ。
わたしはもっと喜んでほしくて、
あなたの代わりに旅に出て、
それはそれは美しい写真をたくさん撮ってきたの。
あなたはやっぱりにっこり微笑んで、
痩せてしまったわたしのからだを強く抱きしめて
今度は二人で行こうねって言ってくれたわ。
やっと春風が吹くようになったのよ。
でも最近、わたしはあなたの首筋の匂いもわからなくなって、
居ても立っても居られなくなって、あなたに手紙を送ったの。
だけど返ってくるのはポストカードだけ。
一筆も添えられていないの。
わたしが我慢すればいいと思っていた。
あなたに尽くせることが最高の喜びだったのよ。
見返りなんか求めてないって、
嘘を吐いてごめんなさい。
わたしが愛したあなたなら、
それを嘘だと見破ってくれると思ったのよ。
東の空に見えなくなったオリオン座。
春の星座に照らされる瞼を撫でてくれるのは、
雑踏の塵と埃を含んだ温い風だけ。
呼ぶ声はない。