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姉が結婚するので家を出ます。  作者: 如月雨水
Jacta alea est 《賽は投げられた》
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5

・・・?


・・・・・・音。


・・・・・・・・・水の音が、聞こえる。


深く沈んでいた意識がゆっくりと覚醒へと促し、指が無意識に動く。何か、硬いモノをひっかいた気がする。・・・何だろう?石のような冷たい所で寝かされている、よう・・・な。あれ?私・・・そんな所で寝たっけ?

重いまぶたを開け、ぼやける視界が映したのは仄暗い部屋と石の壁。目線を動かして指先を見れば、古びた石の床。

ああ、冷たいのはこれのせいか。

「・・・え?」

クリアになった視界に、妙なモノが見え・・・・・・てるね。うん。

「鉄格子・・・?」

まるで牢屋みたいだなー。と呑気に思う私は、絶賛現実逃避中です。


まるでじゃなくて、牢屋だよ。

天井に蜘蛛の巣あって、かなり年季のある牢屋だよ・・・。

ぼろっちい簡易ベッドがある程度の牢屋だよ・・・!

なんで牢屋にいるのか理解できないんですけど!・・・あ、吸血鬼に捕まったからか。納得した。


「い、つつ・・・」

硬い所に横になっていたからか、身体を起こしたら物凄く痛い。節々が痛い。腕が痛い。腰が痛い!ちょっと動くだけでビキって・・・ビキって痛みがはしって辛いんです。

呻きながら立ち上がって、周囲を見渡す。

どう見ても、いや、見なくても牢屋だ。牢屋以外の何でもないよ、ここ。

牢屋の中に灯りはなく、牢屋の外に僅かな光源があるだけ。あの宿屋よりマシとは言え、暗いなー・・・。

随分と高い天井を見上げ、溜息をついた。

「・・・・・・つめたっ?!」

額に冷たい水が当たって、ああ・・・これが水音の正体かと納得した。

「雨漏りを直せないほど、金銭に余裕がないのかな?」

どうでもいいことを呟いて、直視したくない現実から逃げ・・・る訳にもいかないよね。はぁ。


「ライさん・・・どこにいるんですか?」


ここじゃない牢屋にいるのかと名前を呼んでみたけど、返事がない。

しーんと沈黙しか返ってこない。虚しい。鉄格子を掴み、隙間から顔を出して周囲を見るも誰もいない。見張りすらいないって・・・あれかな?何の力もない子供だから牢屋に放りこんでおけば良い。ってことかな。

「事実だから余計に虚しい」

がくりと項垂れて、息を吐きだした。

これからどーしよう。ライさんいないし、ここから逃げ出せる手段を持ってないし、誰もいないし、鞄もないし。顔を引っ込め、ずるずると床にへたり込む。

「ここ・・・地下かな?地下だよね。牢屋があるのは地下が定番だろうし」

鉄格子を掴み、前後に動かす。こんなので壊れるとは思わないけど、何もしないよりはマシだ。

「そもそもどうして私だけしかいないのかな?ライさんは?他の人・・・は、もう食べられたか眷属にされたかだよねー」

ぐいぐいぐーいと、鉄格子を左右に動かす。

「ライさんが早々にやられるとは思わないけど、面倒くさがりだし手を抜いてる可能性があるよねー。ライさんがどれだけ強いか判らないけど、あれだけの魔法が使えるんだから弱いはずないし。・・・遊んでるに違いない」

回れまわーれー、今度は逆回転。

「遊んでないで私を助けてほしーなー・・・なんて、だたの同行者だし助ける義理はないんだよね。そもそも私の旅について来てくれたのだってリタンがお願いしたからだし、これ幸いと私を置いて逃走したかも」

壊れろこーわーれーろー、てつごーしー。

「むしろこっちの方の可能性が高いなー。あはははは・・・・・・はは、は・・・」

・・・・・・泣けてきた。

勢いよく鉄格子に頭突きをして、ちょっとネガティブ思考を消そう。大丈夫。痛いぐらいだから問題ない!

消えろ!ネガティブ思考!!


「――――――――ってうわ?!」

掴んでいた鉄格子がいきなり壊れ、べしゃりと前に倒れた。


・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・あの鉄格子、結構頑丈に作られてたよね?

えっと・・・な、なんでこうなったか解らないけどチャンス!これは逃げろと言う天のお告げに違いない!そうとなれば即行動だー!

