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すぎた考えは身を焦がす

「メイドさんに言われるまで、何一つ気づかないなんて所長は変態でしたか」


 空腹を告げる音が自分にだけ聞こえる、思い出してみると何も食べていない上に、昨日もほとんど食べていないこの身に、ロボットの恨みがましい声、いやそう聞こえるだけで実際は声としてロボ和歌子初号機の声は、あまり変っていないかもしれない、

 心境しだいでそう聞こえるだけだろう、もちろん僕が悪いのだから何一つ助手になったばかりの彼女の文句に言い返すことはできない。

  

 お嬢様の熱のこもった弁に圧倒され、探偵を引き受けてしまって、他の大事な事と些細な事を忘れるぐらい、惹き込まれていたのだろう。


 その些細な事、ロボ和歌子初号機が服を着ていないという点だ、ロボの扱いなど当然したことの無いものだが、洋服を着せるという事を何も思いつかないのは当然だったのだが、よくよく周りの目というものを気にするのであれば、おかしなことだろう。


 メイドさんが止めていなければ、門番の方の下に朝ごはんを一緒に食べに連れて行くところだった。


 ロボ和歌子初号機が裸というか、服を着ていない状態で。


 お嬢様に似たロボットに何も着せずに屋敷を徘徊させている、不審な感じの男性がいる、そう噂されれば僕は社会的にアウトの存在までにいってしまうことだろう。

 

 お嬢様に似せているだけあって、お嬢様の着ていない服を数着メイドさんが用意してくれた、変態という二文字を浴びせるように、頭の奥からまだメイドさんの変態と言う言葉と、ブラジャーはありませんかという助手である彼女の爆弾発言により、さらに非難の目と手が僕に向かって突き刺さっていた。


 しばし、目の痛さを我慢しながら歩く羽目になったのはいま隣にいるロボ和歌子初号機のせいでもある。

 

 そもそもロボ和歌子初号機は、お嬢様とは違いブラなどいらない体型というか、ロボなんだから下着は要らないだろうに、何故あんな発言をしたのかがわからない。

 

「それにしても探偵とはなんですか、所長程度でなれるものなんですか」

「ハードなこと聞くね」

「そんなにメンタル弱いんですか」

 

 弱くもなる、もとから強いわけでもないが、それでも弱くなる。


 やさしさを求めていたのに、この仕打ちをうけなければならないように、世の中は理不尽と不思議が満ち溢れているから、それに打ちのめされる人なんて、珍しいものではない。


 むしろ、お嬢様のように熱のような自信に満ち溢れている人が珍しいだろう。


 根拠もないのに、あそこまで言い切れるような自信というのはどこから来るのだろう、出所がわかってももてそうも無いぐらいに大きく、眩しく、感じてしまうあの自信。


 昔は僕もそうだった気もする、何の実績もなく、根拠も無いのに日々がどうにかどころか上手くいく日々だけを夢みていたような気がする。

 それは大きなことではない、当たり前のことだと考えていた。


 事実は違った、皆が乗り越えていく荒波ともいえぬ波にすら飲み込まれて、浪人になり、引きこもりのような人生を歩みだした。


 夢見ていた頃のナゴリは今や、埃かぶった参考書と時折感じる一抹の懐かしさぐらいだろうか。


 思慮が全く足りていない人生だ。

 体から変な音がふひひとなっていく人生だろう。


 まぁでも、その前にお腹がなるだろう。

 空腹を誤魔化すように、探偵とはなんだろうかという問いに答える。


「探偵とはと問われても、探偵というのはやったこと無いから、分からない」

「私にもし感情があったなら、こいつに任せて大丈夫かと不安が最大になりますね」


 それは、正しい判断だと思う。


「それはそうだろうね」

「それでは何で、所長を探偵としてお嬢様は選んだんでしょうね」 


 ロボ和歌子初号機の質問に答えることもできず、ただ長い廊下をわたり、広い廊下を渡る。


 僕の無言をロボ和歌子初号機は聞かなかった事にしてくれたのは、優しさなのだろうかそれとも単なる気まぐれなのだろうか、答えてもらえなかったので諦めただけなのだろうか、それとも待っているのだろうか。


「探偵助手という道具として、所長をサポートはしますが正直起きてもいない、起きるかも分からない事件と言うのは単なる杞憂、机上の空論だとしかいいようがありません」

「そうだろうね、まぁイメージしていた探偵にそっくりだからと言っていたね」


 確かに机上の空論であるのは否めない。

 空論、空想、妄想、夢であるのだろうという事ぐらい、僕程度でも分かる。


 しかし、お嬢様はそれが夢の出来事ではなく、現実の話としてとらえている。

 通常との乖離、通常から踏み外した僕なんかを探偵にしてまで、現実にしようとしているのだろう。


 そう考えても、やはり理解はできない。

 お嬢様に自分なりに精一杯否定したように理解はできない。


 理解しようとはするが、やはり理解はできない。


「まだお嬢様を殺すために所長を呼んだといわれたほうが理解ができます」

「それこそ無理だよ」

「何も起きない事件を解決するために呼ばれた探偵という不可解な存在よりは理解できます」

「冗談だよね」

「そうですね、ウィットにとんでいますね、不謹慎ですがね」


 実にウィットの飛んだ冗談だ。

 現実からかけ離れているような殺人でもお嬢様という条件がつけば、現実味があるような気がしてくる。

 

 探偵よりもロマンを感じない、ただの現実だ。

 それでは夢が無い。


 お嬢様が殺してくれと頼まなくても、お家騒動で誰かが雇っても不思議じゃないぐらいの現実味がある話だと気づくほどに広い広い屋敷の廊下を、朝ごはんを求め、門番の方のつめている場所へと向かっていった。

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