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姉が結婚するので家を出ます。  作者: 如月雨水
Fortuna 《運命》
33/41

3

ちょっとだけ追加してます。

深呼吸を繰り返すこと――5分。

いい加減、腹を括ろうと思います。ではいざ、初めの一歩を!


「何してんだ、リィン?」

「もう驚かない!」


背後から聞こえた声に、台詞とは逆に心臓が口から飛び出しそうだった。けど、ある意味は予想も出来ていたのでそれほど驚きは・・・・・・・・・してないといいな。

心臓が破裂しそうなほど煩いけど、素知らぬ振りで後ろを振り返った。

ライさんだ。

予想通り、ライさんがいた。

・・・出来るなら、普通に登場してくれませんか?

「驚かないって言った割に手、胸にあててるよな?」

「にやにやしながら言わないでくれません?」

「で、こんな所で何してんだ?」

「ここに来た目的はありませんよ?ただ」

「ただ?」

こてりと首を傾げるライさんを見上げ、けど何だか恥ずかしくなって視線をそらした。

「ただ・・・・・・ライさんを、探してここに」

ヴェルクに連れて来てもらっただけです。

小さい声で呟いたから、ライさんに聞こえたかは判らない。んだけども、言って私が後悔した。部屋にライさんがいなくて寂しくて、ライさんを探してました。と言ったような気分で。

・・・いや、裏を読めばそう聞こえるかもしれない!むしろ聞こえる?!

恥ずかしい、恥ずかしすぎて顔が噴火するっ。きゃー!!!

「ふぅん。俺を探しに・・・ねぇ」

意味深な笑みが余計に羞恥を呼ぶ!やめてー、ニマニマと私を見ないで―!

「と、ところでですねライさん!」

強引だけど話題を変えることにする!

「時折聞こえる爆発音、なんですか?」

「陽の聖女の仕業だ」

真顔で答えたライさんの言葉にかぶせるように、爆発音が聞こえた。・・・そうか、これはルキの仕業なのか。

「あれ?ストッパー役であるエステルがいるのに爆発?」

「夜の聖女はバルバゼスを連れて裏切り者を粛正に行ったから、陽の聖女は今、ストッパーがいない暴走状態だ」

「・・・傍迷惑だ」

「その犠牲になったのがオズとオルデゥアだ」

「犠牲って・・・」

何がどうしてそうなったのか、聞くのが怖い。

けど、爆発音が聞こえる原因は知りたい。ああ、なんて矛盾!

「殺戮兵器・改だかを量産して救いようのない馬鹿で阿呆な王族を滅ぼす!・・・とか豪語して作った兵器が悉く暴走し、それを止めるためにカイザーXだかを生み出したらそれも暴走した――のが原因」

「ルキ・・・っ!」

また暴走させたのか・・・っ。頭が痛いよ、私。

両手で頭を抱え、しゃがみこんだ私に合わせるようにライさんも屈む。あ、お気になさらずに。

「オズとオルデゥアはそれを止めるため、と言うより、暴走状態の平気を爆弾代わりに特攻させるために空間魔法を使って頑張ってる最中。いやー、おかげで人間の兵士が何百と簡単に死んだなぁ」

「・・・」

「馬鹿とハサミは使いよう、ってことか」

「・・・そう、ですか」

何も言えない。

「まぁ、空間魔法で魔力をごっそり奪われたせいで医務室に寝てるんだけどな」

「それは、お疲れ様ですね」

「陽の聖女にはもっと暴走兵器を作ってもらわないとな!」

うわ、明るく生き生きした笑顔ですね。

そんなに楽に倒せたんですか。暴走した兵器って怖いんですね。・・・それを爆弾代わりと言うか、暴走状態で特攻させることを考えた魔王2人も怖いけど。一番怖いのは、それで「楽できるって素晴らしいなー」と陽気なライさんです。