「い・・・ったたた」

強かに打ちつけた両肘がジクジクと痛むけど、我慢できないほどじゃない。小走りで牢屋から出て、壁に背を預ける。早鐘を打つ心臓を深呼吸で宥めつつ、壁にそって歩く。・・・蟹みたい、なんて考えないぞ!

曲がり角で足を止め、何か音が聞こえないかと耳を澄ませ・・・・・・良く分かんないけど、何も聞こえない!そろっと顔を出して、様子を窺う・・・。うん、誰もいない。

何だろう。

こそこそしてるのが馬鹿らしく思えてきた。

角を曲がって階段を上り、頑丈な扉を音をたてないようにゆっくりと開ける。・・・重い。

「わぁ・・・古びた洋館」

としか言えない、内装に頬が引きつる。

壁紙は見る影もない・・・と言うより存在せず、壁穴らしき部分から中骨が見える。足元の床はちょっと体重をかけるだけで不吉な音をたて、今にも壊れそうなほど心臓に悪い。天井は高いからよく判らないけど、蜘蛛の巣だらけ。・・・いやここ、蜘蛛の巣だけじゃなくて埃だらけだ。

綺麗な部分が地下牢だけなんて・・・・・・あ、くしゃみがでそう。

「・・・・・・っしゅ」

我慢できずに小さくくしゃみをして、周囲を見渡す。

誰もいなくてよかった。

「天井の骨組もボロボロなんだろうな。・・・ボロボロ過ぎて見るも無残だね」

昔は立派だったであろう建物も、誰も整備しなきゃこうなるのか。せめて掃除ぐらいしろよ。埃で足跡ができてるよ・・・?

げんなりとした気分を胸に抱えつつ、曇りきった窓ガラスから外を眺める。うん、何も見えない。今が夜なのか朝なのかもさっぱりだ。お先真っ暗!・・・ふざけてる場合か。いやでも、ふざけないとやっていけない気分かも。

「旅の初っ端で魔石を全部なくして、次はショルダーバック」

次から次へと物がなくなっていく。

いや、ショルダーバックは仕方ない・・・のかな?

「・・・・・・命だけは絶対、ぜぇぇぇったいになくさない!」

小さく、けれど確かに決意をした私の耳に、床板が軋む音が聞こえてきた。ひぃ!何か来た!?

慌てて視線を動かし、隠れる場所を探すけど・・・・・・壁穴にでも入るか?


「っ?!」

誰かに口を塞がれた!!これってピンチって奴ですね!?

必死に自由な両手をばたつかせ、背後にいるであろう存在を攻撃する。ええい!放せ、放してぇぇぇ!さりげなく人の胸に触らないでよ!この・・・、変態痴漢めっ!!!

小さいの気にしてんだから、触るな揉むな死ね馬鹿ぁぁぁぁぁああぁぁぁっ!!!

「うわ・・・っ!?おち、落ちつけお嬢ちゃん!!」

落ちつけるかこの変態めっ!


必死に手を動かし、口を塞ぐ誰か――と言うか、声でライさんだと解ったけど、とにかく手を退ける。

怒りのまま後ろを振り向き、憤怒の眼でライさんを見上げた。

「何処触ってんですか変態!?」

「どこって・・・・・・・・・・・・ああ、胸か」

胸を触って確認しないでくれませんかね・・・・・・?すっごく腹が立つ。

「まぁ、あれだ。これからに期待、ってことで」

「ほっといてくれません?!」

「それはともかくとして、お嬢ちゃんはどうしてここにいるんだ?折角、俺がお嬢ちゃんを探しに珍しく自発的に行動を起こしたって言うのに・・・・・・。魔法まで使ったのに、こうもあっさり見つかるとは思わなかった」

言って、ライさんは指をパチンと1つ鳴らした。

「まったく、魔力の無駄だったな」

「・・・はぁ、それはすいません?」

よく判らないけれど、何らかの属性で、たぶん補助魔法かな?を使って私を探してはくれたらしい。――どんな魔法で、指パッチンに何の意味があったのかさっぱりだけど。

と言うか・・・・・・探してくれたんだ。

うわ、うわぁ・・・どうしよう。期待してなかっただけに凄く嬉しい。ちょっと恥ずかしくなってライさんから視線をそらし、両手を頬にあてる。うわぁ、熱い。ほっぺが熱いよ。なんてことだ!

胸を触られたことをチャラにしてもいい。なんて思えるぐらい、嬉しいんだけど・・・!

「それとほら、お嬢ちゃんの荷物」

「私の全財産!」

「・・・・・・うん、まぁ。喜んでくれてよかったよ」

手渡されたショルダーバックを全力で喜び、受け取ったら呆れた眼をされた。

し・・・仕方がないじゃないですか!だって本当に私の全財産がここにあるんですよ?なくなったってショック受けてたから、手元に戻った喜びを押さえきれなかったんです。

場違いですいませんでした!

