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まったりのんびりゆったり執筆。でも駄文。文才が欲しいと切実に願い、七夕に願いを書いてみようかと本気で思うほどです。
目の前が真っ暗になる。――そんな錯覚を抱くほどに、私は混乱していた。
唇が震え、上手く言葉が出てこない。
視界がぶれる。頭が痛い。息苦しくて、何かに掴まっていないと満足に立つことすらできない。ライさんの身体にしがみつき、震えそうな身体を叱咤して何とか、ライさん以外にばれないように平然とした体を振る舞う。
だって。
まさか。
そんな―――――!!
「本当に結界が張れた上に、敵と言うか害意と悪意を持つ人間どころか魔族すら弾くなんて想像してなかったんですけどぉぉぉおおぉぉぉぉおおぉぉぉおぉぉぉぉぉっ!!」
魔界で、帝国で暮らしながらも魔族に対して害意を、魔族と共に暮らす人間に悪意を持つ者を種族関係なく結界の外に弾いた、なんて・・・そんな、・・・う、嘘だぁ。
否定したいけど、ルシルフルが諜報員から聞いた話なので事実なんだろう。認めたくないけど。
・・・その諜報員曰く、魔族と人間、あるいはその両方に負の感情を抱く存在は結界が展開すると同時にポーイっと、まるでゴミを捨てるような感じに弾かれていった姿は壮観だったそうです。ゴミ・・・ゴミみたいに・・・。
そして結界の外に弾かれた者を・・・その、まるでストレスを発散するかのように攻撃するエステルととある2名の魔王。
魔法を使って様子を見て、結界に弾かれた存在を見つけるや否や即座に攻撃。酷い。宣告も何もなく始めた。酷い。死なない程度にしているから、余計に酷い。
けど、黒い笑みを浮かべるエステルが怖くて何も言えない。
ストレス発散の如く力を使っている魔王の顔が不気味で、近寄れない。
何事か知らない結界内の人達にお触書を出したらしいけど、内容が「これから勇者が攻めて来るから結界を張り、ついでに国にとって害を与えるであろう存在を弾いた」と言う、だいぶ意訳したけどそんな内容らしくて・・・。よくもまぁ、反発も抗議も何もなく受け入れられたものだと感心しました、私。
「これで時間は稼げるから、あとはよろしく」
・・・・・・ん?
「俺はリィンと部屋に引きこもるから、勇者だろうが聖女だろうが好きにしろ」
・・・ぅん゛ん゛?
「あの、ライさん?」
「と言う訳で指揮官はバルバゼス、お前に決めた。責任だけは俺がとってやるから、勝手にやってくれ」
「仕事をしろぉぉ!この駄目魔王めぇ!!」
――――と、吠えるバルバゼスを綺麗に無視してライさんが部屋にこもったのが3日前の出来事でした。
その間にあったことを簡潔にまとめると・・・こうだ!
裏切り者のフレンヴァルを殺せると知り、嫉妬の王が嬉々とした顔で自身の軍隊を呼び寄せて突撃。三日三晩に続く戦いは未だに終わりを見せず、遠く離れたこの場所からでも狐と蛇の戦いが見える程。だって空に狐と蛇が戦う黒い靄があるんだもん。
傲慢の王は自らが守護する西は帰り、傲慢らしく兵を出すだけ出して自らは何もせずに勇者が苦しむ姿を楽しんでいる――らしい。
ルシルフル情報なのでまぁ、たぶんそうなんだろうけど。
あと、境界線付近に大軍が押し寄せてきているらしいけど・・・どうやら村人が派手に暴れて撃退しているそうです。凄いな、トーネリの村人。
余談でした。
・・・で、指揮を任されたバルバゼスは押し付けられた仕事を、魔王陛下じゃないのに統治者らしく働いている。実に働き者で、過労死するんじゃないかと心配するレベルです。ツヴァインさんが休むよう言っても、充血した眼で種類を見つめ、腱鞘炎を起こしている手で何やら書いているらしい。・・・ライさんへの恨みとか?ありえそうで怖い。
始祖の吸血鬼の末っ子だからと、姉であるらしいエステルが手伝っているけど・・・。エステルが始祖の吸血姫だという事実に未だ、驚きが消えません。ルキが王族だったことよりも吃驚でした。・・・はい、余談。