だってライさん。

「あの2人が起きたらまたやってもらうか」

とか良い笑顔で言うんですよ?――――どれだけ働きたくないんだ。

いやでも・・・・・・進んで働くライさんも想像できない。

「リィンがここにいるなら、都合がいいな」

「は?」

「ちょっとこっち来てくれ」

「こっちって・・・え゛?部屋の中に?だってここ、入ったら死ぬって言う物騒な部屋じゃっ!!」

「俺とリィンは死なないから安心しろ」

「いやでも・・・ちょっと!」

渋る私の手を掴み、平然とした顔で蒼天の間に足を踏み入れるライさん。あ゛あ゛あ゛あ゛!ちょっとは躊躇とかしようよ!怖くないの、ねぇ、怖くないんですか!?

「・・・な、なんともないだろう?」

「じ、寿命が縮みました」

「大袈裟だな」

肩を竦め、呆れたように息を吐きだすライさんを睨みつける。

私の心臓は繊細なんです。チキンハートなんです!ヘタレ心臓なんですよ!

ああもう!こんな部屋を造ったオルフさんが憎いっ!今度会ったら羽根をもいでやるっ。

「・・・そう言えば、オルフさんは?」

「ああ・・・、時を見る三神の行方を調べてくるとか言って、随分前に消えたらしいな」

「え?私何も聞いてないんですけど」

「そりゃそうだ。煩いから俺が拒んだ」

良い笑顔で煩いからって・・・。

「それよりリィン、協力しろ」

「協力って・・・何を?」

部屋をきょろきょろと見渡してみるけど、協力して何かをするようなモノ・・・・・・ありませんけど?あ!魔力を貸すとかそう言うのかな?・・・いやいや、私に頼るほどライさんの魔力が低い訳ない。だって魔王陛下だもんね!

じゃあ、なんだろう?こてりと首を傾げれば、掴んだままの手を引かれてあの不思議な土台の所に連れていかれた。ぱちくり、眼を瞬かせる。

「ライさん?」

繋いでいた手を放し、土台・・・ではなく、丸い玉に向かって手を伸ばしている。何かするのかな?興味深く見ていたら、人差し指で丸い玉に触れた。実態がないのか、ライさんの指が突き刺さっている。

「面白いの、見せてやるよ」

私に向かって、悪戯っ子のような笑みを浮かべた。

「これに少し、魔力を込めてやれば」

「ふわ!?」

丸い玉が世界地図みたいに変わった!ナニコレすごい!

「これは世界を縮小させ、リアルタイムに映し出した姿・・・と、言っても空からの映像だから地上は見えないんだけど」

それでも十分に凄いですよ、これ!

だって青い球体の上空で雲みたいな物体が浮かんで、さらにその上には太陽みたいなものまであるんですよ!極め付けは雨が降ってたり、雲の隙間から太陽が隠れたり・・・。うわぁ、小さな世界がここにある・・・!

「で、さらにこれを・・・・・・魔王城はここだから、あいつらがいるのは」

え、さらに何か機能があるんですか?これ。

「ここかっと」

ライさんがどこかの土地に人差し指で触れ、スライドさせたら・・・丸い玉が消えて巨大な薄紫色の盤が現れた。ノイズがかかったその盤は中央部に「Reload、Reload、Reload」と同じ文字を何度も回転させている。

「ほら、見て見ろよ」

リロードが終わったらしい盤に、掌サイズの不透明な形をした人形が現れた。いや、あれは人形じゃない・・・?

「これは――――夜の聖女とバルバゼスと、哀れな生贄の蹂躙劇だ」

盤の上に現れたのは、一回り以上小さいエステルとバルバゼスの姿。その後ろには魔王城で見たことのある甲冑姿の騎士?兵士?が数人いる。いや、数人!?

ぎょっとしてエステル達と対立するように存在する、見覚えのある姿をした人界の騎士が数万いる。なのに数人って、あ、数えたら10人はいた。いや、そう言う問題じゃなくてっ!!


え、何?

エステルもバルバゼスも馬鹿なの?死ぬの?


