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姉が結婚するので家を出ます。  作者: 如月雨水
Latus ad latus 《隣り合わせ》
24/41

1

空は快晴――――。

雲一つない暖かい陽射しが降り注ぐ、穏やかな朝。・・・を、ぶち壊したのはルキの高笑いとエステルとバルバゼスの悲鳴でした。

何があった。

特にバルバゼスに何があった。巻き込まれた?巻き込まれたの?・・・不憫な。

強欲の魔王だから、そう言うのにも巻き込まれちゃうのかな・・・。今度、優しくしよう。

まどろむ時間すらなく、一瞬で覚醒した意識は二度寝の誘惑に負けることなくはっきりしていて、ふかふかのベッドから泣く泣く出た私はそのまま服を着替えた。この時、朝の6時だった。・・・早朝に何をやってるんだろう、あの3人は。溜息が出た。

もそもそと着替えていたらいつの間にか背後にユフィーリアがいて、「朝食の準備が出来ました」と言われた。・・・唖然とする私を部屋にあったソファに座らせ、その前にあるテーブルにどこから取り出したのか湯気のたったミルクリゾットとコンソメスープ、ミニサラダが置かれた。う・・・ううむ、美味しそう。いや、美味しいに決まっている!!

昨日の夜に出された、7日も寝ていたから異に優しい料理――卵粥と呼ばれたご飯も美味しかった。丁度いい塩っ気が胃に優しく、何だか独特の苦みがあって美味しかった緑茶は3杯もお代わりしてしまった。・・・でも後悔はしてない!美味しいかったからね!ああ・・・デザートのぜんざいも美味しかったなぁ・・・・・・。

至福の朝食を終え、ユフィーリアさんに案内されるままついて行った先にライさんがいた。この時、朝の8時。隣にいたルシルフルから射殺されるような視線を頂き、朝食の余韻が綺麗に吹き飛んだ。・・・ライさんに殴られ、叱られ、しょぼくれた姿を見たら「ざまぁ」と心の中で嘲笑してしまったけど。

「それじゃあ、行こうか」

差し出されたライさんの右手を見やり、次にライさんの顔を見た。・・・うむ、笑顔である。

きょとりとした私に焦れたのか、左手を掴まれ先を促される。あ、ちょっと・・・!転びそうだから歩調はゆっくりでっ!!

ハンカチを千切らんばかりに噛むルシルフルの姿は――――あえて、記憶から消しておこうと思う。

そして魔王城の城門を出てすぐに商売根性逞しい、活気あふれる城下町に辿り着いた。ライさん曰く、城門は特定の力を持った者が通ると空間を捻じ曲げ、行きたい場所に行けるように作られているらしい。

特定の力を持った者とは、つまりは魔王・・・らしいんだけど。

普通に歩いて行っちゃ駄目なの?と思ったが口を噤んでおいた。

まず最初に露店の飴細工や小物売り等を見つつ、軽くつまめるお菓子――カステラを購入してもらった。甘くて柔らかくてすっごく、美味しかった。

美味しすぎて尻尾が無意識に揺れ動いていたようで、ライさんが忍び笑いをしていた。気づいた時は羞恥で穴に埋まりたくなったけど、まぁ、仕方ない。と今は割り切った。

だって、些細なことで感情を表すように尻尾が揺れるんだもん。諦めて知らない振りをした方が精神的に良い気がしたんだい!

ぶらぶらと露店を歩き、商店街に足を向け、ウインドウショッピングを楽しむ。・・・ライさんは何故かやたらと店の中に入ろうとか言ってきたけど、庶民な私には見て楽しむだけで十分です。はい。

ふらふらーと商店街を歩いたら、今度は不思議なことに路地裏に足を赴いた。な・ぜ?きょとんとする私にライさんは楽し気に笑い、路地裏には正規では買えない物やちょっとした掘り出し物、お宝を売っている店や露店があるのだとか。・・・いや、それって裏稼業の――――私は何も聞かなかったことにした。

ちょっとした恐怖を感じながら路地裏を歩き、抜けた先には広々とした空間・・・基、ライさん情報で足湯が出来る公共の憩いの場が存在すると言う。なんですと!食いついた私は悪くない。失笑したライさんには申し訳ないけど、興味は足湯に向かってます。

