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姉が結婚するので家を出ます。  作者: 如月雨水
Locus solus 《人里離れた場所》
13/41

6

あけましておめでとうございます。

今年も誤字脱字、気まぐれ亀更新ですがなにとぞよろしくお願いします。

皆様の健康、多幸をお祈り申し上げます。

ライ――ラインハルトは唖然とリィンが走り去った方角を見つめた。

怒ったと思ったら泣きそうな顔をして、そして何かから逃げるように駆けて行った。何故?何から逃げようとした?胸中にわき上がる疑問に首を傾げつつ、ゆっくりと立ち上がる。

狐族の子供に叱られる鬼人の子供の姿を視界にいれ、次いで悠然と佇む配下に眼を向けた。

「――――で、ここに来た用件はなんだ?緊急じゃないなら放っておけと言ったはずだが?」

「緊急事態です」

「・・・あ、そう。で、何がどう緊急なんだ?」

視界の隅で、2人の子供が駆けて行くのが見えた。

「人界から大群が押し寄せてきました」

簡潔すぎるその言葉に、ラインハルトは溜息をついた。

額に手をあて、ゆるりと首を左右に振る。

「王国軍がまた(・・)、懲りずに兵を出したのか。で、どこに?・・・って、聞くまでもないか」

「はい。あと3時間ほどでトーネリ村(こちら)へ到着いたします」

「で――――一方的な殺戮開始、か。こちらが手を出さないからと、調子に乗ってる」

ラインハルトは冷笑した。

「だがまぁ・・・この村に関しての損害はないに等しいから、痛くも痒く、心も痛まない。こちらが反撃するなんて、そんな面倒な真似もしない。精々、兵を疲弊させればいい」

「さようですね。この村は亡霊・・・ゴーストやアンデッド系の種族が暮らす村ですから、彼らを殺した所で無意味。彼らに肉体の死と言う概念はなく、いくらでも蘇りますから。光属性の浄化系魔法を使われては一発でお陀仏――あの世逝きではありますが。そうなれば笑えますね」

無表情で告げたユフィーリアに、本当に笑えるのかと些か疑問を抱くがいつものことかとすぐに思考を捨てた。

基本的に感情のままに動くルシルフルと違い、能面のように表情が変わらない冷血漢と言われるユフィーリアだ。どうせ、思ったことをそのまま感情をのせずに言っただけだろう。考えるだけ無駄だ。

「それで、如何いたしますか?」

「それはどっちのことだ?」

「無論――リィン様のことです」

「・・・3時間後とは言え、放っておく訳にも行かないからな。とりあえず、リィンを見つけ次第ここじゃない場所に行くことにする」

告げれば、ユフィーリアは承諾したように頷いた。

「では、わたくしは村の方々にまた性懲りもなく殺戮を起こしに来る傍迷惑な御客人のことを伝えてまいります」

「・・・ついでに、反抗してもいいって言っとけ」

告げた言葉に、ユフィーリアが僅かに眼を見開いた。

それだけで驚いていることを知り、ラインハルトは喉を鳴らして笑う。そんなに驚愕することだっただろうか。くつくつと笑って、背を向けた。

「今まで好き勝手させてたんだ。こっちが好き勝手しても――いい頃合いだろう?」

「さようでございますね」

「それじゃあ、そっちは頼んだ。俺は・・・何かに落ち込んだ大切な、大切な空の聖女様を探しに行くよ」

まぁ、大切なのは空の聖女だから。と言うよりも、見ているだけで退屈をしのげるリィンと言う存在なのだけど。

それを言わずに、いや、言う必要を感じずにラインハルトは足を動かした。

「いってらっしゃいませ、魔王陛下」

背後で送り出す静かな声を聞きながら、思うことは1つ――――。


何故、リィンがあんな顔をしていたのか。と言うことだけ。


それが妙に気になって、同時に腹がたった。

どうにもリィンは、くだらないことを気にしすぎる。馬鹿馬鹿しいと考えて、首を傾げた。本当に馬鹿馬鹿しいなら、気にしなければいいだけの話。

なのに、気になったのはどうしてだろうか――?

