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父へ

作者: 耳ハム
掲載日:2015/10/24

その道を追いかけることはしない。

彼は明け方前に漁に向かう。

電灯が一本だけ立つあの波止場から。

子はまだ眠っている。

彼の妻は毎回味噌汁を暖める。

ニットを被りジャンパーを這おって家を出る。

波止場に人はない。

黙々荷物を船に下ろす。

空にはまだ星と月がある。

風は山から海に向かって吹き下ろす。

何か事が有れば海の果てに流れされるだろう。

彼は一本のタバコに火を付ける。

魔性は光と煙を嫌うから。

願掛けにいつも一本だけ吸う。

火を付けたまま潮の先を見つめる。

船のエンジンは山影に反響して鳴る。

そのざわめきだけが彼の船出を見送った。


今はまだ目には見えない。

まだ見ぬ成果を見るために。


彼も夜が更けて家路へ向かう。

街灯の立ち並ぶあのマンションへ。

子はもう眠っている。

妻は毎回夕げを暖める。

ネクタイを直しコートを羽織り会社を出る。

町には人が溢れかえっている。

黙々進み終電に乗り込む。

星はないが故郷と同じ月は見える。

風はビルの谷を四方に走る。

何も事が無ければこのまま我が家へ帰れるだろう。

彼も一本のタバコに火を付ける。

父の勇姿を光と煙に見たから。

帰りがけにいつも一本だけ吸う。

火を付けたまま街の灯を見つめる。

終電の車輪は空気に反響して響く。

その音を聞きながら誰かの帰宅を見送った。


父もきっと眠っている。

明日の漁に向かうために。

その背中を追いかけてはいるけど。

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