ルキはオズとオルデゥアを引きつれ、何やら作業をしているようで・・・。
時折、3人がこもった部屋から爆発音と不気味な笑い声、悲鳴に狂ったような機械音が聞こえるとユフィーリアさんが教えてくれました。
はい、これが3日間にあった出来事の全てです。
勇者達はどうした?とか裏切り者の嫉妬の王は?とか、そう言う情報は私に入ってきません。完全、シャットアウトですよ。部外者ですね。別にいいですけど。けっ。
「可愛くない顔して、どうした」
「元から可愛くないですよ。膝から退いてください、重い」
「嫌だ」
「きりっとした顔で言われた・・・!」
見慣れたベッドの上、許可なく人の膝を枕代わりにするライさんの額を容赦なく叩き、溜息を吐き出した。足が痺れて痛いんですよ、まったく。
この3日間、私はライさんのせいで部屋から外に出られない。
扉から部屋から出ようとすれば、どんな魔法なのかぽ~いっとベッドの上に放り投げられ。ならば窓からと窓に触れようとすれば、くるりと意思に反して足がソファに向かう。いろんな方法を試したけど、すべて無駄でした。徒労に終わりました。ちくしょう。
お外に出たい。
ライさんの部屋には水まわりが揃っているから不便はないけれど、いい加減、窓の外から見る景色には飽きました。自堕落な生活に、外から聞こえる忙しそうな声が良心を刺激していたたまれないんですよ。
お外に出たい。
「いいんですか、魔王陛下なのに何もしなくて」
「魔王陛下だから何もしないんだよ。と言うか、俺が動く必要ないし」
「それはアレですか?他の魔族がグレ・・・勇者達を倒すから問題ない、ってことですか」
こてり、と首を傾げた私の頬にライさんの指が撫でるように触れる。うう、触り方がくすぐったい。
「いや、魔族は滅ぶ」
「・・・?」
「神のせいで魔族は滅ぶ」
「!」
空耳じゃなかった・・・!
「そして人間も滅ぶ」
爆弾発言に言葉が出ない。
え・・・?まって、それってまさか。
「世界の終わりだ」
「私のせいで世界の終焉!?滅亡の危機を引き起こした人間になっちゃったよっ!!」
「神のせいだって言っただろう。別にリィンのせい・・・・・・とは、否定できないが」
「否定してほしかったです・・・っ」
やっぱり世界が滅ぶんだ。そして私のせいでもあるんだ。大部分は神、らしいけど。
「でも・・・どうして世界が滅ぶって、知ってるんですか?」
「魔王陛下だから」
答えになってない。
眉間にしわを寄せてライさんを見下ろせば、指先が唇に触れた。輪郭をなぞる。
「魔王も勇者も世界のバランスを保つためのシステムとして存在だ、世界の終わりぐらい判る」
下唇を指の腹で撫で、上唇に爪で触れる。
「もっとも、判るのは白銀の乙女と邂逅した魔王陛下だけ。白銀の乙女に嫌われた勇者は道具として存在しているだけだから、何も知らない」
「つまり、魔王陛下だけが世界の終焉がいつか、どうして起こるかを知っている――と?」
「その通りだ」
唇に触れていた指が離れ、頬をなぞり、首筋を全ての指で触れた。
「・・・滅びは、回避できないんですか?」
「無理だな」
即答ですか。
ライさんは眠そうに眼を細め、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「神が・・・白銀の乙女ではない神が、了承なしに介入した世界は、例外なく壊れる。と言うより、勝手に介入した神のせいで壊れる。全ては許可なく世界にいる神のせい。つまり――時の三神のせいで、この世界は壊れる運命にある」
全ての元凶は時の三神ですね、解りました。
・・・白銀の乙女の気持ちがよぉぉぉぉぉぉく、解りましたとも。
「でも、その前に時の三神を見つけて白銀の乙女に差し出したら・・・どうなる?」
っは!
そしたら、終焉から回避。世界は永続される!・・・と言う、まさかの魔王が世界を救ったパターンですね!