「えっと・・・その、あ!これからどうします?・・・どうしますって、逃げるのが当然ですよね。変なこと言いましたすいません」

「動転したのがよく解る台詞だな、お嬢ちゃん」

解るなら言葉にしないでください。

「逃げれたら手っとり早いんだが・・・・・・どうもそう簡単に行かないみたいなんだよな。ああ、面倒くさい」

「うわ、本気で面倒くさそうですね。眼にやる気の欠片が見つかりませんよ」

「だって面倒くせぇもん」

何が面倒なんだろう?首を傾げてじっとライさんを見た。

あんなに魔法が使えるライさんが面倒、って言うんだからきっと何かあるんだろうな!たぶん。


「結界を壊すのって疲れるし何より面倒」

駄目だ、この人。


「時属性の結界魔法って、壊すのかなり面倒だし何かトラップしかけてそうだから嫌だ。面倒だ。ほっとこうぜ、お嬢ちゃん」

「わぁ・・・!凄くキラキラした笑顔で放置宣言したよ。・・・え、ここから逃げないんですか?本気で?そんな・・・いい笑顔で頷かないでくださいよっ。なんで逃げないんですか、ちょっと!逃げないと死にますよ私が!」

「切実だな、お嬢ちゃん」

「ライさんと違って私、戦えないんですっ!」

わぁっと両手で顔を覆って・・・もう本当、泣きたい。

厄日だ。

厄日なんだ絶対。

占いをしたら間違いなく、「今日の運勢は最低最悪どうしようもないほどに不幸で不運に見舞われるから、家どころか部屋から一歩も出ない方がいいですよ」って言われるんだっ。家出を決行したその日の運勢が悪いって、本当にどうしようもないよね!

占いなんて信じないけど・・・!

「戦えなくても問題ないだろう」

「この状況だと戦えなきゃ死にますよね?!」

切実な思いを叫べば、きょとんとした顔でライさんが私を見た。


「俺が護るのに死ぬわけないだろう?」

「・・・へ?」

「そのつもりでお嬢ちゃんを探してたのに、何言ってんだ?お譲ちゃんは死なないよ。俺が護るんだから、死ぬはずないだろ」


空耳か、都合の良い幻聴かと思ったけど・・・そうじゃないらしい。真面目な顔で私を見下ろすライさんから眼をそらせず、口を半開きにした間抜けな顔をさらしてしまった。

こてり、と首が無意識に横に傾く。

ぱちぱちと何度もまばたきをして、私は漸く告げられた言葉を理解した。

「見捨て・・・ないんだ」

「見捨てて欲しかったのか?」

「だって・・・私は何も出来ないし、旅の同行をお願いしただけの他人で。助ける義理も何もないから・・・・・・だから、そうなってもおかしくないっとは思ってたんです」

けど・・・違うんだ。

ライさんは私を見捨てないで、助けてくれるって。護るって、死なせないって言ってくれた。言葉にされた途端、見ないようにと蓋をしていた暗い気持ちが泡のように消えて・・・ぽぉっと胸が暖かくなる。

正直に言おう――――嬉しすぎて泣きたい。

ネガティブ思考通りの結末にならなかったことが、嘘のない声で「護る」と言ってくれたことが何よりも・・・嬉しい。

「お願いです。私が死なないよう・・・護ってください」

泣き顔を見せたくなくて、頭を下げてお願いすることで顔を隠した。

「お願いされなくても護るよ」

言って、ライさんが私の頭を優しく撫でる。

うう・・・優しさが心に染みるよ。

「だってお嬢ちゃん。ほっといたら呆気なく死にそうだし」

・・・あぅ、否定できない。

「それは流石に、俺も心が痛いし気分も悪いからな」

「・・・ライさんって、お人よしですか?」

「俺が?まさか!」

力一杯に否定されたけど・・・他人を助けるのって結構、お人よしじゃないかな?勇者並のお人よし、までは言わないけどそれに近い気がするんですけど。

ライさんは口元を右手で覆い、押し殺すように笑った。

「お嬢ちゃんは見てて面白いし、気にいったから護るんだよ。そうじゃなきゃ、そもそも旅の同行者になんてならねぇよ」

「面白い・・・」

「俺はね、お嬢ちゃん」

あの・・・ライさん。

顔が近い。凄く近いんですけど、離れてくれません?息が肌にかかってなんとも微妙な心境なんです。イケメンの顔がドアップにあって心臓に悪いんですけど・・・?

