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姉が結婚するので家を出ます。  作者: 如月雨水
Locus solus 《人里離れた場所》
12/41

5


泣きたい気持ちで暗闇から脱した視界で見たその場所は――――何もなかった。


「え・・・と?」

いや、何もないのではない。

ライさんが見せてくれた映像の光景はある。ただそれしかない。

ヴォルヴァやエッダと比べたらあれだけど――地味。

その一言に尽きる眼の前の風景に、私はこてりと首を傾げた。何でここに来たい、と思ったんだろう。疑問を抱いた瞬間でした。

・・・あ、故郷に近い建築物があったからだ。

思わずぽんっ、と手を叩いてしまったよ。

「何してんだ?」

「いえなにも」

怪訝なん顔で私を見るライさんの腕をタップし、地面に下ろしてもらう。

あーっと・・・確かに建物はヘルハイムに似ているけど、何か造りが若干だけど違うような、そうでないような。専門家じゃないから詳しくは解らないけど、何かが違う。

あと、着てる服もヘルハイムに比べれば質素。

ヴォルヴァやエッダとは違って、私やライさんが来ている服に近い服だ。何となく、ほっとする。

やっぱり見慣れた物があるといいね。安心できるよ。

住人が半透明だけど。

骸骨が軽快に歩いてるけど――あえて視界にはいれませんよ!

「で・・・えっと、ここはどこですか?」

「境界線付近の村」

「は・・・?」

「トーネリ村で、隣がニレ村」

さらりと重要なことを言わなかっただろうか・・・?

「あの、ライさん。今、境界線付近の村――って言いました?」

「言ったな」

それがどうした?と不思議そうな顔で私を見るライさんに、眼が飛び出るかと思った。開いた口がふさがらない。

頬が痙攣し、冷や汗がだらだらと額から流れてきた。・・・し、心臓が痛いっ。

境界線って・・・人界と魔界の境界線ってことですよね。むしろソレ以外にないですよね。うわぁ・・・物凄く、鼓動が耳の近くで聞こえる。ど、動悸が・・・。

「こ、この村を一歩でれば境界線を越える、ってことですか?」

「まぁ、ある意味そうだな」

「境界線の向こうに、確か魔界を監視する砦がありましたよね?」

「この村のすぐ近くにあるな。荒野に造るなんて、人間って馬鹿だよな。そもそもこんな村を監視しても意味がないって言うのに、毎日毎日・・・飽きもせずによくもまぁ頑張るよ。俺には出来ないな、尊敬する」

尊敬なんて、絶対嘘だ。

とは言わないで、私も監視は無意味と言うことに頷いてみた。

だって相手は魔族。

転移出来る空間魔法を人間が使えるんだから、魔族が使えない訳がない。むしろ人間より遥か遠くまで移動できるはずだ。・・・魔族だし、出来るよね?

で、えっと・・・転移で移動されてしまったら、境界線を監視している意味がない。お金と労力の無駄だよね。お偉い方が何を考えているか、一般市民には理解できそうにないよ。

溜息をつく。

「・・・私、見つかったら連行されますか?」

「空の聖女ってばれたら即、幽閉だな」

「良い笑顔で言わないでくれません?」

キラッキラと輝く笑顔がすっごく、イラっとします。

その綺麗な顔、殴って良いですか?――――度胸がないからやりませんけど。

「まぁ、気をつけることだな」

「境界線を越えないから大丈夫ですよ」

「・・・俺がいるから大丈夫か」

「?」

ライさんが何か喋ったようだけど、小声でよく解らない。ただ、呆れた眼を向けられたのだけは判ったけど・・・なんで?

釈然としない思いを抱えたまま、先を歩くライさんの後を追いかけた。



――村の中も地味だった。



「・・・はへー」

古木がでかいなー。と見上げ続けたら絶対に首を痛めるであろうほど巨大で、古い木を見上げて間抜けな声を出した。

いやー、こんな幹が太くて空を裂くんじゃないか!って程に大きな木を、まさか安全紐も梯子もなく、腕力だけで登る存在がいるとは・・・驚きです。流石は魔族。

・・・いや、何で木に登ってるの?