もう、世界を救うなら勇者じゃなくてもいいです!
むしろ魔王陛下で問題ない!
ライさんが救えばいいんです!いいえ、ライさんが救うんです、世界を!微力ながら手伝います。むしろ手伝いだけをさせてくださいっ。
「ちなみに魔王も勇者も神に攻撃できないから」
「え、なんで・・・?」
「出来ない、と言うより殺せない、が正しいがな」
首に触れる手が頭部に移り、ぐいっと下を向かされる。首が痛い。
そして顔が近い。
慣れて来たとは言え、イケメンの真剣な顔は心臓に悪いんです。心臓痛い。
「精霊の詩とか旋律とか言われてるけど、精霊も神が生み出した存在。七聖女のように女神や女王の寵愛を受け、能力を身に宿している訳でもない魔法を神に放ったとしても無意味なんだよ」
「え・・・と?」
「魔法は神が七聖女以外に授けた力だから、魔法を神に使っても死に瀕するダメージは与えられない。最悪、かすり傷ぐらいで終わる。現人神である七聖女の攻撃なら、殺すことは容易いんだろうけど」
七聖女って・・・。
人の身でありながら神すら倒せるって、ある意味、チート?あ、だから現人神なのか・・・!
物凄く納得できたけど、微妙な心境です。私、そんなに凄い人間じゃないのに。どうしてそんな面倒な・・・あ、なんだかライさんみたいなこと言っちゃった。
毒されてきたかもしれない。
恐るべき、怠惰の王・・・!
「時の三神を見つけることが問題だったんだが」
鼻がぶつかりそうな距離まで顔を強制的に近づけさせ、ライさんが溜息を吐き出した。
体勢的に首が痛い・・・。放してください、切実に。
「リィンが、空の聖女がいるからそれも解決した。これで面倒が早々に片付くぞ」
「・・・もしかしなくても、時の三神を見つけようとしてたんですか?」
だから溜息?
「だから私、と言うより、空の聖女を探してたんですか?」
「まさか死にかけてる家出少女がそうだとは思わなかったがな」
「うぐ・・・!」
「いやー、気まぐれに善行するもんだな」
「ぅ、ぅううう」
「空の聖女が覚醒することも、何も始まることもなく人生終了しそうだったもんな」
「ぅうううう」
「無謀って怖いな、リィン」
「なんで怒ってるんですか?!」
キラキラした笑顔に、怒気を感じる・・・っ。
あの時は呆れるだけだったのに、何で!今!怒ってるの?!
「思い出したら腹がたって、つい」
「ついで怒られる私って・・・・・・いや、確かに今思えばなんて衝動的で計画性のない。とは思いますけど・・・でも、その、まぁ、あれですよ!終わりよければすべてよし!」
「死にかけたのにか?」
「死にかけましたけど、ライさんに助けてもらって今、こうして生きてますからね!」
私を見つめるライさんの眼から逃げるように視線をそらし、緊張を隠すように大声を出した。うう、首が痛いし恥ずかしいし、もうやだ。この体勢。
「そう、俺が助けたからリィンは生きてる」
首から手が離れ、ようやく体勢を楽にできる!・・・と、思ったら唇が何かで塞がれた。いや、何かじゃない。何度、瞬いても現実は変わらない。――ライさんに、キスされた。
優しく触れるキス・・・と、思えば舌で唇を舐められた。
「リィンは俺のモノだ」
「ぅひ・・・っ!」
顔を近づけたライさんが首を舐めた。
「この身体に傷を作ることも、俺から離れることも許さない」
背中に柔らかい衝撃。
くるりと変わった視界に、天井とライさんが映し出されて・・・押し倒されたと瞬時に理解しました。ちょっとまって。理解したけど待って。切実に待って。
「時の三神を殺すために空の聖女を探していたけど、まさかアレのように惚れるとは思わなかった」
アレって・・・オルフさんか!
いや、それよりも待って!足を撫でないで!
