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お嬢様は探偵を所望する、希望する。

 未来からの産物、いや無駄遣いの産物ともいうべきロボ和歌子初号機がきちんとお辞儀をしたのに対して、人たる僕が、あっけにとられ突っ立ていたのは精神的な問題というべきだろう。


 安堵すればいいのか、緊張すればいいのか、どう返せばいいのか分からない、そのような心境でどんな挨拶が正しいのか、そもそもロボ和歌子初号機と言うロボに対する礼儀というものをしらない。

 人に対する礼儀もおろそかになりがちな、そこだけ現代的な僕は、挨拶とかそういったものが不得手である、どういえばいいのか、人生経験の問題ではなく、精神的な問題といっても差し支えないだろう。


「所長、まずはこういう時ウィットにとんだジョークなどで、挨拶を返すのが人としての役割だと認識しています」


 挨拶を指摘されているのか、芸人のようなパフォーマンスを求められているのか分からない駄目だしを、よもやロボ和歌子初号機にされるとは思わなかったし、ウィットという単語が聞かなさ過ぎて、もう何をいっているのか理解に及ばない。


「例えば、いつまで服をきせないという羞恥プレイをロボに強要させているのですかとかの軽い挨拶です」


 まぁ会話をこなすようなロボというのが理解に及ばない存在ではあるのだけど、そもそもスマホもそんな会話をしてくるような時代だから、これからの時代このような挨拶がデフォルトになるのかもしれない。

 そんな未来が来ないことを祈るしかない、人だけでなく、ロボにまで気を使うという時代というのは、僕のような人類には優しくない未来なのかもしれない。


「まぁロボ和歌子初号機は探偵としては未熟ですが、それなりに会話とか対応できる機能があります、愛着を持って使ってあげてくれればと思います」

「ロボを偏愛するような変態ではないことを祈ります」


 ウィットにとんでいるかは分からないけど、人間のように、下手しなくても僕以上に軽やかに冗談をとばしてくる、冗談をいっているような目かどうか判断できない。

 しかし、ロボを探偵として未熟といってのける状況と言うのもどうなんだろうか、こうも驚きが連続で続いていくと脳が判断がつかないし、追いつかない。

 もっとも判断できたからといってという気持ちはある。


「さて、冗談はともかく所長、イージーモードかハードモードどちらがいいですか」

「それは何の話?」

「ギャルゲーの話では無いことは確かですね」


 ウィットに飛んだか冗談か分からないが、そもそもロボットがなんでギャルゲーという発言をしてくるのか、さっぱり分からない。

 なまじ、お嬢様に似ている姿ということもあり、空気がいたたまれないような気がしてくるが、今も一糸纏っていないので、それなりにいたたまれない空気がさらに氷つきそうだ。

 なんとかしろよという視線がメイドや、お嬢様の友人からの視線がヒシヒシと感じてしまう。


「そのどう違うのかな」

「私の助手としての機能の話です、毒舌でツンのごとく所長をサポートするハードモード、優しくするだけでコロリと所長を慕うチョロインみたいなイージーモードです」


 どのモードもしょうも無いとツッコミを入れたい、何をもって開発されたロボットなんだといいたいが、これ選ばないとだめか、それともこれこそウィットに飛んだジョークであってほしい。

 

 ここで選ぼうものなら、後ろの二人から制裁を与えられそうだ、いや間違いなく制裁がくる、理不尽とも思える制裁が来る。

 場の空気がより一層冷え込んでいく気がする、空調が整えられているはずの屋敷で、僕だけが背中に汗をかくほどに体温が上がり、場の空気は下がっていく。


「イージーモードでお願いします」


 もう目線をどこへむけたらいいのか分からない僕は絞りだした答えは簡単なほうへと流された。

 誰か優しくされたい、もうこの状況で何をいっても制裁をうけるのであれば、この際ロボットだけでも優しくされたいそう願った。


「かしこまりました、イージーモードを選ぶような駄目人間をサポートするように誠心誠意尽くします、まぁ実際はロボットなので、そう尽くして見えるだけです勘違いしないでよね」


 うざい。

 このロボなんかイラッとする。

 