「始祖の吸血鬼にとって、味方が多いとその分邪魔にしかならないんだよ」

・・・そ、そうなんですか?

「と言うか、七罪にとって味方は頼もしい存在じゃなくて――鬱陶しく邪魔な存在なんだよな」

酷い言い方だけど、納得できてしまった。

ライさんの力を考えると、乱戦状況で味方だけを器用に避けて敵を攻撃できるだろうけど・・・しないだろうな。面倒くさがって。

・・・ってそれ、七罪関係なくないよね?

「ほら見ろよ!バルバゼスの奴、久方ぶりに本来の姿に戻ってるぜ!」

「は・・・?いや、本来の姿って・・・ぅえ!」

「普段からあの姿でいればいいのに、何をどう思ってんのかアッチ方が美しいとか思ってんだぜ?美的センスおかしいだろう」

おかしい・・・?

確かに、おかしいとしか言えないけどそれ以前にですね・・・うん。なんで、本来の姿が――――エステルに似た薔薇を背景に散らした男性なんだ!

エステルより長身で、エステルよりもガタイが良くて、エステルよりも血の気がなくて・・・いや、エステルと比べるのはやめよう。でも、隣に並んでると双子に見えるな。同じ始祖だから?・・・いや、始祖だからって顔が似てるってどうなのよ?

「・・・ストレス溜まってんだなぁ、嫌なぁ攻撃しかしてねぇ」

くつくつと笑うライさんは、ストレスの原因に気づいているはずなのに素知らぬ振りだ。・・・私も知らない振りをしておこう。

バルバゼスが右腕を振るうだけで風が唸り、地面に深い傷跡を生み出す。そこからエステルによって生み出された闇の手が現れ、生者を引きずり込もうとする。闇の手に触れられた箇所が黒く変色し、鎧が紙切れのように風化していく。

味方を犠牲にし、上手く攻撃から逃れた者が魔法を使おうとするがそれより早くバルバゼスが左手を動かす。続くようにエステルが空に手を伸ばした。

にたりと、同じタイミングで2人が嗤う、嗤う。

「・・・声が聞こえなくてよかった」

遠くの出来事だけど、今、私の見ている前で起きた現実をどう表現すればいいのか。頬を引きつらせ、そっと盤から眼をそらした。

えっと、とりあえず解る範囲で状況を整理、基、理解してみよう。

・・・まず、バルバゼス風の精霊王(シルフ)を呼び出し、エステルが始祖の吸血姫の姿になって月の女神を呼び出した。そしたらあっという間に2人がいる場所限定で夜になり、月の女神の能力か不明だけど敵が正気を失い、敵味方問わず攻撃を始めた。もっとも、魔族側は風の精霊王が守っているおかげで無傷。そのために風の精霊王を呼んだのか!と思うような、場所限定で夜になり、月の女神の能力か不明だけど敵が正気を失い、敵味方問わず攻撃を始めた。もっとも、魔族側は風の精霊王が守っているおかげで無傷。そのために風の精霊王を呼んだのか!と思うような、贅沢すぎる使い方をしている。

・・・風の精霊王、それでいいんですか?

で、あとは・・・何と言うか、月の女神と風の精霊王による殲滅?蹂躙?阿鼻叫喚?――私が言えることはただ1つ、ご愁傷さまです。

「さて、と。ああ・・・リィンはちょっとここにいてくれ」

返事をする前に私の傍から離れ、入り口に向かっていく。え、置き去り?と思ったら、入り口にルシルフルの姿が。成程、ルシルフルの気配に気づいたから、入り口に向かったのか。でも、それなら私が一緒でも・・・・・・あ、駄目だ。

何だか聞いてはいけないことを聞いてしまいそうな予感が、ヒシヒシとする。大人しくしておこう。

・・・。

・・・・・・これ、勝手に弄ったら怒られるかな?

・・・・・・・・・暫くしたらライさんが戻ってきた。

「さて、それじゃあ」

にこりと笑い、私の手を掴む意味は・・・?

