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門番と同情の目

 人は可愛そうなものを見るときには、感情を秘めている。

 

 それは知っているからだ。

 かわいそうというのは、自分が経験したか、自分が知っているからこそおこるのだ。


 自分の幸せというものを知っているからだ。

 なぜ、こんな幸せなことを知らないのだろうか。


 不幸なものにたいして幸せを。

 満たされないものにたいして欠けている事を。

 

 相手に対して優越感を秘めて、己の幸せという感情を秘めている。

 さらに付け加えるとするならば、安心感を覚えているのだと思うのは考えすぎだろうか。


 世の中の同情めいた視線というのは、優越感と安心感、そしてそれを気取られないように心配しているという空気を混ぜ投げかける視線が降り注ぐので、居心地を悪くする。

 

 もちろん考えすぎだろうが、そうでなくてはこの居心地の悪さというものが、説明できない。


 目の前で可愛そうなものを見る目で見てくる、門番の茂田さんの目が居心地がとてつもなく悪く感じてくる理由が説明できない。


 知らない人と食事をするというのは、緊張するものだ、なにせ昨日お嬢様たちと食事をしたらしいが覚えていない、まぁ特異な状況下であったのだから緊張に緊張を重ねて、記憶があいまいになるのもしょうがないが、ここまで居心地が悪い状況であるならば、もはや知らない人との食事は、拷問といってもいいぐらいの所業だ。

 インスタントラーメンが懐かしい、まだ1日そこらしかたっていないが、家でたべるインスタントラーメンの孤独でも問題の無い味、むしろ一人で食べることこそ至高という考えのもとに、つくられているのは間違いないだろう。

 一人で食べるなら、会話なんてしなくていいし、気をつかわなくていい、まさにインスタントの目指す極地である。


 出されているのは、ごはんと味噌汁と焼き魚、そして卵焼き、インスタントとは程遠く、和食の中の和食である、和食という字は和やかにまとまり、皆で食すという意味合いがこめられてそうで、居心地の悪さに拍車がかかっていそうだ、せめておにぎりやサンドイッチなら、もちかえって食べれたのにと駄目な方向に逃げようとして、出鼻をくじかれた事も、拷問のような時間に拍車をかけ、ギリギリと胃をしめつけて、早くこの場から立ち去りたいと体が訴えてくる。

 しかし、人間というのはいやになるほど気を使うものであり、気を使わなくていいと思える間柄になるまでには、どうも気を使うというのが通常であるのか、向こうから空々しい挨拶、自己紹介、会釈、一言、二言会話を投げかけられてくる、同情めいた視線とともに投げかけられてくる。


 上手く答えられるスキルというものがあれば、切り抜けられるだろうが、それができずに突き刺さるように心へとダメージは重なっていく。

 

 かくして拷問のような時間は、食事のおいしさと言うものを忘れさせ、早めに抜け出したいという心と体の訴えによりお暇しようと箸の進むスピードを気づかれぬようにあげるという地味ではあるがかすかな抵抗をする。


 ロボ和歌子初号機は、そんな行動をどうみていたのか、どう感じていたのかしらないが、僕から見れば悪いタイミングで、食事の終る間際、もうこれをのりこえれば、一旦割り当てられたあの部屋へと戻ることができるタイミングで、あろうことか話しかけた。


「茂田さんは、お嬢様のことをどう思っていますか」


 なんということだろうか、初対面の方に聞く質問では無いし、なぜこのタイミングできいたのだろうか。

 はやく戻りたいというこちらの意思に反して、世間話をはじめようとしているのではないか、いやそもそも失礼に当たらないだろうか。


「いや、そんな事聞いてどうするんだ」


 至極まっとうな返しである、それにたいしては乾いた笑いで誤魔化す。

 なにせ、門番の彼の言うとおり、本当に聞いてどうするのか、まったく分からないからだ。


「私たちの仕事です、依頼を完遂させるためには、ある程度の情報がないとやってはいけないと判断しました、所長は言い出すことができないでしょうから」

「あぁ探偵ごっこか」

 

 納得するような、呆れるような口調であった。

 そっちの仕事なら、しょうがないとため息一つついただけで答えてくれるなんて、ずいぶんと物分りの良い人だ。


「まぁお金持ちのお嬢様だよ、そんな短いとも長い付き合いともいえないけど、好き勝手に生きている、世間で言うところのベクトルってのが、あるならそのベクトルが酷くどこを向いているのか分からないってだけで、好き勝手に生きているだけだと思う」

「どのぐらいの付き合いなのですか?」

「5~6年だけど」

「その中で、お嬢様を殺すような人に心当たりは?」

「さぁね、そんな不審者がいたら通さない、仕事だしね」

「つまり殺されるなら身内もしくは顔見知りということですか」

「かもな、まぁありえないと思うよ、殺人事件の被害者になるというのは、お嬢様の願望だからな」


 ぶしつけな質問も混じっていたのに、それを嫌がることなく、怒るということもなく、答えてくれた。

 ただ、相変わらず、同情めいた視線だけは変らずにこちらに突き刺さるようだ。


「願望ですか」

「知り合った、小学校の頃からいっている、子供の頃からの夢なんだろうよ」

「大人になっても抜けきらないと、成長したらそれなりに分別というものはつくでしょう」

「お嬢様がまともに育ったなら、このロボットのようになったのかもな、分別はついているさ、さっきもいただろう、お嬢様は好き勝手に生きていると、多分サンタが実在していると信じていたなら煙突つきの家でクリスマスをすごすだろう、こんな孤島で暮らしているのも被害者になりたい願望からだと俺は思うよ」

「なるほど、最後に一ついいですか」

「なんだよ」

「そのお嬢様の夢を叶えてあげたいと思ったことはありますか?」

「ないよ、おかしなことを聞くなよ」

 

 そのときだけ、どこか同情めいた視線ではなく、何かを思い出すような羨望が少し混じったような気がしたが、気がしただけで確かなことは無い。

 多分きっと、お嬢様と過ごした期間で感じたことを思い出したのだろう。


「まぁ愚痴があるなら聞くだけならできるから」

「茂田さん、ありがとうございました」


 しかしそれ以上は僕には聞けない、もちろんロボ和歌子初号機は気づくこともなく、頭を下げた。


 自分の過去と相手の現在

 比べようにも、比べられない、懐かしさ。


 それらを混ぜて、茂田さんは同情の目で僕とロボ和歌子初号機を見送った。

 

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