ぐいぐいっと胸板に手を置いて距離をとろうとするけど、あれ?一向に離れないぞ?


「興味がないから簡単に人を見捨てるし、ちょっとした事情であっさりと人を売るし、どうでもいい理由をつけて人を殺すほど――――人でなしだ」


ライさんの右手が、私の頬に触れた。

ぞっとするほど冷たい。


「俺は人に興味も関心を抱けない。人が生きる意味も殺さない理由も抱こうと思わない。だってどうでもいいから。適当に話を合わせて、その場限りの付き合いで場を凌げばあとは終わり。そこで関係は綺麗になくなる」


私の眼を覗き込むライさんの双眸は、何の感情も宿していなくて不気味に思えた。


「そんな俺がお人よしだって思うか?お嬢ちゃん」

「・・・・・・・・・気まぐれな、人でなしなんですね」

ライさんが何を言いたいのか、理解できない。

だから台詞から読み取れた内容を口にすれば、ライさんは苦笑して私から離れた。そのことにほっとし、触れられた右頬に指で触れる。・・・温度が奪われたように冷たい。

たった数秒だけだと言うのに、こうも冷たくなるのだろうか?私に背を向け、歩きだしたライさんの背中を見つめてふと、疑問を抱いた。――この人は・・・ライさんは、本当に人間なんだろうか?

「・・・馬鹿馬鹿しい」

首を横に振って、思考を捨てる。

例えライさんが人間じゃなくても、私を助けてくれると言ってくれた。私が信じるのはそれだけでいい。「護る」と言ってくれたライさんの言葉だけを、信じるだけ。

だってそれ以外に、私が生き残る術はないから・・・。

・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・暗い!思考が暗すぎる!信じるとか疑うとか今はどうでもよくて、生きるか死ぬかの瀬戸際でそんなことで悩んでどうするよ!馬鹿っ、私の馬鹿っ!!

小さくなったライさんの背中を追いかけて、私は走り出した。

そんなどーでもいいことを考えるより、ここから無事に脱出した後のことを考えろ私の馬鹿っ!

「そ、それでどこに行くつもりなんですか、ライさん?」

「決まってるだろう?」

やっと追いついた背に問いかければ、ライさんはにやりと悪い顔で振り返った。

どうしよう。凄く嫌な予感がする。

「結界を壊すより手っとり早いのは、術者を殺せばいい」

「結界の方が無難で安全なんじゃ・・・?」

「結界を壊しても、術者が生きてる限り何度でも張り直す。その度に壊すのって・・・労力の無駄だろう?」

真顔で言う台詞だろうか?

「なら術者を倒した方が楽でいい」

もう・・・何も言うまい。

沈黙した私に興味を失ったのか、ゆっくりだった歩みが速くなった。あ、ちょっと待ってください。置いてかないでっ。

「――――――っ?!」

な・・・何だろう?

今、空気が重くなったような・・・。気のせいかな?

思わず足を止め、辺りを見渡す私の耳にライさんの押し殺したような笑い声が聞こえた。何事・・・?怪訝に思って、ライさんの背中を凝視した。

「まったく」

嘲笑が含まれた静かな声。

「雑魚はひっこんでろよ、面倒癖ぇな」

無造作に見える動作で右腕を伸ばし、パチン、と指を鳴らした。

「Ire di vento >>> Splendidamente Ballo Ballo >>> Il vento porta morte >>>【Alito della morte】」

淡々とした声で告げたのは、風属性の攻撃魔法・・・・・・だと、思う。

確信は持てないけど倒されたグールの様子を見るからに、風属性だと思える。だって、何もない場所で曲がり角から現れたグールを一瞬で切断したんだから・・・真っ二つに。

うぷ、グールの断面図を思い出して気持ちが悪い・・・っ。

当分お肉、食べられないよ。

「・・・そう思える時点で余裕か、私」

「何か言ったか、お嬢ちゃん」

「あ、いえ何も」

首を横に振って、グールの血で汚れた床を歩くライさんの後を追いかける。・・・せめて、せめて血溜まりは避けて行きません?足跡が床にくっきりとついてて、ある意味ホラー。

何とも言えない気分です、はい。

ライさんは何とも思わない・・・んだろうな。平然と死体を踏んでるし。酷い。

「ったく、死体なら死体らしく土に還れってぇの」

「・・・死者に鞭打つって」

すでに動かないグールの半分になった頭を容赦なく踏み、抉るように体重をかけるライさんは非道だ。人間がやる所業じゃない。鬼だ、鬼畜だ、外道だと罵られてもおかしくない。