 実際は、何一つ褒めていない、優しくしていない、あまり変っていないし、何も解決していないが一通りの設定が終わったようだ。 


「さて、ロボ和歌子初号機が助手となった事で改めて、立川さんに依頼する事件のことをお話します」

「確か、貴女を殺した犯人を見つけるですよね」

「生きているのに殺した犯人をみつけるというのは不可能です、常識というものを考えてください」


 今この時代にいないような未来型ロボットに常識を問われるのは、間違っているとしかいえないだろう、和歌子ロボ初号機のツッコミというより指摘は実に的を射ていた。

 しかし、お嬢様は優雅に微笑んでこう返した。


「やはり、ロボットには理解できませんか、まぁ立川さん以外理解できないと思います」


 いえ、僕も理解できていません。

 そう口に出せたならどんなに楽だろうか、否定しないのもアレなので手だけは必死に横を仰いでいたが、ソレをみていないかのように告げる。


「最後までお話を聞いていただければ、立川さんはきっと理解しようとするはずですし、端折っていえば探偵の立川さんに事件を解決して欲しいのです」

「探偵にしては所長の頭は悪いと判断しますが」

「それでも立川さんにしか解決できないと信じています」


 会って十数分のロボに判断されるほど、僕の頭は悪いのだろうか。

 まぁ否定はしないけれど、否定できないけど。 

 そして、探偵と言うものになって数日もたっていない、初心者というべき僕には否定することさえできない。


「ロボ和歌子初号機は死というものが感覚的に分からないのでしょうけれど、人間は死ぬ、それは逃れるる事はできません、ありとあらゆる立場の人間が死ぬ、死にたくないと願うものもいれば、死ぬしかないという状況に追いこまれる人間もいます、私はお金持ちというものの死と言うものは往々にして、誰かの悪意の中死ぬと思いますし、殺されると思います、それがお金持ちである私がたどるべき運命ともいえます、ですから私は悪意の中死んで、殺されるだけの人生であれば好きに生きたい、私の人生の結末は探偵がいればそう悪くないと思いながら、死んでいく覚悟もとれると思うのです、探偵が、立川さんがいれば私を殺した犯人をみつけてくれる、更に言えばその事件の解決こそが手向けの花として、私を私の人生を飾ってくれる事を望み信じています。」 


 今まで我慢していたようなお嬢様の熱量は僕を飲み込んでいった。

 まるで、スポットライトを浴びている女優をみるというのは、こういうことだろうか?

 騙されているような浮揚感、あちらの高揚感がこちらに伝わってくるようで、なおもお嬢様の言葉は続いていく。


「探偵は死んでいる人があたかも生きているように、その死に意味をもたせてくれるでしょう、事件の真相、事件の真実、事件の闇、被害者の心、加害者の心、何に寄り添うか、何に重きを置くか、何を楽しみにするか、それは探偵の裁量一つ、心一つなのです」

「なぜそこまで探偵にこだわるのですか、私のようなロボでなくても理解に苦しむでしょう」


 同じような姿をしていても、ロボと人間ではやはり違うらしい、熱に浮かされているお嬢様にロボ和歌子初号機が水をさそうとしても、その熱はさめることなく、話はつづいていく。


 「私の家でも、死因ともいうべき骨肉の争いの上で、殺人という名の忌避すべきものがありましたが、不謹慎ですが心は踊りませんでした、なぜならそれは、警察発表どおりで、よくて週刊誌の大衆をあおるようなゴシップ記事なのですから、詳しくは書かれておらず、噂程度で、そこにはロマンがなく、現実しかない、それは私には現実とも思えず、他人事のようでし、それじゃあ、あまりにもあまりすぎると思ったのですよ、そして私は、それがどうにも耐えられない、なので探偵でなければ、成らない理由は、探偵がロマンを与え、探偵こそが真実を伝えれると思っているのです」

「やはり良く理解できません」


 水を差すような一言であったが、お嬢様の熱量は、やはりさめないらしい、それどころか、その浮かされた目でこちらを見てきた。

 あたかも貴方なら分かるだろうと同意を求めてきた、もちろん手を横に振りたかったが、やはり横に振ることはできず、首を縦に一度だけ動かした。

 

 すこしだけ、なんとなく、わかってしまったからというつもりはない。

 

 解決する器量もないだろう、満足いくようなことはやはりなにもできないだろう、多分熱に動かされただけだ、流されるままにその熱に飛び込むような虫のような僕だから。

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