「空の聖女は魔王を・・・魔王陛下を魅了する何かをもってんのか?」
「し、しらな・・・!」
「まぁ、リィンだから惚れたんだろうけど」
「!」
「たとえリィンが空の聖女じゃなくても、俺は惚れてたな」
「ぅ・・・ぁ、あぅ」
蕩けるような眼差しを私に向けて、慈しむように耳元で囁く。
やめて。心臓が持たないからっ。
「あ、あのライさん!空の聖女を探してたのは何でですか!」
この甘い空気を何とかしないと!
その一心だったんだけど・・・にこりと笑顔のライさんが怖いです。なんか、すいません。でもこの状況に心臓が耐えられなかったんです。悪気はありました、すいません。
「時の三神を探すのに何で、空の聖女が・・・?殺すだけなら他の聖女でもできますけど」
「空の聖女がいないと船が動かせないから」
「ふね?」
「魔王城が箱舟なのは見ただろう?」
私の上から退くライさんに頷いて、ゆっくりと上体を起こした。
「魔王城が箱舟として機能していた時、時の三神を追い詰めた――と、知識にあるから時の三神は空にいる」
「知識って・・・誰かに聞いたんですか?」
「空に時の三神が暮らす神殿があったらしいし、それが壊れてないなら今もそこにいる可能性は高い。翼を持つ種族でもたどり着けない、遥か上空に殺すべき敵がいる」
「はぁ、無視ですか。・・・それで、箱舟を動かすのにどうして空の聖女が必要なんですか?魔王城なんですから、魔王が動かせるものなんじゃないんですか?むしろ魔王が7人もいるから余裕だと思うんですけど?」
魔王陛下と6人の魔王がいたら、空の聖女なんて不要だと思うんだけど・・・。首を傾げる私の頭を、ライさんがチョップした。なんで!痛い!
「魔王陛下と空の聖女が造った船を、たかだか魔王陛下になれなかった成りそこないの魔王が動かせるはずないだろう」
「な、なれなかった成りそこない?」
「魔力が足りない、器が未熟、知識がない、武力がない、能力的に低い者は魔王陛下候補だとしても魔王陛下に成れず、魔王陛下になるのは先代の魔王陛下よりも魔力が強く、歴代魔王陛下の経験を、知識を引き継げるモノ。・・・大抵は記憶を引く継ぐ作業中に発狂死するけどな。記憶を引き継がないだけマシなんだろうけど、死んだ方が楽っていう眼には合う」
ライさんの知識は、本を読んだからじゃなくて歴代魔王陛下から引き継いだものだったんだ。唖然としつつも、そんなことをしなければならない魔王陛下って・・・。と若干どころかかなり引いている。
経験と知識を引き継いで、何がしたいの?
「これもそれも全て――――時の三神を殺すため」
成程、納得できてしまった。
「魔王陛下と言う存在がそうなったのは、アレが最愛の女を呪い、殺した復讐を果たすためだ」
先代・・・じゃなくて、母に対する想いが天元突破しているオルフさんだもの。時の三神の呪いのせいで死んだなら、復讐の道を選んでもおかしくない。
むしろ選ばない方がおかしい。
しかし――――。
「船を造った空の聖女と魔王陛下が凄すぎて恐ろしい」
「そっちかよ」
「や、だって・・・空飛ぶ船を造るなんて発想自体、普通は思いつかないし何でそんなことを考えたのか謎でしかないのに造っちゃったって・・・凄すぎて怖い」
どうやって造ったんだろう、城みたいな船を。
設計図、探せばあるかな・・・いや、探しても理解できなきゃ意味ないか。私、頭脳関係得意じゃないし。自慢じゃないけど、この年になっても方角が未だに解らないからね!だからと言って、迷子にはなってないよ。同じ場所をぐるぐるしてただけだからね!