「この思考も、退屈しのぎだ」








知らない誰かの声が、誰もいない場所から聞こえてくる。

知っている誰かの声が、何も言ない所から響いてくる。

煩い、煩い、煩い、うるさい、ウルサイ――誰かの声が頭の中で反響する。

『リィンちゃんの瞳って、蛙の色だよね!』

『あははは!確かに蛙の色だ、蛙の色だ!』

『気持ち悪ーい!こっちこないでよ!』

『そうそう、気持ち悪いのが移るだろうー!!』

・・・・・・ああ、幼い頃に聞いた台詞が蘇ってくる。

幻聴だと解っていても、周りで馬鹿にしたような笑い声が聞こえた。それから逃げるように足を動かして、ぎゅっと眼をつぶる。

そこには森しかないのに、声の主の姿が見えた気がした。・・・幻覚なのに。解っているのに!昔の場景が蘇って私の心を締め付ける。ああ・・・心臓が痛いよ。

ぐっと唇をかみしめて、眼を開けた。

「ぅあ?!」

何かに足を取られて、危うく転びそうになった。何だ!私の行く手を阻んだ・・・あ、木の根っこだった。

荒くなった息を肩で整え、何気なく空を見上げた。

木漏れ日の隙間から見える空は、異様なほど狭い。――そして憎らしいほどに青い。

いっそ、雨でも降りそうな曇天なら・・・・・・いや、それもやだな。

ゆるりと首を横に振る。止めていた足を動かして、適当に歩きだした。右を見ても左を見ても、緑しかない。見事なまでに森だ。木以外の何も見えないよ。

息を吐きだす。

さっきまで聞こえていた幻聴も、見えていた幻覚も私の中から消えてしまった。そのことに安堵するけれど、なんだかなぁ。ネガティブと言うより、鬱的なモノがこう・・・胸の中に蟠って不愉快だ。

吐きだしたい。

出来ないけど、吐きだしてしまいたい。

魔法とかで楽になりたい。使えないけど。

『どうして僕の幼馴染が、君みたいな出来そこないなんだ。どうせならあの人の方が』

ああ、ああ、ああ!神童とまで呼ばれた君にとって、私と言う存在はマイナスでしかないからね!才色兼備の姉さんの方が幼馴染として相応しいだろう!そうだよね?!そうだろう!?

どうせ私は魔法も使えない落ちこぼれだよ。役立たずのごくつぶし。君にとっても、皆にとっても、姉さんの引き立て役か伝言板代わりの存在でしかないんだ。だから君はいつも、いつも、いつも、いつもいつも!私と姉さんを比べる!私を否定する!私を・・・・・・。

「・・・存在すら、認めないんだよね」

いない者として扱われた日々を思い出して、笑ってしまった。

幼馴染だけではなく、両親にすら存在しない者とされた。

いや、両親は姉しか見てなくて、私のことを記憶から忘れてしまったんだ。生まれて経った3年で母親は私のことを見なくなって、父親は私の名前を呼ばなくなった。それから1年で私の存在は綺麗に、2人の中から消えてしまって・・・。

毎日用意されるご飯も、3人分しかないことに何度泣いたことか。

喚いて、騒いで、私がいることを主張しても無意味だと知ったのはそれをして僅か10分。私は4歳で諦めを覚えた。覚えて・・・しまった。

「隣の老夫婦がいなきゃ、死んでたなぁ」

珍しく姉に興味を持たず、第3者のように物事を見ている妙に存在感の薄い老夫婦によって、私は10歳までなんとか生きてこられた。彼らによって常識を教えられ、知識を与えられ、愛情をわけてもらえた。・・・返しきれない程に恩があるのに、何も言わずに勝手に家を出てごめんなさい。

安住の地を見つけたら手紙を出します。

届くか判らないけど。

「・・・・・・駄目だ。過去を思い出すと駄目だ。鬱になって死にそう」

楽しい思い出よりも、虚しくて惨めな思い出しか出てこない。

あ、猫友の騎士との出逢いは楽しい思い出だ。あと、老夫婦の林檎とかお泊りとかの思い出もあった。

そう言えば猫友は元気だろうか?

何だか皇帝陛下の命で、勇者と何かをすることになったようだけど・・・。詳しく聞きたかったけど、直後に元彼と姉の結婚騒動で聞けずじまい。

元彼に聞くとか、そんなこと出来る精神的余裕もなかったし。


「ん?」

はたと、足を止めた。

「んー?」

周りを見渡す。見事に緑しかない。

「・・・えっと」

あれ、私。どこをどう進んできたっけ。思い出せないと言うか、記憶にない。うわ、ネガティブ思考と幻聴と幻覚のせいだ。うわ、うわぁぁ、ないわー。

四方をきょろきょろと見渡すけど、見覚えのある場所は何一つない。だってここ、森の中だもん。標識すらないからね、現在地が判る筈がないよ!