・・・あ、何か色々と不安になってきた。

逃げたい。

物凄くこの場から逃げ出したい・・・っ。

「どーこ行く気だ、お嬢ちゃん。俺から離れたら死ぬぞ?」

離れなくても死にそうな気がします。とは言わず、誤魔化すように笑って見せた。

足音を立てずに後退したはずなのに、目聡いな。舌打ちしたい心境にかられつつも、ライさんが言う通りなので大人しく従う。ああ・・・すっごく不安。

こんなグロテスクな光景、あと何回見ることになるんだろう。

トラウマになりそう。

「うわ・・・うじゃうじゃ出てきた。ゴキブリか、コイツら?」

例え方が嫌!でも意味は解る言葉ですね・・・!

どこから現れた!?と言いたくなるぐらい、四方八方から姿を現したグールに悲鳴すら叫べない。ひぃぃぃ、こっちくんな!!即座にライさんの傍に駆け寄り、背中にひっつく。

グロイ光景を見たくないから、背中に顔を押し付けて両眼を固く閉ざす。でも耳から色々と情報が入ってきて・・・うわぁぁぁ、グールの断末魔が絶えることなく聞こえる。どれだけいるんだ、グール。そしてライさんの無双状態恐ろしい。

見えないけど、絶対に無双だ。

そうに違いない。

むしろソレ以外にあり得ない。

だってライさん以外の声が聞こえ・・・・・・ん?

ライさんの声が聞こえない?あれ?魔法使ってないの?

「・・・・・・・・・?」

好奇心を押さえられず、そろりとライさんの背中から顔を出せば――――うん、良く解らない。首を傾げてしまった。

眼の前に広がるのはR指定がついてもおかしくない光景。見なきゃよかったと本気で思う。心臓が弱い人間には酷な絵だ。私も見たくなかったよ。・・・は、自業自得だから仕方ないとして、ライさんは指揮者のように人さし指を動かしている。ただそれだけで敵が死んだ。

その間、まったく精霊の詩は使用していない。

なのに魔法を使えてる。

・・・・・・・・・・・・あ、さっきの魔法を連続して使用してるのかも。だって殺し方が同じだし。若干、切り裂かれる回数が多いけど、同じだからそうだと思う。たぶん、確信はないけど。うぅぅ、魔法が使えない人間には解らないよ!!


「・・・飽きた」

今、何か言いましたか?

天井から視線をライさんに向ければ、物凄くやる気のない顔をしてグールを見ていた。

「飽きた」

この人は何を言ってるんだろうか・・・・・・?


冗談、と言う感じではない。

だから余計に解らない。

この――――埋めつくさんばかりに現れたグール相手に、「飽きた」の台詞はないでしょう!?ほら見て、グールが血走った眼で「ふざけんなよ」って感じに唸ってるんですけど?!ねぇ、見てる!?

うぎゃぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!ち、近づくな!近づかないでよっ!に・・・にじり寄ってくるなぁぁぁぁあああぁぁぁぁっ!!

あわわわわ・・・に、肉が。

腐った肉が床にぼちゃって、ぼちゃって落ちた。

骨がむき出しだ、気持ち悪いぃぃぃぃぃぃぃ!!!

「何、泣いてんのお嬢ちゃん?」

この光景が怖いからだよ!叫びたいけど、唇が震えて上手く言葉でない。

「ま、別にいいけど」

なら聞くな!

「これ全部相手にするの面倒だし、俺のやる気がゼロになりそうだから・・・・・・うん、やっぱりこうしよう」

あの、妙に良い笑顔で何を決めたんですか?

ライさんが笑顔を浮かべたまま、私の肩を掴んでぐっと身体を引き寄せた。うわ、普通の状況で普通の女子ならときめくんだろうけど・・・ないわ。凄く、すっごく嫌な予感しかしなくて逆の意味で心臓がドッキドキだよ。


「Il cielo rosso >>> Calore Calore Cenere >>> La fiamma brucia tutti >>>【Inferno】」


唖然と口を大きく開いた私は悪くない。

だってこの人・・・え?何した?今なんて言った!?

「もえ・・・燃えて、燃えてるよ!!」

「燃えてるな・・・グールがゴミみたいに」

「グールじゃなくて建物も燃えてるんですけどぉ?!」

「・・・安心しろ。風の結界魔法使うから、俺達は無事だ」

キリッとした顔で言うな!安心したけど!



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