不思議に思って眼を凝らせば、妙に輝く光の実?がついてた。眼に痛い。

「おー、ヘイズの実の収穫期だったか。よし、食いに行こう」

「待ってください、待ってください!あれ・・・食べて大丈夫なんですか?」

だって眼に痛いくらい輝いてるし、形が不安定だし、そもそも実なのあれ?!た、食べた瞬間に胃が破裂したり、頭がおかしくなって中毒者になったりしません?

ガクガクト未知なるモノを恐れて震える私を、ライさんがきょとんとした顔で見下ろした。

ゆっくりとライさんの右腕が伸びる。

男にしては綺麗な指が私の頬を撫で・・・・・・・・・デコピンした。

「なんで?!」

「神聖な実に対して失礼な奴だな」

「あれ神聖なんですか?!」

思わず大声で叫んだら、周囲から鋭いほどの視線を頂いた。あ・・・すいません。何でもないんです。別に侮辱した訳じゃないんです。だからその・・・睨まないで。

顔色を青くしたまま周囲に「何でもないです、すいません!」と頭を下げて誠心誠意、謝罪をした。そうじゃないと・・・殺される気がするっ。

恐ろしい予感にぶるりと身体が震えた。


なんでこうなるの・・・ぐすん。


「・・・ああ、そう言えば人界にはなかったな」

「ありませんよ」

光る食べ物なんて見たことがない。

魔界っておかしい。

魔界が変なんだ。

人界が普通なのであって、魔界が異常なんだっ。

ぐぅぅと泣きそうな気持ちを必死に抑え、ライさんを睨めば・・・もうそこにいなかった。行動が早いですね。どこに行ったか知りませんけど、置いて行くの止めてくれません・・・?

もう、本当に泣きたい。

がっくりと項垂れた私の頭に、何かがぽんと乗った。・・・知ってる手だ。

「何してんだ?」

「・・・どこに消えたとか、戻ってくる早いとか、色々言いたいことがありますけど」

眼尻に堪った涙がこぼれないよう下を向いたまま、頭に乗ったライさんの手を乱暴に叩き落とす。

「何で持ってきたんですか」

「食べるため」

「わ、簡潔。・・・ちなみに誰が?」

「リィンが」

「食べませんからね、そんな怪しい実!」

掌より小さいサイズの見た眼、スモモ?な、ヘイズの実を指差しながら力一杯に拒否した。

「大丈夫、大丈夫。死にはしないから、美味しいから食べてみろって」

「嫌ですよ!何でそんなに良い笑顔なんですかっ!?ちょっ、近づけないでください!」

やめろ、そんな得体の知れないモノを口に近づけ・・・押し込もうとしないで!

死ぬ!窒息して死ぬから!・・・こんな死亡フラグは嫌だっ!誰か、誰か助け

「な、美味いだろう?」

「・・・」

「おーい。あれ・・・?口が動いてない。え、ちょっと、リィン?」

「・・・」

「ちょ、馬鹿!飲み・・・いや、噛め、噛んで飲み込め!」

肩を掴んで激しく身体を揺らすライさんに、私は何も言わない。てか、言えない。

た・・・食べたくない。その一心でライさんによって無理矢理、口の中に入れたヘイズの実を噛まず、かと言って一度口に入れたモノだから吐きだすことも出来ずにただただ顔色を青白くさせた。あぅ、あぅぅぅ。

食べたくないぃぃぃぃいいぃぃ。

口の中に舌触りの良い食感がして、鼻を抜けるような甘い匂いと味に頭のどこかが「食べてみろよ。美味しいぜ」と悪魔の囁きを告げるけど。食べたくないんだよぉぉぉぉっ。

涙腺が崩壊した。

「な、泣くなよ。俺が泣かしたみたいだろう」

アンタのせいでしょうーが!

「わ、悪かった。悪かったって。謝るから泣きやめって、な。口の中の出していいから。ほら、ぺっしろ、ぺ」

そんな行儀の悪いこと出来るか、馬鹿っ!

でも食べるのもやだぁ。

口を両手で押さえ、ぶんぶんと首を横に振る。ああ、どうしよう・・・!