となればこの状況――間違いなく、迷子だね!


明るく言うことでもなかった。

木の幹に手をついて、項垂れる。ああ・・・どーしよう。元来た道を戻っても、無事に村に辿り着ける自信がない。まったく、これっぽっちもないんですけど。どうしよう。

「こうなれば・・・」

適当に歩いて行くしかない!

さっきまでのネガティブ思考すら吹き飛ぶ行動力で、私は足を動かした。いざ、進め!迷子になっても構うな!すでに迷子だもん、問題はないよ。

あ、でも誰か助けに来てください。

迷子で餓死とか恥ずかしい。

「・・・ん?んーん゛?」

適当に歩いていたら開けた場所に出て、そしたら大きな、それはもう大きな湖があった。あ、これってライさんが見せてくれた景色のだ。

と言うことは・・・。

「う、わぁ」

湖の真ん中に、巨大な古木が生えていた。

あれ、腐らないのかな?なんて思った私は罰あたりかもしれない。でも思っちゃうんだから仕方ない。

とてとてと軽い足取りで湖に近づき、その透明さに瞠目した。

透明と言うより、透きとおった色のない水だ。水底が見える程の透明度に、間抜けな声が出た。両膝をつき、そっと右手を湖に近づける。指先が水に触れると、ぴりっとするような冷たさに驚いた。

氷かってぐらいに冷たいんですけど・・・これ、よく古木は平気だな。

あ、でも夏はひんやりとして気持ちよさそう。良い涼になるだろうなぁ。

「ぐぅ?!」

とか思ってたら、背中に何かがぶつかった。せ・・・背骨が痛いっ!

「・・・え?」

何だと思って振り返れば、泣きそうな顔の狐耳の少年と・・・私の眼を蛙の色と馬鹿にした鬼の少年だ。

何でここにいる?

私をさらに貶しに来たか。それとも馬鹿にしに?悪いけど、君に言われた台詞は随分と前にも聞いたから、心理的ダメージは低いぞ!ちょっとネガティブになるけど。立ち直るから意味はない!

さぁ、何をしにここに来た!!

出来ればナイーブな所には触れないでね。姉とか姉とか姉とか元彼とか。

「みずうみにとびこむつもりか!?」

・・・飛びこむ?

「このみずうみにはいったら、まぞくだってしんじゃうんだよ?!にんげんがはいったらそくししちゃうっ!!」

う・・・ん?

この子達はいったい、何を言っているんだろうか。私はただ、湖の水に触れただけなんだけど・・・それが駄目だったの?触れただけでも死んじゃうの?!

何この湖、怖い!!

触れるだけで死ぬ湖って、もはや恐怖でしかないんですけどっ!