「箱舟、飛ばそうか」

「飛ば・・・?え゛、ここで飛ぶの!どうやって?!」

「まず、この盤を球体に戻して」

盤を爪先で弾くと、世界の縮小版に形を戻した。

「それから空を示して・・・ほら、リィンも」

「あ、はい」

言われるがままに雲が浮かぶ空を指さす。・・・で、あとは?

「指先に魔力を込めて」

指・・・指?とりあえず人差し指に神経を集中させてみよう。

「俺の言葉に続いて――――【Foederis arca Etiam in aeri,】」

「【Foederis arca Etiam in aeri,】・・・?」

その言葉は、神の詩に似ていた。でも私やエステル、ルキがよく口にする「告げる」から始まる台詞がない。似ているだけで、まったく異なる代物なのだろうか?それに何より、これが神の詩ならばライさんが神の旋律を理解していることになる。

神の旋律って、七聖女だけが理解できるものじゃなかったの・・・?

「言っとくけど、これは神の詩じゃねぇからな。神の旋律なんて七聖女以外、解るはずねぇんだからな」

「・・・はぁ」

「解ってねぇようだから言うけど、神の旋律は七聖女の頭の中にしかないんだよ。それぞれの聖女が、それぞれの神の旋律しか理解できねぇんだよ。解ったか?」

えっと・・・精霊の旋律のように、紙媒体で記されているのではなくて七聖女の頭の中に直接言葉が現れて、それを声に出すことによって能力が発動する――訳で、しかも私なら空と風に関する力のみ使え、それを誰かに教えることも紙に記すことも出来ない――と言う事?

ううん、良く解らないけど頷いておこう。

「・・・これは空の聖女と魔王陛下の力を合わせることで使える、いわば混合魔法だ」

「混合・・・あ、神の詩と精霊の詩を合わせた感じですか!成程」

「神の詩に似てるのは、そうした方がいいって白銀の乙女が言ったからだ。だからこれは神の詩でも精霊の詩でもない。あえて名づけるなら、白銀の詩・・・か?」

いや、疑問形で言われても・・・困るんですけど。

「とにかく!・・・これで箱舟を動かせるってことだけ覚えておけばいい」

「動かせるって・・・本当に?」

「本当にって、疑ってんのかよ?」

疑うって言うか、信じていないと言うか・・・。

世界の縮小版にも変化はないみたいだし、魔王城が浮いた!と言う感覚もないから半信半疑です。正直にぶっちゃけるとね。

「ここの点滅部分が何か、解るか?これは魔王城の位置を示してる」

「・・・ん?」

ピカピカと点滅する、橙色の光が魔王城の位置?随分と上空にあるようだけど・・・バグった?

「ここをクリックしてみろ」

「・・・クリックして爆発しな、あ、何でもないです。クリックすればいいんですね」

ライさんから馬鹿を見る眼で見られ、いたたまれなさに視線をそらして・・・。えっと、クリック、クリックかぁ。

ぽちっとな。

「え゛」

足元が消えた。

「う゛え゛え゛え゛!」

床だった場所、一面に広がる青空。だけではなく、壁も天井も全てが空に変わっている!ナニコレ怖い!落ちるの?え、私、落ちて死ぬの?!

と言うよりいつの間に空に召された?!あ、違う!空を飛んだの・・・?いや、飛んでない。飛んでない、よね?確認のためにライさんを見れば、あれ?さっきまで傍にいたはずなんのにいない。あれ?

「・・・抱き着くなら、もうちょっと色気のある抱き着き方をしてくれないか?」

「ぅひゃ!?」

どうにも、気づかないうちにライさんの足にしがみついていたようでした。そして腰が抜けて動けません。それにしても・・・。うう、いつの間にしゃがみこんで、ライさんの足に抱き着いたんだろう。記憶にないよ。

そろそろとライさんの足から腕を放し、ぺたぺたと床だった場所を叩いてみる。

「・・・幻覚?」

「現実の映像だ」

「ど、どうやって映してるんですかこれ!」

「知らねぇよ。造った奴にでも聞け」

投げやりに答えられ、口を閉ざした。

ライさんでも解らない構造を、私が聞いて理解できるはずがない。理解する前に頭が爆発してしまう。

怖い、その未来が想像できて怖い。身体がガクブルガクブルする・・・っ。

「そ、空を映して飛ぶ準備ですか?」

「いや、もう飛んでる」

・・・はい?