「ったく、仕方ねぇな」

・・・?両手を掴まれた。

「いいか、絶対に暴れるなよ。抵抗もするなよ」

脅すような口調に、何をされるのかと怯えれば・・・顎を上げられた?

えっと、一体何を・・・・・・?


ライさんって肌艶いいな。まつ毛も長いし、髪質だって上等だ。これで男なんだから複雑な心境だ。どうせなら女として生まれて・・・たら、超絶美女か。それもそれでどうだろう。

私に新たなるトラウマが出来そう。

「!?」

って、そうじゃない!


視界いっぱいのライさんと、唇に触れる暖かい感触に思考が現実逃避していた。

「む・・・むー!んむー!!!」

反射的にライさんの胸板を押し、逃げようとしたけど頭をがっしりと抑えられ、顎を固定されては顔を逸らすことすら出来ない。力が強すぎですよ!ちょっとは加減してっ!・・・逃げると解っててしてないのか。悲しいけど納得した。

「ん・・・ぅむ!」

うぅぅぅ、沸騰しそうなほど顔が熱い。

私、私・・・初めてなんですけどぉ!泣きたい。恥ずかしさに泣きたい。なんでファーストキスをライさんに奪われて、しかも人通りが少ないとは言え、人目がある場所でされなきゃいけないのさ!ああもうっ、絶対、頭から湯気が出てる。

恥ずかしくて死ねるよ!

憤死する!!

「んぅ・・・んむ゛!」

硬く唇を閉ざしていたら、酸欠になりかけた。

ど、どうやって息をすればいいの?!混乱にライさんの身体を叩くけど、放してくれない。やめて、酸欠で死ぬ!こんな死に方やだ!

う、あー。くらくらする・・・。

酸素が欲しい、酸素。――とか思ったのがいけなかったんだと思います。

「・・・・・・っは・・・・・・ん゛!?」

何か入って来たぁぁぁぁぁぁああぁぁぁ!何これぇぇぇぇぇぇええぇぇぇぇぇぇえぇ!!

ひぃ、と未知なる体験に戦き恐怖している私に気づいているはずなのに、ライさんは離れてくない。お願いだから、後生だから離れて!何か羞恥で死ねる気がする!!

ボンっ!と何かが破裂したような音が脳内でした。


・・・。

・・・・・・はっ!!


気が付いたら口にあったヘイムの実はなくなっていて、しかもライさんとの距離が出来ていた。な、何が起きたのかな・・・?

「・・・あー。なんか、いろいろと悪い」

「誠意を感じない!」

「だから、悪かったって。いろいろ」

「いろいろって・・・わ、私はじ、初めてっ」

初めてだったんですよ!

何、奪っちゃってくれてるんですか!

叫ぼうとした刹那、割れんばかりの拍手が起きた。何事!?

「おめでとうごいまぁス!」

「オメデトウゴザイマァース!」

「おめでとうございます!!」

意味が、解らないんですけど。

どう言うことなのかライさんに聞こうと視線を向ければ、あらぬ方向を見ていた。あの・・・もしもしちょっと。

ものすごーく、嫌な予感がするんですけど気のせいですよね?ねぇ?!

「だから、いろいろと悪かったって言っただろう」

何を・・・何をしちゃったの!?

理由を、理由を教えてよ!!


「ご結婚、おめでとうございまぁす!」

理由はあっさりと判明した。


・・・ん゛ん゛ん゛?

私の耳がおかしくなったのかな。今、結婚とか言いました?幻聴ですよね。そうですよね。

・・・けど、幻聴にしては周りが祝福していて。・・・ん゛ん゛?

「ちょっとライさん」

自分でも驚くほど、低い声が出た。

「どう言うことか、詳しく説明してくれますよね?」

「・・・ちょっと、腕が痛いから放してくれねぇか?」

殆ど無意識に掴んだライさんの右腕を、渾身の力で握ったらしくちょっと色が白くなってた。わ、びっくり。

でも、ね・・・。

にこりと笑って、私は言う。

「これぐらい、空の聖女の力が暴走することに比べればなんてことないでしょ?・・・あ、ライさんは魔王だから傍にいると私の力も暴走しないんでしたね。そう言えばそうだった」

「あの・・・リィン?」

「で、説明は?」

「・・・・・・ヘイムの実は幸せな未来、幸福な家庭、祝福を意味していまして」

口調が変わってませんか?