「み、水に触ると死ぬの・・・?」

「はぁ?!さわったぐらいでしなねぇよ!」

逆切れされた、解せない。

とりあえず、この2人が勘違いしていることは判った。解ったけど・・・何だろう。心配されたのが物凄く、不気味だ。

さっきまでの威勢はどこに消えた、鬼っ子よ。

あと、狐耳の少年。死にはしないから「しなないでよぉぉ」と泣かないで欲しい。風もないのに水面に波紋が出来るほどの音量だから、物凄く耳が痛いの。

鐘の音が頭の中で直接響くような、物凄い声だからちょっと音量さげて。後生だから。

「あれぐらいでしぬとか、どんなぜいじゃくなしんけいしてんの?!これだからにんげんはよわっちくていやなんだよ!!」

「ちょっと黙ってくれないかな」

一先ず、背中をどすどすと容赦なく叩くこの――鬼っ子を黙らせることを優先しよう。

「人の話を聞かないで、勝手に殺そうとしないでくれない?誰が、いつ、何で死のうとしたって・・・?」

「あんたが、ここで、お・・・おれがひどいこといったから」

酷いこと、ね。

そう言う自覚なら、言わなきゃいいものを・・・。感情のままに口走って、後で悔やむタイプだな。この鬼っ子。

背中から離れた泣きそうな顔をする鬼っ子を見てから、未だびーびー!と泣く狐耳の少年を見る。

眼が涙で溶けそうだよ。

「私はまだ死ぬ予定はないよ。死ぬつもりもないし。そもそも自殺なんてするぐらいなら、生きることを諦めたくないタイプだから」

何度か死にかけて、諦めかけたけどそれは言わないでおこう。

「そう言う訳で、君達の心配は無駄。・・・・・・まぁ、気にしてくれてありがとう。今度は自分の発言に気をつけるんだよ?」

言って、鬼っ子の頭を撫でれば泣きそうな顔で頷かれた。うんうん、素直でよろしい。

そして狐耳の少年。いい加減、泣きやんで。

「君も、男なら泣かない!それじゃあ大きくなった時に困るよ、絶対」

「う・・・ううぅぅぅ。だ、だってぇぇぇぇぇぇ」

「はいはい、だから泣かない」

私、子供の扱いは不得意、と言うか不慣れだからあやせないよ?

「ちょうどいいから聞きたいけど、この湖に名前はあるの?あとあの古木にも」

恐る恐ると狐耳の少年の頭を撫でながら鬼っ子に聞けば、さっきまでの表情が嘘のように馬鹿にした眼を向けられた。うわ・・・殴りたい。殴らないけど。

鬼っ子は手を腰にあて、偉そうに喋った。腹が立つほど、偉そうだ。

「ここはししゃがねむるみずうみ。あそこにみえるのがたましいをとどめるたいじゅ。そらのせいじょさまがしょだいまおうへいかとつくりだした、しんせいなるばしょだ!」

死者が眠る湖に、魂を止める大樹・・・?

で、空の聖女と初代魔王が造り、いや、創りだした?んん゛?

首を傾げる私に、狐耳の少年がおずおずと枯れた声で告げた。

「えっと、ねむりのみずうみとみたまのたいじゅっていって、しんだにくたいをこのみずうみにしずめることで、たましいだけがそんざいすることができる――いわゆる、ふしぞくせいのまぞくをうみだすばしょです」

こっちの方が解りやすい。

「成程。死んだ魔族の身体をこの湖に沈めると、魂だけになって亡霊のようにこの世に存在する――と。ゴーストとかアンデットってそうやって生まれてるの?」

「ゾンビはねむらずのだいちからうまれますよ?」

「ああ、うん。それはどうでもいいかな」

「おもしろいのに」

残念そうな顔をする狐耳の少年に苦笑し、視線を眠りの湖に向ける。ううん・・・この水底に魔族の死体があるのか。透明度が高いから、確かめることは出来るだろうけどしたくないなー。

で、御魂の大樹・・・がこの地に死者の魂を止める役割を持っている訳か。

成程。さっぱり解らない!

どう言う原理?

てかこれ、魔法?だとしたら凄いな、魔法!

死者を蘇らせる術はないのに、魂だけを止めてアンデットを作るなんて!吃驚仰天だよ!

「・・・この湖が異様に冷たいのって、まさか死体を腐らせないため。とか言わないよね?」

「そうだけど?」

「そうですよ」

2人に肯定された。

・・・知らなかったとは言え、そんな水に触れたのか。何とも言えない顔で右手を見る。指先がまだジンジンと痛い。どれだけ冷たいんだろう、この水は。

息を吐きだした。

「空の聖女と初代魔王陛下って、仲良かったの?」

「いいにきまってるだろう!だってそらのせいじょさまはしょだいまおうへいかといっしょに、まかいをつくったんだから!!」

・・・うん。もうね、超人すぎて本当に私、空の聖女の力を持ってるのか疑問を抱くんだけど。と言うか、持ってても誰かにあげたい。譲り渡したい。

魔界を創るってどんだけだよ、怖い!怖いって、空の聖女の力!ああもう、空の聖女の力が怖すぎるんですよ!

初代魔王と一緒とは言え、なんでそんなありえないことが出来るの!?超人なの?!奇天烈なの!!?

そんな人の力を持ってるの、すっごく嫌なんですけど・・・!