「魔王城、と言うか、ニブル帝国が空を飛んでる」

「え、冗談?」

「残念ながら事実。前を見ろ」

前と言われても、空しかないですよね?ね・・・そうですよね?

恐々と前を向けばあら不思議どこかで見たような街並みがそこにある。・・・もうやだ。なにこの近未来的ハイテク技術。

そして雲をきり、空を飛ぶ箱舟に言葉すらない。

「魔王城が箱舟だとか言ってたけど、実はニブル帝国全体が船だったりする」

現実逃避してもいいですか?

「箱舟とか言ったけど、実は魔王陛下と空の聖女が生み出した風の守護を持つ不可視の龍によって飛んでるだけだったりする」

そんなネタバレはいらない!

「不可視の龍は空の聖女と魔王陛下がこの部屋に入り、力を使わないと目覚めないからずっと地下深くで眠り続けていたりする」

・・・そうですか。

「不可視の龍に選ばれた者が魔王陛下に成れたりする」

「龍が決めるの!?」

「まぁ、前に言ったようなこともするけど、最終的には不可視の龍が決める」

そんな、凄く嫌そうな顔をして・・・・・・魔王陛下になったのが心の底から嫌だったのが解ります。

額に手を当て、私は息を吐き出した。

「さて、空も飛んだし」

あ、話題を変えるんですね。

「殺しに行くか――――時の三神」


ぞっとするほどの良い笑顔でライさんが言った。


けど殺す・・・なんて、随分と簡単に言うけれど。私は困惑した顔を向け、こてりと首を傾げた。

「時の三神が今、どこにいるのか解るんですか?」

「知らねぇよ」

けれど、とライさんがにたりと笑う。

おう、悪役も真っ青な凶悪な笑顔ですね。背筋が震えます。

「1人は確実に時の三神の神殿にいる」

「時の三神って何人もいるんですか?」

「三神って呼ばれてるんだ、3人はいるだろう。確実に」

成程、そう言う意味での三神なのか。え、つまり・・・3人で漸く、一人前。ってこと?だとしたら笑える。

「で、えっと・・・神殿に行って戦うんですか?」

「戦わない」

その一言に安堵する。いや、本当によかった。

だってライさん、神は七聖女しか殺せないとか言ってたからもしかして私1人で・・・?とか心の中で怯えてましたよ。いや、冗談抜きで私に神を殺せるはずがない!


「神殿を地上に落とす」

「は?」

「落としたら夜の聖女が殺す手はずになってる」

「は?」


まって。

落とすってなにで?魔法で落ちるの、空飛ぶ神殿。と言うか、え?殺す手はずって何?私、そんなの初耳なんですけど。一体いつ、そうなったの?そもそも話し合いをしたの?ねぇ、いったいいつ!?

私、もしかしなくてもハブられた?

除け者にされたの?

え、ちょっと・・・ショックなんですけど。

「言っとくけど、今日、決めただけだからな。リィンが寝てる間に、アレ同様に部屋に入って来ようとするから・・・その時にちょっとな」

「ちょっと?ちょっと何したんですか!?」

「俺とリィンの邪魔をする奴は死ねばいい――眼には合わせた」

「笑顔で言った!え、そんなことに気づかずに寝てた私って・・・私って」

「寝室じゃなくて、執務室の方でやったから気にするな」

壁一枚で、音が防げるモノだっけ?どんだけ防音設備がいいの?