いそいそと足湯が出来るその憩いの場に近づき、むわっとした湯気の熱気に歓声を上げてしまった。だって、だって・・・!屋根があるだけで扉も壁もなく、座る場所はヒノキか杉か判らないけど、木製で出来ている。そして足湯!・・・かなり大きいですね。色んな種族の魔族が足だけ、お湯につけてリラックスしてるよ。

いーなー、私も足湯したいなー。

残念ながら満員なので泣く泣く諦めた私の頭をライさんが撫で、そしてデコピンした。何で・・・?!

唖然としながら次に連れて行かれたの・・・・・・・・・あの、ライさん。魔王城からかなり離れてますよ?結構、歩いてますけど大丈夫?あ、城下町出た。

どこに連れて行かれるのかと若干の不安と、どこに連れて行ってくれるのかと僅かな好奇心から辺りを忙しなく見渡す。・・・すでに魔王城は遠くに見える。城下町だって、少し小さく見えた。

「――――ついた」

道すがら何も喋らなかったライさんが、笑うように告げた。

「ふ・・・わぁ」

そこは一面の蒼が広がっていた。

青ではなく、蒼。

草も木も花も全てが――――蒼く染まっている。

恐る恐る、草を踏んでみる。さくり、薄い氷を踏んだような音と感覚がした。これは・・・氷で出来た光景?でも、肌を撫でる空気は暖かくて冷たさを感じない。どう言うこと?

不思議で首を傾げてしまった。

「ここは初代魔王陛下・・・リィンの父親が、雪が好きだと言ったリィンの母親のために創り出した永久氷雪えいきゅうひょうせつ

「読んで字の如く、永久に氷雪してるんですね」

「墓標の代わりらしい」

ぽつり、と呟かれた声は小さくて聞き取りづらかった。

「遺体がないのに、墓なんて無意味だろうにな」

母――と言われた空の聖女、シビルの遺体は白銀の乙女の元にあります。とは言わずに苦笑した。

確かに、そこに誰もいないのに墓を作る意味はないと思う。けど、オルフさんならそれでも作りそうだな。とは思ったのも事実で、何も言えずに曖昧に笑うだけにした。

「ここは普段、魔王ですら立ち入り却下の禁止区だ。・・・魔王陛下は年に1度、花を手向けに来ることを許されているけどな」

お供え用の花ですね、それは。

・・・でも、何で魔王陛下が?

「初代魔王陛下が死ぬ間際・・・と言うより、消える前に行ったんだよ。次の魔王陛下も、その次の魔王陛下も、魔王陛下の名を継ぐ者は年に1度は永久氷雪に花を手向けろ――ってな。まったく、面倒な話だ」

ライさんの表情からして、本当に面倒だって思ってるんですね。流石は怠惰の王。

「ここを、私に見せたかったんですか・・・?」

「まぁ、リィンの親に関係する場所だし」

「・・・照れてます?」

「何で」

「っ・・・デコピンはやめてくださいよ!」

「帰るぞ」

「え・・・もう、ですか?」

「魔王城を案内するって約束しただろう」

・・・そう言えば、された気がする。

「じゃあこれは?」

「今日が墓参りだったから、リィンも連れて行こうと思ったんだよ」

「こんなに早く?お花もないのに?」

「花の代わりに娘を連れてきたんだ、文句はないだろう」

そう言う、モノだろうか?首を傾げてしまった。

「ほら、帰るぞ」

ぐいっと繋がれた腕を引っ張られ、転びそうになりながらも私は歩き出した。・・・この場から離れるの、早くないですか?