同類扱いされるっ。

「しょだいまおうへいかはとくにすごいかただから、これぐらいはいきをするのとおなじようにできるんだ!」

次元が違うんですね、そうですか。

・・・あ、初代魔王だけが次元が違うってだけで、他の魔王陛下は普通に凄いってだけなんだね。うんうん、そうに違いない。

むしろそうであって欲しい。

じゃないとね・・・こう、バランスがね。勇者とのバランスが崩れて、悲惨なことになりそうだから。人界が。

それでも魔界の方が能力的に上だけど。


「いまのまおうへいかもすごいかたですよ?」


今の魔王陛下・・・つまりはライさんのこと、だよね?

確かに4つの属性魔法が使えるから、凄いと言えば凄いけど・・・。面倒くさがりで怠惰な空気を出すライさんを思い出して、何とも言えない気持ちになった。

あれで凄い方、ねぇ・・・。

「だってれきだいさいきょうのまおうへいかですから!」

胸をはって言われた台詞も、とてもじゃないが同意できない。

・・・これ絶対、当人を見たら幻滅するな。間違いない。

「でも、だおうなんですよね」

そうでもなかった。

「せっかく、れきだいさいきょうなのにだおうなんだよなー」

「そうだよね。もったいない」

憐れむ、と言うか呆れた眼をする2人はとても子供らしからぬ顔をしていた。え・・・えぇぇぇぇ。

それでいいんですか、ライさん。

少しぐらい、真面目になりません?脱・駄王を目指しません?

とか思ってしまうけど、無理だろうなぁ。ライさんだし。・・・うん、面倒くさいって言われるのがオチだな。

容易に想像出来て、何だか笑えてしまう。

「ちなみに聞くけど、空の聖女と初代魔王陛下が創ったのって他にもあるの?」

「あるよ!いっっっっっっぱいあるよ!」

眼をキラキラさせて、腕を大きく広げて表現した鬼っ子が言う。

「まおうじょうもそのひとつなんです」

言葉に続くよう、狐耳の少年が・・・・・・・・・・・・魔王城も創ったの?

建てたんじゃなくて、創ったんだ。へぇー、ほー、ふーん・・・ソレハスゴイデスネ。

もう、魔界にあるモノ全てを空の聖女と初代魔王陛下が創ったと考えるべきかもしれない。

・・・私、そんな人の能力持ってるの嫌なんだけど。切実に誰かにあげたい。欲しい人いないかな?

「・・・あれ?ねぇ、よっちゃん」

ああでも、いたとしてもあげ方が解んないから無理か。

「どうした、クレオ?」

でもライさん・・・魔王とか勇者が力の制御が出来るなら、力を誰かに譲り渡すことも出来るんじゃ・・・・・・・・・。ううん、解んない。

「なにか・・・なにか、においがしない?」

「え?・・・・・・あ!」

「っ?!」

え、何?

何か起きたの?

眠りの湖から死者の大群でも来たの?!

「もえてる・・・。もえてるっ!」

御魂の大樹が?

・・・では、ないようだ。

2人の子供が両脇から私の腕を引っ張り、無理矢理立たせる。な、何が起きたと言うんだ。説明してくれないかな!?

眼を白黒させながら周囲を見て、何が燃えてるのか確認したら・・・・・・遠くから黒い煙が見えた。あれ、もしかしなくても・・・村の方角?

唖然とした。

家事、にしてはいくつも上がる黒煙の距離が遠い、よう・・・な。

「・・・・・・・・・!」

風に乗って、何か嫌な臭いがする。

なんだろう。凄く、嫌な予感に胸がざわめく。どうしてこんなに、怖いんだろう。

「いったい、何・・・が?」

「はやく、はやくこっちにきて!」

困惑する私の両腕を、2人の子供が力一杯に引っ張る。子供の力とは思えないほど、強い力だ。流石は魔族。感心している場合ではないが、場違いにもそう思ってしまった。

足がもつれそうになりながら、私は2人に引っ張られるがまま走った。

どうして2人がそんなに焦っているのか、私には判らない。

なんで、燃えている村に戻らないのかも解らない。

・・・何かから逃げるように、村から遠ざかっているのはどうして?

「ちょっと・・・ねぇ!何が起きてるの?」

この2人は、村で何が起きたのか解っているような気がした。

だから、村ではない場所に逃げようとしている。そうとしか思えなくて、問いかければ鬼っ子が苦い表情をして私を見た。

憎悪の眼が、私を映す。


「人間が村を焼いてるんだ」

さっきとは違う、はっきりとした滑舌。

「王国軍が魔族を殺しに来たんだよ」



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