「寝るために造ったんだ、それなりのことはする」

「心を読んだ・・・ったい!なんでデコピン?!」

「声に出してたんだよ、馬鹿。可愛いな」

デコピンしておいて可愛い・・・?頭を撫で、とろけるような眼を向けるライさんはやはり何か変だ。いや、そんな変な魔族に惚れた私も変なのか?

・・・っは!これが惚れた欲目と言うやつか、そうなんですね!

「私が寝てる間に決めたこと、聞いてもいいですか?」

「キスしてくれたら教える」

「殴っていいですか?」

ライさんは、真顔で何を言ってるんだろう。

「じゃ、俺がする」

触れるだけの軽い口づけに、眼を閉じることも忘れて呆然とした。自分でするなら、私に頼む必要なくないですか?なくないですよね?

私の唇を舌で舐め、鼻先にリップ音をおとしたライさんに首を傾げてしまう。

「――――時の三神の神殿を落としたら、夜の聖女がバルバゼスと共に殺す。ついでに裏切り者も殺す手筈だ。そしてアレが得た情報から居場所を探り、陽の聖女がもう1人を殺す。夜も陽の聖女も、随分と時の三神を殺したがっていたからなぁ」

息がかかるほど近い距離で、ライさんが喉を鳴らしながら告げた。

「で、残りの1人をリィンが捕まえて、時の三神を最も殺したがっている白銀の乙女に渡す」

するりと、手慰めのように私の髪を弄る。――と、何を思ったのか指に絡めた髪に口づけを落とした。びっくりです。

「あと、ついでにいい加減に人界を領地に戻そうと思ってな」

「・・・戦争の戦利品としてですか?」

「それもあるが、二度と魔族に逆らう気が起こらないように徹底管理しようと思って」

「わぁ、良い笑顔。・・・喧嘩を売った相手が悪かったですね」

「それに、まだ案内し終わってないからな」

案内?

魔王城なら、案内してくれましたよね?はて、どこか見てない場所でもあったかな?


「魔界を案内する――そう言っただろう?」

ぱちくり、眼を瞬かせて私は驚いた。


「まだ魔界全部を案内してないし、ついでだから人界の領地取り戻したらリィンが行きたがっていたビブロフトにも行こう。人界についてもリィンより詳しいから案内できるし」

「・・・」

「だから、また2人で旅をしよう――リィン」

それは、なんて・・・。

「死亡フラグが立ちそうな台詞で、物騒ですよ!」

「正直、俺もそう思った」

「ここで私が迂闊に頷いたら、2人してバッドエンド一直線なんじゃないですか?ちょっと、え、怖い。・・・・でも行きたいです、ライさんと旅。出来れば死亡フラグとか全部回避した後で、その、誰にも邪魔されずに」

ライさんとまた2人旅が出来るのは、かなり魅力的だけど死亡フラグはいただけない。なんとか回避して、のんびりまったりな――――ライさんが魔王陛下だと知る前のような旅をしたいなぁ。

あ、でもこ、ここここここ婚約者になった訳だから同じじゃなくて・・・あの、うん、婚前旅行?みたいない感じになるのかな?とか考えたら恥ずかしくなってきた。うわ、ほっぺが赤い。熱い。頭が沸騰する。もにゃもにやと脳内に出て来たR指定の映像に爆発しそう。想像するな、私!

ひぃー!赤くなった頬を両手で包み、ライさんから視線をそらした。

「――――本当は、利用するだけのつもりだったんだけどなぁ」

「へ?何かいいました?」

ぱたぱたと熱い頬を冷ますように仰いでいたら、ライさんが何か言ったような気がしたんだけど首を横に振られた。気のせい?

「恋も愛も、恐ろしいほどに人であろうと魔族であろうと変えるよな」

いきなり何を?

哲学?いや、そんな難しい話じゃないか・・・たぶん。

「面倒ごと全部終わったら、結婚してくれ」

「・・・」

「それとも婚約するのが先か?」

「・・・・・・だから、それ、死亡フラグ」

黙った私を不安そうに見つめるライさんの額に、ジャンプしてチョップした。


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