「――――で、ここが図書館。無駄に大量の本があるから、暇なら仮に来ると良いぜ」

魔王城に戻り、メイドや執事が休憩するスペースを案内されたり、武官が集う詰所に連れて行かれたり、騎士達が訓練する鍛錬場を見学したり、文官が仕事をする仕事場を見たり、何故かまだいる魔王達が泊まる離宮を遠くから眺め、食堂に案内されました。

その食堂で暴食の王と憤怒の王を見かけたけど・・・・・・何があったかは私の記憶から消去した。何でか知らないけど周りを巻き込んだ魔王2人が大食い競争をして、嬉々とした雰囲気で暴食の王が食器ごと特盛を食い、青い顔をした憤怒の王が震える手でスプーンを握っている姿や、限界を超えて吐き出した姿とか、それを食べようとした暴食の王の姿なんて――――私は知らない。

知らないったら、知らない。

他にも案内された今、私はただっ広いとしか表現できない図書館にいる。いやはや、本棚が無数に存在しているように見えるんですけど。何ここ、無限図書館?全ての知識はここに収納されているのでは?と疑わずにいられないほどに本の数々。眼が回りそうです。

天井は高く、本を守るためか窓の数が少ない。天窓から差し込む光は硝子で淡く調整されているのか、眼に優しい光量だ。ぐるり、と周囲を見渡す。1階、2階、3階・・・・・・・・・数え間違え出ないなら、20階ありませんか?眼の錯覚?頬がひきつった。

視線を前に戻す。

ゆっくりと寛げるスペースか、はたまた本を読むためか、その両方か定かではないが座り心地のよさそうな椅子がある。あとソファもある。丈夫そうな机に、暗くても読めるようだろうか?ライトもあった。・・・ここは、私が知っている王立図書館よりも凄いですね。

最早何度目か解らないほどに、魔界の凄さに圧倒される。

もうね、人間が魔族に戦いを仕掛けるのが愚かを通り越して馬鹿にしか思えないほどだよ。勇者がいるから魔族に勝てる、って思ってる時点で駄目だ、アイツら。それに勇者なんて、何百、何千と生きた魔王に勝てるはずないでしょう。経験の差が違うんだよ、経験が!

・・・元恋人に対して、随分と酷いことを考えてしまった。

前なら、こんなこと思わなかったはずなのに・・・恋慕も何もかもがなくなったのかな?うわ、潔い・・・?いや、違うな。潔いんじゃなくて、興味がなくなったんだ。うわ、うわぁ、その程度の感情だったんだ。うわぁ・・・失礼なことをしてしまったかもしれない。

「リィン?」

「ねぇ、ライさん。凄く、個人的興味なことを聞いてもいいですか?」

「俺が答えられる範囲なら、どうぞ」

「オルフさ・・・あー、私の実の親と名乗る2人って、どこでどうやって出会って、何がどうして結ばれ、何でどうして――――私を未来に生まれるようにしたんでしょうか?」

「本人に聞けばいいだろう」

ですよねー。そう言うと思いましたよ、と苦笑した。

いやでもですね、親の馴れ初めとか聞くのって結構な勇気がいるんですよ。それも昨日・・・じゃなくて、4日前にだけど「我がリィンの実の父親だ!」なんて言われたら余計に・・・ね?


「愛し子の期待に応え、我が答えよう!」

「ぅひい!?」

どこから現れたボウフラか!!?


背後から現れた人型のオルフさんを、驚きからその腹部に裏拳を叩きこんでしまったが許してほしい。驚かす方が悪い。だから許して・・・ね?

どうやら鳩尾に拳が叩き込まれたようで、膝をついて呻くオルフさんに私は謝罪を述べることしかできない。・・って、ライさん。げしげしと背中を蹴らないで。いじめっ子の絵だからやめて!

――――簡易な携帯食が出来る3分。

復活したオルフさんは人型から鳥に何故か姿を変え、私の肩に止まった。

「我とシビルの出会いを語ると長い。だから愛し子、そこのソファに座って、何か飲みながら聞いて欲しい」

ふざけた様子が一切ない、どこか懐かしそうに、けれど悲しそうな声で告げたオルフさんに私は無言で頷いた。

静寂な図書館に、神妙な空気が流れる。

さてはて、何が語られるのか。どきどきと高鳴る胸は、恐怖か期待か、はたまた別の何かか。とりあえず、最初に出逢った時のようなオルフさんの空気に私は呑まれていることは確かだ。

「あ、今代の魔王陛下はそこで突っ立ってろ」

「リィン、その鳥を寄こせ。はく製にしてやる」

・・・あ、やっぱり気のせいだ。


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