まぁ、いいや。それで続きは?促すように眼を向けたら、ライさんが頬を引きつたせた。

「魔界ではヘイムの実を恋人同士が口移し、あるいは一緒に食べることで婚約、または結婚ってことになっていましてね・・・。で、あの」

「あ、もういいです」

ライさんの言葉を遮って、痛む頭を押さえた。

何てことだろう・・・。

不可抗力だと言うのに、私はライさんと婚約・・・いや、村の人の反応から結婚してしまった。と言うことなんだね。頭痛が痛い状態だよ。

あと、村の人。

いい加減、祝福するのやめて。

照れ隠しじゃないから。


「だから仕方ない、って言っただろう。そもそもリィンがヘイムの実を大人しく素直に食べてたら、ただの美味しい実だったのに」

「それでも幸せな未来とか言う意味がついてきますよね?1人が寂しい幸せな未来ってなんですか!」

「独身は伴侶を見つける、恋人が出来ると言う願いを込めて食ってんだけど」

「余計ないお世話です、殴って良いですか?」

はぁ、と溜息が出た。

頭も痛いし、目眩もする。いっそ、気を失ってしまいたいけど・・・。これだけは聞いておかないと。確認しないと駄目、絶対。

「婚約とか結婚とか、なかったことに出来ますよね?」

「出来ません」

「はへ?」

知らない、抑揚にかけた女性の声が聞こえた。

村人・・・?

そう思って声がした方を向けば・・・わぁ、綺麗な赤い髪ですね。まるで夕日みたい。

「どちら様?」

じゃ、なくて――。

背が高くてスレンダーな体型の、右頬に桜花の刺青を彫ったクールビューティーと言う言葉が似合いそうな女性がいる。メイド服で。


あ、ライさんの知り合いか。


執事服のルシルフルさんを思い出し、関係性があると察した。

だってライさんが「あ、ユフィ」とか名前呼んでるし。知り合いですよね。てか知り合いでしょう、間違いなく。そして部下なんですよね、きっと。

・・・私、またルシルフルさんの時みたいな眼に遭うのかな?

若干、いや、かなり不安です。

「探しましたよ、魔王陛下。駄犬と老害が『また犠牲にされた』とか『また仕事から逃げた』とか、2人してまったく違うことを言っていましたが、心配していましたよ」

・・・心配、だろうか?

いや、それよりも駄犬と老害って・・・呼び方。ルシルフルさんは同僚だとしても、ツヴァインさんは年上でしかも軍師。地位的にあちらが上だと言うのに・・・老害って。

度胸があるのか、それともただの・・・いや、考えるのはやめよう。

じっと見ていたら、ユフィ?さんと眼があった。

「はじめまして、空の聖女様。わたくし、魔王陛下に使える肉奴隷――ユフィーリア=ユ=フェンリルと申します。薬学、医術に関して何かご不安、ご心配があるようでしたらわたくしにお聞きください。良薬から毒薬まで何でもお作りいたします」

きっちり90度、お辞儀をするユフィーリアさんに私は乾いた笑みを浮かべた。

いやはや・・・素っ気ない態度ですね。ルシルフルさんよりはマシな対応だけど、なんだかなー。

「えっと・・・リィン=アウラディオです。できれば、空の聖女ではなく名前で呼んでくれませんか?私、大層な者じゃないので」

「了承いたしました、リィン様」

「いえ、様付けもいら・・・・・・なんでもないです」

不要だと言おうと思ったけど、感情のない眼で見つめられて視線をそらしてしまった。無機質な眼って怖いね!人形みたいで怖いよ、本当!

美貌は姉さんの方が恐怖を覚えるほど整って・・・比べることじゃないですね。

と言うか、私が比べるなって話だよね。平平凡凡のお世辞で可愛いねって言われる程度の顔面の持ち主がね、言うことじゃないですよね。ケッ。


「ねー、ねー。おんなどうしのみにくいあらそいなら、ほかでやってくれない?」

「あ、ちょっとよっちゃん!だめだよ、そんなこといったら」

「でもさー」


舌足らずな子供の台詞に、イラっとした私は大人げないのだろうか?