・・・泣けてきた。
「船を造った片割れである空の聖女がいないと、この箱舟はただの城だ。空を飛べない宝の持ち腐れだ」
「なんか意味が違う・・・あ、いえ、何でも。それで、どうやって飛ぶんです、空?空の聖女と魔王陛下が一緒にいる――ってだけなら、もう飛んでますよね?」
魔王城に来てから、この城が空を飛んだ記憶は一切ない。
何か特別な儀式でもあるのかな?それとも特定の場所にいかないと駄目とか?・・・ちょっと想像したらワクワクしてきた。
オルフさんがここにいたら、詳しく聞けたのに・・・っ。
ライさんから追い出され、オルフさんが入れないように厳重に、それはもう厳重にオルフさん限定の結界を作り出したせいでこの3日、まったくと言っていいほど姿を見ていない。それらしい影を窓から見えるんだけど、私がオルフさんと認識する前にライさんが何かをして消されます。・・・死んではいないと思うけど、いきなり魔法を放つのはどうかと思うな。
「それはあとで教える。その前に」
右肩を掴まれ、ライさんの胸板に頭をぶつけた。
「偽りの役目を果たそうとする七聖女と、俺からリィンを奪おうとする愚者を片付けるのが先だ」
結構強く、頭をぶつけたのに痛がる素振りを見せないライさんは逆に、額を痛めて呻く私の顎を掴み、ぐいっと上を迎えせた。ゴギって鳴った、首が痛い。
「勇者、殺しても問題はないよな・・・リィン」
冷ややかに輝く赤い瞳が、私の呼吸を止めた。
「もう未練も何もないんだろう?そうだよな、リィン」
確かめように、そんなことを聞くライさんに首を傾げたい。
止めていた呼吸をして、ぱちくりと瞬く。なんだかさっきの台詞は、不安な子供のような印象を持ったんですけど・・・。
「リィン」
ライさんの様子に困惑していたら、どう思ったのか冷たい声で名前を呼ばれた。
「戦争は、全てを奪う」
両手の親指が唇を撫で、額と額が重なり合う。
「俺は勇者達を好きにしろ、と命じた。それを撤回するつもりはない」
右手が頬を撫で、首筋を這う。
「でもリィンは、アレを救いたいんだ」
左手が後を追うように首筋を撫で、両手が添えられた。
「俺よりも、アレを選ぶのか・・・」
「私はライさんのモノなんですよね?」
あ、これ絞殺される感じだ。と他人事のように考えながら、自分でも驚くほど静かな声が唇から出た。いやー、心臓はどっきどっきなのに思考だけが冷静って吃驚。
「選ぶも何も、ライさん以外の選択肢ってあるんですか?」
思ったままを口にしたら、きょとんとした眼で私を見下ろすライさんがこう・・・可愛い。いや本当、年上に対して失礼だけど、冗談抜きで、可愛いと思ってしまった。
「そうですね、うーん」
ライさんの手に手を重ね、心の中で可愛いなぁと思いながら苦笑した。
「世界かライさん、どちらかを選べって言われたら悩みながらもライさんを選びます」
「それは・・・極端すぎじゃ」
「仕方ないですよ」
私は笑った。
「好きな人のことで悩むのは、世界ぐらいしかなかったんですよ」
あ、ライさんの間抜けた顔だ。
こんな顔すら可愛いと思うなんて・・・重症だな、私。失笑して、首に触れるライさんの手を放す。おお、簡単に放れた!私にも筋力が・・・つくわけないか。
私よりも大きくて、硬くて、節ばった手を見下ろす。
「ライさん」
驚いて固まっているのか、びくりとも動かないライさんに笑いかける。
「好きです。貴方を誰よりも何よりも――――愛してます」
最初の恋のせいで、本当の恋と言うモノが良く解っていなかったけど抱く想いがどんなものか認めてしまえばあら不思議。よくよく考えなくてもそれが恋だと解るじゃないですか。
ちなみにこの感情、3日間で理解しました。せざるを得なかったんですよ・・・!
ユフィーリアさん、貴女は正しかったっ。とある日に言った「魔王陛下に対するお気持ちを気づかせ、認めさせる」は正しかったんですよ!
ええ、認めますよ。
認めますとも・・・!
私は魔王陛下とか、七罪の1人とか関係なく、魔族のライさんに惚れました。いえ、惚れてます!
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・たぶん、ライさんに助けを求めた・・・あの時から。
「好きです、ライさん。貴方が好きです」
だから。
「変な勘違いして、暴走しないでくださいね?」
私、愛故に殺されて死ぬなんて、絶対に嫌ですから。
笑って告げれば、痛いぐらいの抱擁を食らいました。骨が折れるかと思った・・・っ。