ゆっくりと声がした方を向き、にこりとほほ笑む。「ひっ」と短い悲鳴が聞こえたから、間違いなく私の笑顔は恐ろしいモノなのだろう。どうでもいいけど。

「ねぇ、今・・・何て言ったのかな?」

ドスの聞いた声に、子供2人が顔を青ざめさせた。

「聞き間違いじゃないなら、女同士の醜い争い――って言ったのかな?」

「ひぃ・・・!だ、だってじじつじゃないか!」

「よっちゃん!」

鬼の角を生やした10歳くらいの勝気な男の子が恐怖を消すように叫べば、隣にいた狐の耳と尻尾を持つ同じ年頃の気弱そうな男の子が涙声で制した。

仲が良いね、幼馴染かな?

私にも一応、幼馴染らしき存在はいるけどアイツ・・・いっつも姉さんのことしか考えてないし、姉さん中心に行動してたからな。私のことなんて眼中になかったね、そう言えば。

私が悩んで苦しんでる時も、察しながら放置してたし。

魔力がありながら魔法が使えないことを馬鹿にして、いっつも怒鳴ってたし。

・・・思い出すの、やめよう。

「うるさい!むらのいりぐちで、ひとりのおとこのまわりにおんながふたりもいたらそうだって、かあちゃんがいってたもん!」

「よっちゃぁぁん」

「ああでも、あんたよりもあっちのおんなのひとのほうがおとこにふさわしいな!へいぼんなかお!かえるみたいなめぇして、きもちわるいんだよ!!」

子供の疳癪だ、気にする必要はない。

そう思って、子供の頃に言われた台詞が私から感情を奪い去る。ああ、どうして魔界に来てまでそんなことを言われなきゃいけなんだろう。

どうして・・・誰かと比べられなきゃいけないんだろう。

私は姉さんとは違うのに、どうして皆、私と姉さんを比べて・・・私を貶すんだろう。

解ってるんだ。姉さんと比べる価値すらないってことは。誰よりも私が一番――――理解してるんだ。だからほっといてよ。

「な、なんだよ。そんなめでみたってじじつだろう!」

私は今、どんな顔をしているんだろう。

息をついて、2人の子供に背を向けた。ああ・・・久しぶりにネガティブ思考になりそう。

「気にする必要はありません。事実、容姿はわたくしの方が勝っています」

慰めると言うより、止めを刺す一言をドウモアリガトウ。

とりあえず、黙っててくれないかな。

ちらりとユフィーリアさんを一瞥した後、ライさんに視線を向ける。・・・地面に寝転がっていた。あの短時間で飽きたんですか?暇になったんですか?――蹴っていいかな?

いいよね。

魔王だろうが事の元凶はライさんだし、私が報復した所で問題はないはずだ。たぶん。

「・・・んぁ?終わったの・・・か?あの・・・・・・リィン?」

見下ろしたライさんが、怪訝そうに瞬く。

身体を起こそうと腹筋に力を入れたその瞬間を狙い、私は渾身の一撃をお見舞いした。「ぐふぅ?!」とか聞こえたけど、どうでもいい。後で「お見事です」とか淡々と褒める言葉とかもどうでもいい。

てか、配下が褒めていいの?

「な・・・何をいきなり」

腹部を押さえるライさんに、口だけの笑みを浮かべて見せた。

「私がライさんと婚約とか結婚とか、女同士の醜い争いとか、そこの子供に蛙の色みたいで気持ち悪い眼とか言われたのは全部ぜーんぶ・・・ライさんのせいだ!」

八つ当たりもかねてもう一発、蹴りをお見舞いした。

今度は地面を転がって避けられた。ちっ。

「第一に私とライさんは恋仲でも何でもない、ただの旅の同行者ってだけでどうして・・・・・・いや、それはもうどうでもいいです。とりあえず破断です。婚約だか結婚だかはなかったことにしてください。ええ、絶対にそんな事実はなかったのだと言うことにしてくださいね」

「・・・あ、ああ」

よし、言質はとった。


「それじゃあ――――少し、1人にしてください」

返事を聞かず、私はその場から逃げるように走った。


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